第54話  受験


8月29日日曜日


夏の終わりに、全国共通模試が始まった。

記述式も入った模試だ。手ごたえは十分あった。


みんなも手ごたえ十分だったらしい。

やり切った後の喪失感みたいな物まで視えた。ここで喪失してどうすんだよ!あと半年持ってなきゃダメだよ(笑)


9月。

皆とは9月の頭に遊園地に行って以来スマホのやり取りだ。

土日に一人、二人は誰かが図書館に来る。学校では瀬尾、守田、宮崎とすれ違う時にハイタッチするぐらいだ。


10月初めに結果が出た。偏差値75。


クリアした。帝大文科一類 偏差値73をギリギリクリアした。最高学府の法学部。尻尾をやっと掴んだ気がした。


結果が出て、嬉しい知らせがあった。

瀬尾が俺を特待に推してくれていたのだ。夏以来予備校には行っていないが、予備校に呼び出しを受けて説明を聞いた。


この10月から特待扱いしてくれるとの事。

予備校に籍を置いて自由に特待コースのコマを受講出来ると聞いた。次に来るときに契約書があるから印鑑持参だって。


契約予備校生。なんかプロの予備校生みたいで複雑。


もう一つ嬉しいことがあった。


俺と瀬尾が帝大の文科一類と理科三類の合格率が高くなったことで、二人が受かった場合には屋上で撮ったジャンプ写真を来年のポスターに使いたいと言ってきたのだ。


予備校の屋上で撮った写真。


お盆過ぎに瀬尾から「お前を特待に推しておいたから、模試で結果を出せ」と言われていたが、同時期に特待クラスの専任講師が俺達のジャンプ写真を見ていたのだ。


その先生は空き時間に見回りで自習室を訪れた。たまたま自習室に居合わせた橋本さんの質問に答えるときにスマホの待ち受けを見せてもらったのだ。


これ先生のクラスの瀬尾君ですよ。と見せてもらったのがそれだった。予備校生がそんなグループで遊んでいるのを初めて見たらしい。普通そんなで遊んでる奴いないからな(笑)


この予備校の屋上でジャンプする各講習コースの生徒たち。橋本さんはそれを励みにしていたらしい。瀬尾と一緒に飛んでいるのが神谷だった。


・・・・


案内された応接室でそのままポスターの話を聞く。


橋本さんに写真の件を聞いたら俺がリーダーだからと言われていたらしい。俺がOKなら他の生徒にも打診するとの事。謝礼も10人に出すという事だ。


二人が受かったらジャンプ写真をポスターに使わせてほしい話を視た。


皆の成績が模試で上がり志望大学に受かりそうって!全員予備校の受講生で進路を大々的に入れる。凄い宣伝効果があるみたい。降って湧いた話なので、事務長さんの謝礼の見積もりの2/3位で話をすれば快諾を貰えそう。


特待扱いにしてもらった直後の謝礼で現金の要求ってエグイしな。学生らしい要求の方がいいな・・・。


大学に受かったら10人で遊園地テーマパークに行きたいので遊園地代出ます?と言ったら、それぐらいならと快諾してくれた。


担当さんイメージで「明日にジャンプ」いいんじゃね!


「〇4年度受講生募集中 響英予備校」

「〇3年度受講生 帝大文科一類合格」名前出ないのね。

「〇3年度受講生 帝大理科三類合格」いいねいいね。


そうなるといいなぁ。担当さん!ありがとう。そんなイメージしてくれるだけでとても嬉しかった。


テーマパークの全エリア共通パスとか一番高い券行くぞ!(笑) 二人が帝大に受かった後に欲しい券を言えば予備校の事務長が用意してくれるらしい。


グループにジャンプ写真の話と各人に話が行くと流すと皆が大喜びしてくれた。冬季集中講座に皆も来るらしい。


その日だけは、受かったらポスターのモデル代で何処どこのテーマパーク行く?とか色々盛り上がった。


「全エリアフリー券の一番高い奴10人分強請ねだろうぜ!」


どうしても俺と瀬尾が受からなきゃな。瀬尾は大丈夫だ。


だから俺だけ頑張らないと・・・



10月末(土日)


富田と増田が内田と一緒に文化祭を回らないかとお誘いを頂いた。張り出される成績が絶対王者のなのも災いして気を使って大きなイベントまでするのを待っていたらしい。


「気を使わせて悪いなぁ」と一緒に回って来た。


最初こそ俺の顔を見て嬉しそうな顔をした内田だったが何を話して良いか分からず、俺の左斜め後を付かず離れず付いて来るだけだった。


折角、何話そうかとか色々考えて来てたのに、何も出来て無い内田が可哀想になって左手を出したら嬉しそうにつかまって来た。三保さんとのビキニで手繋ぐ経験がここにきて発揮された(笑)


「関谷から聞いたんだけど付き合ってるらしいな?」


と言ったら2人に絶句されてこっちが恥ずかしくなった。


「ごめんごめん、よかったな」

「はい」

「まぁ、仲が良さそうで結構だな(笑)」

「はい、ありがとうございました」

「いえいえ、どういたしまして」


俺の志望を聞いてビックリしていた。


富田はやっぱ建築方面志望なんだと。辰雄さんの会社勿体ないしなぁ、儲かってるなら妥当だよな。聞いてみると建築系も色々あるらしい、デザインから構造学。より高度な建築工法の研究だとか、生コンクリートの研究の話とか余りに多様でビックリした。


