第87話 やんごとなき劇団
朝の5時に起きる。
まだ夜が明けて無いので部屋の中で、敷物に裸足で型の稽古を行う。安宿と違って水差しも桶もタオルも揃っている。
型の稽古を行いながら、3日間の間に見た冒険者の模擬戦?について思い出す。冒険者が昼の食事後に腹ごなしと行う小さな模擬戦だ。誰も彼もが剣術の教育を受けられる世界では無いのでほとんどが先輩からのアドバイスと我流である。
師匠の研ぎ澄まされた武術とは程遠い、最短とは言えない攻撃を視て躱す。トリッキーでわざわざ遠回りで攻撃する。視ているだけで勉強になった。こうか!と反応したら全然違う遠回りの攻撃だ、慌ててその攻撃に対処する。
騎士団の模擬戦の初日に師匠が言っていた言葉の意味が解る。初見の相手の攻撃はその技量によって違い、対処し辛いのだ。
師匠の捌きを身に染み込ませるアルだから、初動に対処してその攻撃が来なくて肩透かしになっても遠回りの攻撃に対処出来るのだ。
アルは考えていた、善性の冒険者は何人の旅人を護衛で守るのだろうかと。もちろん統計は無いので解らない。武術を正当に習ったものなら打ち合ってる間に見抜かれるその我流の剣術を伸ばしてやりたかった。
身体強化Lv2、剣術Lv2を上げるなら農民1家族が食べて行ける恩寵が付与できる。己の甘い考えを振り払った。
振り払ったがやるせなかった、無事で過ごしてくれと祈った。
落ち着いたら・・・
ダンジョンで栄える街で武術を教えるのも良いなと思った。
明るくなったので着替えて外に出てランニング。
肌寒さもすぐに温まる。悪い癖は異世界名物と名高い串焼き屋探しだ。どの様な異世界にも必ずあると言うとても美味い串焼き。(あっちの世界の方が沢山あると思うが)多分これはラノベ使いとして大成した者しか解らないメシテロのトラウマなのだろう。
見つける位なら良い。こいつは美味いのを検索して一直線で走って行く。子供冒険者の恰好で。
はぁはぁ言いながら、串焼き屋まで走って頼む。
「おじさーん、串焼き2本!」
「坊主、走って来たのか」
自分の店目掛けて一直線に来るから嬉しがっている。
「だって、一番おいしい串焼きって聞いたから」嘘ぽん。
「本当か!解ってる奴は解ってるなぁ」
「美味しいんでしょ?」
「美味いに決まってるだろう。食って見ろ!2本で銅貨3枚を2枚にしてやる、初めてのお客さんへサービスだ」
「おじちゃん、ありがとう!」
一段幼児語のギアを上げる。
「焼き立てだぞ、やけどに気をつけろ」
銅貨2枚と交換。
2本持ってその場でヤンキー座りで串焼きを両手に持って食べる。冒険者の恰好をした可愛いのが店の前でハフハフ言って串焼きを食べる姿を見て、皆が微笑ましく通り過ぎて行く。冒険者ギルドの通り道だったために、冒険者も串焼きに集りだした。
冒険者の隙間から顔を覗かせて大きな声で言う。
「おじちゃん、噂通りすごく美味しかった!またねー」
「おう、坊主!また来いよ」10本ほど一気に焼いている。
そんな噂は無かったし聞いてもいないが、眼が美味いと言っている。それは本物だ。本物の串焼きなんだ。銅貨の借りは返したぞ串焼き屋!
子供冒険者は走り去った。
(その前に眼で美味いと言うな。イヤ!アルの真実の眼は真実だ、本当に美味いのだ)
食事の時に師匠と打ち合わせた通り騎士団の駐屯所に行く。盗賊たちは恩寵がある関係上、刑が決まるまで罪人は騎士団が預かる。(領主が月に一回民衆の前で断罪する)
昨日思い出した事。
盗賊宿の親父の恩寵の事を考えていて思い出したのだ。
無実の罪の人は居ないかな? <それだ!
