第53話 納涼花火大会
8月15日(土曜日)納涼花火当日。
朝から図書館に行くと賢介と宮崎さんが居た。
「おぅ!今日もやるか」
二人に教えるのも復習になりこれも良い。
「新交通笠山駅18時26分に乗ります。鷹宮駅44分着。各自最寄りの駅から宜しく」
お昼のファミレスでグループLOINに入れておく。
宮崎さんが国語が不安とのことなので花火まで不安なところを付き合う事にする。共通科目は理系も文系も一緒の土俵で戦うからみんな弱点克服に余念がない。
俺も余裕などないので共通科目、文系科目で暗記的なものはすべてスキルに頼っている。2教科選んで受験という科目は記憶重視の科目で勝負だ。
この神様寄りのスキルを活かせるのは検事とは思うが帝大の法学部は狭き門だ。理系の医学部も人の役に立てて良い。だがスキルで声を得た今なら検事程も絶大な効果は無いように思える。
冤罪の人を罪人にすることは絶対なくす自信がある。逆に無罪を訴える厚顔な犯人には目にモノ見せてやる。犯罪をやって黙秘の奴は、状況証拠と共に裁判長の前で自白させ罪を償わせるのだ。多分、その為にこのスキルはある。
裁判長になってどのような償いをさせるとかはスキルは関係ない。人が人を裁くのにも忌避感があるのでパスだ。弁護士だと真犯人だったら弁護どころか自白させそうで怖い。金をもらって自白させる。鬼すぎる弁護士だ(笑)
宮崎さんが花火の用意で16時に帰ったので、俺たちも上がるか?と図書館を出る。
最近のワックの食事も皆が一緒で喋れなかったが、やっと二人になれたので賢介に訊いた。
「箕輪さんとどうよ?」
「明!ホントありがとう!」
晴れ晴れとした声で言った。
「志望校は聞けた?」
「聞けた聞けた、八つ橋の英文科」
「結構上の方?」
「難関だな」
「お前は?」
「とりあえず近くの国立大狙う(笑)」
「お前は凄いな。最初の大学と場所が全然違う(笑)」
「まぁ難関なら、しょうがないよな」
「だって工学部無いから」
「無いのかよ!だからか!」
「文系ばっかの大学だった(笑)」
「しょうがねぇな(笑)」
「しょうがねぇよ(笑) まぁ頑張ってみるわ」
「おぅ、ここまでしか俺も出来ねぇしな」
「充分だ!感謝してる」
「おぅ、また花火でな」
駅のホームで分かれた。
賢介の言葉を聞いて安心した。女子でも何でもやる気になって目の前の事が出来るなら問題ない。
のぼせ上がって二人の人生を狂わせると怖かっただけだ。宮崎さんと瀬尾の事も気になったが触れられない。今日の様子を見てたら真剣に勉強してたので大丈夫だろう。
出来たら瀬尾と仲良くなってたらいいなぁ。俺が勝手に動いた手前、結構気になる。
三保さんは杜の都の薬学部だ。母に聞くと「製薬会社は儲かるわよ」と薬学部ではない情報をくれた。
話の流れで製薬会社の人が沢山くれたという宣伝用のクリップや磁石、ボールペン、メモ帳とか出して来た。粗品を貰ったら
話の流れを自分が得意な土俵に持っていく。宗彦さんの話を無理やり看護師の理論に当て
口八丁の尻を触る爺さんや
家に帰ってシャワーを浴びて一服して着替える。高層ビルだから涼しかったら嬉しいな。
雫は友達が家に迎えに来るそうだ。ベルトバックを背中に回してチャリで新交通に向かう。ハードな整髪料でカチカチにしたから頭がヘルメットみたいだ(笑) 風対策もばっちり。
新交通の笠山駅に着いたら三保さんと宮崎さんが一緒に居る。
三保さんが紺に金魚の浴衣。宮崎さんが薄い青にたくさんの朝顔の浴衣。夏祭り定番だ!浴衣だ!近くで見るだけでイベントに参加してる感が凄い。
