第100話 執務室の傭兵
その頃、ロスレーン子爵邸。
暁の3人の副団長+1名がリードを訪ねた。
ラルフが面会してリードは今、キャンディル領へ行っている事を伝えると皆がガッカリした。
ラルフの前で皆が話す。
ガルス「おい、団長は早くても一か月後って話だ、どうするよ」
ラルフと代表ぽく話した手前、音頭を取って話を進める。
ローレン「ロスレーンで待つか、中州の応援か。だな」
ハルト「1月も街の中はキツくねぇか?鈍るぞ」
レノア「それ以前に仕事しないと酒代が無いからね!」
ガルス「え?もうそんなに飲んだのか?」
レノア「だから言ったのよ!いい加減にしろって」
ローレン「宿代はあるんだな?依頼受けりゃいいさ」
ハルト「冒険者かよ。仕事あるのかよ?」
「暁の衆よ」ラルフが話しかける。
「リードが帰るまで待つなら、部屋を用意するぞ。その代わり皆で騎士団との模擬戦をやって貰えぬか?」
「1月。腕も鈍らぬ筈じゃ、提供は飯と酒と部屋じゃの」
「リードも3か月うちの騎士団を揉んでくれたでの、1月の間お主たちが良ければ腕試しするが良い」
「強いんじゃろ?副団長は・・・爺ぃより」
さすが脳筋、含みを込めた煽りに過敏に反応した。
ガルス「子爵様、それはありません。ご勘弁を」
「何を言っておる。儂に勝つつもりか(笑)」
ハルト「子爵様に勝ったら、褒美が出そうですな」
「良いぞ、儂に勝ったら無役の騎士爵をやろう、団長殿が無役の男爵なら丁度良かろう(笑)副団長の強さを褒め称えて叙爵してやる」
「・・・」
「まぁ、噂の暁じゃ。副団長ともなればさぞ強かろう公爵領常駐の傭兵じゃ、模擬戦が怖い訳なかろう」
ハルト#「おぅ、団長が鍛えたっていう騎士団を俺たちも揉んでやろうぜ、折角来たんだ。話の種だ、1月なんてすぐさ」
キレ易いハルトが腰の手斧を擦って、やる気満々になった。
ガルス「お前!何言ってるんだ」
ハルト#「ガルスお前こそ何言ってんだ、俺たちは酒場で絡まれたらどうするんだよ?力を見せてやんだよ、そんだけだ」
レノア「子爵様。模擬戦をすれば泊めて頂けるのですね」
ラルフ「うむ、部屋は余っておるな、酒も余っておるぞ」
レノア「私はやるわよ、事務方だってオードで帝国殺ってきたんだから大丈夫。リード来るまで騎士団と模擬戦やって過ごすからね。1月お金掛からず子爵様の所で夢の生活、逃せないわ。あんたたちは好きにしなさい。路銀はここで4等分しましょ」
レノアが皮袋を出して金を勘定しだす。
金を一人一人に分けると言うので皆が黙って待っている。
「一人小金貨1枚、大銀貨1枚、銀貨4枚ね。(34万円)」
ローレン「そっちの奴は?」
レノア#「余りは、か弱い事務方に決まってるでしょ!なんであんた達のお守して宿の勘定と酒場の・・・」
ガルス「分った分かった。レノアの言う通り!間違いない!」
ローレン「余ったって、銀貨7枚も・・・」(7万円)
レノア#「7枚だから4人で分けられないでしょ!てめぇ算術スキル取って来い!」
ローレンはレノアに蹴られて椅子ごと転がった。
ラルフ「それではレノア嬢を客間に、お付きのメイドはジャネットに任す」
ハルト「子爵様、子爵様!俺はやるって言ってんだよ。俺もだよ、忘れないでくれよ!」
「ジャネット、そこのハルトの分も頼むぞ」
「子爵様!私たちも・・・」
ガルスとローレンが手を挙げていた。
レノアが近づき3人の尻に蹴りを入れる。
「食事と酒と子爵様の所に泊まれるんだ。これは要らねぇな?帰りの路銀は預かっておく、男のくせにナヨナヨしやがってよ!」
3人から皮袋を取り上げた。
ハルト#「俺は最初からやるって言ってたじゃねーか!ナヨナヨしてねえぞ!」
レノア#「うるさいねぇ、ついでだよ!今ナヨナヨ言ってるじゃねーか!」
ALL「・・・」
・・・・・
部屋に案内され、メイド付きとなった副団長たち。
ガルスの部屋で内緒話。
(おいおい、俺達一人一人に別嬪さんが・・・)
(手出すんじゃねぇぞ、平民とは限らねぇぞ)
(子爵家だからな、男爵の娘まではいるぞ)
(夢の生活だわぁ。子爵様に勝って叙爵も良いわねぇ)
(ハルト、お前子爵様とやるつもりか?)
