第34話 神様のご褒美
8月4日火曜日午後
午前中の夏期講習を終えて電車に乗るとショートメール。
見ると関谷さんだった。あ!夏の写真か。
ショートメールで返信し、駅に着いたら電話した。
「関谷さん、久しぶり元気だった?」
「神谷先輩!久しぶりです」
「夏服の証拠写真の提出かな?」
「なんですか、その言い方は!」
「わかったわかった。佳代ちゃんの可愛い写真ね」
「そうですよ、そのために遊びに行ったんです」
「いいなぁ!プールとか行った?」
「遊園地へみんなと行ってきましたよー」
「夏休みに遊園地!いいねぇ」
「楽しかったですよ!」
「それで写真はもう整理出来てるの?」
「出来てますよー!」
「まだ一年の時のみんなと遊んでる?」
「はい!なかなか集まれないですけど」
「そっかー、クラスも違うしな」
「あ!でも富田君と増田さんが付き合い始めました」
「へぇー、そうなんだ。良かったじゃん」
「ラブラブで余計暑いです」
「うへ、それで写真どうする?」
「待ち合わせ出来たら渡しますけど」
「一回家に帰ってテキスト置きたいから十四時頃でいい?」
「いいですよ」
「こないだの(異様に安い)ファミレスでいいかな?」
「あの・・・佳代ちゃん連れて行ってもいいです?」
「ふぇ!・・・」
「・・・」
「・・・」
「・・・あの、ダメです?」
「・・・まぁ、いいよ」
「はい!佳代ちゃん誘ってみます!」
「佳代ちゃん誘うのでちょっと遅れるかもです」
「そんじゃ十五時にしよう」
「わかりました十五時に行きますね」
神谷は知らない、佳代ちゃんが家でスタンバっていることを。
大司教の陰謀。夏の追い込み漁が幕を開ける。
・・・・
うだる暑さの汗をシャワーで落とし麦茶を出す。
とりあえず時間は1時間稼いだ。
「どうすりゃいいんだ!」頭を抱えて思わず叫ぶ!
前回の大司教との壮絶な戦いが頭を
まさか了解してから
絶対、後出しで来やがった。巧妙な罠に
またもや釣られるとは・・・下手すると内田の前で何も言えずにがぶり寄りだぞ。
そもそもだ。どんな顔して内田の写真受け取りゃいいんだよ。
春の受け渡しが脳裏に蘇る。
「これはどうです?」
「おー春色でいいじゃん!(笑)」
「これは私の一押し!(笑)」
「いいねいいね!優しそうな雰囲気!(笑)」
23枚も佳代ちゃんの写真を受け取った神谷。
あんなの無いわ。あのノリは絶対に無いわ。本人の前でニヤニヤ写真受け取って変態認定だ。
内田もそんな所に誘われるなよ?
関谷マジ怖い。会わせる事しか眼中にない。
対する俺はアウトオブ眼中である。
・逃走する。
逃げてどうすんだよ!
・架空の誰か死ぬ。
この1時間に急に死ぬとか、小学生の嘘か!(笑)
そもそも何が起きても大司教は追っかけてくるんだって!
・待ち合わせ場所を間違えるってどうだ?
あ!俺が指定して、どう聞き間違えるんだ。
だから嘘はダメなんだ!次々と嘘が生まれまくる。俺が嘘まみれになってどうすんだ!真理の神が見てるのに。
何言っても内田が来るから逃げたと思われるな。
イヤ!思われない。断定される。
ダメじゃん!内田のファンと言いまくってるわ。ファンがアイドルから逃げまくるって新しいな。普通は喜びに満ち
逃げるのは無理だ!
関谷が写真推ししてくるのは目に見えてるし。どんなコメントすれば本人の前で写真を受け取れるんだ・・・
・シャイを装い、写真持ってさっさと帰る。
出来ない。人としてそれは無い。
・事務的に写真を確認して、領収書のチェックで時間稼ぐ。
俺に逢いに来た内田を見ずにそれはない。orz
あ!ファンだから・・・
・真っ赤になって下を向いて内田を見ない。
キャラ違い過ぎだろ!富田一派を〆た神谷組の神谷だぞ。
気合い入れろ!俺! 良く視てみろ。
シナリオミッション
「大司教の陰謀」
難易度★★★★★
クリア報酬:教祖と幸せになる。
勝ってもダメなのか!
違う!あいつは元々一択だ!一択しかない!
関谷と
え?彼女出来てもいいんじゃね?嬉しいじゃん!