帯に刺した団扇が竹で出来ている。小物まで揃えるのね、女子ってすごい。
二人とも似合ってる!花火大会最高のオシャレだ。同じ笠山駅だった?と聞くと、着替えの紙袋をコインロッカーに入れながら教えてくれた。レンタル着物店の最寄りが笠山駅だそう。女子ってお金かかるよなぁ。
鷹宮駅に着くまでガラガラだから冷房効いて快適、全員集合。女子もみんな浴衣だ。駅に着いて、俺と瀬尾がスマホのGPS見ながら唖然とする。
見えてるからGPS要らない(笑)
高い!近くで上を見上げると目の遠近感がおかしくなる。海に向かって弓型になってるオーシャンビュー型。
19時前に受付に着いて名前を言うと一人一人に手提げを貰う。そして説明を受ける。ダイヤモンドパレス鷹宮のパンフレット、関係会社一覧、花火のプログラム、各食券(バーベキュー引換券、焼きそば引換券、おにぎりorパエリア引換券、お楽しみくじ券)全部あるのを確認してエレベーターで最上階へ。
最上階では赤いリボンで屋上まで誘導される。
屋上の二重フェンスの内側には提灯が飾られていた。屋上設備を背に屋台村が出来ている。まだ招待客は10人程だ。主催者を探すと居た。富田辰雄さんと真由子さん、仲間10人を連れて行く。
「お父さん!」と呼ぶと周りがバッ!と俺を見た、違う違う。集金と間違えられてる。辰雄さんも俺を神谷先輩と呼んで周りをビックリさせる。「神谷君は息子の先輩でな、息子と一緒に神谷先輩と呼んでるんだ」と笑いながら説明してくれる。
「この10人でお邪魔させていただきました。今日はお招きありがとうございます。」
「神谷先輩の友達なら大歓迎だ!今日は楽しんでいってくれよ!」
皆がめいめいに挨拶をする間に会場を確認。真ん中に大きなブルーシートが張ってある。靴はお脱ぎくださいの立て札もある。動線とごみ箱の位置も分かる。設営に慣れてる。
「ちょっと荷物置いてきます」と皆とブルーシートへ向かい、「ちょっとお父さんと話をして来るから屋台から適当に貰って来て先に食べて」と富田両親の所へ行く。
真由子さんにも挨拶して。「凄いマンションですね」と言うと「こんなの建てるとは思わなかった」そうだ。
社長だよなぁ、社長だもんなそのまま横を向いて「社長とお呼びした方が宜しいですか?」と聞いた。
「好きなように呼んでくれ、お父さんも、富田さんも、辰雄さんも、社長も俺だ」と笑った。
どうやら社長は地元のゼネコンで(県内が主)こんな高いのは今まで作った事なかったらしい。
作り慣れている大手ゼネコンが受けて地元のゼネコンと共同で作るそうなのだが、作った後の施設管理などは地元のゼネコンが以後管理するため政治的な判断で社長の会社が仕切って作ったらしい。(視えてるけど怖すぎて言えない)
なんか他にも企業共同体(JV)を数社で作って高速道路や湾岸の連絡橋とかも受注しているらしい。
このような地元のランドマーク的な建築には出資者や自治体などの長を招いて完成式典が行われるため設営に慣れた社員も居るとのこと。当然このマンションも完成式典があるそうだ。
花火観賞会は「たまたま主管がうちだったから屋上開けた」と悪戯っぽく笑ってた。
「コツコツやってたらこんなの作れるようになったぜ」
とポツリと言った。
それを言うため、花火観賞会を提案してくれたことに感謝した。
カッコよかった!富田の親方カッコよかった!でも、
でも、それ言うのに幾ら使ってんだよ。社員の残業代とか屋台とか、これ全部経費だろ(笑)
あ!そうか一挙両得だ。関係会社の偉い人も家族にドヤ顔できるもんな。嘘じゃないし。招待された家族のお父さんが作ったのは本当だからだ。
これは良い会だ!
