第73話 禁欲無双!
雨が降った。
わーい!街に行ける!
半年経ってやっと街だ、出られるまで長かったなぁ。二か月は普通に歩くだけで大変だったからしょうがない。今日の10時からお出かけとアニーに朝一で伝えた。
内面は20歳だけど、やっぱ心が弾むな。今日は演習場の筋トレが無いので走るのと筋トレだ。
そんな感じで俺は邸内を貴族にあるまじく走っている。邸内と言うか庭に面した一階に張り出す廊下60mをタッチ&ダッシュと往復している。細かな雨だから降り込んでも来ない中、体育館練習の様に走る。
屋根が二階のバルコニーになってるから雨が当たらない上に風が抜けるので心地良い練習メニューをこなす。そんなとこ5時半に走る奴居ないから、テテテテの足音に動き出した邸内の使用人がビックリして見に来る。
いつだって俺は全力さ~♪
外出を控えた朝の5時半。終わった後は、土魔法で開けて埋めてと10cm程のホールを作って繰り返す。火魔法は3mも上がれば霧散するパチンコ玉ほどのファイアボールを次から次に打ち上げる。屋敷の前の馬車ロータリーにある噴水(魔石を魔法陣に置くと水が出るが普段は出てない)に向かって、水魔法のウォーターを水鉄砲レベルでチョンチョンと出す止めるを繰り返す。
使えば使うだけ門が開くと言われたので、手持ちの魔法の熟練度を上げるのに、小さく小さく使い倒しているのだ。
それが終わると朝食まで受け流しの型稽古。
今日出るロスレーンの街に付いて考える。
領都ロスレーンは人口3万6千人、領内には15万人程居る。領都は6m程の塀に囲まれ、防御陣地の名残で四重の防壁がある。防壁が高いのは、ここが他領との防衛拠点の名残だからだ。
以下はアランお父様の講釈である。
ロスレーン領都は周りを平地に囲まれた交易路にある。街の近郊には大小30程の村(100人から200人)と流民、難民の20程の開拓村がその外側に同心円状に広がっていく。
領の交易路の始まりは領地の西、山間の湖の
ヘクトで産出する岩塩はとても貴重であり、同じくモルドで産出される銅鉱は、古より他領からの侵略を受けて小競り合いの絶えない地であった。隣国の小国を200年程前に統合したコルアーノ家の力が増し、戦乱の地は国として纏まった。権益の奪い合いは現在は無くなっている。
ヘクト・パーヌ・ミリス・ミリア・ロスト・ロスレーン・レーン・ギシレン・シレン・モルド 交易路の街の名が示す通りロスレーン領は250年程前の領主家であるロストミリス家と東にあったハプシレーン家の
ミリスを治めるのがロスレーンの分家(旧ロストミリス家)ミリス男爵である。同じ様にギシレンもまたハプシレーン家の血を引くギシレン男爵が治める街として今も残る。
両家が持っていた防衛拠点の防御壁を繋げて統合し、防衛拠点ごとロスレーンと名付け領都にした。両家の防衛拠点を統合し強固な防御壁を持つ街は、当時の豪族同士の戦乱の中で民衆に安堵を与えて栄えた。当主ラルフまで三代を数える。
合併された敵地の領民を安堵するため領主は両家の名前を取り、250年前にロスレーン大領主を名乗ったのがロスレーン家の始まりである。
帝都銀行と四菱UMJ銀行の合併みたいやな。
アランお父様の講義で思った事である。
俺は貴族とか領地とか、そういうのは
でも覚醒したら、寝たきりで歩けないし体は出来てない。そのままギルド行くなら絡まれて死ぬからしょうがなかった。
もし行くなら、魔法も武術も常識も無いままスキルをガンガン取ってから行かなくちゃなんない。使用禁止の強力魔法使ったり、トンデモ武術使ってその上に常識知らないとかお爺さまやお父様に迷惑が行くに決まってる。
俺が自分で分かってる。絶対やらかす。
何かやっちゃいました?だ。それはダメ。てか、そんな奴いねぇよ!あっちでもやってけねえよ(笑)
俺は何度もやらかしてきたんだ。その反省をこの世界で生かす。この世界の人と同じ方法で常識を知りながら石橋を叩いて上を目指すのさ。目立たず、年齢相応の強さで普通を目指さないとダメなの。
本人が凍り付く天元突破のスキルの山。恐怖の大王だ。
いや冗談じゃ無くてマジでさ。
恐怖の大王が覚醒してんだよ!