可愛い内田なのに・・・しばし思考停止。
あ!ダメダメダメ。俺には三保。じゃなくって受験生だった。
後半年でがぶり寄られてたまるか!
スキルを生かす神聖な受験だぞ!
しかし、どうやって・・・
内田もアレだ、危険な時に好きになっちゃう症候群?そんなだろうなぁ?あの時の俺って危険すぎる男を演じたからなぁ。一派を〆たから危険なチョイ悪、いいなって感じ?
(お前、お守り貰ったくせに内田を軽く考え過ぎている)
それは今いいわ。とにかくどうやって
十五時が刻々と迫っていた。
てんてんててん、てけてんてん。てんてけてんてんっ、てけてけてんてん!ててんてんてん、てけてんてん!そんな寄席太鼓が脳内に響く十五時十分前。
チャリで(異様に安い)ファミレス到着。
場内でマス席を探してもまだ来てないようだ。
縁起を担いで前回撤退できた
ドリンクバーを注文。
内田の事は考えるのやめた。来たら来たで視て決める。なる様になれ。関谷との取組次第で彼女も受け入れる。(勝とうが負けようが一択しかねぇんだよ!)
メロンソーダを
二杯目をいれて席に着くとカランコロンとドアが開く。
関谷と内田が来た・・・。
メチャクチャ可愛くなっている内田を見て固まった。
マジで?もはや別人のように大人に化けている。
今の俺は全てを視て瞬時に処理出来る。
視る。いくら皆が勝負服を着せたってこうはならない。日頃から化粧を勉強して爪先から髪の先まで磨き上げてないとこうはならない。足元から髪の先まで視えた。
今のお前はそうなのか。ネイルもみんなで楽しく塗ったのか。俺が喜ぶように靴と服は合わせて清楚にな。うん、内田似合ってるぞ。ホント似合ってる。ヘアマニュキアのお店も一緒に行ったのか。まつ毛もか。図書館でみんなと夏の課題もしたんだな。
男子の視線も感じて嬉しいんだな。自分を見てもらいたくて俺の教室の近くを通るんだな。いつも俺に会えるように願ってくれてるんだな。本当にありがとう、気にしなくていいのに。そんなに俺を見て嬉しい顔するなよ・・・。
今の生活がどれほど有意義で輝き充実するのが視えた。その内面が姿にまで出てきていると思った。
悩んで
すべての影が、傷が消えていた。
窓から
あの昇降口に
俺は知らぬ間に泣いてしまっていた。不覚にも大粒の涙がとめどなく流れ、大泣きしてしまったのだ。泣いたというのは語弊がある。感極まって涙が止まらなくなったのだ。
お互いに視線を交わして二、三秒。視線を合わせて立ち止まった内田も歩き出した。そして関谷も。
テーブルに向かってくる二人も俺の大泣きを見ながら涙を流していた。
三人で静かに大泣きする姿は滑稽だったかもしれないが不思議と周りはまったく気にならなかった。自分を抑えることが出来なかった。
俺はやった!俺はやったんだ!
心の底からの歓喜に涙が止まらなかった。
誰に褒めてもらおうとは思ってない。感謝してもらおうなんて思ってない。報酬なんてどうでもいい。神様から授かったスキルを使ってるんだ。そんなモノは望んでない。
望んでない。
だけど・・・だけど・・・自分の成果がそこにあった。
そこに
光り輝く内田は確かな成果の具現化だった。
神様がご褒美をくれた。
神様に感謝した。俺は涙が止まらなかった。
俺は大泣きしながら呪文の様に「よかったな、よかったな」と内田の頭を撫でていた。
内田も「先輩、先輩」と震えて声にならなかった。
口先の言葉は、俺たちに必要なかった。
あの恐ろしい体験を共有。
何も言わなくても内田と分かり合えてるのが解った。
それは感受性が強ければ誰でも体験できるのかもしれない。
俺はスキルのお陰で体験した。内田を見つけることが出来た。
関谷が泣きながらドヤ顔するのでウザかった。
関谷もありがとな。勘違いしてるけどな。
富田一派に激震が走った。
「内田が神谷先輩を大泣きさせた」
ちがう!そうじゃねぇ!
そうなんだけど、ちがう!
写真? 聞くなよ。もらったよ。
感想? 一枚出される度に「そうだな、そうだな」と頷くしか出来なかったよ。
三人で大泣きした後だぞ。放心状態なんだよ!
気恥ずかしくて関谷も写真出して説明するだけだ。
遊園地の集合写真。富田一派に四人増えたのが写っている。
写真を見ると、どたばたと走り回った事を思い出す。
神様の勲章。
次回 第35話 キャッチボール
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