第101話  毛深いは原種✖


朝5時に起きる。型稽古、走る、精霊魔法を教わる。

朝食後。師匠とありとあらゆる模擬戦。

昼食後。シェルと遊んで夕食まで寝る。

夕食後。日没から村を回って成長促進。

23時帰宅、就寝。


アルと導師は変則的な生活を行っている。



聖騎士と行き合ったあの日の晩は子爵邸での秘密会議だった。暁の副団長たちが来て、仲良く騎士団と模擬戦やってるとか聞いて嬉しかったし、会いに行く訳に行かないが師匠も機嫌が良かった。追い込み漁もすでに動き出している。アニーもロストの実家で家族と暮らしてるとメイド長に聞いた。



話を聞いてからこっちの仕事も特に身が入った。

別に二カ月なんて期限を切らなくても、雪になったら閉じ込められるのも人生だと思った。ロスレーンの領地の農民も心配だが、雪に閉じ込められる地では無い。


元々がロスレーンで研究しながら俺に魔法を教えると決断してくれた導師なのだ。うちの領民に良い事は快く引き受けてくれた導師の気の済むようにしてあげたかった。


霜が早く来る山間部から平地に向かって畑の成長促進を6段階に掛けて行く。村が潤うとかの話では無い。雪に埋まるまで1カ月。それまで食いつなぐ食糧があれば餓死者がなくなる筈なのだ。雪の中でも地中に成長した作物があれば良いのだ。


餓死者0。領が始まって以来の快挙かもしれなかった。


雪深い地。餓死と言わず栄養状態が悪いだけで寒さで死ぬ。

「朝起きない」と言った方が良いかもしれない。



なんかね、栄養状態が悪いとどこかの機能が突然止まってそのまま死んじゃうんだって。そういうのもみんな餓死なんだって。


それを聞いた時に決めた。無駄に終わったとしても、せめて具の沢山入ったスープを飲んでから召されて欲しいと思った。


キャンディルの領地で暮らす者を失わない。一家族に5から8人兄弟も普通。繁栄が約束されるのだ。



全ての生き物が世界で繁栄する。

神のゆりかご。アルは特にその辺を知っている。

出来る事は環境を整えてあげる事だけ。

知っていてやらないのは我慢ならなかった。



各地の村の農地へ成長促進が済むと、執政官が村に訪れる。隠遁の賢者の実験魔法なので口外せぬ様に言って含める。


他領へ知られたり、王家に知られるのを遅らせるためだ。


意地悪では無い、手前勝手でもないのだ。

出来もしない事で怨まれるのを恐れたのだ。


宣誓の儀を受ける事が出来ない貧しい者。キャンディルの民、ロスレーンの民に農業Lv1を付け終わるまでの時間稼ぎだ。恩寵付与には原資(SP)が要る。


他領にまで配る恩寵が無い。成長促進する時間も無い。


目の前の現状を救えるかどうかが精一杯だった。


アルの今考える目標は

1:領民が雪深い冬を乗り切る食料を手に入れる事

2:季節が巡り、恩寵で小麦の収穫が上がる=自立する。


民が自らの力で立つ。


アルはまずは小さなコミュニティー(と言っても領地だが)で実績とデータが欲しかった。ロスレーンとキャンディルで上手く行けば良い。駄目ならば改善すればよいのだ。何百年も続く営みを今すぐに力技で変えるなど無理なのだ。


