第74話  粉まみれ



師匠の煮込みバクバクを見ながら・・・


自分の考えたお出かけと違うと思っていた。


街一番の店で要望を契約する様な買い物。

貴族だけのメニュー。美味しいけど違う。

有無を言わさず部屋を分けられて楽しくない。


あの馬車だ!あの馬車で来るとこうなんだ。異世界を歩くにならない。これは我慢比べの貴族プレイだ。


こんなんで優越感持ってどうすんのよ、流民だって平民だって立って半畳、寝て一畳、天下取っても二合半だぞ



まぁ、御屋形様おやかたさまは特別を演出しないと、民は付いてこないよなぁ。頭の中は分かるけど、付いて行けない。


貴族社会はトップダウンで責任の所在は明らかで良いシステムと思う。でも領民とか下々の声をボトムアップ出来たら効率の良い社会システムにはなるのに。この世界も頭のキレる領主はいる筈だ。


領民の識字率を考えるとボトムアップは無理だ。あっちの世界でも識字率10~40%の国が有るんだからな。字が読めねぇ、書けないなら、知識が無いからそもそも下から上がってこない。


下から上がってこないなら、トップはなおさら民の不自由や直面する問題を見極める目が必要だな。


貴族が店の前に馬車を置く事に協力するレベル。

貴族馬車を見せ付ける事で信用のある大店と見せる。


それで箔を付けるなら商品の価値や付加価値のサービスで箔を付けた方が店にも民にも領にも将来的に正解の筈だ。


マナーと言って貴族の馬車を見せ付けるのと変わらねぇ。

やっぱあっちもこっちも基本同じだわ。


あっちの本質で言うとだな。

貴族はそうならなければいけない筈だ。この世界ではそこまで至る貴族が少数だろうから異端だな。危ない考えだな。



まぁいいや、色々考えてもムカ付く今は変わらない。



なので男爵に聞いてみた。



「こんな別室で食べたり、服をオーダーメイドするのが貴族は普通で嬉しいのですか?」


「俺は平民だったんだ、気色悪いに決まってるだろうが!」


気色悪いそうだ(笑) 


冒険者ギルドや傭兵ギルドの人が行く普通の店に午後から行けるかどうか聞いてみた。


師匠はすぐに三番街の靴屋、武具商会に急用が入ったと伝言を頼み、午後は四番街に向かう旨を御者のビクトリオに伝える。


食後のお茶を楽しみながら教えて貰った。


四番街の冒険者ギルドや冒険者についての講釈だ。

ロスレーン領は平地の要所だからモンスターも弱い動物系しかいない。まんま冒険者は初心者の雑用メインの街だそうだ。交易路を狙う野盗はどこにでも居るので隊商はベテラン冒険者を雇う。


小さな商人はこの街を起点に上り下りするのが多いので5~6人規模のパーティで護衛待機のベテラン冒険者は居るとの事。



モンスターの居ない安定した地域こそ傭兵の方が忙しいんだって。小領主になると自衛の兵が少なくなるため野盗に村が襲われる被害が多い。その野盗を短期間で殲滅するために傭兵が活躍する。野盗と同数の傭兵なら間違いなく殲滅するそうだ。


傭兵は紛争、戦争などの対人特化、冒険者は食えなくて成り上がろうとする12歳となった者の救済所だそうだ。実際ダンジョンの探索で名を馳せる冒険者が多い。師匠も12歳で貧しくて冒険者から始めたんだって。傭兵ギルドは行くのを勘弁してと言われた。英雄だもんね(笑)


四番街に向かうと獣人も多くて人種のるつぼだ。


青髪、赤髪、黄巻き髪。早口言葉か!


紫髪のヒョウ柄ってその毛どうなってる!大阪のおばちゃんよりすごいがな。お前はヒョウ柄獣人だろ?視なくても分るわ。


大きいの小さいのハーフ、クオーターみたいのがいる。誰も気にしてないのがすごい。カルチャーショックだ。


もう。そのままで通じるだろ。そのままなんだよ。俺たちに言葉は要らないだろ?そのままで分る筈だ!


イヤ、ここは獣人初心者に語るべきだろう。



これ、全部人族とか言わないだろうな?

獣人、魚人、人が付いたら全部人族はマジやめてくれよ。神様の大雑把が怖い。ちゃんと種族あってくれと視た。


よかった。ちゃんと種族ある。

守備隊の滞在証明や色々なギルドカードを身分証に持ってる。


ネコ獣人。お前人の血の方が濃いだろ。人族と認める!(笑) 犬獣人と言うか獣人皆が人とのハーフみたいってさぁ。もっと濃い衆と人族が、種族気にせずに結婚してるんだよな?


