第58話  司る者の寵愛



テミスの持つ権能の真理の眼。

その種がスキル真実の眼として付与された。


なぜか上位3神が持つスキルの一つを手に入れた。


見ていた者テミス、司るは真理、秩序、混沌。

図らずも祈った者は明、真実を願った。

起こる筈のない邂逅かいこうを果たした。


二つの魂は繋がった。加護まで付いた。


テミスの司る真理、秩序と混沌。

これはする概念である。


テミスの正体。それは概念。


物質的な存在ではなかった。

テミスは宇宙全域、絶対不変の法則を統べる真理。

星たちの運行、爆発。秩序と混沌。

概念を司る神、それがテミスである。



少年は怖がった。その意味が良く見えていた。

力の無い物がそれを使えば身を滅ぼすことを知っていた。


何度も問われた。何度も悩んでいた。

答えの無いそれに自分で答えを見つけた。

真理を司るテミスと同じ道を歩もうとしたのだ。


お互いが繋がり、加護が付く使徒。

努力する少年を見ていた。可愛かった、愛おしかった。我が子を見守った。愛し子を応援した。それはいばらの道でも辿り着くと信じた。


そして事件は起こった。


真実の眼は、真理の眼に行きついたのである。

本来なら使えないはずのスキル。

テミスから無尽蔵に糧を受け取っていた。

たぐまれなる努力でスキルを使った。


その結果、真実の眼は真理の眼へと開眼した。


真理の眼、それは全ての真理を視通すテミスが持つ神の権能。物を見れば何故それがこの世に生まれ、今ここに存在するのかを視通す目。


絶対不変の真理を視通す目。

到底人の器の中に入りきらない真理を視通してしまう。神の居ない世界の真理を視た。それが脳を直撃した。



明は瞬間に死んだ、真理を視ながら。




単に死んだだけなら良かった。



魂のキャパを超えた権能に振り回され死んだ。暴走の末に人の器と共に魂も壊れたのだ。


壊れた事で人の輪廻を外れた魂。


それは行き場を失い虚無の狭間で漂い続ける。輪廻を待つ列に並べない魂が囚われる場所。魂として、その創造主の輪廻を外れたのである。



テミスは嘆き悲しんだ。

母が子を失い嘆き悲しむと同じように。


異世界の子を器も魂も一緒に壊してしまった。自分を信じてその道を選ぼうとした者を自分の権能で殺してしまった。例え偶然であっても、どれ程の罪悪感であろうか。


例えるならこうだろうか・・・

自分のお腹を痛めて生んだ子を愛し育てていた。目を細めて成長を喜び、良い事、悪い事と言って聞かせていた子。たまたま買い物の道を教え、買い与えた自転車と共にお使いに出したら事故に遭って召された。そんな後悔であろうか。


明を見なかった日は無いほどの子供の時からのお気に入り。成長と共に見る物が変わってもその目は一緒だった。勉強を見た。ラノベを見た。ニュースを見た。世間を見た。恩寵を見た。明の見るもの全てが求道だった。納得がいくまで考えていた。


真実の魂を開眼させた明は、種としての目覚めもしていないにも関わらず創造主の理にも求道し、ほぼ行きついていたのである。


テミスの見る目はこの点、本当に正しかったのである。


故に悲しみが深かった、失った子を思う母の様に。


自分が見なければ。権能が恩寵として付かなければ。秩序と混沌、その加護による流転ではないのか。テミスと名乗らなければ無茶な努力は無かったのではないか。真理への道などと言わなければ・・・みちびいた結果が最悪の結末を迎えたのである。


嘆き悲しむテミス。


無限の狭間を漂う行き場のない囚われた魂。


そこまで行って魂をすくい取った。

そして傷ついた明の魂を胸に泣いた。

本来その様な存在では無いのに慟哭どうこくした。



本来、繋がる事の無い異世界の子と異世界の神。

神でさえ答えの出ぬ苦悩。


ただひたすら困惑し、失った子を憐れみ、嘆き悲しんだ。創世の神階でただ一柱。子に加護を与えた神が慟哭どうこくしたのだ。


己の加護を与え、己の権能で死んだのだ。

たとえ在り得ない経緯であっても愛し子だった。




どれ程悲しんだのだろう・・・


見かねた神が決断した。


そんなに悲しむでないと、生と死と輪廻の神が言った。


これまた宇宙の概念である。宇宙の誕生、宇宙の死そして宇宙の輪廻を司る。


本来、他の創造主の壊れた魂に物申す存在ではない。


人の神とは3位階ほど下の神が司る物質界にまだ執着し囚われる高位精神体。まだ世に留まる概念、稚拙な神なのだ。


すでにその子の魂は傷ついて輪廻から外れておる。

魂を直してこちらの輪廻に入れたらどうかの?


そんな勝手な事を・・・

壊れた事を良い事にこちら側に連れてくるなど・・・


だからじゃよ、傷ついた魂を直したとしよう。

あそこには返せないぞ。繋がったのは偶然じゃ。

偶然だからあそこに存在しえた。

偶然だからお主も穢れなかった。


糧の存在しない世界であれ程の恩寵が使えたのだ、お主と繋がった事も不思議なら輪廻からも外れなかったのも不思議じゃ。


そもそもあそこでは我らは何も出来ぬではないか。


我らが魂を直せば、途端に我らの世界の輪廻に乗る。

直さねば、行く所も帰る所も無く無限の狭間で漂う。


この子の魂が綺麗な色を放つのは我も知っておる。どれほど磨いたのかよく解る。お主の権能を写した事が始まりじゃ、お主が悲しむのも分かる。お主だけでは無い。我もこの子がもう一度生を受けて磨く努力をするのが見たい。


あれだけ良い影響を与える魂を連れて来るなど・・・


解っているはずだぞ、それしかない事を。愛し子を生かしてやらんか?