目の前の事を一生懸命積み上げる事をしていた。



・・・・・



お昼を食べてシェルに冬用のふかふかのポンチョになってもらって着心地を調整してたら導師が来た。


「精霊魔法はアルムに教わったかの?」

「はい、一通り覚えました」


「ここの所、お主を見てやれんで済まぬの」

「あの忙しさです。しょうがないですよ」

「もうすぐ雪が来る、それまで頼むぞ」

「はい!」



・・・・・・・・


アルムさんの精霊魔法は全て教わった。


精霊魔法は俺には想像魔法だった。

氷の魔法でアルムさんが実演する。獲物が凍る。


「全てを凍らせる氷の呪文を唱える」

アルムさんの知るは-30度の極寒の世界。

全てが凍るは-273度の超低温の世界。

同じようにやると獲物が崩れる。


エルフの伝統魔法を真似て口伝する精霊魔法。

物理法則やSFX、CGのイメージを伝える精霊魔法。


精霊に伝えて起こす現象の規模が違うのだ。

その分魔力を食ってるかも知れないが、俺には解らない。


だから、アルムさんの魔法の程度を見定めた。

呪文を聞いて覚えて、その程度を視て覚えた。


アルムさんと同じ精霊魔法が出せるようになった。


もっと知りたいならと、精霊魔法を良く知ってる人の紹介状まで書いて貰った。エルフのお婆々ばばだそうだ。


アルムさんからお婆々ばばって・・・お婆々ばばが見た目でむすめだったらどうしよう。アルムさんがむすめぽいのに。



精霊魔法の時間が空くと色んな事を教えて貰った。


アルムさんは、凄く綺麗だけど長く生きている。色んな事を知っていた。エルフは森で営んで来たを変えることを本能で嫌がる種族である事。


森で暮らす種族的な限界を遺伝子的に知っているのか、村の家系で血の濃さが限界に来ると生まれた女子が本能から外れて人の地を目指して旅をし、血の濃さを薄める事。生まれる子はやはり種族の森に帰ってしまう事。


アルムさんの子は3人とも森に帰っちゃったんだって。

でも寂しくないんだって、本能から外れた分、好奇心が強いから街しか住めないらしい。村の生活は出来ないと言う。



血の話が出たので、獣人の話も聞いて愕然とした。

獣人は元から獣人なんだって!


ハーフとか解説してた俺がバカみたいだった。


がじゃない。人間は関係無く獣人だった(笑)


「獣人と人が結婚して毛の少ない獣人が生まれるんでしょ?」と言ったらエルフとは思えない躍動的な転げ回り方で笑われた。


毛深いのは原種とか思っていたら、薄いのも濃いのも生まれて来るから全く差別の対象になってないらしい。アル君の考えは危険だよ!とマジで注意された。


危険とか言われたって、そんな事思わねぇよ。ダーウィンとかメンデルを返せ!と言いたい。あんなに勉強したのに。


「アルムさんに猫獣人の村には猫が一杯保護されてるとか祭られてる?」とか聞いたら美しいエルフが趣のある転げ回り方をしてマジ泣きしてウケた。普通の考察なんだけど・・・


猫獣人の前で言ったら殺されてたらしい。

猫獣人の資格が無い者が神に猫にされたという。

神に選ばれた穢れ無き猫獣人の誇りがあるという。

猫は下賤げせんだから餌をねだって媚を売るらしい。


猫獣人め!猫可愛いのに!遅れた世の野蛮人めらが!


と思うだけだ。思うだけなら大丈夫だ。


獣人に関わるとなのは分かった。

部族だからしょうがない。そういうルールだ。掟だ!


獣人の人に素朴な疑問を投げちゃダメ。

でも、本当に猫キライなの?と真実を語らせてみたい。

実は猫キュンだったらウケるのに。俺は馬キュンだ。



アルムさんとそんな話をするときは、膝の中に俺を入れたがるので勘弁して欲しかったが、子供がエルフの村に帰って寂しいのかな?と思うと動けなかった。シヨンお姉ちゃんもそうだったけど、裸に剝かれてから自分が変わった気がするんだよね。


俺を子供に見るなら、その通りに子供で居ようかなって。逆らうと疲れるし、余計にドタバタするから逆らわないのが楽になって来たんだよ。シヨンには暴れるなと叩かれた。俺の存在は知られなきゃそんなんだよ。


俺さぁ、街の小悪党を〆るとき凶悪になるのは溜まってるんじゃないかと自分をかえりみる時がある。(マジで)


盗賊はやってないよ。師匠に言い付けてるから〆てない。


「あそこの洞窟です!」


師匠が入り口から盗賊のど真ん中に縮地で飛ぶ。俺が恩寵奪って麻痺させる時には壊滅してる(笑)

あとは導師がシートに包んで伯爵邸に運んで罪状を俺が言い、自白させてレンツ様が裁いて終わり。



あ!そういえば俺は11歳になった!そして剣術Lv1も付いた!

剣術が付いたので確認でステータスボード開けたら11歳になってた(笑) 師匠と剣で模擬戦やって1月で剣術ついてホッとした。格闘術がだいぶ早くに付いたから心配してたのよ。


身長も121.6cm 体重24kgだ。体重増えても体型が同じなのは脂肪から筋肉に変わってるからと思う。

大喜びで導師に報告したら「よかったのう」で終わった。

もっとなんか言って欲しかった。



スン・・・となった。




次回 103話  現実を視ろ  

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                思預しよ

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