第96話  山男再び



昨夜。

急遽、ロスレーン領最後の街ヘクトからキャンディルへと転移することが決まった。こんな歩みでは何時着くのか分からないからだ。


にも程があろう!


俺が知りましたと言ったらこうなった。スミマセン。


まぁ、あの両替商の被害者を開放しないとダメだからな。少々遅れてもしょうがないよ。


などと考えながらも朝のお勤めだ。洞窟がかなり大きいのでザッ、ザザザッ!と言わせても大丈夫だ。


ターミとガンダは美味い酒食らって寝てる。

あんたらインスタ上げて!付けてやるわ。タグは泥酔とかで。スマホ無いけどな。



型をやりながら洞窟を見ていて気が付いた。


こういう所に転移用の部屋持ってるとショートジャンプに丁度良くないか?いいじゃん!何か緊急の用とか転移タクシーで!(笑)


そうだな、いいな。型をワンセットやってから作るか。

イヤ、馬も無いのにあと3時間の所に作ってどうするよ。

馬ごとか・・・うーん。馬が居るとは限らないしな。


まぁいいや、緊急用は作っておけば良いんだよ。

転移場所が無いよりマシだ。


今の寝てる12畳は、冒険者に使わせるとして、奥に向かって馬車ごと入れる部屋を作るか。

もし泊るなら12畳の部屋も使えばいいしな。


よし。鍛錬終わり。


ターミとガンダの寝てる後ろに穴を開けて行く。ガンガン開けて行く。天井4mは要るな。馬車もそのまま馬と転移なら相当大きくないとな。用水路の魔法が便利すぎ。圧縮も念入りに行って砂岩まで固める、山くり抜いてるから生き埋め防止だ。


奥の部屋が出来たら、砂岩でプレートを作る。

折角作ったを皆に活用してもらいたい。


「魔法陣の手前に魔石を置くとクリーンの魔法が出て魔物を寄せん。奥の煙突を布で塞ぐとかまどの熱で部屋が暖かくもなる。皆で仲良く使うのじゃ。キャンディルの名無し」



なんか賢者っぽい尊大さを醸し出しながら優しさを演出した。


こんな感じ?カチカチに固めて壁を凹ませ埋める。ホール。


「これでガンダの名声がまた上がる・・・ふふ」

腰に手をやりプレートを見上げて勝ち誇る。


やっと7時か、そろそろご飯作るか。

冒険鍋に水を入れ、手早くファイアでGO!と沸かす。


昨日のキノコに肉が欲しいのでキノコとウサの肉とパンを出してと師匠を揺り起こす。なかなか起きない。


「うーん」言いながらインベントリからドサドサ出す(笑)


どうしようもないなこのターミは。

あれ?なんか源氏名の書いたカードが二枚。

あ!ここにも一枚・・・ケモ耳まで!


こいつ行ってやがる!いつの間に!


なんかメイドのリリーさん(24歳)(オットー商会の娘)の連絡先と手紙が・・・ダメだMDMD見ちゃダメだ


「リード男爵様、二日間の楽しい日々が~~~」これは一体どうすべきだ。


視た。

ふーん、か聞いたのね。パーヌの番地もね?そういう事を簡単に聞くとリリーさんも期待するじゃない。分かってんのか?外道。


なるほど!傭兵の挨拶なのね。そうなのね。でも男爵としてはどうなのよ、まんざらではないのね。帰りに宿に泊まったら買い物を口実に誘うんだね。良い口実だ、褒めて遣わす。


リリーさんの胸ガン見なのね。お前も山男なんだな。そこに山があるからな?しょうがないな。俺は山が無くても行ったぞ!(行ってないが、手紙書いた時点で行ったと思い込んでる)


まぁ、否定はしない。


「男には山に背を向けられない時がある 山に命を賭けねばならぬ時がある」って言うもんな。(※言いません)


リリーさんてスタイル良いもんね。ふーん、美人系が好みなのね。わかった。領主の継承破棄の孫が良ぉぉく理解したよ。


師匠がな店行くよりよっぽど良いわ。38歳だし、男爵だし、英雄がそんなじゃ駄目だわなぁ。ナンパかました責任取って貰おうか。神様もどうせ笑って見てくれてるよ。この世界の使徒が祝福してやるよ。



朝食の準備して8時にを叩き起こす。


朝食を食べてる間に、奥に出来た大広間を聞かれる。


「導師は転移でどこにでも跳べる様になりました。色んな地に気兼ねなく跳べる様に部屋を用意すると誰にも見られません。これから訪れる地には、この様な部屋を一杯作りましょう。導師に見て貰ったらこの部屋の入り口は壁を作って埋めます。転移で馬車ごと来れる様に広くしました」


