第92話  呼ばれぬ御使い



パーヌの街二日目の13時。


アルは突然気が付いた。

なんで俺、こんな事証文の書換やってんだ?と。


師匠も導師も昼も食わずに酒飲んでるのに・・・。


俺だけ部屋で2時間近く魔術証文の書き換えだ。おかしいぞ!ご飯ぐらい食べたいわ!こんないい天気なのに。何やってんだ?


こんなの夜やればいいじゃん。

俺!今まで観光とかしてないじゃん。異世界してない。


早速、外へ走り出た。今回は格好がちょっと違う。

大きな鞄をたすきに回して冒険者になっている。(証文やらなんやらマジックバッグでみんな持って来た)


そろそろ冬だし、やっぱポンチョとサルが欲しいな。

探して見るか?遥かに逃げるブエノスアイレスっぽいキャンディルまで行くしなぁ。


午前中は東から南へ回ったから、北から西に向かって観光しよう。西門行けば、出て行く人用の屋台も有るだろうと強化を回しながら走る。


たまたま朝に採った野菜を売り切った農民が居たので付与。イヤ、これ観光なのかって話だよ(笑)


あ!教会があった、孤児とかいるんかな?

寄ってみよう。しまったなぁ、折角色々な街に寄るのに教会とか行けばよかった。聖教会あるのに一回も行って無かった、今更ながら俺も酷ぇな。


(神の加護もらってそれはないと思うだろうが。アルは神様は心の中にいると思っている。概念だから思う所に神は在ると思っている)


なぜ教会か。


孤児に恩寵付けて社会の輪に参加させ、人の一生させる為だ。それはあっちの世界の役所に必ず有る社会教育課。社会教育の理念は社会に出て働きながらスポーツや文化的趣味の活動を通じて人間形成を行うという理念だ。草野球大会やグランド整備などにも役所の補助金は出されている(領主家のアルがやってるのでだ)


それは孤児が12歳で教育も技術も無しに孤児院を出され、行きつく先が冒険者。高い装備も防具も無く危険と綱渡りじゃ駄目と思っている。


社会教育の理念をロスレーンの針子のお婆ちゃんに見た。 技術の研鑽を積みコミュニティーを作って、貧民達を社会参加させ糧を得る道を指し示す。孤児に教会のお手伝いをさせながら恩寵を育て、自立させようとするアルと同じ道をお婆ちゃんはしていたのだ。


・・・・


聖教会に行ってみたら、やっぱ孤児院があった。

こんな小さな街の教会に孤児院。聖教国やるな!


やっぱ来たらお祈りしないとなぁ。

え?俺こっちで祈った事ねぇや。


あれだけ旧教会に足を運んで祈ってないって・・・。

どうやって祈るんだ?シスターがこっち来る。


あっち風に祈ったらまずいかなぁ?視た。


あれ?鍛冶屋のひざまづいていたのアレが祈りか!今知った。導師にしてたのか、そうか。


どれほど無信心なのかお分かりだろうか?こんな奴が使徒になっている事が不思議である、まさに神の奇跡である。


「お祈りさせて貰えますか?」

「はい、どうぞどうぞ」シスターが微笑んでくれた。


祈った瞬間に6神の前に居た。あるあるか!


#「あるあるじゃないわい!」ネロ様が青筋立てて言う。

#「お主!御使みつかいはどうしたのじゃ!」


「へ?御使いって?・・・何か言われてましたよね」


#「って、それはないじゃろ!」

「御使いって何です?」


6神がずっこけた。ノリのよろしい事で。

#「・・・!」


「よいわ。シェル!聞いておるの?こやつは御使いを知らんかったのじゃ。お主が嫌いとか御使いが必要無くて呼ばなかったのではない」


「でも7か月以上も・・・」なんか小っちゃいのがいる。


「そうじゃ!7か月以上も御使いを知らんのだ!」


「クスン、クスン。えーん」小っちゃいのが泣いてる。


俺のせいか?


#「アル!どうするのじゃ!」


「どうするって言われても・・・」


#「お主に付けた御使いじゃ!使ってやらんかー!」

「使うってどうやって?・・・です?」


#「はよう名前を呼んでやらんかー!」ネロ様ブチギレ。


「   」視た。


#「儂を視てどうするー!お、そういう事か、なら良い」


神様に通るよ(笑) 御使い情報が分かった。


「シェル?シェルなんだよね?」

「・・・明様」


「明から今はアルになったからね、呼ばなくてごめんね」


「えーん」視たら嬉しくて泣いている。


俺が転生する時に神様の足元にいたんだ・・・なるほど。


小さな人型の精霊だな、神様の周りにいつもいるみたい。御使いって、あっちの世界だと天使の事みたいだな。こっちには天使の言葉は無い。


天使の羽とかは無いな?と思ったら生やした。


「シェルも俺の考えが読めるの?」

「はい、わかるです」


「こういうの出来る?」

「出来ます」森でカラカラ言う妖精になった。

「こういうのは?」サルになった。

「シェル!お前凄いな!自由自在か?」


「普通ですけど」イヤ明らかに喜んでるじゃん。


「そんじゃ、こういうのは?」ポンチョになった(笑)

