第94話  真の暁




翌日朝、両替商の(伯爵家の名前マルベリス)商会に導師が入った。


虚ろな目をした使用人たちが導師を見る。


「皆、どうしたのじゃ?」

 

昨日対応の支店長が言う。

「はぁ、ちょっとございまして」


「ふむ、路銀が届いてのう、金を返しに来たのじゃ」

貴人には噂は伝わって無い様だとホッ!としている。


「短期は10日まで10%じゃったの?」硬貨を皿に入れる。  

「大金貨1枚(200万円)と小金貨1枚(20万円)じゃ」


支店長が後ろの使用人に声を掛ける。


「ベント様の証文をこちらへ」

「フム、確かに受け取った」


「2日で宿を出たからの、今から発つ」


「又よろしくお願い致します」

「それではの、世話になった」


導師が店から出て来ると。馬に跨った。

西門へ続く大通りに出た時気が付いた。


お姉ちゃん(シヨン)の隊商が東に見えたのだ。

どんなけ俺達遅いねん!荷馬車に追い付かれとるがな!


「師匠、導師。後ろの隊商見覚えありませんか?」


「フム、足を止めたら追い付かれるのは道理じゃな」

道理かどうか聞いてねぇよ!


「アルが知っちまうからな、仕方ないな」

その通りでした・・・これ2カ月無理ぽいな。


西門から一行は出る。


導師が言う。


「アルよ、良い事をしたのう」

「はい」警戒している。


「昨日のうさぎのは良かったの」

「はい!」ホッ!


「宿で聞くと色々足されとったのう」

「はい?」


「酒はよい、枕カバーもまぁよい、お主、靴の中敷きだの磨きだの、馬の蹄鉄交換だの、メイドの残業代や礼の針子代、夜食代。果ては本日の昼餉の弁当もメイドの分まで付けておったな」


「・・・」


「貴族が乞食の様な真似をしおって!」


「・・・」


「返事は!」

「すみません」


「分かればよい。義賊には相応しかろうぞ」

ガンダルフよ。それが言いたいのは分かった。


「返事がないの?」

「はい」


リードはこらえた。耐えた。精神耐性が1上がった。 



その日、導師が帰った1時間後。


両替商に紅の灯亭より請求書を持つ使用人が訪れた。

請求は大金貨1枚(200万円)小金貨1枚(20万円)

大金庫にチョンと置かれたお金は無くなった。


2日しか泊って無いのに、紅の灯亭の4日並の請求だった。

一泊小金貨1枚×3人×4日=大金貨1枚小金貨2枚


昨日の晩にアルが宿の主人に、昼に出した高い酒を土産に大壺50個導師に持たす様に言った。宿がそんなに無いと言うと、朝一番に大壺50個分相当の高い酒を大中小の壺で揃えて酒屋から運ばせるように言った。


夜の22時には豪勢な夜食をメイドに振る舞った。深夜にも関わらず明日出立するからと馬丁を叩き起こしてメイドのライト付きで馬の蹄鉄を交換させた。


23時には急に靴の調子が悪いと言い出し、痛んでいない中敷きをフワフワに変えさせた。明日の昼の豪華弁当もメイドの分まで計上した。


大金貨1枚と小金貨1枚まではマルベリス商会が持つって言ったからと、宿の主人と二人で上限まで宿代を膨らませた。


悪党には儲けさせないとのが渦巻いていた。

   

・・・・


うさぎのは朝出来上がっていた。


昨日の晩。


オットー商会長との商談を終えると野うさぎの茶と白髪しらがに見える白と黒の混じったグレーの枕カバーしかなかった。


「あれ?白と黒が無いよね?」


導師が握って離さなかった白のフワフワ。

師匠がそれを見てサッと取った黒の艶々。


メイドの言葉に打ち震えた。


白か黒が良かったのに・・・俺が考えたのに・・・

先に白と黒取りやがって!


アルは商談終えたら白を取って、残りを導師と師匠に選ばせて縫って貰うつもりでいた。


部屋から出てきたら、もう白と黒が縫われている最中だった。

とても悲しかった。寂しくなった。悔しかった。


その悔しさを唇を噛んで耐え、グレーを選んだ。



朝には出来ていた。


メイドさん手作り。白髪しらがうさぎの子供用バラライカ。


今もシェルのポンチョを着たアルの首を飾る。



さらばパーヌよ俺達は遥か地平の彼方キャンディルへ今旅立つ!


