第97話  伯爵家の家訓



リリーさんの手紙を出した。


「神が祝福すると!」


「なんと!リードが神に祝福を」


「リリーさんは平民です。結ばれるのであれば、子爵家のメイドであれば男爵にふさわしかろうと」


「ふむ、そうじゃのう。領民とリード卿が祝福とは、この地には神の加護があるの」


「今すぐ領都の子爵邸に跳んで下さいませんか」

導師の部屋の鍵を掛けながら言う。


「そうじゃの、儂からもラルフ殿に言おう」

「儂に掴まれ、跳ぶぞ!」


ベント卿の部屋に跳んだ。

突然帰って来たベント卿とアルベルト。


「お爺様とお父様を呼んでまいります」

「分った。ほっ。ほっ。ほっ」と魔法ランプを灯す。


お爺様の部屋までテテテッ!と走りノックする。

ドアを開けたメイド長が驚愕の顔をする。


口に手を当てて内緒と・・・静かに入る。


「ジャネット、誰じゃった?」


机からラルフが顔を上げるとジャネットの横にアルが居る。


「アル!どうした!」お爺様にも内緒の仕草をする。


(アルどうした?)

(導師の魔法で帰って参りました)


(シュミッツ、ジャネット、お父様お母様、お婆様の六名、今から導師の部屋へお集まりください。大事な報告があります)


(わかった、ジャネット聞いたの?頼む)

メイド長が頷き出て行く。


(それでは行くかの)

(はい)


「導師。帰って参りました」

「ほい、連絡は取れたか?」


「ベント卿、大事な話とか」

「そろそろ皆が集まると思います」


しばらくして皆が集まった。

お婆様が入るなり遮音の魔法を掛けた。

流石メイド長。お茶の準備まで完璧だ。


・パーヌの街で神の啓示を受けて両替商マルベリス商会を義賊が襲った事。


・その顛末と債権奴隷をヘクトで開放した事。裏でマルベリス伯爵家が糸を引いている事。


・ベント師に相談したら、知った=神の意向と言われた事。


・取り合えずヘクトの民は救われた事。


・そして今日神の祝福を知ったと告げた。


神の祝福と共にこの様な物がありました。とリリーさんのメッセージの手紙。どうも男爵が憎からず思った事、リリーさんもその気で渡したのでは?と言う事。それを神が祝福した事をと伝えた。


男爵が想いを告げ、リリーさんのメッセージを受け取った事を俺が


リリーさんの出自と実家について視ながら話す。

メッセージは神の啓示でドサドサと受け取ったと。本来なら男爵のマジックバッグに入っていてだと説明する。(別にアルが盗んだ訳ではない。今は盗んでいる)


シェルのポンチョと一緒に付けていたバラライカも見せそれをパーヌの街の産業としてオットー商会に提案し、子爵家御用商人の約束とキャンディル家御用商人の約束。そしてオーバン男爵がバラライカを傭兵団の分発注した事を伝える。


まさにその翌日。事を報告した。



家宰のシュミッツがそのリリーさんのメッセージを含めて話の詳細を克明に書いている(笑)メモに行った店と源氏名も全部書かせておく。心配ない、カードだけで相手の顔も耳も分かる。大丈夫だ、真実の眼は一回見たら忘れない。既成事実が積み上げられていく。


平民で生活魔法を使えるメイドのリリーさん(24歳)が男爵と祝福されて結ばれる方法をお爺様達に相談したい。


リード男爵も身を固める気になってるのかも?


若く見えても(28歳程)38歳だから焦って来たのかも?

と皆を視ながら誘導していく。こっちだよと・・・


「神の意向には逆らえぬでのう」

リードと共に導かれた賢者も言う。



導師の大魔法は1週間に一回ぐらい使えるらしいのでまた何かあれば帰ってくると言うと、同じ時間に皆がお爺様の執務室に集合となった。


アルは祝福のウィルスをまき散らす。


の会議でクラスター集団感染させていた。


かつて向こうで食らった狂信者を増やしていた。


松明持った狂信者達を。


アルは知らない。じゃなく後は知らない。


後は狂信者が帰って来た師匠を取り囲むだけである。


この世界に無いを体験してもらおう。


このキャンディルの旅は師匠の残り少ない独身生活を謳歌させてあげよう。今日からどんな耳の店に行っても内緒にしてあげる。


ロスレーンに帰ったら、何も知らぬ振りすれば良い。


子供だから。



縮地で逃げたら奪ってやる。


必ず幸せになって貰うぞ!師匠!