寒い地方の人が多いだろうな。

(とても失礼な事を思っている)


虎獣人、狼獣人、兎獣人、狐獣人、熊獣人・・・獣人は多く無いけど目立つから良く分かる。身体つきが細い、逞しい、大きい、小さいと特徴も違う。


なんか分る気がする。獣人の女の人、いる。付き合ってみたら持ってかれる人多いと思う。イヤ情が移ったら行くぞ、アリだわ。


あっちのクマが二足歩行みたいのは綺麗とかどうのこうの以前の獣人だ。服脱いだら猟師に狩られるレベルだ。胸を隠してるから女の人だと思う。領民は狩らずに大事にしないとな。


逆にタコ獣人とかイカ獣人がいない訳も分かった気がする。ぬめぬめうにょうにょしてたら付き合う気すら・・・・寒気がする。



獣人の人みんなステータスボード持ってるよ。種族特性の上にスキル(恩寵)も有りだ。経験値貯めてLvも上がるんだなぁ。


獣人の獣なのか獣人の人なのかマジわからん、どっちが失礼になるんだろう。獣人と呼び捨ても失礼な気がする。


武具屋に付いた。領主の馬車が横付けでみんなビビってる。


店の客が逃げちゃった。ホントゴメン。面倒事から逃げるのは正解だよ。ビビってる店主視たら師匠にビビってた。


俺を見ず師匠を恐れながらも聞く。

「今日は何をご入用でしょうか?」


「領主様のお孫殿に武具を見せてやってくれ、初めて見るらしいからな。俺たちが使う実用的なのが見たいらしいぞ」


「御孫様は何をご所望でしょうか?」


二人に割って入る、ここでも勝手に決められたらイヤだ。


「ロスレーン家の三男アルベルトと申します。色々見たいので店内を回らせて頂いても良いですか?」


「アルベルト様。スコッツ武具店のスコッツでございます。左様でございますか、ご自由に見て頂いて構いませんとも」


店内の武器を視ていく、冒険者が試しに振って見たりしているのも視える。一つ一つ視て行くうちに魔力を帯びた武器が有るのに気が付き過去を視ると魔鉄の武器が刃こぼれを起こして鋳潰され新たな武器になっていた。魔鉄の方が魔力を通し強度も上がるようだ。


魔鉄の手甲が有ったので付けてみる。皮で手首に固定して甲の部分は親指の股から小指の付け根にベルトを固定し握り込む。握って良し、開いて良し。武器を持っても掌のベルトで滑らない。


大きいので悩んでると師匠が子供用を作らせると言う。


アームガードの小さいのが無いので、カットを頼めるかと聞くと作ってくれるという。裏で粘土の型を取ると言うので足もスネ当て用に型を取ってもらった。10歳って言っても体型的に7歳じゃなぁ。ある訳ないよな。


メリケンサックは無かった。みんな剣を持っている。何かあると剣を抜く。そんなんでメリケンサックもクソも無い(笑) 800g程の握りやすい鉄の棒を注文した。(身体強化して走るからそれ位無いと軽すぎるの。800gの石って持ち難くて200gの奴で我慢して走ってるの)


冒険者用の靴を見せて貰ったが皆大きかったので主人が足のサイズを粘土で測ってくれたら19cm。でかい靴の中にそのまま入るよ(笑) 一番高い靴と同じ仕様で作った。


大満足のニコニコだ!だけど、とんでもなく高い。


食事は安いのにやっぱ職人の人件費や素材は希少で高いのが良く分かる。職人も受注してから完成まで半日とかじゃ無いからなぁ。


支払いは家宰の割符さいふと俺のサインでOKみたいだ。(割符さいふ:それを持つ者に納品と共に付く注文書のお金を渡す貴族の決済方法:硬貨しかないので高額な買い物をする場合にお釣りが無かったり、街では両替で割り引かれるので使われる)


外に出ると小降りの雨が止んでいた。

馬車を三番街への門に待機するように言い付け。師匠とメイド三人の五人で歩く。


露店は出てないが、商店の軒下を借りた店が食材を売っている。視てるだけでどんどん知識が増えて行く。


実はいつも仕事をして貰っている従者ビクトリオ17歳(今日の御者)とメイド達に小物を買ってやろうと思っている。歩いてるついでに見つけないと偶然にならないのでアクセサリーの小物を扱う店を探している。折角小遣いを貰ったので感謝で返したい。


メイドは3人で固まって歩いてる。アリエラ17歳アニー16歳ノーマ15歳だ。この世界の栄養や食料が悪いのか、背は小さいが見た目、普通の中高生だ(笑)


やっぱ4番街は平民の街って言うだけあって、魂がくすむ人が多い。家族が病気だったり、怪我で体が不自由だったりする人が多いのよ。


冒険者も古傷で足が引き攣れてたりする。脱臼とかでも腕の可動範囲が小さくなるとか今視て知った。可動範囲まで考えた自分の攻撃法とか視ないと気が付かなかった。(視た脱臼の冒険者は剣を振り上げて降ろすのが苦手で下段からの切り上げばかり鍛錬してた)


そんな中で可愛い子を見つけた。孤児院の女の子(8歳)が毎日使ってもらえるお手伝いを探していたのだ。もう6件ほど回って断られてる。一日賎貨五枚だって、半銅貨一枚だ。大体50円だぞ。