一緒に作ったお父さん達だってご褒美上げなくちゃ。
ブル―シートに戻ったら、みんなが色々食べている。三保さんがおにぎりと緑茶を渡してくれる。
「バーベキューと焼きそばは出来立て貰いましょ」と俺を待っていてくれた模様。バーベキューを見ると30cm位の串に野菜と肉。焼きあがると一人2本、串から抜いて紙皿にくれる方式。
「凄い、こんな豪華な花火初めて」
皆が寄って来て喜んでくれる。
「俺も初めてだ。電話くれたからな」
と来客のお出迎えしている真由子さんを教える。
19時15分。段々夜景が浮かび上がって盛り上がっていく。
賢介と箕輪さんも柵に寄って色々指さしてる。秋本は波多野と一緒にペアで写真を撮りあっこしてる。
瀬尾は宮崎さんと仲良くグルメしてる。俺はバーベキューが焼けるのを並んで待っている。
ブルーシートに戻ると、三保さんが烏龍茶の缶と2パック目のパエリアを持ってきていた。
さすが!俺と半分こして色々食べたい訳ね。自分のおにぎりくれたと思ってた(笑)
秋本作戦では、花火のプログラムを開いて解説が入る。この大玉とこの大玉の間と念を押される。花火バックで女子のシャッターチャンスらしい。
着物を着てくれた女子へのプレゼントになるらしい。さす秋!気遣いが細やか過ぎて、運動部には絶対無理だそういうの。
瀬尾作戦では、星や木星の形に多数上がる花火から大玉の間で集合写真を撮るらしい。
焼きそばの出来立てを持って帰る最中に花火が始まった。南の空に花が咲いて、続いてドーン、ドーンと空気が震える。
パパンパパン、パリパリパリパリィー。軽い音の花火が爆ぜて滝のように
元々見てるところが高いからそんな見上げない!
三保さん綺麗だなぁ。と見ていたら不意に目が合った。
やばい、写真撮ってないや。
花火が終わってからお楽しみ抽選会があった。
屋台の一角に三角くじがあって、夜店を思わせるために
花火、玩具、遊具、ギフトセット等が台にこれでもかと並んでいる。子供用電動自動車や一輪車が当たったら乗って帰ってもらうと言っている。
橋本さんが大きな花火セットが当たり、子供に上げていた。子供が当たった石鹸セットを交換してた。
波多野は電動工具セット。工学部向きだから、受からなきゃな。
瀬尾は大きなパラレールの新幹線セットが当たり大ウケ。小さな子に上げたら親から珈琲セットをもらっていた。
宮崎さんはなんと20kgのお米券。実物だったら嫌がらせだ(笑)
服部さんは切子細工のグラスセット、綺麗なカットだった。
秋本はブランド物の包丁セットだった。服部さんに上げて冷やかされていた。
賢介はデジタルのダーツが当たった。部屋に飾るそうだ。箕輪さんが有名なブランドの花柄のティーセット。
賢介が箱が大きいダーツと大きく重いティーセットで悲鳴。結局箕輪さんが最寄り駅まで軽いほうのダーツを持ってた。
三保さんはオシャレな缶の紅茶とティープレスのセットだった。
俺は、有名温泉入浴剤の詰め合わせセットだった。
景品と言うよりお中元を貰った気分だ。
富田社長と真由子さんに皆でお礼を言って帰った。
エレベーターに乗った時に中の人が下げてるものを見て乗ってる人が大笑いだった。キャンプのテント持ってる人。味噌の樽や漬物の樽を下げてる人。一輪車持ってる人、大きなオール付きのゴムボート持ってる人。家族4人で来てる人は1人笑える景品を持ってる感じ(笑)
みんな一緒にいると変な物持ってる不思議な集団だよねぇ、これネタだよねぇ?とゼネコン社員のジョークをエレベーターで皆が共有して笑っていた。家族で来てるから良い思い出になるんだろうと笑った。
その夜、寝るまでテロンテロンとスマホが鳴っていた。
次回 54話 受験
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