領都の両替商を駄賃に襲い、宿の導師の部屋に帰った。



・・・・・



ロスレーンより21時頃にはヘクトに帰って来た。


導師の部屋に跳んだ。

ヘクトにいるうちにやっておきたいことを導師に相談した。


に手を出した奴に天誅をかます。


とは言えないのでキャンディルの領民をダシに義賊を訴える。


優先順位は以下の通り。


・ロスレーン領の街の両替商から金品を押収する。

・キャンディル領の街の両替商も掃除したい。

・国中の各領都本店を真っ先に機能停止させたい。


「朝陽が昇るまでの暗いうちが勝負です、各街に連れて行って頂けたら店は見渡せば魔眼で探せます」


「儂も実験がてら試すのに善行なら良かろう」


「どこの街とか言わんぞ、儂のイメージの場所に飛ぶだけじゃ」


「それで結構です、ロスレーン領から潰して行って貰えますか」


「良し、行くぞ」21時20分からそれは始まった。


跳んだ街でマルベリス商会を検索、ナビ状態で向かって商会を視界に入れた瞬間に全て強奪し次の街に向かう。

街を視界に入れた瞬間に街の情報が分かる。


そのまま次の街へ向かう。(すでに2軒は義賊が奪った)結果、ロスレーン領には10の街がある中6つの街にマルベリス商会があった。両替商。交易路沿いは多い。


そのままキャンディルの領都と12の街を訪れる。

キャンディルの12の街はさすが地元の導師、両替商の有りそうな通りにそのまま表れた。大きな街にあった6店舗完了!最速1分(CMか!)


すぐマジックバッグが一杯になるので諦めてインベントリLv5を自分に付けてみたら問題無く金品がインベントリに送られる。


長距離は魔法の燃費が悪いのでそのまま横にある侯爵領へ跳ぶ。


キャンディルに隣接する侯爵領の街を全てカバーしてその隣の侯爵領にも交易路を伝って跳んで行く。夜中の3時前。計21店舗完了!横の男爵領は交易路でも一店だった。計22店舗。


次の王都で奪い、導師の魔力が尽きた(笑)

俺が転移を付けてヘクトの導師の部屋に跳んだ。


帰って来てから、導師に預けた金品をマジックバックで4杯分俺のインベントリに入れる。入れた瞬間に情報が整理され、眼と合わせて検索も情報も取り放題になった。


導師は研究より面白いと目を輝かせて、興奮していた。神のお墨付きと思ってるから、おれは大罪を背負ったかもしれない。


興奮した導師を「寝て魔力を回復させましょう」と癒しのヒールで落ち着かせてお互いに寝た。3時。6時間で23店舗回る荒業だった。(街に行っても空振り率が高かった)



何の信用も無い世界。いつ死んでもおかしくない世界の金利を利用して貪る寄生虫。吸えなくなると枯らす寄生虫。駆除は大変だ。成り立たない事を教えなければ根絶できない。


マルベリス伯爵が領都の商会を義賊にやられた時には、領内の支店並びに隣接する領のマルベリス商会は全部やられていた。100%奪われていた。資産・債権を領都に移す通達が支店に届く時点で国中の支店は皆やられていた。


5か月後、王国全土の負債者の返済を終えていない魔術証文。債権者奴隷証文がマルベリス伯爵邸執務室に残された。回収に掛かる人件費と交通費を入れるとすでに紙屑であった。


王国全土のマルベリス商会が店を閉じ、土地を手放して資金がマルベリス伯爵邸に運び込まれると最後の義賊が伯爵邸に現れた。


王国全土の領に還元するためである。


マルベリス伯爵は引退を貴族院に申し出て、長男が後を継いだ。それは1年後の話である。



1年半後


新しいマルべリス伯爵が夕食を終え、執務室に入ると一通の手紙が机に乗っていた。


武官には武道、文官には文道、農工農民、職工には作道、学院には導道、商人には利道、領主の道は如何いかに。


以後、道を踏み外すべからず。新マルべリス領を祝福する。


マルべリス商会及びマルべリス領民の財産を返還する」



商会と民衆の内訳計算書と債権奴隷満期の証文があった。


隣の応接には、白金貨換算で約1300枚があった。

商会分(約190億円)民衆分、奴隷債権分含む(約70億円)


