第27話  特殊決戦兵器



3日後


7月30日木曜日の朝。


駅のホームで待ち合わせの乗車口に並んでいる。

三保さんからLOINで連絡が来たのだ。

連絡来てもさぁ、最初と同じ場所に乗ってるんだけど(笑)



女子と待ち合わせっぽい事が出来るだけで嬉しい。


俺の前に指定の満員電車が滑り込んでくる。着くとドアの窓から小さく手を振る三保さんを発見!わーい。


よし!守らなければ。と勇んで満員電車に突入・・・できない。

ドア横の縦の手すりをつかんで体ごと三保さんの裏へ回る。ドアが閉まるとおじさん達から三保さんをガード!でも悲しいかな、守れてない。


というか、俺が襲っている。


ドアの向こうから窓越しに見れば、女子高生に腰をグイグイ押し付け痴漢している男である。


コラ!お前ら!わざわざ俺の腰を三保さんに押し付けるな!視えてんだよ!知り合いだと思ってサービスとかいらんわ。(もっとやれ!)他人視点で自分の姿が視えるのも久しぶり。後ろのおじさん、満員電車で一日一善とか考えるな。


サラリーマンのストレス解消になっている。


これはキツイ、位置が悪すぎる。


「ここって一番キツクない?」

三保さんの綺麗なつむじの真上から声をかける。


「奥だと分からないと思って」


可愛い事おっしゃる、確かに分からないかも?

「これ、この時間は作戦が要るよね?」

「いい場所あるかな?」


以後、高校生ペアはリーマン戦士たちに負け続ける。


「奥まで行けなかった」と毎回ドアの前にいるからだ。

イヤあんた最初の痴漢のとき奥にいたよね?


到着時にドアから押し出される三保さん(の頭)から花が咲いているように見える俺だった。



お昼、朝に三保さんと約束した通りワックに向かう。


横には賢介、後ろに三保さんと宮崎が居る。

宮崎も来ると言うので賢介を誘ったのだ。


二人は名前呼びみたい。ちまたのキャッキャウフフである。



朝に聞いた話だと、宮崎が俺のことを否定するらしいのだ。


「話したら普通に面白い人だった」という三保さんの感想をそうだ。


俺もいわれもなく「面白くない奴」と思われるのも面白くない。三保さんに誓って笑わせてやる。


「三保さんの好感度を宮崎が削ってる訳ね?それは対決しないとダメだなぁ。元クラスメートとして正さないとな」


こんな事を言って、ちゃっかり女子とランチである(笑) 情報を正して誤解を無くし風評被害は防がないとな。



三保さん的には俺と一緒にランチするなら宮崎とランチ出来なくなるでしょ?宮崎も俺と知り合いだからなんか理由を付けて一緒にランチに持ち込もうという気配りだ。そんな事で賢介呼んで二対二にしてる。



まぁ、和気藹々わきあいあいと行きましょうか。


それぞれがセットを注文して六人掛けのテーブルへ座る。

ご丁寧に俺の対角線に座ってくれる宮崎。


まずはご紹介しましょう。


「このイケメンが俺の友人Aで、違う意味の難関狙ってます」


「それはねぇだろ!って何言ってくれてんだお前!」バシ!と鋭いツッコミがえる。


「ゴメン賢介。こちら守田賢介だからね、あだ名が友人A」


「オイ!」裏拳が肩にヒットする。


「こちら三保さん、右が宮崎」

話のタネに、スッと紹介が終わる。


「女子の扱いがひどすぎる件」と瞬足のツッコミを入れる賢介。三保さんは輝くスマイルで賢介にペコリ。


「神谷ぁー!」

宮崎が自分の扱いに吠える!


「宮崎ぃー!久しぶり!」

元クラスメートに、とてもさわやかなご挨拶。


「神谷ぁー!じゃねーよ。お前、三保さんの好感度を削ってくれてるらしいな?(笑)」


元のクラスメートへの挨拶。そして奇襲攻撃!つかみはOK。


「本当の事伝えて何が悪いの?」ちょっと小声。

本人に伝わっちゃって、なにかバツが悪い感じ?


「そもそも何で俺の実況を?予備校ch実況勢とか(笑)」


友人A「明が気になっちゃうみたいな?(笑)」


賢介、お前入ってくんな。そっちの話はヤメテクレ。


「今日はいつもより食い下がっております。獲物を逃がしません。とか?」


新バージョンが出てきた。


「それ初耳だわ。アップデートしてくれてんのか(笑)」


「神谷君楽しいからかまっちゃうんだよね?(笑)」


「恵、そんな訳ないわよ。キモイ!」


「キモイ入りましたー(笑)」賢介。俺を指さすな。

賢介のチンあごへアッパー入れておく。


良い感じで和気藹々わきあいあいだな。

元クラスメートだ気安くていいわ。


「先生が好きで俺が近寄ると妬けるとか(笑)」


紙のお手拭き投げてきた。難無くキャッチ。ボール回しをスナップスローで賢介へ「ヘイ!」


「じゃ、なんで三保さんの好感度を下げようとする?」


悪の手先に尋問じんもん気分。まぁ元々冗談の部類だしな(笑)