勇者に聖剣を授けて聖女が襲って来ても不思議じゃない。見ただろ?あの敵のステータスまで奪う鬼畜なスキル。そんなラノベ見たこと無いわ!もうトレンドは異世界無双じゃねぇよ。
俺の場合は異世界は異世界だけどさぁ。
禁欲無双。
あんなの取って強くなっちまったら、突然現れる裏創世の神々に加護を受けた敵が来る。大体のバトル物は主人公が強くなると、取って付けたような敵対勢力が現れるのが筋書きだ。異星人が丸いので飛んで来るぞ。
バランスで調整されるって言ってたからな、俺が秩序なら相手は混沌のとんでもない奴が生まれる。人類最大の敵になる。
その辺どうなのよ?と神々に聞きたい。
俺が混沌になってこの世界を亡ぼすと、どっかでまた世界が生まれるって大雑把な話だから、俺が秩序になったら当然混沌から滅ぼしに来るんじゃね?理論だ。
そりゃ天と地の神が言ったよ。好きに生きて混沌を巻き起こすのも良いって。
俺が病気治って、みんな泣いてくれてるんだぞ!
何軽く言っちゃってんの?何よ混沌を巻き起こせって。
巻き起こせるか!ふざけんな!
そんな
恐怖の大魔王の名を残して、次の輪廻で生まれた俺が泣いて怖がるわ!冗談じゃねぇぞ、そんな名を残してたまるか。
取り合えずこの国でほぼトップクラスの師匠と導師を抜かなければ、他の国にも同じような人が居るとしても混沌勢の強さはそこまでだ。出来たら師匠や導師の強さまで努力で上がって、ちょっと手前で強さを止めるのが理想だな。
(こざかしい秩序理論だ)
良くも悪くも小市民と言うか、注意深いというか何と言うか。解ってるよ。ハッキリ言うと肝が小さいの!
そんなこんなで朝食の後、師匠と導師を誘うと師匠だけ来てくれるとのこと。マジでいつもの演習場メンバーで向かう事になった。
実はこんな事言ってるけど、師匠が来なかったら強奪スキルをLv10で付けて行くつもりだった(笑) 他にも色々と相手を無力化させるスキルを仕込むつもりだった。
だって初めての街だぞ、イベント有ったらどうすんだよ?絡まれるぐらいなら逃げられるけど半キチみたいな冒険者に絡まれたら死んじゃうからな、石橋を叩いて渡らないとな。
取り敢えず俺には眼があるんだ!
悪人見たら泣いてリード師匠に抱き付いて離れないからな。
俺はまだ10歳なんだよ!10歳に冒険を期待しないでよ。こないだまで寝たきりだったんだよ。歩けなかったんだぞ、病み上がりなんだぞ。分かった?おかしいだろ、10歳の子が冒険者をコテンパンとか。(10歳だけど体つきは7歳の小学一年生)
まぁ、俺もちょっとは期待してるんだけど。
ラノベ好きだから・・・ふふっ。
今、型やってんだよ。笑っちまった。見られたかも。
(型やりながら百面相していたのは気が付いてない)
視たらアニーが街に出てはしゃぐ俺を想像していた。手を繋いでアル様アル様と向かう先に誘導・・・って。
リード持って犬の散歩か!やってくれるなアニー!
