第29話  女子四人とプール、来る?



賢介とのランチが終わった。


実は、ワックから予備校へ帰る足が重かった。


俺が勝手に動いてみんなを振り回してる様に思えた。自分だけの話じゃ無いこと。自分の力を当てに出来ないことに、これほどプレッシャーが掛かるとは思わなかった。


賢介のためとは言え、あいつに頼まれた訳じゃ無い。

俺が勝手に言い出したことで三保さんを担ぎ出し服部さんも動いてくれた。みんなを振り回して上手く行かない時の三保さんのをこれほど恐れている。


ここまで人任せなんて今まで無かったからなぁ。スキルがあろうと無かろうとその点はただの人だ。神のみぞ知る。祈る事しか出来ない俺。祈るにしても、もっとやること無かったのか?と繰り返す。全て三保さんにかぶせている自分が情けない。


そうだよなぁ。ラノベじゃスキルで何でもクリアだけどそんな訳無いよなぁ。そんな万能な訳が無いじゃねーか。イヤ、精神MNDが強いから、こういうことすら気にならないのか?



こんな気弱な葛藤かっとう、ラノベに書かないもんな。

主人公が弱く見えるもんな。



俺はダメだな、気にしちゃうな。いざ答えを聞く段階になってすごく怖がっている。三保さんの顔を見たくない。気が重くなって足まで動かない。本当にヘタレだ。



五分前に午後の教室に入った。



プールの件を聞きに行きたいけどの三保さんの顔が頭に浮かぶ。そんな顔を見たくなかった。ランチの時も考えないようにして連絡を待とうと思っていた。


だから三保さんの方を見ない様に席に着いた。



そんな心配を他所よそに、なんということでしょう。


机の衝立ついたてすみにピンクの付箋ふせんが付いているではありませんか。



「プール〇女子四名」


心の中で「イヤッホー!ばんざーい!ばんざーい!」と叫んで後ろを見ると、三保さんがドヤ顔でVしていた。


立ち上がって後ろを向いた俺は、三保さんに向かって無意識にこぶしを握りしめ両手を天に突きあげていた。



アホなカッコで注目を浴びた。



あれ程心配してたのに。箕輪さんの約束一つでこんなにも気持ちが揺らされる。三保さんがドヤ顔してくれたことで、こんなに心がときめいてしまう。スキル持ってもやっぱり俺は変わってないな。全然超人でも何でもないしな。俺はこうなんだよ(笑)


ありのままだ。スキル持ってもありのままの自分でいいや。あの心配があったから、三保さんのドヤ顔にときめくんだ。賢介の喜ぶ顔が浮かんで嬉しいんだ。あんな変なカッコして喜んじゃうんだ。


あの瞬間嬉しくて近くに三保さんが居たら抱きしめてたと思う。それぐらい嬉しかった。スキル持って精神力強くて何も感じないより、よっぽど俺らしいわ。俺はこっちのがいい。


もしかして、こういう心配や感謝を一つ一つ染み込ませる事も磨く事かも知れないな。そういう事を含めてみんながここで頑張ってる。同じ教室で頑張ってる・・・



授業前、三保さんに速攻でLOINを送る。


ペコリとわんこスタンプを送る。

「ありがとう!今日中に男子メンバー招集します」


「お願いします。ペコリ」動く、くまスタンプで返信。



難攻不落の箕輪さんを誘う。

あれ程近寄るのが困難に思われた箕輪さん。


考えた翌日に誘えている不思議。どんな縁なんだろう。一人じゃ何もできない。箕輪さんを知らなかった三保さんがそれを成し遂げる。凄いことだ、ホント恐れ入った。


本当にありがとう。ドヤ顔も拝みたくなるよ。


三保さんに負けた気がした。でもタダでは転んでやんない。俺も三保さんを同じように感動させてやりたい。最高の夏にしてやるから覚えておけ。


負けてはいられない。昨日の夜、色々考えた時に決断したんだ。何人になろうが目的の為なら引率して十人でも十六人でもミッションを完遂しようと思ったんだ。


決まって見たら男女合わせて八人である。ドテ!


友達の輪作戦で最少催行人員さいしょうさいこうじんいんまで考えたのだ。おれは今日、充分じゅうぶん三保さんに感動させてもらった。


賢介と箕輪さん楽しませるなら、物のついでだ、何人でも来い!