(当ったり前だ!コケにされたら相手は選ばねぇ)
(マジかよ、コレだから脳筋バカは・・・)
(模擬戦だから勝ったもん勝ちよね)
(子爵とやる奴だれ?)
4人が手を上げる。
(((お前だって脳筋だろうが!)))
ローレンが3人に蹴られて転がっている。
・・・・・・・・・・・・・
昼食中にラルフが言った。
「それでは、昼食後に騎士団に皆を紹介しようかの。1時に戦える用意で玄関へ参ってくれ」
「シュミッツ、騎士団には知らせぬ様に、皆をいきなり連れて行くでの。
副団長達は思った。
爺さん、どれ程自信あんだよ。(笑)
お貴族泣かせて打ち首じゃ割りに合わねぇよなぁ。
適当に遊んでやって褒めときゃ叙爵だぜ。
あたし武器何にしよう・・・
・・・・・・
1時半に演習場に付き、案内されて見ると絶句した。
傭兵団で行った、真の暁選抜戦と同じ様な車座で模擬戦をやっていた。口も悪い。
「そんなヘロヘロなら引っ込め!」
「クソ野郎。黙ってろ!」
皆が殺気だって身体強化で模擬剣を叩き込む。
それは戦場そのままの殺気と口の叩き方だった。
ラルフが近づいて行くと、皆がしまった!という顔をする。団長は直立不動でラルフを迎えて言う。
「ラルフ様、何故この様な所に」
「良い。珍客が来た、皆に紹介しようと思ってのぅ」
「は!了解しました」
すでに皆は車座から立っていた。
ラルフは皆に言った。
「皆、今日も良く励んでおるのう。そのまま聞いてくれ。
「本日、暁の副団長3名と事務方1名が我が領に参られた。リードを待つ間、騎士団と一緒に模擬戦を行ってくれるそうだ。この機会を生かして皆も精進するが良い」
「最初は、儂に副団長の凄い技を見せてくれるそうじゃ、皆も卓越した技を見せて貰うが良いぞ」
団長が驚いて言う。
「ラルフ様、宜しいのですか?」
「良い良い。偶には儂も剣を振りたいでの」
「皆の者座ってくれ」
団員の車座の中にラルフが入る。
「ヒースよ、模擬剣を借りるぞ」
「は!」
「皆これで身体強化で模擬戦を行っておるのか」
「は!本日は第3の騎士団でございます」
「よい、以後も続けよ」
「は!」
「副団長たち、一番強いのは誰かな?一手指南願う」
皆がガルスを見るが、ハルトが言う。
(万が一があるかも知れねぇ、俺が行く)
「子爵様、一番に言い出したのが俺なんで。模擬剣無いですが・・・抜き身の片手斧を二丁見せる」
「片手斧か、良いぞ。指南願おう」
ラルフ(60歳)の身体強化が巡りだす。
身体強化Lv8 剣術Lv7それは騎士の最高峰レベルだった。前線で戦うレベルの騎士とは違う。
副団長ハルト(40歳)も相当なものである。
身体強化Lv6 剣術Lv6 身体強化が巡りだす。
この世界は強さをLv制で表す様なゲームでは無い。リアルである。強いて挙げれば、30要素に分かれる力、早さ、賢さなどを方陣に合わせて総合力を示すレーダーチャート。その指標の一つが身体強化Lvであり剣術Lvである。
サッカーの選手の総合力を示すなどのチャートで面積が多い方が必ず勝つ訳ではない。コーナーキックの一瞬の隙のゴールと同じく剣の一瞬の隙を突いて勝てるのだ。
