第35話  キャッチボール



大泣きの修羅場を終え(異様に安い)ファミレスから帰った。神谷、内田、関谷の三人にはスマホにLOINの登録が増えていた。


放心状態から覚めたら妙にスッキリ。


俺は気分が良かった。


心が晴れ晴れとしてるのだ。


たまには大泣きするのもいいのかもな?心が新しくなった気がする。まぁこの年で大泣きってあんまり無いけどなぁ。とにかく気分良くて時間を見計らって賢介に電話した。


「おぅ俺!」オレオレはこうやって始まる。

「何かあった?」

「いや、明日の午後って講義ある?」

「四時まであるぞ」

「あ!そっかー、そんじゃいいわ」


「何かあるのか?」

「久々にキャッチボールしたくなってな」

「あー、そういうことか」


「俺、昼までだから、一緒に監督の所へ行こうかと」


「そこまでかよ!」


「一人で行くのもなぁ」

「まぁな。クソ暑いけど、少しなら昼に付き合ってやるぞ」


「どこでよ?」

「予備校の屋上、暑いから誰もいない」


「おー!そんな所があるのか!」


「駐車場とか公園じゃ怒られそうでまずいしな」

「よし分った、ミットとボール持っていくわ」


「おれもグラブとボール持っていく」

「賢介ありがとう!」

「いえいえ」


夕飯の後からミンクオイルの缶を開け、勉強の合間にミットに磨きをかけた。


・・・・


8月5日水曜日


朝一で賢介に「グラブ忘れるな」とLOIN入れておく。

OKのスタンプ。


スポーツバックに勉強道具と用具を入れて駅に向かう。水筒に麦茶、Tシャツとタオルも忘れない。昼が近づくと時計を何度も見てしまう。


昼になると、ダッシュで階段を掛け上がった。


屋上メッチャ広い!さすが本校だな。考えたらクラス数が半端ないわ。さすが俺たちの予備校!(笑) 自分の高校より褒めてるな。


屋上で賢介を待つと一緒に箕輪さんと橋本さんも上がって来た。


お昼にファミレスに誘われて、十五分程待ってと言ったらしい。

確かに十五分超えると汗だくだよな。ナイス!



橋本さんが一旦教室戻って日傘を持って来た。

日傘と聞いたら、え?と思ったけど女子って日傘似合う。ちゃんとおしゃれアイテムだ!


俺たちは肩慣らしのキャッチボールを始めている。


女子をギャラリーに連れて来るとは、やるな賢介。

お前のすごさを箕輪さんに見せてやれ。


肩慣らしが終わって、だいぶ本気のキャッチボールになってきた。俺はミットだからパーン、パーンと気持ちよい音が響く。


流れる動きと投げるボールが早くて二人ともびっくりしてる。

俺が見ても、賢介は捕球からスローまでが綺麗だ。体が弾んで力のある球が飛んでくる。良く見たなぁ、あの躍動のスナップスローだ美しい。


久々にあの頃を思い出す、地獄の練習(笑)


こいつ背が小さかったけど丸々三年だもんなぁ。まさか俺を抜いて来るとは!普段気がつかないけどマジ大きくなってるわ。



そろそろ十五分になるな。

二人に見せてあげるか。



日傘を持っていない箕輪さんを呼び賢介の正面十五mに立たせる。こういう風に投げてと賢介の右手側にバウンドのゴロを出す。二回ほど箕輪さんに練習させて、その間に賢介から見てファースト方向に向かった。


「賢介、ランニングスローな」

「久々だから逸れるかも?」

「体が覚えてるさ(笑)」


箕輪さんに「思いきり投げていいよ」始めてー!と声を掛ける。


箕輪さんの投げたゴロの球に賢介が逆シングルで追いつく。追いつきながら掴んだ球を右手に持ち変え、崩れて流されていく体勢で肘から先がビュン!と出てくる。球は流されずに俺のミットにスパーン!と入る。


「さすがー!もう一丁!」

箕輪さんにボールを転がす。


同じように・・・体を流してそのままスロー。

ビュン! ミットにスパーン!


「あー!飛べなかった(笑)」

「見せるために飛ぶんじゃねーし (笑)」



箕輪さんも橋本さんもポカーンだ! 成功!


マジ良いところに二人が来たな。てか多分、担当で来たな。箕輪さんがランチ誘いに来たら、賢介も目ん玉飛び出ただろうな。思い浮かべるだけで吹いちゃいそうだ(笑)


キャッチボール見てもらったのは良くても、賢介と仲良くしようと態々わざわざ来てくれたんだからなぁ。箕輪さん拝んでおこう。間の悪いことしちゃったな。


昼休憩が四十五分に削られたのでファミレスやめてワックへ。



神谷「キャッチボール頼んじゃった。ゴメ」

守田「しょうがねぇよ、先約だったし」

神谷「デミーズの方が良かったよな?」


箕輪「近くで野球が見られたから大丈夫!」

橋本「あんなに凄い球投げるんですね」

神谷「波多野はピッチャーだからもっとすごいぞ」

守田「野球で投げる専門だからな、俺も見たいな」


橋本「あれよりもっとですか?信じられない」

神谷「変化球はこんなに落ちるぞ」

手で落差を示す。


守田「打つ人のバット直前で落ちたり曲がるんだよ」

箕輪「野球やる人があんなに格好いいと思わなかったです」


神谷「そりゃ格好いいところだけ見せたもの(笑)」

守田「うん、喜んでくれて良かった!」

神谷「楽しかったから波多野も今度誘おうぜ」

橋本「また見たいです、教えてくださいね」


守田「明日会うから話振ってみる?」

神谷「あ!木曜日?明日ここ集合か」

ALL「うん」

神谷「毎日が早いよなぁ、三保さんが早いわけだ」


ALL「え?」

神谷「入校日からもう三週間目の水曜日だぞ」

神谷「一週先はお盆だし今週の土日しか無いだろ?」

守田「そういえばそうだな」

神谷「そうだよ、早く動いてくれたんだよ」


箕輪「言われてみたら一日遊べるのって今週位?」

橋本「そうだよ、お盆過ぎたらもう共通模試だし」

賢介「模試が二十九日の日曜日だな」

神谷「だろ?三保さんに感謝しないとな」

橋本「こうやって話だけでも楽しいしね」


箕輪「うんうん、誘ってもらってよかった!」

神谷「そんじゃ俺、午後無いから帰るね」

守田「おぅ!明日な」

橋本「お疲れー」

箕輪「またねー」

神谷「ばいばーい」


スポーツバックを肩に掛けて先に出た。暑い!



瀬尾に聞いていた問題集の名前と写真が個人LOINに入っていた。超難問百題〔偏差値七十以上の難関大入試で過去に出された難問中の難問:ライバルに差を付けろ〕笑うわ。


瀬尾はこんなの使うのか。これシリーズじゃん。今のが終わったらシリーズ制覇だな。いいの教えてもらった。瀬尾の聖剣は五千八百円だ(笑) 


とりあえず図書館で探すか。


図書館で二冊みっけ。一週間あれば充分だな。とりあえずなんでもいいや。ついでにここでやってみるか。


これって解法スマートだな、出版社覚えておこう。難問に限らずこの解法知ったら楽だぞ。


入り込む、寄り添うほど見えてくるものもあり明は夢中だった。





次回 第36話 ジャンプ写真

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