第78話  キャンディルへの出立



出立の日。


朝の5時起きは変わらない。

覚醒した翌日から毎日アニーがちゃんと起こしてくれる。明日からはアラームの魔法を自分で掛けなきゃな。


お着替えの時にアニーの両手を取って言った。


「今日、キャンディルへ出発する。今迄いままでありがとう。帰ったらまた専属になって貰うから待っていてね」


「アル様こそ、お元気で帰って来て下さいね」


「僕は元気で帰るよ、師匠と導師と一緒だもの」


「そうですね、お待ちしております」

「うん! 今日も朝は変わらず走る」

「はい」


朝の少し肌寒い10月中旬

明日から踏むことのない庭を走る。


二か月の旅に思う事も多いが、この国の平民は12歳で冒険者ギルドもメイドも商人も職人見習いでさえ社会に出て働く。俺は20歳だ、この国の貴族なら二年の宮仕えを終えて結婚だってする歳だぞ!感傷に浸ってどうする。と奮い立たせる。まぁ10歳なんだけども。


魔力眼で視ながら身体中に魔力を巡らし魔力集中を四肢に行いながら走る。ながら運転もはなはだしい。


朝は鉄の棒持って5週走っている、身体強化で意味があるのかとも思う。でもこれは交戦中と同じらしい。なので満足している。


そんなで走ると型の訓練だ。

以前師匠が言った足払いも今ではバリエーションが増え、最短距離で相手を制圧する技から、制圧せずに足で崩すだけの技まで増えている。何も殺し合いばかりでは無いからだ。


街の冒険者が絡んで来てさぁ、相手が戦闘不能になったら過剰防衛過ぎだろ?そういうコンセプトで敵を地面につくばらせる足払いがプロトタイプRX-78-1からどんどん進化した。今じゃ足払いマークⅡRX-178まで行っている。


そんな足払いの発展技を乗せて、一回終えるのに5分は掛かる型を5セットこなす。最後のセットは気合いを入れて全力の魔力で体がきしむ程の身体強化を行いながら型を終える。


最近は冷えて来たせいで体から湯気が出てる(笑)

井戸水を頭にかぶってアニーにクリーンを掛けて貰う。


裏口からいつもの使用人食堂に入ると、家族が勢揃いでお迎えされた。お爺様にガシッ!と掴まれ、そのままの練習着で食堂に連行され椅子に拘束される。又なんかあるのかよ・・・。


「いい加減にせよ!二か月も親の元を離れると言うに、朝ぐらいは一緒に取らんか!」爺ちゃんが怒る。


「昨日の夕食で充分話したから、いいと思ってました」

「それはそれじゃ(笑)」


「モンスターに襲われたらどうする。帰ってこれんぞ」


「師匠も導師も一緒ですし」


「まぁそうじゃがの。それもそうじゃの(笑)」


「アラン、エレーヌそうじゃろ?」

「・・・」

「そうですよ、何も心配無いですよ」


「アルの方が親離れしとるの(笑)」


確かに、この歳ならそうだわ。俺はエライ!


「お父様、アルは初めてロスレーンから出るんですよ!」


街から出るぐらいで何言ってるのよ。


「お母様、普通は誰でも出られますから。大丈夫です」


「アルベルト!私を馬鹿にして。心配しているのに!」


朝からお母様がハイテンションで引く。

今日やってないからか?朝一だぞ!


「お母様!」と立ち、テテテッとお母様に抱き付きに行った。


お母様嬉しそうに!お迎えしてくれる。わーい。

ポスンと母の胸に抱かれて・・・ぎゅー!っとされる。だって120cm位しかないもん。この世の俺は小さいの。


って何を茶番やってんだ!と周りを視ると皆涙ぐんでいる。


      #いい加減にしろ!


みんな本気なのか!マジなのか!娯楽少ないのか?こんな茶番で泣けるのか?そういう世界なのか。


こんな茶番なら俺のスキルファンタジーオペラの役者が居なくても・・・も良いかも知れない。まぁ、それなら撫でられるのもやぶさかでは無い。うん。


あっちの家族で、これを見せたら・・・新喜劇だ。


令子さんとこれやったら、捧腹絶倒ほうふくぜっとうで腹がよじれるだろうな。宗彦さんと雫が笑い死ぬ。


モンスターがいる世界だからな。野盗もいるしな。こういう別れ方しとくのが良いんだろうな。視線を辿たどってお父様を視たら芝居と気付いてた。



・・・・



家族と朝食。あの茶番は何だ?