その辺はあっちと同じだ、世界一のプロレスラーだって嫁の包丁で刺されたら死ぬ。突き落とされたら死ぬ。リアルなのである。
トリッキーな動きで不意を付けば格上でも倒せる世界だ、身体強化だ剣術だと言っても元は生身の人間なのだ。
模擬剣が無いので抜き身の片手斧を二丁下げてハルトが向かう。
(爺ぃが!少し懲らしめて騎士爵頂きだ、良く見ろよ)
間合いに入ったハルトが瞬時右手の斧を振りおろす。ラルフはそれを模擬片手剣で受け流す。流されたと同時に、こっちはどうだと左手の斧が切り上げて来る。
ラルフは瞬時に剣を持つ受け流した右手と開いている左手をクロスさせて斧の手を掴む。え!掴みやがった!と思った所で腹を蹴りあげられた。くの字で止まった瞬間に片手剣3連打で沈められた。頭、両肩を撫でられたのだ。
「お主、それではリードの速さに対応出来んじゃろ」
「
「は!」
「1月こやつを揉んでやれ、相手はヒースが見繕ってやれ」
「は!」
暁副団長達「ぽかーん」(万が一ってなに?)
「さぁ、次の副団長はどなたかの?」
暁の副団長は爺ぃにコロリとやられた。
スピードが違った、何も出来ない。ハルトの回転の速い攻撃を初見で対応して瞬時に返した。実践なら瞬殺である。
皆、2回やって3回ずつ切られた。3回入れたら交代のルールだった。ルール通りに2回負けた。どこが悪いのか助言まで貰ってしまった。ハルトは2回目が無かった。と言うか居なかった。
ハルトは子爵家のツケで模擬片手斧を探しに行った。無かったら作ってやると言われた。
ラルフが
「危なくて飛ばせんわい、面倒臭いから受けた」
と言ったのだ。
本来の一撃目で斧は飛ばされていたのだ。二撃目もわざわざ掴んだのだ。街を走るハルトのプライドはズタボロだ。ハルトはこの1月で生まれ変わると誓っていた。
午前中は力量の見合った相手。午後は車座で勝ち抜き戦。
暁の4人が過ごした事の無い規則正しい生活が始まった。
リードと3カ月。旅に出てから身体強化で可愛がりを1カ月やる騎士団。みな名前で呼び捨てられ、車座でグチャグチャに揉まれる、他の騎士たちと倒れて泥まるけに水を掛けられる。ガルスですら第1から第5のせいぜい副団長に勝てるかどうか微妙だった。
レノアはホントに勝てず、情けなくて泣きながら騎士にやられていた。1週間で男勝りが消え少し女らしくなった。
皆子供の頃は貧しかった、武は盗んだ、真似た、戦場で身に付けた。死線を潜って身に染み込ませた。自分は強くなったと思っていた。暁の副団長だと誇っていた。戦場で生き残る自信がそうさせていた。
名前を誇っていた。
領地を背負い戦う者との立ち合いで分かった。本物とメッキの輝きを。粋がって強さを見せ、誇る必要など武には関係ない事を。
4000人の傭兵団。暁副団長の肩書の軽さを思い知った。
あ!今は1000人だった。真の暁1000人だった。
副団長たちは思い出した。
1000人位が俺たちにゃ丁度いいや。
ハルトも偶には良い事言った!
次回 100話 毛深いは原種✖
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