第57話  是それは在り



テミスは見ていた。

お気に入りの明を見ていた。


そんな時にそれは起こった。

高次の意識体にすら理解し得ない事象が起こった。



-疑われたくない、疑われたらどうしよう-

 -神様、疑われませんように-



海の家で祈ったのだ。


それはだったのかもしれない。   



ただそれだけ。

意味も何も無かった。

誰でも行う神頼みだ。何の不思議もない。


祈っても何も起きない。叶わない世界。

そう、そこは在る者が自身で掴む世界。

神の存在を許さない、干渉できない世界なのだ。


ただ、テミスはその時も見ていたのである。


明の顔色が悪くなってくる。

焦って説明が途切れがちになる。



そして、それが起こった。



見ていたテミスと祈った明が繋がったのだ。

真理を司る者が理解出来なかった。繋がって驚いた。そう、創世の神々と呼ばれる高次の存在と魂が繋がった。


次元が違う異世界の神と呼ばれる存在と、この世界の明が時も次元も世界も創造主すら関係なく繋がってしまったのだ。


テミスに明に対する思い入れがあったのかも知れない。


真理の神にジャッジを求めたという意味だったのかもしれない。


たまたま視ていた神に、偶然の神頼みだったのかもしれない。


真理の眼で見ているテミスに真実を望んだからかもしれない。


明の魂の波長がテミスの波長と合ったのかもしれない。


繋がった事で明はテミスの権能を写してしまっていた。真理の眼の種、真実の眼を手に入れたのである。魂の器が小さく真理の眼は写せなかったのかもしれない。


一瞬だけでは無かった。以後、繋がったままになった。


それは魔力をかてとして使える物だった。


恩寵を使う糧が無い世界でそれは発動した。テミスと繋がっているからだ。時も次元も世界も創造主の違いも超越して繋がる。


テミスの加護まで得てしまった。


まだに囚われる神格が稀に与える物。それが加護なのだ。


そのような神格を超越している、世の全ての概念まで昇華している者が個の生き物に執着し与えるものでは無い。


ありとあらゆる執着を排し磨いたからテミスと言う高次のエネルギー体なのだ。だからつかさどっているのである。



テミスは与えていない。干渉出来ないのだ。

管理者が様に作られた世界なのだ。精霊や神格が育つような下地の魔力すら無い世界。


恩寵を与えられても使えない。意味が無い。



テミスの世界では創造主の下に3柱の司る者がいる。創造主は司る者に世界を託して居なくなった。


3柱の1柱。テミスはそれ程の存在なのだ。

その世界は高次概念の世界。創世の神階。位階最上位。創世の神階には執着を捨て去った者しか入れない。


在るモノは在るがまま、執着の無い世界。

テミスも混乱して同格の2柱に相談した。


存在や干渉が許されない糧の無い世界。

それが起こるのが意味不明で分からない。


結論はその世界の創造主の思惑おもわくであろうだった。


その世界の創造主なら変わっているので何が有ってもおかしくは無い。それが結論。そもそもどんな理なのか、どんな突発的な事故かもわからない。不思議な事なのだ。


執着しない、関わらない。在るがままを見つめて、創造主から託された世界が壊れぬようにバランスを取る者。


そんな有象無象うぞうむぞうに関わると高次の者はけがれて位階を去る。執着に囚われるなど有り得ないと知っている。


現にテミスは繋がってもけがれていないのだ。だから加護まで与えているのに穢れていない。それは囚われていない証拠なのだ。


高位の存在でさえ不思議な出来事だった。

そのようなことわりが無いのだから。


如何いかに想定外な事が起こったか分かろう。


しかも上位3神(柱)のテミスが持つ真理の眼の種と言うべき真実の眼だけではなく真理スキル系統の種を全て写していた。


下位の真実の眼もテミスの下12神(柱)は持っていない。


それを持って真実の眼を使いこなし、真実の声、真実の魂を開眼させていった。繋がったお陰で使用無制限だったのだ。


恩寵(スキル)それが使い放題。


糧(魔力)のある世界で一日5回ほどしか使えない恩寵。それを毎日12時間連続で使う様なものだった。最も24時間連続使用してもテミスは己の精神エネルギーが減った事すら気にならない程の存在だ。


そのテミスが言った事。


「声を届けようとしてだいぶ力を使ってしまいました」


どれほど明の世界が司る者を拒むかが分かる。


顕現けんげんするどころか、声を届けるのが精いっぱい。司る者をが明の世界なのだ。恩寵を動かす糧すら無いため精霊も神格も生まれない干渉不可の世界。


見ていた明と繋がって恩寵が付き、加護まで付いた。


外部からの干渉を拒まない世界もある。

創造主Aの子に、創造主Bの神が恩寵や加護を与えた場合、その子はAの世界の輪廻を外れてしまう。


創造主が違うからである。


Bの世界の神がその恩寵、加護を与えた瞬間にBの世界に輪廻する。だから異なる世界の高次の者は恩寵や加護を与えない。絶対にそんなことをしないのだ。


本来ならば明は恩寵、加護が与えられた時にその世界の理である輪廻を外れた存在となる。


しかし明の魂は輪廻も外れなかった。


テミスは穢れず。明の魂はそのまま輪廻も外れず。恩寵が使えない世界で毎日テミスの恩寵を使いまくる事実。



すごく大事な事だった。



摩訶不思議まかふしぎな事だった。


だが理の外の事として高次の者も納得した。

創造主Aの子、明に、創造主Bの子、神が介入し何も無い。


ありのままを受け入れるしかなかった。


この創世の神階で加護を与えている者はテミスだけだ。


加護を持つ者は使徒。それは神が目を掛け我が意を伝える者。まさしくのだ。執着するがゆえに使徒を持ち干渉するのだ。創世の神階の神が持てる訳がない。



     使徒を持っても穢れない。



明に何をしても繋がるテミスが穢れないのを知った。

(干渉不可の世界である、声を届けに行っただけ)



なぜテミスが明が悩む姿を見て声を届けに行ったのか。けがれぬ加護を知って、タガが外れたのである。


ありのままを受け入れたのだ。


自分の加護を持つ特別な愛し子。

すでに明を我が子に思う様になっていた。

我が子に思おうが、声を掛けても問題なし。


 使



在るがままに受け入れる高次の世界。



」それは「り」



高次の司る者達はそれを受け入れた。





次回 58話 司る者の寵愛

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