あっちの世界で出来なかった事を追求しなくてどうする!俺だって男だ!ついでにこっちで無実の奴は助ける。それで借りは返す。俺に法学を教育してくれた帝大法学部に借りを返す!(人格持ってない法学部も勝手に親しくなっていた)
恩寵はついでだ。(・・・)
能書きはいい。
騎士団に着き、身分を明かして入る、何も言わせない。領主の孫と男爵だ。お忍びで内緒だと報告が行かない様にした。俺が病気で死にそうだからだ。
牢を視て行く、盗人宿の親父も恩寵を頂いた、皆公平に採掘を付けておく。色々取り調べの兵士に説明を受けて視察?していく。担当もロスレーン領主の孫だから張り切っている。
60人位居て、死ぬまで鉱山送り(盗賊、強盗殺人)もいる。
24人はすでに採掘になっている。罪を見て行き、人殺しの極悪人から採る。
(集められた極悪人からプランテーションの収穫だ)
中に一人可哀想なのがいた。視たままの原因を担当者から視て行く。それから騎士団全体を視て行く。しつけが必要な子供を見つけた。
現男爵の孫12歳。二男(リストン・ミリス)どうしようもない奴だった。
ロスレーンの領主の孫と明かし、騎士団長に面会した。原因の問題点を話し合った末に、話の欠点を直し上手く纏める芝居をしてもらう事になった。
劇団騎士
「やんごとなきお方と男爵の孫」突然公開である。
師匠には導師に訳を話して貰うのに先に宿に帰って貰った。
騎士団にリストンを呼び出して貰った。
突き出された男の事で、異義を唱える者が居る。と男爵家に伝えに行って貰ったのだ。
2時間ほど待つと取り巻き連れてやって来た。なんと馬車2台だ。
余りに多いので部屋を変えて貰った。被害者も手枷と縄を付けたまま部屋を移動させて悪かった。仇は討ってやるからな。
入って来たのは6人の取り巻きとリストン様とメイドだ。メイドは関係無いので外でお茶だ(笑)
騎士団が護衛について部屋を固める中。俺が言う。
冒険者の恰好をした子供が言った。
「おい!うちの知り合いをやってくれたのはおまえか?」
「何言ってるんだ?坊ちゃんに不敬を言うと・・・」
「だまれ!言うな」いきなり殴り倒す。
腹パン一発で許さない。ボコボコでバコバコだ!
「団長!何をやっている!取り押さえんか!」
周りの騎士団は動かない。皆が解った、貴族だと。
「お前もピーピーうるせぇ!」
声変わり前で可愛い声。バコバコに殴る、足腰経たない様に身体強化で殴る。
「他になんか言うことある奴いねぇのか?」
周りを
「お前に聞いている。早く答えろ!」
リストンに近づく。
「何もして無い!何もして無い!」
「そう言うと思ったよ!」
グーパンで正面から殴っておく。殴って蹴りまくってると取り巻きが言う。
「坊ちゃんは何もしていない、悪いのはそいつだ」
「こんなのばっかり飼い慣らしやがって、バカが!」
こいつも足腰立たない様にボコボコバコバコにする。周りの奴から殴り倒していく。床に転んだら蹴りまくる。
「お前ら根性だけはあるな。悪い根性は俺が叩き出してやる」
蹴りまくる、殴りまくる、容赦しない。泣きながら許して許して言ってるが一向に喋らない。
「何を許すんだよ?俺は知らねぇなぁ。何を許すって?」
とガンガン殴る。蹴りまくる。騎士団の足に縋って助けを求めてる奴を無理やり引き剥がして顔をパンパン平手打ち。壁に打ち付けて腹パン攻撃。
「何を許すんだ!教えてくれよ!」
顔がくっつく程の距離で怒鳴り倒す。
「私達が悪かったです、すみません、すみません」
「何が悪かったんだ?」
殴りながら言う。蹴りながら言う。
「言わねぇと分からないだろうが!言え!」
「お許しください、お許しください」
「言わねぇか。悪い方に忠誠心高いなぁ。言わなきゃ終わらねぇのによっと!」
今度は泣いてるリストンを蹴り始める。胸倉掴んで無理やり立たせて殴って叩く。
「お前の子分が何も言わねぇから、お前も可哀想にな」
周りの騎士団に縋って助けて助けて言ってるわ。後ずさって逃げるのを服を掴んで殴り飛ばす。泣いて縋るなら自分で喋ったらいいのに。
悪事は絶対喋らねぇってか、良く分かってるな。爺様が怖いもんな(笑)認めなきゃ逃げられると思いやがって。そんな楽してるから腐るんだよ、てめーはよ!俺からは逃げられねぇぞ、喋らなかったら爺様の前で自白させてやるからな。
「騎士団はなぁ、悪い奴は助けねぇんだよ!」
後ろから蹴っておく。床に転がったのを壁まで蹴って行く。