女の子に声を掛けた。

「お手伝い探してるの?」

「・・・」目を見開いて驚きまくってる。


「大丈夫?」

俺が貴族服だったからビックリしてた。えーん。


「は、はい、大丈夫です」

「教会の孤児院の子だよね」

「はい、そうです!」


教会の子と知ってて安心してる。


「教会に案内してくれるかな?」

「はい」


突然の俺の奇行に皆が驚くので補足しておく。


「今日は、お父様から初めてのお小遣いを貰ったんだ、何に使おうか迷ってたんだけど今決めた。教会に使う」


皆がなるほどと頷いてくれる。


15分程歩くと教会が見えて来た。古めかしい建物で歴史だけは有りそうだ。


教会に入るとシスターが迎えてくれた。


視ると全員正規のシスターじゃない。


どうなってんだと視ると正規のシスターが亡くなってから派遣されていない。シスターに恩のある子が孤児院を引き継いでるだけの教会だ。そして今の正規の教会は3番街にあるみたい。


ここ教会じゃねぇよ。アリなのか?これ(笑)


まぁいいや、財政とか全部分かった。

みんなが働いて寄り添って家族になってるからな。自己満足の分だけ施して行こう。


「領主家の三男アルベルトと言います、この子がお手伝いを探していたので、お手伝いできるかも?と伺いました」


「アルベルト様、実はここは正規の教会ではありませんが宜しいのですか?正規の教会は三番街にございますが、そちらでは?」


うわ、正直すぎだろ(笑)


「孤児を引き取って育てるのは同じじゃないですか、神の元だろうと無かろうと同じ事なのでこちらにお手伝い致します」


「そんな大変な事を仰ってはなりません。神様はいつも見ておられますよ」


「そうですか、それなら見ておられる神様が導かれたのですね」


「・・・感謝いたします」


驚いてるよ。わーい。神様論なら負けねぇ。


シスターに言う。


「まずは折角来たので、服ごと全員洗いましょう」


孤児は特に着たきりで汚れている。


アリエラにメイド三人で全員にクリーンを掛けるように言う。


俺は覚えたクリーンを全開で教会内部に掛けた。



「ドーン!」と教会の天井から粉が範囲攻撃で落ちて来た。


うわーーーーー!まずった!教会の中が粉まみれに!

全員粉まみれになって大変な事になっちゃった。


みんな目をパチクリして固まってる。


土下座で粉まみれの師匠に謝りまくる。黙っていた師匠も気が付いたように大笑い。


「アル!お前は本当に面白いな!俺も手伝ってやる」


「外の空き地に逃げろ!全員粉まみれになるぞ!」と師匠も言うが早いか、クリーンを教会にバンバン掛け出した。


「それー!みんな逃げろよー!(笑)」


師匠が皆を追っかけてクリーンを掛けまくる。逃げる間もなく教会の中は粉が降り注ぎ大パニックだ。


粉まみれは一緒なので俺も開き直って全開で掛けまくった。


女子供がワーワーキャーキャー逃げ惑い出口に殺到する。全員粉まみれだ。メイドも孤児もシスターも粉まみれで逃げていく。子供も最初こそ驚いたが皆が粉まみれで大笑いして逃げていく。


教会の周りの人は教会の窓やら扉からモウモウと粉が噴き出すのを見て唖然としている。


阿鼻叫喚で粉まみれの集団が空き地に逃げた。

隣りの空き地で総勢26名が粉まみれを叩いている。


今も教会から噴き出す粉に暴漢が入ったと守備隊に通報までされていた。粉でモウモウの教会へ入って見ると暴漢はアル様だった。領主の紛れもない孫である、誰も文句言えない。


10歳のアル様は凄かった。立ってる者は親でも使え。守備隊に命じてベッドや机などを隅に寄せさせ粉をまとめて追い出しまくった。守備隊も領主の孫がやってることに笑って、何も言わずに従った。報告を聞いた守備隊長が大笑いした。あの領主様の孫だけあると笑い話になった。



孤児たちは粉をまとめまくった。寝床から部屋からそこら中粉まみれである。粉を取ると新品みたいに綺麗になっていた。自分の服も粉をはたくと綺麗になっていて嬉しかった。


粉は小麦粉の様な粉ではなく、まとめようとすると自分でくっ付いて綿埃わたぼこりの様になるのだが、さすがに歴史ある建物。粉を集めるとドッチボール大の粘土の塊が多数できた。ホールで空き地に埋めて終わりだ。



「皆良く働いたな!全員に銅貨一枚(100円)だ!」と言うと子供達が大歓声を上げた。


シスターには小金貨2枚(40万円)を渡して迷惑料とした。


綺麗になった体と服で、子供たちを連れて食堂に行って交渉し食材を買い集め、見たこともない食べ物の山を子供達に持たせて帰り、教会でたらふく食わせた。食べている子に一人一人銅貨を握らせてやった。



ロスレーン家の三男はやっと動き出したのだ。




次回 75話  スキル付与

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               思預しよ

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