「あんなに実行委員で頑張って協力したのに」


と恩に着せて宮崎を懐柔かいじゅうする。


「二人は去年クラスで文化祭の実行委員だったの」


三保さん、対角で賢介に「何か二人にあったっぽく」説明しなくていいから。


「これからは三保さんの好感度を俺と一緒に上げてくれ(笑)」


「ちょっと待って。神谷、あんた自覚してないの?」



ここからずっと宮崎のターン。


「私は知ってるんだよ。体に異変があるでしょ?」

え?宮崎がなんか、とんでもない事言いだした。


皆、固まらないで、病気とか無いからな。


「実行委員やって、神谷がマジ怖かったよ」


そういや、こいつ生き証人だった!血がスーと下りる。視える宮崎視点!その時の俺!むごい!これか!



冗談言ってたらとんでもないの出てきた!


あれか。これがやぶつつくってことか。電球がいた!


蛇じゃねぇよ、巨大なクロコダイルが出てきた!


「マジ怖一丁!喜んで!」


賢介頑張れ、場を軽くしてくれ。


「なんでお前がそういうの知ってんだよ!」

不良か?酒か?暴走か?


「明も知ってんじゃん!」

おれのはアレだ、視えたんだ。


誤魔化されずに宮崎のターンが続く。


「出し物のメニューを決める時から普通じゃ無かった。私の横で脱力して目だけ見開いていたのよ、目力めぢからが凄くて誰を見ているのか分からないけど引いた。とにかく普通じゃ無かった」


一回一回思い出してリフレインするな。放心状態に色々なバージョンがあるのは分かった!SAN値ゴリゴリ削られる。



「スーパーも一緒に行ったけど、買い物袋を両手に下げて突っ立ってるのは何度もあったし、呼んでも反応しないし、ブツブツ言っているし、変な薬やってると思った。」


ぎゃー!富田の十八番。許してくれー!俺が悪かった。


「目を見開くと怖いし、その後に糸目みたいにしてキョドるし」


言う度に思い出さないでくれー!もういい。勘弁してくれ!もうは視たくないんだ!



「お店の看板作るのにホームセンター行ったじゃん?板とか釘とか買ったでしょ?刃物の棚で何度も突っ立つから、刃物持って暴れだすかもって逃げる準備していたんだからね」


宮崎さんが涙ぐんできた。

本心で怖がってる事にマジ凹む。しょぼーん。


「後夜祭に見たのよ。鏡の前でステータス!とか大声・・・」


「わーーー!」



誤解は無かった。風評被害でもなく、自分で放流していた。そして大きく育って帰ってきた。もう迎え入れるしかない。


・・・巨大なクロコダイルを・・・おいで。



視ただけで一発で分かるわ。職質受けた上に薬物検査コースで身柄確保な人だよ。コレ、間違いなく逝っちゃってる。俺はこんなの誤魔化そうとしてたのか・・・笑うしか無い(笑)


スキル貰って、乗り切った気でいたけど全く隠せてなかったというか、隠せたら奇跡だわ(笑)


これ宮崎さん以外にも絶対誤解されてるわ。俺、終わってる。


なんか画面が視えるわ。



神谷  Life 0  VS  宮崎 Life 89


    Lost   Match  Win


  100Combo Perfect!Excellent!



宮崎のターン終了。宮崎の大勝利!



「宮崎知佳様。色々やっていてごめんなさい」


「それについて白状します」


ちょっとシリアスな正念場だぞ。頑張れ俺!


この状態から巻き返すぞ!

恐怖を生暖かい目で見守ってくれる程にしないと勝利は無い!


皆が聞こうと身を乗り出してくれる。


「実はさぁ、去年の夏休みに本気でラノベにはまって毎日寝不足でさぁ。ステータスとか言ったらスキルとか出そうに思えて、高校二年で中二病になっちゃった。マジで寝不足で立ちくらみとかひどかったんだよ、眼のくまとかひどかっただろ?」


みんなしてそんな可哀そうな目で見ないで!