違う創造主の子とはいえ、その子はお主の使徒じゃぞ。この概念を司る世界で使徒を持つとはのう。


ここはそんなしがらみなど存在できぬ場所だぞ。故に儂が力を貸す、 在り得ないその存在に免じての。


わしが魂を修復して、輪廻に乗せてやる。

もう一度、違う土地で見守ってやろうではないか。

ただ、わしは穢れてしまうかもしれんの。

お主が穢れ無かったから穢れぬかもしれん。


お主の加護が付いておる、真理、秩序と混沌。

流転するのはお前も視えておろう?

この子は流転の運命だったのじゃ。


テミスは静かに聞いていた。


天地を統べる神も言った。

二人とも聞いていた。テミスの権能で死んだ詫びなら

わしも詫びよう。


わしの加護があればこの子も生き易いであろう。

3神の加護を以って詫び、我が世界にいざなおう。


3神の元で静かに聞いていた12神がいた。

3神様、魂の修復前に真理の眼を外さなければなりません。


出来うるならばその子の積み上げた恩寵の証を我ら12神にたまわれたく思います。

強大で過分な恩寵を細かくし、生き易い様、現世に沿った恩寵を与えたく。


おぉ、おぉ、テミスのために、そなたたちも詫びてくれるのか。


厳かに魂からテミスの恩寵、真理の眼が外され欠片となった。


この時点で生と死と輪廻の神に穢れはつかなかった。理なら子の持つ恩寵に干渉した瞬間に穢れていた。


不思議じゃのう、それでは魂を修復しようかの?修復しても何も起こらなかった。儂が干渉しても何も起こらぬ。加護を与えてみよう。ふむ穢れが無いの。わしも使徒を持ってしまったぞ。この子は本来がそういう理なのかもしれんぞ。


天と地の神も加護を与えてみた。穢れなかった。


欠片の一つは真実の眼に戻され真理に至らぬよう封印された。同じ様に真実の声と真実の魂も封印された。開眼してない真実系恩寵は外された。


外されたテミスの高次権能の欠片を元に11神は己の権能の種を植えた。


1柱は困った、テミスの権能を補完する神だった。


創世の理。真理を司る権能の系統。裁きを司る概念(神)

1柱は人が使いやすい恩寵を与えられなかった。裁きの神の権能:看破の上位の権能、真実の眼が付与されていたからである。


悩んだ1柱は、魂が拠り所にしていたものに目を付けた。


裁きの神である。当然、裁く物を創造した。


欠片は聖棍、釘バットになった。


同じく欠片でステータスボードを作った。SP(スキルポイント)も作った。さすが補完する神。お堅いテミスの物とは違っていた。



それを見たテミスはとても喜んだ。

愛し子がどれほど欲しがっていたのか、思い出していた。



神にも位階がある。


創造主を頂点に3神、12神、48神、192神(192神の位階になると創世の神階ではなく所謂いわゆる世に存在する概念になり色々な神となる)


高次恩寵の欠片は、悩んだ裁きの神に武器とステータスボード、SPに変換されたぐらいでは内包する力は減らなかった。


世の全てを見通す真理の眼が如何いかにに高次か分かる。


49の欠片にし以下の48神へ、1つを192神に分け与えられた。


人の崇め奉る最高神がこの192神の1柱である。


192神はまだ何某なにがしかのこだわりを捨てきれない神である。高次の概念に至れない神。こだわりに囚われている神という概念である。



創世の神階からこぼれ落ちた恩寵の欠片1つ。

192神にはこう捉えられた。


創造神が隠れた今、最上位神達の加護。

人の理を遥かに超える、天地創造を司る概念全ての加護だった。それは創世の神々の寵愛だった。


そして加護を与えた創世の神々には一切の穢れは無かった。


創世の神々もまた全員が使徒を持ってしまったのである。神のトレンドが使になるのもむ無し。


創世の神々の恩寵の欠片を分けられた192神たちも右へならえと我も我もと加護を与えた。己のこだわり以外の人の俗世と繋がってしまった。


192神はを持つ神なのだ。


獣を司る神は、伴侶が惹きつけられる漆黒の艶やかな毛皮の恩寵を与えようとした。そんなのはまだマシだ。鳥を司る神は求愛のダンスが映える様・・・もまだマシだ。虫を司る神は伴侶が引き寄せられる様に、どのような者も持っていない美しく輝く尻の恩寵を与えようとした。藻類そうるいの神は伴侶に困らぬ様にだれもがうらやむ立派な鞭毛べんもうを与えようとした。


人を知らないのである。そもそも何かの器にまつわる執着があるだけで概念は概念だ。何かの神、192柱なのだ。人自体というか俗な事に興味が無いのでそうなってしまっていた。



192神の1柱、人の神。


人を知らぬ191柱濃い衆の恩寵交換に苦労したのは言うまい。



人の神の尽力で恩寵キメラが生まれるのは回避された。




次回 59話 神々の祝福

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                 思預しよ




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