「おぉ!なるほどのう」


「街の近くの山とかにこれから転移できる部屋を作りましょう」


「良いの!それは良い考えじゃ」


「アル、ここ森だぞ。馬車は無理だ、馬までだ」


「あ!」



・・・・・・・・・・・



次の街のヘクトでロスレーン領の交易路最後の街となる。


ヘクトは岩塩採掘の街、この国どころか周辺国にも輸出されている。国となってから国内から流民が仕事を求めてやって来て鉱山に入る。鉱山で働く人間だけで1万6000人程いるはずだ。


街の人口は2万人+鉱山周りに鉱山町が1000人規模で点々とある。岩塩鉱山というか岩塩地層が広大なので抗口も何キロも離れて多数あるからだ。


街に近い坑口は、街の鉱夫専用にされている。鉱山奴隷や鉱山送りの罪人などは遠くの坑口で看守を兼ねた兵士(街への運搬の護衛任務にも就く)に管理された町にいる。 


うちの領のモルドの銅鉱山と同じく領の準男爵(文官)が多数居る。鉱夫や奴隷の管理や産出量を管理して商人に鉱石の純度、岩塩の相場で受け渡すためだ。


岩塩は絶対必要な生命線だ、海の無い国には死活問題になる。豪族割拠の戦国時代は大変だったろうさ。うちのご先祖もよく守り切ったよ(笑)


昼にヘクトの街に付き、馬と荷物を置くために宿に向かう。


「私は執政官の所に行って来ますので、そのまま屋台で何か食べて済ませますね」


「アル!お主、貴族じゃろうが。屋台とはなんじゃ」


「美味しいですよ」


「そういう話では」

「老師、貴族の格好では無いです」


「む、そうじゃな。儂が無粋じゃったな」


「アル、それで大丈夫か?執政官に会えるのか?」


「身分証で押し通ります」

「押し通れば会えるだろうが、付いていくか?」


「いえ、大丈夫です。証文で開放させるだけです」


「まぁ、勉強か。気を付けてな」


「はい、行って来ます」

(シェルも居るし、大丈夫だよね)

(はいです、シェルもいるです)

(何かあったら、助けてね)

(はいですよ)


街には鉱山に入る入坑証を出す事務所がある。そこに準男爵の執政官がいる。街の事務所にいる執政官が一番偉い。(階位が高い)


大きな三階建て。レンガの建物の一階に入る。


鉱夫人足を十人ぐらい率いた口入屋くちいれや(鉱夫斡旋業者)が入坑証の手続きをしている。暇そうな窓口へ背を伸ばして言う。


「ロスレーン領主の孫、アルベルト・ロスレーンです。執政官に会わせて下さい」と紋章カードを見せる。


対応してくれた文官がとても驚く。


「少々お待ちくださいませ」と階段を上って行く。


そうだわな、この鉱山とか街とか爺ちゃんのだもんな。

俺っていいとこに生まれたよなぁ。嬉しいな。

(生まれたかどうか怪しいけどな)


「アルベルト様、代官様がお待ちです」


「ありがとう」偉ければいいや。

「こちらでございます」三階の中央の部屋に案内される。


「こんにちは」


「アルベルト様、ヘクトの街までようこそいらっしゃいました。ヘクトの街の代官及び執政官をしております。オスモ・パーシンと申します」


「うん、ありがとう。アルベルト・ロスレーンです」

左手薬指の認証指輪に魔力を込める。


「は!」と指輪に礼を返してくれる。


「こちらへどうぞ」と応接へ招かれる。


「ありがとう、だいぶ賑わっているみたいですね」


「はぁ、鉱山町ですからな、武骨な者が多い街です」


「いえ、うちの領を支える大事な街です。オスモさんが任されると言う事は、うちの領の準男爵でもトップなのでしょうね」


「お褒めに預かり恐縮致します。して今日は、どのようなご用件でしょうか」


お茶と菓子をメイドさんが用意してくれた。


「うちの領の領民が騙されておりまして、助けに参りました」


「なんと、その様な事が?」

「はい、代官の権限でこの者達を開放して頂きたい」


マジックバッグから債権奴隷魔術証文の束を出す。


「全部で36名います。証文あれば問題無いかと」

「少々お待ちください」


メイドに担当官を呼ぶ様に言いつけ証文を吟味する。


「これは・・・」

「お分かりになりますよね」

「在り得ない程金利が・・・」


「そうです、どうも無知な町民に安い金利で証文を書かせ、通常の金利で借金奴隷としている様なのです」


「そんなバカな・・・有り得ない」


「そんなバカな証文が目の前に有ります」


やりすぎたか?まぁ証文あればいいだろ(笑)


「うちの領民が引っ掛かり、金返せといたぶられ、金返せないなら借金奴隷と無知な領民からだまし取る。この人は16年働いてますが当然返し終わっている。


そういう証文ですよね?