ノストリーヌ(馬)を厩舎から連れて荷物を載せる。背が全然届かないので従者のビクトリオが手伝ってくれる。やっぱインベントリ取るかなぁ・・・やっぱ荷作りも出来ない、馬に積めないじゃ、人としてどうなんだと却下。


馬が持ってくれるので俺の格好はだいぶ楽になった。リュックサックに肩から回した大きな鞄もあるから、後サルがいたら三千里だな。


今日はよろしく頼むよ。と水魔法のヒールを掛けるととすごく喜ぶ!水魔法のヒールは真夏の駅の天井にある細かい霧みたいなミストシャワー。まんまアレ!


馬も井戸水が美味かろうとんできてやって時間があるからそのまま庭で型の稽古。


食事を終えた導師が偶々たまたま見て寄って来た。


「よく巡っておるの、それは魔眼も一緒に使っておるのか」


目をつむったまんま導師を視て答える。


「そうですね。相手の攻撃を魔眼で見てそれに対する型です」


「忘れぬと言っておったのう、より実戦を意識できるの」


「そうですね、まだ速さがお粗末ですが」

「良い、良い!受けの集中も良く動いておる」

「門が開いてから、凄く楽になりました」


「ふむ、それ程巡って動けば上達も早かろう。それでは儂は出立の準備をしてくるでの。励め」


「はい!導師」


何か視線を感じて視る

メイド長がなんか焦って気にしてるので視た。あ!貴族ってそうなの?そんなの知らねぇよ!


「出立の朝に両親に挨拶」って朝したじゃんか。


分かった、分かったよ!行くよ。そんなにハラハラしないで。ゴメンって!ホントにもう、お貴族様は!



アニーにクリーンを掛けて貰って、パタパタして玄関に走る。


メイド長も玄関の方へ一緒に回り込んで来る、俺に伝えようと必死だ。手を挙げてとジャネットに叫びながら振り切って階段を駆け上る。


お父様、お母様の部屋の前でノックして返事を待つ。

副メイド長のセリーナ23歳が顔を出す。


そんなホッ!としないでよ。悪かったよ!


「アルベルト様がお越しになられました」

「入る様に言いなさい」聞こえてるよ!

「アルベルト入ります」

「おぉ、来たかアルベルト」おぉって。


「ここに来てお座りなさい」


「はいお母様」


さっとセリーナがお茶を煎れ始める。

行儀よく座っても手甲、腕プロテクターにスネ当てである。テーブルのあっち側だけマリーアントワネットの世界だ。この絵面はないよなぁ。ウケてないで反省だな。


「アルベルト何か忘れてないかね?」

「行って来ます」

「そうじゃない、お前、金はどうするんだ?」

「持ってますよ」


「幾ら持ってるんだ?お爺様から貰ったのか?」

「こないだお父様に頂いた小金貨が3枚あります」

「ぷーっ!」お母様が茶を吹いた。

「ちょっと待て、それで行くつもりか?」


「はい、少なかったですか?」


ちょ!セリーナまで!そんなにカタカタ言わすな。


「少ないってお前・・・」

「60万ですよ!」あ!やば!まずい!


「???なんだって?」


「舌を噛みました、小金貨6枚ぐらい要ります?」


6枚なら120万だぞ10歳にそんなに持たすのか?


「アル!聞きなさい。旅に出るんだぞ」

「はい」

「賢者と英雄が泊るところは小金貨一枚だ」


「え?」一泊20万円?


「貴族が泊るとはそういうもんだ」


「冒険者の宿は半銀貨(5千円)と聞きました」

「そりゃ平民だ!それぐらいだ」


「「孤児院で・「そりゃ、孤児だ!」」


「おまえはロスレーン大領主の孫だぞ。教えたぞ!」


「すみませんでした」しゅん


お母様がよじれて苦しんでセリーナにさすられてる。ルーミール伯爵家の娘が



アッチの世界だって20万の宿なんてぶっ飛びだわ、めてたよ、異世界ハンパない。でも有名ホテルのスイートルームならそれぐらいかも?あ!そうじゃん。セレブじゃん。7か月で初めて知ったわ、俺セレブだ!