導師に華(綺麗な白のバラライカ)を持たせよう。


朝にはアルは少し大人になっていた。


夜は子供だったので振り上げた拳を振り降ろした。


両替商に。


昨夜の商談で異世界に新商品が生まれていた、冒険者に「儲かるから、うさぎやらないか?」とうさぎ専門に?と商会長に言った時にピンと来た。


ゴロが良く、あっちの世界で流行っていたから、こっちでも流行るかもしれないとピンと来た。


歌まであったぞ!商品名:バラライカ。以後うさぎのバラライカ、キツネのバラライカ、いたちのバラライカと商人が売り歩く。


この異世界にそんな単語バラライカは無い。言ったもん勝ちだ!


俺しか知らないってチートだなぁ。



・・・・・・・



アルを乗せたノストリーヌは歩く。パカパカ歩く。

換えた蹄鉄も調子良さそうだ。


「導師、聖魔法って覚えられますか」

「覚えても使えんぞ」

「教会の前ではですよね?」

「そうじゃ」


「違う人の前なら大丈夫ですよね?」

「何を考えておる」


「このまま悪人を退治してると国の名声から世界の名声に導師の名が轟くのではないかと心配しています」


「あ!そうだな。全部老師の仕業になってるな?(笑)」


「仕業とはなんじゃ!ふむ、一理あるのう」


「聖魔法を見せれば教会の善行となり、寄付も増えるかと」


「なんじゃ?教会と何かあったのか?」

「パーヌの教会の孤児院に行って参りました」

「それで昨夜の12歳の孤児の話じゃの?」


「そうです、街の人も少なく喜捨も多くない中で教会は真面目にやっておりました。街が少しでも大きくなればと考え昨日の様な商売を提案しました」


「ふむ、貴族に相応しい提案じゃったの」


「分かった、聖魔法を授けよう。みだりに使わず、さすが聖教国と言われる時に使うのじゃぞ、約束じゃぞ」


「導師、聖魔法も使えるのですか?(笑)」


「何を言っておる、簡単なもんじゃ、お主も見たらすぐ盗むじゃろうからな、この場で約束して教えた方が得じゃろ(笑)」


「儂は使った事は無いぞ。宮廷魔導師が使ったら盗みよったと国が軽んじられるからの。アルなら見られても教会の子坊主じゃからの、何処から紛れ込んだ?と不思議なだけじゃ(笑)」


「子坊主! アル、そのままだな(笑)」


「なんですぐ、そういう方向へ行くのですか!」


「怒るでないわ、そういう事じゃからいいのじゃ(笑)」


「そうそう、そういう事だアル(笑)」

「むくれるな、子坊主と侮られるぞ」


「・・・」


「・・・導師も聖魔法使いませんか?」

「ん?」


「導師と私が使えば悪事を裁いた三名の者と知れても聖教国の善行となり、偉大な世界の導師にならなくて済みます」


「そうか、最初の話じゃのう」

「最初以外の話はしてないです!」


「そうじゃのう、なぜそうなった?」

あんたが小坊主言いよったとよ!