「色は出来る?こんなのか、こんなの」


ペルー風の複雑な金糸風のモザイクを入れて、貴族が着ておかしくない濃いこげ茶、形は夕日のガンマン風で腕が自由に・・・でエンドに房が沢山のポンチョになった。


「すごいぞ!シェル!7か月呼ばなくて悪かった!」

「その恰好なら毎日、寝るときも一緒だ!」

「アル様と一緒です?」

「一緒だよ!ずっと一緒だよ!」


「わーい!でも、ずっとだと魔力が一杯要るですよ」


「大丈夫!好きなだけ吸って」


テミス様のは美味しい筈。


「死なないです?アル様大丈夫です?」

「大丈夫、大丈夫!欲しいだけ上げるから」


「わーい!アル様ー!」

と上品で派手なポンチョが言う。


「アルよ、よくやった!毎日メソメソと困っとった」


「キレてましたよね?」


「キレておらん!」5神がネロ様を見ている。

「たまには祈りに来た方がいいです?」


「7か月以上、儂らに用無しじゃろが(笑)」

「祈った方が良いですよね?」


「祈る気すら無かったではないか(笑)」


「すみません、今回みたいな用事あるかなって思って」


「用事は無い。シェルの件だけじゃ」

「ホント知らなかったのですみません」


「御使い与えて7か月以上も呼ばんとは珍事じゃ」

「知らなかっただけですって!」


「よっぽども他の事はどうでも良い男じゃの?」

「そんな事は無いです、ちゃんとしてます」


「イヤそうじゃ。お主、興味が無いとと全く気にもせんではないか」


「折角の眼が腐っておるぞ」


「腐ってるって!これでも使ってる積りです」ぶす。


「お主が捨てた物の中にも真実はあるぞ」

「捨てて無いですって!普通です。普通!」


「そこまで未練なく捨てるのは珍しいぞ」

「えー?」


「えーじゃないわい。少しは他にも興味を持て!」

「持ってますよ」


「お主が気になった事だけの」

それ以外の視てたら時間潰れるじゃん・・・あ!


「じゃろ?(笑)もういいわい、シェルとも会えたしの」


「これってこのままシェルも顕現けんげんできるの?」


「できますよ」


「ちょっと待ってね、今教会で祈ってるからどうしようかな・・・すぐに教会出て、隠れて呼び出すね」


「はい!待ってます!」


「それでは神の皆様、お元気で!」

「神にお元気いう奴はお主だけじゃ(笑)」


「すみません」

「良い、心がそのまま口に出とるだけだ」


「はい(笑)」

「またの」言う男らしい神。



教会に戻った。別にシスターは不審に思って無いな。

立ち上がってお礼を言う。銀貨1枚お布施に出した。

シスターも子供から貰ってビックリしてる。


取り敢えず、裏道でシェルを呼び出してポンチョを着る。なんか気分出て来たぜ!やるぜ!あとはサルだ。


(サルになるです?)

(シェル!これは念話か?)

(声なくてもいいですよ)


(サルだと人がシェル触りに来るからダメ)

(ポンチョでずっと一緒にいよう)


(はいです!)


(教会来たらシェルに会えた!嬉しいから、教会に何か買って行くよ。孤児たちにおやつでも買って行く)


(わかりました)

(思わなくても、分かるよね?)

(わかりますよ)

(そんじゃいいや、何考えてるか分かるならいい)



朝の串焼き屋視る、居るな。

走ってすぐ。あ!芋屋あった!