「賢介も男だったらステータスと叫んだことあるよなぁ?」と賢介にスキル付きで振る。


「俺は20回は叫んでるな」


うん、真実の声をくれてありがとう。フラッシュも視えたわ。


「実は、私も・・・」


下を向いて小さく手を上げる三保さん。それは優しさなのか?あ!本当だ叫んでる(笑) 令嬢内政チートが好みか。


「中二病になるのは健全と言うことで!」


シリアス感がグダグダなので無理やり話を進めよう。


中二もうそ全開うふるだったすろっとに二か月も付き合ってくれてありがとう。当時の恥を思い出したよ。マジごめん。」



「二か月付き合ってたの?宮崎さん!」


オイ!三保!お前も色々だな。身を乗り出してソレか。おい!二か月で勘違いしてチューを迫る俺とか無いから。後夜祭から離れろ!そういう恥じゃ無いから。


淡々と告白し謝ってもいぶかしむ宮崎さん。


「そんなに怪しまなくでも文化祭の後に治っているから!色々怖がらせてゴメン」


あの時期はコントロール出来ずにランダムで視えてたからなぁ、仕方ないな。うん。初めて見たけどアレは強烈だな。



「白状したのに、知佳ちか様がまだにらんでいる件」


どんなに俺を見損なってくれてるんだ!誤解が解けない。


「だって、普通の立ちくらみとか中二病ってあそこまですごくないから・・・」


普通の立ちくらみって、言っている意味は分かる。絶対立ち眩みはないわ(笑) それで押し通り過ぎてたな、反省。



「あ!急に名前呼びになった」


三保さん発言違う。まだ疑ってんのか!そこは知佳様をなだめる役でしょ。名前呼びフラグ建設中か。


「オレ、賢介でいいからね」


食いつく賢介。お前のメンタル凄っ!紹介されて一時間経ってないのに名前呼びさせるのか。


「賢介君、私は恵だから」


キター!


「恵ちゃん、改めてよろしく!」


・・・こいつらダメだ・・・


俺の荘厳そうごんなスキルファンタジーオペラの舞台に向いてない。宮崎の眼を生温かい目にする斬新な演出がことごとく崩壊する。漫談役者で新喜劇になってしまった。この舞台に幕を下ろそう。



まさかこれを使わせるとはな・・・対宮崎用決戦兵器。


朝、三保さんから話を聞いた時、宮崎が暴れ回った被害を想定して開発された特殊決戦兵器だ。まさか漫談(賢介、三保)を鎮圧するために使うとは・・・


(嘘である。今考えた上に使う理由もこじつけだ)


俺のコンソールワックの机に赤いボタンがせり上がる。

ギミック変な仕掛けが終わると緊急警報エマージェンシーアラートが(頭の中に)響き渡る。

管制装置ロックオン!決戦兵器のボタンを躊躇ちゅうちょなく押した。


ぽち!


宮崎さんに視線を合わせる。

身構えても無駄だ!防御力無視の絶対攻撃。相手は死ぬ。


テーブルの対角線をトレースして宮崎さんに顔を近づける。



「机に抱きついて頬擦ほおずりは俺も引いた」ボソ



ガタッ!と宮崎さんが立ち上がり、震えながら俺を凝視した後、突然走って逃げて行った。


存分にもだえ死ぬがよい。能力者の力を思い知れ!



「え?チョッ!知佳ちゃん!」


俺と逃げ去る知佳ちゃんを目で追って三保さんが慌てている。賢介が、何言った?と視線を飛ばしてくる。


俺のさわやかな微笑みを見て二人とも安心したようだ。その流れで、逃げていく知佳ちゃんを窓越しに見送っている。



まぁこれで一件落着だ。季節も場所も人数も違う、そもそも二人で誓ってないけどお互いの心に「ワックの誓い」が刻まれた筈だ。


もうちんに絡むことも無いであろう。


知佳ちゃん、今後二人に何が有ろうとも共に死す時は一緒だ。この気持ち、今この時ワックに賭けて誓う!ちんいのちたくしたぞ!


以後あのむごい俺の姿は後世で語られもしないだろう。



ふと気が付くと、バーガーセットに手を付けてないのは自分だけだった。さっさと食べよ。



激闘の余韻に浸る空気を無視して、三保さんがぶっこんできた。



三保「違う意味の難関って何?」

神谷「・・・」

賢介「・・・」


なんて恐ろしい子。今?今なの? 激闘の後すぐに・・・


二虎競食の計か! おのれ計ったな!


今度は賢介が固まるターンだった。


「私大コースから難関大コースを狙おうかなって。な?賢介」


賢介は固まっている。


「???」三保さん考えている。


「え?コースを狙うわけ?コース変えるの?」


「そう難関大コースを狙うの。コースは変えない。な?賢介」


・・・困る賢介


「日本語になってないよ、どういうこと?」

三保さんもっと聞いて!


「どういう事だろうね?賢介なら分かると思う」賢介にパス。


「コースをねらえ!何周年記念アニメの見たな」賢介がボケる。


「私見たよ!面白かったよねぇ」 まさかのボケ殺し!


「ちょっとトイレ行ってくるね」行ってらっしゃいませ。



「あ!そろそろ時間かも?あと15分、出ようか?」

「もうこんな時間か・・・」賢介がホッとする。

「トレイ片付けて、三保さん来たら出よう」



信号待ちで三保さんがススッと寄って来て内緒話。

「また教えてくださいね」



予備校の階段を上りながら賢介に言った。


「夏だし女の子誘ってどっか行くか?」




次回 第28話 難関ちゃん包囲網

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