マルべリス伯爵は応接の黄金の山の前にひざまづいた。


跪いた所にペラっと一枚あった。




マルベリス商会様


事務手数料、債権回収手数料、領収書。


金貨800枚、小金貨2200枚、大銀貨3600枚、銀貨4600枚、半銀貨9500枚、大銅貨26800枚、銅貨405821枚、賎貨86826枚。


  確かに受け取りました。 道を問う者。


(4億円+4億4千万+3億6千万+4600万+4750万+2680万+405万8210円+86万8260円=13億2522万6470円)


「チーン!」


商会受け取り分の白金貨含む端数だった。

重すぎて床が抜けるので端数を手数料で貰った。



以後


武官には武道、文官には文道、農工農民、職工には作道、学院には導道、商人には利道、領主の道は如何いかに」


マルベリス伯爵家の家訓となる。



この時、アルベルトが成人して12歳と約半年。



・・・・・・


時は現在に戻る。


朝のアルベルト。


3時に寝て、朝の鍛錬もクソも無くお付きのメイドが朝食を呼びに来る。ノックで起きない。メイドがベッド脇で声を掛けても動かない。揺すっても起きない。


「もーー!やめてよ!」と子供が寝ぼける。


メイドから聞いたリードが来た。


「こいつが朝に起きないって珍しいな」と呟きながら手首を握ってぶん回す。


「あがががががっがが・・・」

「朝だぞー」


「・・・」


「あがががががががが・・・」

「飯だぞ、起きろよ」


「はい」


自分でクリーンを掛けて後始末した。


「起きたー!今日はキャンディルだ!」と叫ぶ。


師匠にぶっ飛ばされて、ベッドの向こうへ落ちてった。


「寝ぼけやがって!ここはヘクトだ!」


涙目で師匠を見ると、横にメイドさんが固まっている。。メイドさん視たら、寝ぼけた子供を容赦なくぶっ飛ばす師匠に驚愕して動けない。泣かない子供にもビックリしてる。


「起きました!」

「飯行くぞ」

「はい!」

 

アルお付きのメイドは、こんな貴族を初めて見た。領主の孫に何やら技を掛けて悲鳴を上げさせ、起きたらぶっ飛ばす男爵。ベッドの向こうへ落ちてって泣かない子供。


朝食後、導師の部屋。


「取りあえず、鉱山の方の森まで行って馬ごとキャンディルへ跳ぼうかの?跳ぶのは儂の家の厩舎の前でええじゃろ」


「はい、分かりました」


「アルはヘクトではまだ何も知らされてないんだな?」


「そうですね、に跳びましょう」


「知らされる前って、お前(笑)」


「アル、今日の晩もやるんじゃろ?」

「出来たら、主要都市だけでもやりたいですね」


「今日の晩?」


「昨日色んな領まで跳んで両替商から義賊してました」


「朝までやってたのか(笑)」

「その前に導師の魔力が切れました」


「なるほどな。起きられないのも分かる」


「導師、畑の成長促進やるなら、そっちでもいいですよ」


「ふむ、どちらも急がねばの、しかし両替商を先にしよう。元々馬で参ってもあと15日は掛かった道じゃ。出来る限り早く回収せねばな」


「お主言っとったの?キャンディルの領民から搾取した債権と奴隷と金を領民へ返すと。それを兄上に聞かせたいのじゃ。儂の兄もアルの後ろ盾になれるでの」


「はい、キャンディルの領民の財産です」


「キャンディル領だけが搾取された訳ではない。国中が搾取されておる。まずはそちらを最優先じゃ。9時に宿から出て森に向かう」


「はい、分かりました」


1時間チョイあるな・・・掃除しとくか。


(シェル、ちょっとヤリに行く。何かあったら助けてね)

(はいです)