「騎士団は民を守ってんだ。おまえら屑を守ってねぇ」
「いい加減喋ったらどうよ、喋るまで続くぞ。痛いぞ?」
泣いてる奴らも蹴りまくる。マジかよこれで折れねぇって。喋ったら殺されるのか?どんなに脅してるんだ、12歳の癖にマジ最悪の奴だな。
「もういいや、飽きた。喋らねぇからこいつ殺す。こいつの被害考えたら殺しとくのがいいわ。お前死んでおけ」
蹴りまくりながら言う。立たせて殴りながら言う。
あ!やっと折れた。
「ごめんナざい。ごめんなさい。僕がやりました」
「男爵の孫風情がなにやってくれてんだ?」それっぽく言う。
「その男の・・・」
パンパン叩きながら言う。
「早く言え」
「娘にいたずらをし・・・」パーンと叩く。
「・て、あの男が途中で邪魔をしたので」
「で?」
「みんなで、袋叩きにして騎士団に突きだしました」
「団長!聞いたな?」叫んでおく。これが合図(笑)
床に落として、また蹴りまくる。
「また、胸倉を掴んで無理矢理立たせる」
「おい、男爵の孫よ、お前死ね。俺が殺してやる」
そこで団長が間に入る。
「お許し下さい!この者のやった事は許し難く、お怒りもごもっともです。二度とこのような事はさせません。なにとぞお許し下さい」
「団長!お前が責任を持つか?」
「はい、騎士団で二度とさせません、お許し下さい」
「よし、こいつらにヒールは禁止する」
「そのまま、男爵家に連れて行き親に見せよ、今までの解ってる悪事と共に騎士団から男爵にも伝えよ。名は名乗らん、名乗ればこ奴ら皆死ぬからな」と取り巻きに目を合わせながら言う。
「今回は団長殿に免じて許す。次は無いぞ、街で見たらお前の様に絡みに行くからな、気をつけよ」
他の者を連行させ、団長と俺と容疑者の男になる。
団長に手枷と縄を解いて貰い、男に謝った。
「この国の貴族に関わる者が悪事を働き申し訳ない」
「破れた服は直らぬが可愛い服でも買ってやれ」
小金貨を2枚(40万)出した。(街の平民、月収2カ月分)
「この事は口外を禁ずる。喋れば解るな?」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
視ると男は神様が突然現れて助けてくれたと思っていた。クリーンとヒールを掛けた。瞼が腫れ、痣が酷かったのだ。
「早く無事な姿を嫁と娘に見せよ、帰って良い」
男は泣きながら帰って行った。
残った団長殿に丁寧に挨拶し、待遇に何かあればロスレーンの子爵家を頼るようにと重々お願いをしておいた。ロスレーン領3番目の街の騎士団長を任される人だ、間違いは無い筈だ。
子供とは思えない威風堂々の貴族だった。
ふう。沢山の恩寵貰ったからな、無実の罪の民も救えた。娘も服を
騎士団も雇われている男爵の孫じゃどうしようもないな。義憤はあっても貴族を
上手い事に賢者の故郷キャンディルへの旅の途中と団長に伝えている。旅のやんごとなき貴族でいい。ばれた所で子爵の孫VS子爵の身内男爵の孫だ。多分、性格は治ると思う。自分のやってる理不尽な事が身に沁みて解った筈だ。
余罪は取り巻き含めて全部教えておいた。これお前やったな?と団長の前で自白させた。被害者の名前も出した。良心が有るなら賠償も・・・有るかはわかんない。
ミリス男爵領騎士団。
団長を除き事情を知る騎士のアルの評判が変わった。
死にそうな病気で継承順位から外れたんじゃない。
7歳程に見える子爵の孫が冒険者の恰好で模擬剣を持ち、それを使わずに素手で殴る蹴る、貴族とは思えぬ口汚い言葉で
継承破棄はあれが原因だ!
・・・通達に一枚ペロッと付いていた。
継承順位が外れようとも決して侮らぬように。皆納得した。
事情を知らずとも、事件を知った団員の酒が進んだ。
リストンに
「あれで胸倉掴んで持ち上げてるつもりだったぞ(笑)」
あの場に居合わせた団員の説明が続く。
※本人は持ち上げた様に大威張りだったが、リストンの膝は床に着いたままだった。
幕が下りても騎士団で大喝采だった。
(身内だけ公開だからしかたない)
次回 87話 同じ軌跡、同じ奇跡
----------------
この物語を読みに来てくれてありがとうございます。
読者様にお願い致します。
応援ポチ。☆も頂けたら嬉しいです。
ポチをしてくれる事。それはとても励みになるのです。
一期一会に感謝をこめて。よろしくお願い致します。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます