第89話  恩寵ロンダリング



朝5時に起きて、桶に水を出して顔を洗う。

流石一流の宿。俺の部屋で3人泊まれる。

こんな贅沢をむさぼって大丈夫か?俺。


まぁしょうがないか、お貴族様のお部屋だもんな。メイドとか執事も一緒にいないと貴族じゃないもんな。部屋が四つあるんだぞ、どうすんだよ?


宿のメイドが俺見てネグレクトと思ってんだぞ。こんな小っちゃいのがお爺さんに連れられてるんだ。そりゃ想像するよ。風呂で洗ってもらうとマジ可哀そうに見られる。もう!


とか言いながらも裸足で応接間を使って師匠の敵と対峙する。


初見なら対応できないけど、全部覚えてやっとこさ避けられるようになっている。来るところが分かれば当然って?その通り。全然付いて行けないから、速さと動きに慣れるためにやらざるを得ない。


まだ初日だ、予想では一か月もしたら速さに慣れて目が付いていくと思う。まぶたの裏の相手の軌道は良く分かったから、そのスピードでその角度なら最短でココと勉強になる。師匠は勝ってるからね。最後ぶっ殺してるから、覚えても仕方ない訳ではない。


アレが居るなら同じレベルの奴も居るって事だ。

対応出来たら師匠の見せてくれる敵をまた追うだけだ。


相手のスピードに慣れて行けば、俺も釣られて激速になるかもしんない。やってみないと分かんない。眼で追う鍛錬なんて誰もしないからパイオニアだ。練習にはホント良いの、杜夫カートのゴーストをお手本に戦うみたいな。


魔力巡らしながら、魔力の強化点も動かし魔力眼も真実の眼も併用する。そのうちに寝ている間も自動で出来ないかしらと思い始めている。


日が昇ったので着替えて、宿のロビーを駆け抜け外に出る。


あ!いた。


「おはようございます、どうかした?」

「ぼく、早いねぇ、おはよう」

「あの宿は偉い貴族様って泊ってた?」

「凄く偉い貴族様が泊ってるよ。9時頃出立って」

「そうなの?」

「うん、キャンディル行くって言ってたもん」

「ありがとう!」抱っこしてくれた。


そして俺は走り出す!串焼き屋へ。


「おじちゃーん!」はぁはぁ・・・

「お前。また走って来たのか?」

「うん、明るくなるの待ってた」


「しょうがねぇなぁ、また2本か?なら銅貨二枚だ」

「やったー。ありがとう!」

「俺から毟るのはお前だけだ、あんな勢いで走りやがって」


2本焼けるのを背伸びして見ていると・・・


「今日もあの坊主が居るな」と冒険者が言っている

「だろ?食ってみなって」と言いながら集まって来る。


俺はサクラか!(笑)


「坊主。出来たぞ!熱いから気を付けろ」

「おじちゃん、ありがとう!」


銅貨二枚を冒険者に見えない様に渡す。おじちゃんも、分かってんじゃねーかと目で会話。


昨日はヤンキー座りだったが、冒険者が集って来ちゃってアレは無かったな、と反省し近くの階段に座ってハフハフ食べる。


でも、やっぱり通りがかる冒険者が俺と屋台に集る冒険者を見て寄っていく。集る人と焼ける匂いで誘き寄せられてる(笑)

あっちの世界でも人が並ぶと美味しく見えるからなぁ。


「おじちゃん、美味しかった。ありがとう!」

「おう!気を付けて帰れよ」


通りがかった6人の冒険者が採集依頼を受けていたので採集Lv1を付けておいた。


帰りに行き会う屋台で、商売Lv1を持ってない人に付けておいた。ロスレーン出てミリスで大休止の街だ、栄えろよ。


昨日の師匠の演武を見てから身体を動かしたくてしょうがない。焦ってはいないのにムズムズして飛び跳ねたくなる(笑)


走りながらピョンピョン飛んで気の済むまで走りまくった。


部屋に帰ると今日も俺が居ないので探してるメイドさん。7時に起こしに来てるんじゃ遅い。食事に合わせて帰って来てるしなぁ、でも5時起きだとわざわざ言うのも大人げないしな。

手を繋いでもらって食事に行く。


導師と師匠に朝食後、朝の娘の事を話す。


「襲われた娘が偉い貴族様を探しに来てましたよ(笑)」


「口止めせんかったのか?」


「いや、しましたけどね。あいつら全員、同じ目に合わせてやったのを見て放心状態で帰ったので、奥さんと娘にポロっと言ったかも?貴族様に助けて頂いた・・・みたいに」


「手が付けられない男たちをやればそうなるのかの?」

「貴族が貴族を粛清するのは平民なら呆けるでしょうな」

「ほっほっほ!それはこたえるやもな」


「聞いたのですが、娘が嫁に行くと喜んでました」嘘である。

「ん?関係あるのか?」

「なんじゃそれは」


「鍛冶屋の親父が弟子との結婚を許さぬ矢先に娘が襲われたので、早く嫁に出さないとって思ったみたいですね」


「ほっほっほ、娘は若いのか?弟子が未熟なのか?」


「娘が19歳で弟子が25歳とか言ってたような」言ってない。


「えらい若い娘なんだな、その齢じゃ許さねぇよ」


この世は魔力で長生きなので平民の結婚は早くても25~30(うちのメイドみたいに由緒正しい場合)だから35歳でも普通だ。



「お偉い貴族様は9時頃出発ですからね(笑)」

「教えたのか?」

「そこらじゅうの貴族様追っかけたら手打ちに!(笑)」


「わはは、貴族追っかける平民か。面白いな」

「キャンディル行くって教えましたから来るかもです」


「なんじゃと?何教えとるんじゃ。アル!」


「しかたがないですよ、やんごとなきお方は導師だけです」


「アル、お前(笑)」

「お主の弟子は始末におえんの!」

「老師の弟子ですよ!」

「む・・・そうだの」


宿を出るとき宿代は何者かに支払われていた(笑)


主人に聞いても答えない。

導師も主人につぶやいた。


「忍びの旅じゃ、宿代を払った者に感謝せねばのう」


主人は応えず頷いた。


「主人、世話になった」と〆た。


門に向かって馬に乗って進む。


西門の前。守備隊と正装の騎士団員が4名いた。


一般の・・・まぁ、あの部屋を固めていた団員だ。


導師が西門に近ずくと騎士団員が国際儀礼を始めた。


門の両脇に騎士団員2名が並び、剣を捧げて(胸の前に立てて)見送るセントフォール式の国際儀礼だ。


西門の手前、10m程横にひざまづく家族6人がいた。


ふと導師が馬を止めた。


「そちらの娘よ、こちらに来い」

「・・・はい」


おずおずとひざまづくのを止めて娘が近づく。


「祝儀じゃ」金貨を1枚(50万円)渡す。

「いけません!」と娘が返そうとする。


「良い!この街で使うが良い。その金は街の皆に回る」


「・・・」

「幸せになれよ」


俺たちは騎士団の心ばかりの小さなお見送りを後に西門を出た。

俺は子供らしく手を振って出て行った。


「導師、追っ払いましたね?」

「何の事じゃ?」

「街で使えと、付いて来ぬ様に言いましたね?」

「何を言っておる」


「キャンディルまで付いてこられたら盗賊退治とか出来なくなると心配していたのかと思いました」


「バカをぬかすでない(笑)」

「あはは(笑)」


「・・・」

「・・・」

「・・・少しの」


家族は導師が助けたと思っていた(笑)


キャンディルの賢者伝説がまた生まれた。

騎士団に伝説が生まれたのは知らない。


親父はステータスボードに鍛冶を持ってたので、家族全員に付与した。お母さんのご飯が美味くなるぞ。娘の家事Lv1と料理Lv1も付与した。息子に鍛冶Lv1も付けた。牢に入った罪人共の匂いの染みついた恩寵だ。真っ当な恩寵に直して領民に還元する恩寵ロンダリングだよ。



カッポカッポとノストリーヌは進んでいく。

背中に乗って手綱に集中してなくても良い子で進んでいく。俺は農民を探して、開拓民を探して、悪人を探している。


偶にピクッとするのは、過去に悪に染まってた人達。悪に気が付いて自力で反省した事のある人達。このままじゃ駄目だと生き方を変えた人たち。誰だって間違うんだ、悔やんで反省しながら生きて行けばいいさ。


罪を認めて懺悔したら神様もお許しになるんだよ。


誰だって失敗するさ。間違わない人間はいない。失敗したら反省すればいいんだ。生きてる限りいつでもやり直せるさ。


今の自分が大事なんだよ。


たくさん失敗して反省してきた使徒の俺が応援してやるよ。



すれ違う親子、連れた娘と息子に恩寵が付いた。





次回 90話  人の群れ

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                思預しよ

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