返し終わってるんです。でも未だにここにいる。

私はこれを知りました。オスモさん如何でしょうか?」


「帳簿と突き合わせます。担当者が来るのでお待ち下さい」


「奴隷担当官リンド様以下三名参られました」

「入って貰ってくれ」


担当部署の人間が入って来た。


「領主家より来られたアルベルト・ロスレーン様だ」

「リンド・ラヌムスです」

「サダン・トルスクです」

「コルム・オードンです」

「アルベルト・ロスレーンです。お座りください」


「この36名の借金奴隷の帳簿を確認してください」


「わかりました」


オスモから渡されたざら紙へナンバーが控えられていく。


「少々お待ちください」

サダンとコルムが飛び出して行く。


リンドが言う。

「これは全てマルベリス商会の借金奴隷ですな」

「お分かりですか。さすがですね」


「見た通り、うちの領民が食い物にされております」


「証文のある分だけしか開放できませんが領主家として見過ごすわけに参りません。協力して頂きたく思います」


「は!わかりました」


「うちの領民を食い物にされて煮えくり返っております。このふざけた証文を手に入れ次第に開放するつもりです。オスモさんとリンドさんには普通に手続きだけお願いいたします」


「両替商が何か言いましたら証文を確認すればよろしい。どの様な手続きにしても証文が必要な筈ですからね」


「は!執政官の名に懸けて厳粛に対応させて頂きます」


「それで何かあれば領主家に報告して下さい」

「は!わかりました」


山の様な奴隷帳簿が六名程の手伝いと共に入って来た。


オスモさんが号令を下す。


「36名この中から探せ」

「は!直ちに!」


9名が証文のナンバーを元に該当者を探し出す。


何人借金奴隷居るんだよ。頭痛いなコレ。あ!そっか犯罪奴隷も居るしな。納得。見つかった者のページに付箋を挟み込んでいる。


三十分ほどで該当者は全て居る事が確認された。

集まって話し合っていたオスモさんから報告。


「すべて、何処の街に居るか判明しました」


「証文の領民は無事でしたか。よかった!」


「それでは開放の件よろしくお願いいたします」

「は!お任せください」


マジックバッグに手を入れ、小金貨三十六枚を手に取った。


「開放した借金奴隷にクリーンを掛け、これを路銀にお渡しください。三十六枚あります」(一枚20万円)


「なんと!よろしいのですか?」

「はい、問題ございません」


「それと、これはお爺様からと思って下さい」

大金貨一枚を出した。(200万円)


「よろしいのですか?」


「これから、証文を手に入れた者は開放して回ります。その度にこの様な仕事を皆にさせる事になります。どうか皆で会食などの足しにお使いください。機会が無ければお茶菓子にでもお使いください。私ではございません。お爺様からです」


「は!ありがとうございます」


「それでは、よろしくお願いいたします」

「は!承りました!」


事務所を出ながら心は晴れていた。


終わった終わった!色々考えて損した、悪い執政官が絡んだりしてたらまた二、三日かよ!と思って気が重かった。


アルが執政官事務所を出てから執務室に居た全ての文官(全員準男爵)はホッ!としていた、あの継承破棄の書類にペラっと一枚付いていた但し書きは本当だった。


※継承順位から外れようとも決して侮らぬように。


わざわざ子供冒険者を装って侮る様に仕向けている。

可愛い格好で奴隷債権証文持って物申す。文官を顎で使って小遣いくれる。見た目7歳程の子供にねぎらわれる代官・・・


領主の孫怖ぇー!


領都で侮ってエライ目に遭った奴がいる!

皆が震え上がって確信した。



夕食中に魔法の鍛錬を導師にお願いした。


「食べたらすぐでもよろしいですか?」

「アル、やる気だなぁ」

「構わぬが、何かあるのか」


「いえ、いつもの時間まで待つのが勿体ないので」

「ほっほっほ、やる気じゃの」


食べてそのまま導師の所へ行った。

俺と導師のメイドさんには鍛錬の後そのまま寝ると伝え、下がって貰った。


部屋に入った俺のメイド対応を見た導師が聞いて来る。


「何かあったのか?」


「知ってしまいました」

「なんと!わかった。して何をするのじゃ」


リリーさんの手紙を出した。



「神が祝福すると!」





次回 97話  伯爵家の家訓 

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                思預しよ

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