箕輪さんのランチ友達に話が広がっても責任取ってやる。ひと夏の偶然で同じ予備校に通ったんだ。感謝を込めて話に乗ってくれた全員を楽しませてやる。待っていろ!


宮崎が来るか分からないけど縁の話だろうしな。

三保さんにまかす。


俺が今すべき事は「イケメン四人とプール」が絶対条件。


俺自身はどうしようもないからな。それだけは申し訳ないから、他のイケメン度を上げて平均値を上げる。三保さんも服部さんもイケメン詐欺犯にしてはいけない。そんな不義理は絶対ダメだ。


俺の頭の中でイケメンの検索が始まった。

当然、夏期講習の受講生から連れて行く。


学生らしいし、遊んだ後にも知り合いが出来て予備校も楽しくなると思う。どこの親だって予備校の友達同士のイベントなら納得して息抜きに出してくれると思うんだよね。



そういう意味で秋本あきもとおさむだ!


学校違うけど、このクラスでは中心的存在。人に対する細やかな気遣い、柔らかな雰囲気。クラスに入って3日目に気が付いた凄い奴だ。視ても善良で友達に囲まれてる感じ。


話せば気さくで裏表がないのは賢介と一緒だ。何よりイケメンである。事情を話して箕輪さんのみスルーでネゴるぞ!


秋本の席は俺と同じく最前列。

休憩時間はいつもその机を中心に友達の輪が出来る。


授業の休み時間に入り次第、アイコンタクトで秋本をチョイチョイと手招き。


何?という顔しながらも来た。

コソコソと内緒話である。以下声を潜める。


「女子四人とプール、来る?」

「本当?行く行く!」

「ヨシ決定!」

「誰狙いとかあんの?」

「お前分かってんじゃん!さす秋!」

「誰と誰なの?(笑)」


「俺といつも飯食ってる守田と箕輪さん、箕輪みのわ好恵よしえさんだけスルーで」


「守田知ってる。分った、邪魔しない!」

「LOIN交換するぞ」

「分った、ちょっとまってコレ。OK!」

「受験生だからな、お互い息抜き位しようぜ」

「だな。いつになるかな?」


「今日の昼に突然決まったから女子は水着とか選びに行くらしいし、それ次第だな」


「分った、日時決まったら連絡してくれ」

「おぉ、あと一人誘うから決まったらまた連絡する」

「頼む。ありがとな!」

「こっちこそ!ありがとう」



この間三分掛からず。



あと一名は特待クラスの瀬尾せお健司けんじに振ってみる。2年の時の級長で春から予備校特待生だぞ。こいつも癖無く、女子とオシャレな会話できるイケメンだ。こいつは文句無しのサラブレッドだ。


というかオレ判断で「こいつ良いな」っての選んでいいのかな?

俺と賢介が体育会系としたら秋本と瀬尾は文科系なのでバランスはとれている。


そのままダッシュで五階の特待クラスに走る。

階段なんか三段抜かしで特待クラスに乱入してきた。


目当ての瀬尾を自販機コーナーまで連れてくる。

瀬尾にコーヒーを選ばせ、自分も選ぶ。


「神谷がわざわざって珍しいな」

「おぅ、話があってな」

「何だよ?怖いな」

「女子四人とプール。来る?」

「俺行っていいの?」

「お前イケメンだからな、お前で釣る!」

「マジか?」


「うそうそ、女子四人決まってる。男子メンバー三人決まった」


「誰決まった?」

「秋本ってやつと守田と俺」

「あー分かった。参加で!」


「守田と箕輪みのわ好恵よしえさんてを会わせるのが目的だからな」


「なるほど、そういう事か」

「と、俺たちの息抜きで」

「息抜きは必要だな」


「講習打ち上げとか模試終了とか言って八人で遊ぼうぜ」


「遊ぶってお前大丈夫なのか?」

「花火とか遊園地だよ」

「それもいいな」

LOIN交換するぞ。

「了解!」


「昼に突然決まったからな。女子は水着とか買いに行くって言ってたから詳細はまたな」


「分った」


さぁ、もう時間だ。お勉強お勉強!と瀬尾の肩を押しながら特待クラスに突っ込んだ。



このメンバーなら詐欺にならないと思う。



階段をぴょんぴょん飛び降りてクラスに帰る。

はぁはぁ言ってる自分が笑える。ホント笑える!


