第56話  真理を司る者



明は死んだ。


有り得ない。と明を見ていた司る者は驚いた。


本来その世界は見ているだけ。

観測するだけしか出来ない者が驚いたのである。


ここではテミスと名乗った者をテミスとして話す。


テミスは異次元の創造主によって生み出された者である。生み出されたと言うのも変かも知れない。


この世に在る者、有る物、在る概念。全てが創造主により生み出されたモノであるからだ。


テミスは人が観測し得ない存在。宇宙を統べることわりから素粒子が在ることわりまで、所謂いわゆる真理を統べる程の魂。なのだから。


そのテミスと同じような存在である意思を持つ高次エネルギー体達。全員の考えを統合してすら創造主には及ばない。明が生前言っていたバクテリアから人、そしてそれより遥かな高次元の生命体の体も魂も全部。それは星や宇宙に至るまで創造主にとっての生物だった。


そんな創造主の一部で生まれたテミス。最上の位階まで至ったのは3番目。最上の位階へ至る63の魂(神々)が揃うと創造主は自らが定めた概念を63柱に託して旅立たれた。


宇宙の真理を司るエネルギー体、テミスにおいても創造主の御心は計り知れなかった。そう、司る者達が育つまで那由他なゆたの時が在った。ゆりかごを見守る時代が終わって創造主は去ったのである。


そんなテミスが自身の権能(己自身の司る能力)で覗くのは興味の有る事。その能力の一部に真理の眼がある。


宇宙全域にいて時間も空間も次元さえ越えて全ての情報を視る事が出来る眼と思えばいい。またその情報について一瞬で全てを理解出来るほどの高次の存在だった。


3番目に至った己がを司っている。それはテミスが至った時に創造主に定められた存在理由である。


テミスは司る存在として在ることを誇りにしていた。


その世界に在る者達を視ていた。

テミスの好きなのは求道者や秩序、混沌にまつわる者たち。


・叡智を極めた龍族の賢者が求道に捧げる生きざま。


暴虐ぼうぎゃくの限りを尽くす邪悪なる者と邪神を阻む秩序の護り手の勇者とその世の神。


・繁栄する種族の街を襲う火山や邪龍など混沌を生む事象。


己の司る存在意義について求道するモノを好んだ。


テミスの存在からすればたちが色々な場所で、真理について、秩序について、混沌について求道する姿勢。そういうモノを視ていた。そういう者を応援した。


そんな中に引っ掛かったモノがあった。


創造主のいない世界。

正しくは創造主のいなくなった世界。

テミス達の世界と同じ様に創造主が生み出したにも関わらず、管理する者、司る者(神)のいない世界。


その世界の創造主は変わっていた。


自身で生み出した全てのモノにつかさどる者(神)を作らなかった。作らなかったどころかモノに宿る精霊やモノが変わり果てて神格となるのを許さない世界だった。そういう者が管理する事を許さない世界だった。


司る者はバランスを管理する者である。


管理する者がいない世界。テミスがその世界に入るのさえ拒まれるほどの障壁を伴う世界。世界だった。


違う次元でもことわりことわりである。そんな物が無ければ他の次元でも司る者たちであれば易々やすやすと入りこめる。


その世界の創造主はバランス管理の無い世界を作り、自身が生み出した存在、全てに任せたのである。


どういうことなのか。


テミス達の世界は無くならない。

テミス達が司る概念のバランスを取るからである。正のエネルギーが強くなれば負のエネルギーも強くなる。死す太陽によって死す太陽系があれば、生まれる太陽による生まれる太陽系もあるのだ。


管理されない世界。

当然理がある。真理もある、概念もテミス達の世界と同じようにある。創造主に生み出された事も一緒だ。


管理されないと言う事は、生み出されたモノに全てを託しているのだ。世界が無くなる可能性まであった。破壊が大きく、止める力が無ければ際限なく無限に続く。やがてその全ても無に帰す。虫の世界でも人の世界でも地表の世界でも星の世界でも宇宙の世界でも無に帰す。無くなるのだ。


その世界の創造主は自身を使って生み出したモノを完全に切り離していた。数ある創造主たちが残したそれぞれの宇宙はあれど、を作っていたのだ。


創造主は自身の生み出したモノを在るがままにしていた。当然、のも在るがままである。


当然高次のエネルギー達は創造主のやることの意味すら分からない。創造主の意思か夢か。それによって生み出されたモノはその真意などわからない。だからテミス達にとってもそういう世界が在るだけのモノとなる。


そんな司る者(神)のいない世界でもテミスは視ていた。


外部の干渉は受け付けない世界であっても権能(真理の眼)があれば苦も無く覗けたのである。


そんな中に引っ掛かったモノがあった。

数多あまたのウインドウから特に注視するブックマークがあった。


それはおじいちゃんやおばあちゃんが生まれたての赤ん坊の手を見て、「この子はどんな人生を掴むかな?」とその愛しい手、小さなモミジの様な手を恐る恐る触るのに似ていた。


そう、明を見つけたのだ。

明をお気に入りで視ていたのだ。

やっと種としての自我が目覚めた人種ひとしゅ。その人という種の小さな子供。


魂の存在理由には気付いてもいない人類の子供の中に求道者がいたのだ。テミスが視る明。それは生前明が考えた、人の魂とバクテリアの魂程も違った存在だったかもしれない。


人が考えたらそう考えるだろう。


テミスは真理を司る、そのものと言っても良い存在。どの様に小さくても創造主の一部。どんなに大きくても、例え太陽であっても創造主の一部。生きるものとして同義である。


バクテリアの魂も、生み出した創造主まで繋がっているのだ。無碍むげにする訳が無い。


明が興味のあるモノを見るが好きになった。野球という人族の遊びを明は小さな手で追求していた。


己の権能、真理に遥か遠く道のりはあっても求道は同じである。人類には当然他にも求道者はいた。それは学問として仕事としての求道だった。明はそれを己の体を使って見ようとする求道者の最小個体であった。


お気に入りとして自身の権能である真理の眼で見ていた。


明が一つずつ求道していく、その小さな手を伸ばして一生懸命。そう、一生懸命に理解していく姿を応援した。


ずっと見ていた、よちよち歩きの人類に生を受けた子。ずっと応援していた、己の道へと登って来る子を。真理への険しい道をって登ろうとする子を。


テミスはとても気に入っていた。


とても気に入っていたのだ。


類稀たぐいまれなる勇者が剣で竜に立ち向かう秩序の求道者。そんな者も居る。


球を捕る。球を投げる。球を打つ。それを追う求道者。とても小さな手のその子が追う。


目で技術の違いをつかもうと藻掻もがく姿。目で本質を掴もうと足掻あがく姿。



のテミスに響いたのかもしれない。





次回 57話 是それは在り

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