おまえ、逆だからな!お前がはしゃぐのを俺が見たいの!そこんとこ勘違いすんな。ぷく。
9時半に師匠をお迎えに行った。
昨日の型から始まり身体強化の技も今練習中。型で相手と接触する部位の魔力を圧縮して何倍も強化する方法。魔力回しながら受ける箇所へ手厚く
師匠は腕の周りまで魔力が出てくる。多分圧縮しすぎて毛穴から魔力が噴出するんだと思う。加湿器のミスト状の魔力のモヤが出る。なんかキレッキレの人達みたいだ。
いつも演習場に行く時間にシュミッツ(家宰)が呼びに来た。お父様が俺が初めて街に出るので喜んでお小遣いをくれた。小金貨5枚大銀貨2枚銀貨10枚入りの皮袋を渡される。
なんと日本円換算130万円である。マジか!10歳だぞ!(笑)
(小金貨20万円、大銀貨10万円、銀貨1万円)
お父様大丈夫か?いい加減にしろ!頭腐ってんのか。10歳なんて1000円だろうが!お正月なら3000円かな?
まぁいいわ、許すよ。折角くれたんだし。
さぁ!馬車でGO!というか、演習場も毎日GOだった。
雨は小雨で静かに降る。領主のいる一番最初に作られた古い街並みから濡れた石畳を3番街まで行く。2番街は貴族用の儀礼服やら宝飾品の商店が並び、上級の武具や防具は3番街の商会だそうだ。冒険者ギルドと傭兵ギルドは4番街にある。
震激の凶神の舞台みたいに壁で仕切られてるんだよ。
俺の欲しいのは冒険者系の戦闘靴(重い奴)服(出来たら空手着みたいの)武具(メリケンサック)防具(手甲、足甲)だ。折角トレーニングしてるから負荷を掛けながら邪魔にならない様な、防御の型で動き回れる装備が欲しい。
馬車が服屋に停まった。
降りてビックリ。練習着欲しいと言ったらブティックだよ。さすが貴族様がお寄りになるお店だよ。これオーダーで作るとかそういう店だよ。迂闊だった、この時代吊るしで有る訳ねぇわ。いつ出来るんだろ。
まぁ、待つのがお貴族様だよな。しょうがないな。
店に入る前からドレスの婦人がご丁寧な挨拶でお出迎えだ。武術の練習着と言ったら。服飾デザイン担当らしき人と交代した。聞いてみたら空手着みたいな服は無いとの事。
勝手に頼んで突飛な服で浮くのも嫌だ。冒険者が好んで着る服をお願いすると、見た目は同じで丈夫な服に当て布と、膝や肘、肩には表面に衝撃を和らげる強い皮を当ててくれるとの事。なんかカスタムっぽくて良い。採寸されて大きめに注文した。
採寸場所のカーテンから出ると店内で皆がお茶を楽しんでいる。さすがにこんな
お茶を飲んだら出ようと言うと、皆が奇異な顔をする。
視たらお貴族様は茶を飲みながら会話して時間を潰し、店の前に長く馬車を止めるのが寄った店への礼儀らしい。
暇人めらが!何クソなマナー作ってんだ!領主御用達か!やってられるか!と震えたが一人で店出るのも怖いので貴族ぽく店を褒め称えておいた。俺の眼も口も絶好調だ。
ウニクロで目当ての服だけ買って15分で出てくる俺にこの洗礼はキツイ。もう昼過ぎだ!練習着に1時間以上だよ!
そのまま3番街で有名と言われるレストランへ。当たり前の様に貴族部屋へ通され俺と師匠だけになっちゃった(笑)
みんなは平民だから違う席で違う物を食べるって。楽しくないだろうが!何だコレは!ふざけんじゃねぇ。
みんなでバカ言いながら食べるのが異世界だろうが。なんで師匠と差し向かいで俺はチョンって座ってるんだ。
なんかヨージ鳥(現地語ヨージ:
料理を視たら稀な鳥と出ている。直訳だな。ITじゃ無いから情報薄いのか?どうなんだ。
師匠が稀な鳥の煮込みをウマウマとバクバク食ってる。小壺(10cm程)に入った酒も2個目だ。男爵の食事とは思えない別の世界の優雅さだ。うちで食べてる優雅さが微塵も無いぞ。椅子に座って大股開く。傭兵団ではこれが普通なんだと思う。舐められたらダメだからな。
でも俺に舐められてるぞ。(笑)
次回 74話 粉まみれ
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