賢介は主役なので授業終わりに待ち伏せた。


「賢介、帰ろうぜ!」


「明。お前が待ってるって、どうしたんだよ?ハイだな?」


「女子四人とプール行くの決まったぞ!」


「昨日の話か。急だな?」

「四人のうち一人は箕輪さんだぞ」

「マジ?」

「三保さんが頑張ってくれた。感謝しろよ」


「三保さんて、お前・・・」


「教えた。しょうがねぇだろ。箕輪さんの伝手つてなんてねぇし」


「うん、まぁな」

「そういうこった、男子四人はもう決まった」

「早いな(笑) 誰なの?俺知ってる?」


「秋本、瀬尾、俺、お前」


「秋本分る、講習一緒のある、瀬尾は何回か喋ったな。瀬尾っていたんだ」


「特待クラスで編成クラスが別だから」

「絶対王者すげーな(笑)」

「二年のオレのクラスの級長様だぞ」


「あー!二年もやってたなぁ。明のクラスだったんだ。」


「分かってるだろうが受験生だからな、息抜き程度で遊ぼうぜ」


「プール行けるだけで充分嬉しいよ。ありがとな」

「一緒に行ったら志望校位は聞き出せるだろ?」

「おぉ!ありがとう。」

「これで上手く行ったら花火とか遊園地も考えるからな」

「おー!一生お前に付いていく!」

「うざいわ!付いてくんな」


駅に逃げていく俺と追いかける賢介


「お前は三保さん狙いなのか?」


「女子みんなで水着買い・・・って狙ってねーよ。お互い受験で大変だからな、そういうので振り回されたらお互いに自滅するぞ」


「まぁな、お前はそうだよな」

「お前はそうって、お前だってそうなんだよ!」


「そのそうじゃない(笑)」


「まぁ、メンバーとか場所とか、日程とか分かったら都度LOINで流すわ」


「おぉ、教えてくれ」


「あ!そうそう、箕輪さんと賢介を邪魔しないって秋本と瀬尾、納得してるからな」


「あいつらいい奴だなぁ」


「お前間違ってる、それ違う。「あいつら俺に都合のいい奴だなぁ」だ」


「ひでぇ!それはひでぇ!」

「言い直せ!」


「あいつら俺に都合のいい奴だなぁ (笑)」


「賢介・・・お前最低野郎!(笑)」


クラスが違って疎遠だったが、賢介は中学時代そのままだった。



神谷が元気になったのは、とても良い事だ。


実は神谷が逆立ちしても見抜けない事が起こっていた。

(変な物ばかり視てないで、そういうものを視ろ)


一点集中で突破して行く神谷にとって受験勉強もそうである。こんな時期にプール!と深層心理で丸ごと否定しているのだ。失敗が前提。絶対防御。だからダメで元々のネガティブ思考。


しかし女子は違った。男子に比べて女子はコツコツ積み重ねる事に長じている。自分の進路を見つけた女子は1年も前から受験の準備をしていたのである。


毎日変わらぬ生活。毎日変わらぬ勉強。


いい加減鬱憤うっぷんが溜まっていたのだ。


そんなときに有り得ない話が湧いた。この時期にプールである。

三保さんが言った「勉強から逃げる理由をくれてありがとう」そして「上手くいく」は本当だった。みんなそんな生活に飽き飽きしていたのだ。


たしかに難関ちゃんを誘うのは難しかった。神谷サイドから見たら、崩せない防御だった。崩せない防御なら攻めなければ良い。


三保孔明は知っていた。


マンガもラノベも趣味の一切を排したモノクロームの部屋。誰にでも身に覚えのある受験前の禁欲ダイエットである。


孔明はおうぎを振り、山のふもと甘露かんろを差し出した。



      豆大福を出したのだ!



甘露にもののふは絶対防御の山からみずから出て来たのだ。



鬱憤うっぷんが溜まった女子達に差し出された「イケメンとプール」はとんでもない破壊力が有った。食いつくに決まっている。


難関ちゃんに限らずガードが固い筈の受験生が食いつく餌。三保だけに留まらず、服部もその日に食いついている。


恐るべし三保孔明。

皆が見上げた難攻不落の山は堕ちた。豆大福の計は成った。


抑圧されたリビドーの解放。女子達の期待は天元突破てんげんとっぱしていた。


この後、女子が甘露に狂乱するのは当然のことだった。



とんでも勘違いパワーと死地へ送り出した三保からもらった大いなる愛かんちがいのパワーを得た神谷は合計20万馬力の能力者となり、この後良く働く。



史実(三十一話)にそう書いてある。





次回 第30話 他のイケメンに歩かせろ

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