「わかったならいい(笑)」お父様も笑ってるよ!

「これを持っていけ」ズシッ!膨らんだ皮袋だ。


「金貨10枚小金貨50枚大銀貨10枚銀貨50枚だ」


500万+1000万+100万+50万=チーン1650万円!


マジか!10歳に1650万円!俺まだ一銭も稼いでないのに。20万の宿で60日なら1200万円て・・・アホじゃねぇの? 普通の宿じゃダメなんか!アホタレが!まぁ、親が言うなら1泊20万は本気なんだろうけど。


よっぽど目が点になっていたらしい。


「アル、こっちを見なさい(笑)」

「・・・」

「これが普通なんだ、そんなに驚くな」


「僕、まだ一銭も稼いでないのに」泣きそうになる。


いくらなんでも10歳に1650万も持たす両親だぞ。俺はこの金に何も貢献してない。呆れて泣きたい。


「いいんだ。そういうもんなんだ!」

「お前が使ってくれないと、この家が困るんだ」


「でも・・・」


「アル、使わなくてはダメよ。そういうものなの」

「・・・」


「アルが使ったお金でみんなが喜ぶの、みんなにお金が渡ってみんながご飯を食べられるの。このお金を働いてる人達と頑張っている人たちにアルが配りに行くのよ」


ぐは!ボディーブローが炸裂した。公共投資だった(笑)


「そうだぞ!ロスレーン家を代表してアルが配るんだ」


使みたいに励まされる俺。


「そうなの?こんなにお金使っていいの?」

「いいさ、アルは賢者と英雄のだぞ」


「そうよ、ロスレーン家のアルベルトが旅をするのよ、使わなきゃダメよ?」


「わかりました、お父様お母様ありがとうございます!」


「分ればいい。これを持って行っておいで」

「はい!お父様お母様」マジ重いわ。よろよろする。


帝大生がめられたもんだぜ、まったく。さすが貴族。を教えられるとは抜かったわ。


この様な内心皆が知るわけがない。


だから

その日のセリーナはメイド達の話題の中心にいた。

小金貨3枚で行こうとしていたアル様は人気者になった。10歳だけどメイドのアイドルだ。



色々貴族の風習のうがきで疲れてしまったがもうすぐ出発の時間だ。ノストリーヌ(馬)の所で待ってよう。


それにしても重い。馬にくくるか。

鞍の後ろの両脇に垂らしてある馬用のサイドバッグ?の耳を開けて左右にお金を振り分けて入れる。マジで膨れ上がってポンポンだよ。


あ!重いから師匠に・・・じゃないや。すぐに楽に逃げるダメ。ノストリーヌごめんよ重くて。ヒールを掛けて喜ばせる。


師匠が来た。一緒に導師も来た。ヤッター!出発だ。


「アニー、そろそろ行く。ありがとう、また会おう」キリ!


と言ってたら、またゾロゾロと出て来た。


時間に家宰とメイド長がお見送りの指揮を執る。師匠と導師がお爺様とお父様に挨拶し始める。さっきまでよじれていたお母様がしんみりしている(笑)


まだやるのかよ!もう、しょうがないなぁ。マジか!親孝行するって言わなきゃ良かった。


「お母様~!テテテテッ」勘弁しろ!

「アルー!」


本当に嬉しそう。両手を広げてお迎えしてくれる。中に入ってピト!と引っ付く。お父様を視るとバレている。


「お父様~!テテッ」ピト!おまえも巻き添いだ!


「お爺様、お婆様」めんどくさいので二人一緒に抱き付く。


「いってきます!」ふと見るとアリアも居た。


アリアに抱き付いた。てか俺と身長変わらねぇ。


「アリア!行ってくるね!」


メイド長に出立の挨拶をして、目で会話する。アル様アル様とメイドが寄って来る。にこやかに挨拶を終え、見送られて子爵邸を出た。



内心は・・・



いちいち面倒だな!お貴族は!好きにしろ!

毒を吐きながらロスレーンの街をとっとと出た。




次回 78話 子供冒険者

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                思預しよ


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