自分のカバンや荷物を持って、宿のカウンターに預ける。


ヘクトの街に飛び出した。


鉱夫斡旋業者の検索、悪徳。

昨日ちょっと視えていたのだ。


この様なファジーな検索の場合、アルが考えるの悪徳業者が出る。出たら名前が分かる、どこに居るか分かる、街を一周見渡したらコッチとわかる。


以前は真実の眼で4つに分類されていた視る種類。追視、看視、検索、探査の4つが統合されていた。気が付いたのがこの旅に出てからだ。


今まで気になった事しか視ないので分らなかった。21人の盗賊について様になって気が付いたのだ。ファジーな要素で検索を掛けると、検索したモノの情報でそのまま視ている街に探査が乗るのだ。


ナビ状態と言うのは、その人は街のコッチ方向に1.8km、食堂で朝食を取っている最中と情報が叩き込まれるからだ。街の中ならば業者の視覚も同調して視える。


朝食を取るの脇に子供が立つ。


「坊や、何か用事かい?」

「おじさんにちょっと用事」

「私にかね?」


「ここでは言えないから、外出てくれない?」

警戒する口入屋、誰かが外で待ち伏せか?と思う。


「そうやって思うよね。悪い事してるって知ってるよね」


見る間に悪人面に変わる口入屋。口八丁に逃げる気満々なのが視えるので紋章カードを目の前に出す。


「黙ってろ。ロスレーン家の者だ。外へ出ろ」


店の裏に連れて行って・・・


「お前、他領から来た鉱夫にやってくれてるな?」


「なにが・・・ヒブッ!」

「お前がやってることはお見通しだ」

「何のへブ!」

「何も言わなくていいよ、分かってるから」


「お前・・・うちの領に働きに来た奴だけ狙いやがって気に入らねぇ。皆うちの領で稼ごうとしてやって来てんだ。お前を太らせるためじゃねぇぞ」


「私はゴガッ!」


「言わなくて良いから!お前が反省するように領主家がわざわざ来てやったよ。お前を反省させるためにな、時間が無いから一気に行くぞ!」


ボコボコのバコバコだ!


「ヒィッ!許して許して、ごめんなさい」

「許すとかどうでもいいわ」


蹴りまくる。


「同じ悪事をこれからやるかやらないかだ」

「悪事やるのか?」


往復ビンタ3連発。


「やりませんやりません」

「他の領でやろうと思ってるよな?」


「はい思っています」


「だからダメなんだよ、反省してない。口だけだ」


正面から殴る、殴る、殴る。


「許して許して」泣いている。


「お前さぁ、そういう嘘を見抜く奴知らないだろ?」


あ!威圧が付いちゃった(笑)こうやって付くのかい!

自力で付いちゃった。わーい。


「お前が知らないだけだぞ、得意になって嘘つくお前をみんな知ってるのをお前は知らないだろ?嘘ばっか言ってんじゃねぇよ」


バコバコに殴る。


「本当です、本当です」


「また嘘だ。うちの騎士団で一丁揉んでやるか」


「・・・」


「何考えてるんだよ? お前本当に知らなかったのか、お前の嘘なんてバレバレだぞ?(笑)」


「・・・」


「お前がなぁ、来たばっかの奴見つけるのと同じだよ。嘘付きは分かるんだよ。」嘘である。


「・・・」


「わかった!もうお前死ね!分からねぇならいいや。ロスレーン家が殺してやるから」


蹴り飛ばす!転がる奴を子供が蹴りまくる。


「お許しを、お許しを」


「そうじゃねえよ、悪い事するのか?って聞いてんだ」


「二度と致しません。二度と致しません。お許しください」


「お!ちゃんと嘘ついてないじゃん!嘘ついて生きてる奴はホントしぶとかったな。分ったらいいよ。これから真面目に生きろよ。お前の仕事でこの領地に来る奴を稼がせてやれよ。逃げんじゃねぇぞ。ロスレーン家舐めるなよ。悪さしたらまた来るぞ」


「これから励めよ」


声を掛けるが、裏道で転がったまま泣いている。


「よしよし」と子供が撫でて治す。(無詠唱)


・・・・・


「手前ぇが!」

「ヒィー!」


・・・・・


「二度としないな?」

「ごべんナざい!」


・・・・・


「出発まで3人しか〆られなかった・・・クソ!」



宿までテテテと走った。





次回 98話 キャンディル到着

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