「とにかく何でも導師がやってたら名声が上がり過ぎて、弟子だの仕官だの世界でも取り合いになりそうで怖いのです」


「そうじゃのう、なったらなったでその時じゃ、ロスレーンに帰れば家も出来とるしのう、転移で逃げれば絶対捕まらぬ、大丈夫じゃ」


「あ!その手もありますね、その時は転移Lv10で世界の端から端まで逃げられる様に致しましょう」


「おぉ!それもいいの!楽しみじゃ、名声を上げねば」


「老師・・・」

「導師・・・」


「儂は頑張るぞ。悪人を倒す!盗賊を消す!」


「・・・」

「・・・」



要らぬ事を言った。藪蛇だった。

今転移Lv10にして大人しくして貰おうか迷った。



・・・・・・・・



同じ頃、ハルバス公爵領の領都ハルバス。


暁の傭兵団の団長が帰って来ない事で副団長四名の合議で団の決定を行っていた。


「団長がいつ帰って来るか分からない」


暁の団員達にも動揺があった。


団員にも色々な理由があった。


リードと一緒、勝てる傭兵団、暁カッケー!、なんとなく。


深く考える奴はいない。団長が居るか居ないかだけ。リードがやる。暁がやるから戦う、と言う理由だからだ。周りや政治を考えて戦う器用な奴はいない。


だから理由もクソも無く団長が留守なら帰ってきたら復帰すると抜ける者が多かった。二か月を超えた時、4000の傭兵は2600まで減った。


副団長達は団員が抜けようが辞めようが気にしていなかった。死線を越え、仲間と笑う事が好きで傭兵やっているからだ。


命を懸けた修羅場で生き残ると心の底から笑える。傭兵になった者には抜けられない楽しさがあった。そこで証明されるのは厳しい戦争でも能力と技術で生き残るすべ


生き残りだけが持つ沸き立つ血がいつしか繋がった絆。集まろうが、離れようが10年会わずでも崩れぬ絆。戦友。


離れても、暁が動けば集まるから何も言わない。抜けても誰も何も言わなかった。


そんな中。


副団長達はリードが楽しんでる事が知りたかった。神だの啓示だの言っても、要するに?と思っていた。


リードが抜けて二カ月で事件が起きた。


ロスレーン方面の傭兵の仕事が来たのだ。


ロスレーン領を北に越えた先の侯爵領と隣の国の領が揉めたのだ。


その大河が国境のライン。捕る魚はお互い様の商売。


川の中州は誰のだ? 林もある土地だ。


魚を取って中州に乗り上げて漁師が昼を食う。中州に舟を上げて魚や貝のBBQがステータスだ!毎日漁師が中州の領有権を主張していがみあう。手前の河原で魚焼けと言っても漁師が引かない。


   中州でBBQのステータスは引けない!


お父さんの仕事はな?とBBQで子供に語りたい。


お互いの国もアホらしくて手を出さない。

領主も大河の中州に騎士団は人的損耗も費用も高く付くから嫌だ。占領しても住むわけに行かないのだ。


そのうちタカ派の漁師が徒党を組み、中州で果し合いになった。漁師が棍棒持って殴り合い叩き合いの大喧嘩になった。お互いの領民に死傷者が出てしまった。そして領主様だ!


一発ガツンとケジメ取ってと、ケツ持ちに駆け込む。


昼に魚焼く場所に兵を出すぐらいなら中州を相手に譲りたい。だが貴族は体面が大事だ。漁師の夢も壊せない。講和の使者を出したら腰抜けと侮られる。違う国の領主なのだ、舐められたくない。先に使者出すのは絶対イヤ!


そして暁が呼ばれたのだ。


リードをついでに見に行って、からかう役に皆が志願した。酒場で乱闘が発生した。率いる副団長達が率先して仕事の取り合いが始まった。募集1000名に2600名が参戦した。


毎日戦争だ、あいつより俺が強い、お前よりこいつだ。戦いが始まる。傭兵がそれを言ったらお終いだった。下に見られて(1000名に参加出来ず)黙ってる訳がない。


そしてキレた。副団長の一人がキレた。


真剣勝負。模擬戦で負けた奴は弱いレッテル貼って修行に出す。勝ち残った1000名はとして本隊とする。


そう言ったのだ。他の副団長も賛成した。


団員は燃えた!弱いレッテルを貼られては終わる。下に見られたら舐められて傭兵やっていけない。


10人のリーグ戦で上位3名が真の暁。

4位5位を集めて敗者復活リーグまで作った。


暁はいきなり2600名から真の暁1000名になった。

負けた奴は!と皆で叩き出した。


何故そうなったか。

副団長4人のうち、1名が率いれば残った3名がリードに付いて自由に遊べるからだ。だから真の暁に賛成したのだ。


--副団長達の内心--

真の暁って言うかさぁ、暁1000名でよくね?

誰か1人が連れて行けばいいじゃん。じゃんけんで決めたら楽だし、そうしね?。(脳筋クオリティーだった)

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アル達がを作った頃。

リードが残した暁は4000名が真の暁1000名になっていた。


(リードうさぎのバラライカどうすんだ)


副団長1名が1000名を率いて中州に行った。


(異世界だ、あっちの博多ではない)


じゃんけんの勝組、3名+1がスキップで旅立った。

(+1は武術師範要請の手紙を持った事務方だった)


真の暁1000名。真の脳筋だ。





次回 95話  ウォーター 

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                思預しよ

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