やっぱ、親父がそっち系だと情報も凄いな。


増田は富田と同じ大学の英文科だと。リア充め。増田は父が歯科医で母が出版社の女性誌担当キャリアウーマンだ。母を見て出版関係の日本語訳か英訳関係に食い込みたいらしい。


内田は女子大らしい。自信が無いから言えないんだって(笑)


「俺は11月中旬から受験に向けて勉強したけどお前等ならもうやってるよな?予備校は必須だからな。この冬から行けば充分間に合うぞ」


文化祭の話題は出店の軽食を食べながらも受験の話だった。


・・・・


女子高生の握ったおにぎりは大好評だった。それ目当てで男子が殺到した。ごはんを炊くのが間に合わない程だった。出店ではなく喫茶店だったが・・・。


看板に3-6 不揃いなおにぎりと大々的に書いて隅にちょこっと喫茶店と書いたのは俺の担当だ。吹き込まれた(男子が結束して女子が握ったおにぎりが食べたい!と喫茶店案とバーターで無理矢理メニューに入れた)男子が大声で看板持って学校を練り歩く。


2個300円沢庵付き(コンビニより高ぇ!)が飛ぶように売れる。おにぎりで釣って飲み物も注文させる見事なスパイラルを描いてお客は高回転で巻き込まれていた。


余りにもお茶とおにぎりのお客が多すぎて、知らずに入った喫茶店のお客まで周りに釣られて破壊力。


女子の思い描いたオシャレな喫茶店から大衆食堂になっていた。


紅茶・珈琲100円とパンケーキ500円の何十倍も売れるお茶100円とおにぎり300円のお陰だ。(笑)


日曜日には前日の倍の女子がせっせとおにぎりを握った。


よく売れるので翌日提案し了承された。女子も土曜日でおにぎりが当たりと納得していた。握っている姿をビニール越しに見せたら爆発した。女子高生がキャッキャウフフとおにぎりを握ってるのだ。見るだけで幸せだ。そして幸せな店がパンクした。

慌てて廊下で陳列販売まで始めた。

俺のせいじゃない、殺到する奴らのせいだ。



2学期の期末試験


うちの学校は上位50人が張り出される。


絶対王者と順位が並んだ。瀬尾の尻尾をつかんだ。もう、この尻尾を離してなるものか!(笑)


瀬尾が上で1位。 俺が下で1位。 次が3位だった。これは1.5位だなと笑いあった。


瀬尾が1位なのは名簿順じゃない。

(※クラス順)とわざわざ書いてあった(笑)


俺6組だから1組の瀬尾の下だったんだよ!

瀬尾の上に名前が有れば記念に写メ取ったのに!同窓会で瀬尾に一生見せてやるのに!(笑)


今までそんなルール知らねぇよ。取り決めがあるのな。同じ組の場合は出席番号順なんだろうさ。ホントにマジ先生の防御力だけはハンパないぜ!恨めしい。


俺の担任の先生が鼻高々だった。(スキルのお陰です)校内ではニュースになったが当人達には関係ない。俺も瀬尾も見ている先が違うのだ。


お正月の初もうでは予備校のグループと一緒に行った。


女子がコート着てマフラー巻いて息が白いのって破壊力抜群。今まで見たこと無いから知らなかったけどそれだけでメチャ可愛い。


担当制は変わっていない(笑)

それぞれの男子から女子が離れない。これそのままカップルになるんじゃないのか?三保さんと並んでガラガラ鈴を鳴らして拝む。


うちはいつも一人145円投げてくる。

始終ご縁しじゅうごえんがあるのは良いけれど、ご縁じゃ神主さんも食えないから100円余計に出すそうだ。宗彦さんの無宗教的ハイブリッドな思想(宗教+職業)に基づいた庶民的な適正価格で俺も納得している。


うちは無宗教ではないが家に神棚さえない。

大事な時に普通拝むじゃん。うちにおがむものが無い。テレビで見るマグロ漁師さんの神棚が凄かったのにうちはどうなんだ。同じ船乗りとは思えない。


宗彦さんに聞いたら「屋根裏の柱に家の神様がいるから大丈夫だ!」そんな感じだ。あの人将来じいちゃん家の仏壇どうするつもりだろう。坊さんとか呼びそうに見えないんだけど。


しょうがないから受験の日は屋根裏の神様に拝もう。


俺が無宗教なのはその空気のせいだ。魂見えてるのに無宗教ってばちが当たりそうだ。鰯の頭で良いから拝みたい。


自慢じゃないがうちの宗派?何々宗とかも知らないぞ。そういうのは多分、全国規模で高校生は知らないはずだ。あれ?でもウエディングドレス着て教会で神父さんの前で誓うよな?


まぁいいわ、そんなもん考察してる場合じゃない。



冬休みから受験まで、空き時間は予備校で過ごした。


この時期の3年生は名目上だけで、ほぼ自由登校だ。受験対策の授業や補習は放課後まである。それは生徒の学力の平均値を見据えた授業。


予備校の受験極振りレベルには到底かなわないのだ。俺が通う予備校でも受けた講義が増えてきて、空いた時間は自習室だ。俺が自習室に居るので、グループの皆が授業のコマの合間に会いに来てくれる。


特待クラスは少数精鋭だが「この問題やったことある?」と自身が苦しんだ問題を教えてくれるのはありがたかった。


お互いを見て、気合いを入れて駆け抜けるラストスパート。



そして受験。




次回 55話 絶対不変の法則

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