串焼きまで1.5km程だ、遠いから芋屋でいいや。


10m程引き返しておばちゃんに聞く。


「おばちゃん、えーと・・・17個ある?」

「10個茹でて、売れた分だけ茹でるから無いね」


「その籠の奴は茹でるやつなの?」

「そうだよ」

「いくつある?」

「22個だねぇ」


「それで今日は終わりなの?」

「そうだね。夕方ぐらいで売れて終わるね」

「全部茹でて!全部貰う!」

「いいのかい?32個になるよ」


「うん、その代わり運べないからその籠も売って」


「籠もかい?うーん、運ぶだけなんだろ?」


「うん、教会まで運ぶ」

「通り道に近いから帰りに教会に寄ってあげるよ」


「ホント?」


「茹でたら屋台曳いて帰るだけだからね」

「ありがとう!そんじゃ教会に籠預けるね」


「32個でいくら?」

「大銅貨3枚と銅貨2枚(3200円)だよ」

「半銀貨1枚(5000円)でいい?」


「はい大銅貨1枚と銅貨8枚のお釣りね」


少し待ってると茹で上がったみたいだ。


「熱いよ、籠から取る時も葉の蔓を持たないとダメだよ」


「すごい熱そうだねぇ」

「ホント熱いからね、気を付けるんだよ!」

「うん、ありがとう。教会に持っていくね」


籠を持って走り出す後ろから聞こえてくる。


「籠は預けといてー!」


(持つです)

(持つですってシェルどうやって持つのよ)


(すぐだから・・・)

(こうです)


(ぽんちょが!持つって包み込んで持ってる)


(えー!楽だな走りやすい)

(持つです)

(ありがとう)



教会に戻ってシスターに言う。


「屋台で買ってきました。皆で食べませんか?」

「え?そのようなことは・・・」


身分証を見せる。


「あ!失礼しました、司祭様を呼んでまいります」

奥から司祭様とやらがきた。神父じゃねぇのか?


「ロスレーン家のお方とか。初めまして司祭のルンスです」


「ルンス司祭様、私はお昼がまだなので屋台で沢山買ってきました。教会の方たちと一緒に食べたいのですがダメですか?もう食べられませんか?」


司祭のルンス様が目を剝いている(笑)


「あっはっはっは!貴族様がその様な事を仰るとは!冗談では無いのですな?領主様に怒られても知りませんぞ」


「大丈夫ですよ!皆で食べた方が美味しいです」

「それでは、皆の分宜しくお願いいたします」


「何人でしょうか?」

「孤児が10名、シスターが4名 私で15名ですな」


「食堂をお借り出来ますか?」

「ご自由にシスターにお申し付けください」


32個の葉で包まれた芋の湯気でモウモウの籠を渡す。


自分の芋を2個取る、丁度2個ずつだけどこの時間に食べたら晩がダメだよなぁ。シスターに一人一個ずつで、余ったら晩でもスープの具でもご自由にお使いくださいと籠ごと渡す。


「籠は屋台のおばちゃんが後で取りに来ます」


食堂で司祭様と全員で葉に包まれた芋と人参とかソラマメを食べた。15時のおやつになっちゃった。


子供たちの仕事に応じて恩寵も付けられた。シスターは子供達と食事の支度するので持ってない人だけ料理Lv1付けた。


聖教国セントフォールの教会付き孤児院は貧しくはあるが、ちゃんと運営されていた。なんか俺が間違っていたのが良く分かった。


ルンス司祭を視てわかった。

聖教国の教えを、人が生きる上でどの様に実践するべきかを絶えず考えている。自分がそれを実践して初めて教えの正しさと本質を証明出来ると追っている。体現しようとしている。


色々な問題で転んだりつまずいたり立ち止まったり迷いながら進んでる。


司祭の任期3~5年で自分の学びをこの地に生かそうとしてくれている。この人も道を追い求めている・・・


宣誓の儀でステータスボードに小金貨1枚(20万円)と聞いて俺の学生でしかない金銭感覚でボッタクリと思って、ロスレーンの教会を誤解していた。


宣誓の儀は絶対に邪魔してはダメだ。教会が金額指定して商売で資金を集めてるなら・・・あ!そっか聖属性魔法で浄化とか回復やってるしそりゃ秘術だよな。飯のタネじゃなぁ。


20万円取ってもこんな慈善施設作ってたら絶対やっていけないわ。営利じゃないもん。継続する運営資金が無いと戦争で孤児が増えたらパンクだよ。


家族で生きる街の人なら月4人が暮らせる20万円。ここには15人居る。司祭さんだってシスターだってかすみ食って生きてるわけじゃ無い。給料無くちゃ家族も養えない。唯でさえこの街は小さい。


現にルンス司祭の家族は聖教国の給料で暮らしてる、ここの喜捨では孤児院の運営がままならず孤児と一緒に生活を共にすると言う理由を付けて自分のここでの給料も出している・・・


やっぱ街の規模を大きくしないとなぁ。


ルンス司祭に小金貨2枚(40万円)の喜捨きしゃをした。子供から受け取って良いのか逡巡しゅんじゅんした後お辞儀をして受け取ってくれた。



聖教国の教えの本質が知りたくなった。



俺は教会を出た。





次回 93話 やらないか  

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                思預しよ

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