第26話  夏のお嬢様



7月26日(日曜日)


昨日図書館から帰り、夜の考察でノルマの勉強を飛ばした。スキルが来たお祝いで休みにしないと勉強も手に付かない。


今日はその分、巻きで頑張っている。


休憩でコーヒーと三色団子を持って2階へ上がる。しずくはおやつに和菓子系ばっかり買ってくるんだよ。


そしてスキルノートの考察を見て考えている。


眼と声が揃ったら次の真実シリーズって何が有る?

もっとヤバいの来そうな気がする・・・


あの真実シリーズ。スキルツリーの開け方が問題だよな。変にあの時視えちゃって真実系のスキルが分かってるのに物は何だか解らない。声もヤバいけど、もっとヤバいの有る気がするんだよなぁ。


次は普通なら範囲系だよな?

眼も声も範囲攻撃になりそうにない(笑)


取り敢えず経験値が少しずつ溜まって一定になると開放していくスキルツリー構造。取得経験値によって階段状に開放されていく様だ。とスキルノートに書いておく。


5月のあの時、眼はLv6だったよな、眼がLv10になると開く感じ?多分違う、Lv10になるのが早すぎる。純粋に経験値の量か?


白い世界から2か月半でLv10は無いと思う。

テンプレだと次のLvまでの経験値は必要量が増えるはず。だとしたら眼は今Lv7だ。下手するとLv6のままかも?


分んないから、可能性だけ書いておいて後で検証だな。


7/26現在、推定、眼はLv7で声がLv1だ。

眼を使っていたら声のゲートが開いた。

そのまま眼を使っていたら経験値は溜まる。

そして声がLv7に行けば次が来る感じかもしれない。


あ!いた数かもしんない。

予備校で先生にきまくってるわ、そういう線も有りか。それなら次のスキル知らないと、何したらいいか分らんな。


考察書きすぎてノートが少なくなってきたな。


明日予備校の購買で買うか。




7月27日月曜日


最寄りの駅まで自転車で走る。まだ8時だから良いけど9時にはもう真夏の暑さだからバッグにタオルとお茶は必須だ。


9時からの夏期講習に向かう受験生。


サラリーマンのみなさんと乗降口のレーンに並ぶ。

これって毎回同じところに並んじゃうよな。


通勤ラッシュの時間帯にダダ混みの電車に乗る。何時いつものように吊革の付いている棒を両手で掴み「痴漢騒動とか嫌だからな。居ねぇよな?」と何気なく見回すと視えた。(キーワードを元に関連する情報を視界から探す検索である)


痴漢被害者と加害者の映像が引っ掛かった。


驚いて思わず車内を二度見する。いた!


いるじゃん!マジか!痴漢いる!痴漢いるー!初めて痴漢見てビックリ!どうすんだ?コレ。どうすんだよ!


本当にびっくりすると思考が止まる。


考えながらもう体は動いていた。

服の上から色々触ってんだもん(笑)


無理やり人をかき分けて「ちょっとすみません」と加害者に近づき、痴漢していた腕を掴んで「痴漢ですよね?」と聞くと「はい、痴漢です」となんか頓珍漢とんちんかんな受け答え。


「神谷さんですよね?」

「はい、神谷です」そんな受け答えでマジ驚いた!


何軽く痴漢名乗ってんだ!とツッコミそうになった。



あ!スキルだ!驚き過ぎて忘れてたわ。

丁度いいから訊きまくろう。


女子高生みたいな被害者に「痴漢されていましたよね?」と確認すると「誰かは分かりませんけど痴漢されていました」とこれまた明快な答え。


あなたはこの人に痴漢してたんですよね?

「はい、この人に痴漢してました」ウケる(笑)


加害者が「はっ!」と気が付いて「そんなことはしていない。」と大声で言い直しても「この女の人に痴漢していましたよね?」ともう一度念を押すと「はい、この女の人に痴漢していました」と明快に答える。


このスキル最高!(笑)


ドヤ顔で明快に喋る。本人は困惑こんわくというかパニック状態だ。


痴漢の腕をつかんで離さない。


「痴漢です、痴漢です警察に行きます」車内に警鐘けいしょうを鳴らす。


満員電車の中に善意の道が出来た。


夏期講習の最寄り駅(各種交通機関へ乗り換えのターミナル駅でもある)に交番があるので、被害者と加害者を連れて行きもう一度自白させ、自分は住所氏名等を書いて予備校に向かう。


ん?被害者?婦警さんが聴取ちょうしゅで奥へ連れて行ったよ。


このスキル、痴漢ぐらいしか使えないわ。軽犯罪ならまだ流してもらえる。重要な事件になると俺の関与が浮かび上がってスキルがばれる。これ、皆の記憶に残ることに使っちゃダメだ。



お昼になって授業が終わり、弁当を買うか、ファーストフードに行こうか迷いながら教室を出ると後ろから声をかけられた。


「神谷さーん」


振り向きざま気が付いた。朝の被害者が追いかけて来てた。

同じ教室から出てきていた!(笑)


大体名前順で席を決めると俺は一番前だからな、講習でも一番前だから教室出るのは早い。


「朝は、ありがとうございました」


目の前の彼女を指差して「痴漢の」と言ってから気が付いた。これはない。


「痴漢のはひどいです。」

トラウマっぽいのは視えないな、普通に笑っている。


「ごめん、痴漢された人だったね。あはは」


「痴漢から離れてくださいよー。うふふ」



3階からの階段にて横目で観察。

夏のお嬢ぽい感じで白系のワンピにサンダル?ミュール?がよく似合っている。



「同じ講習取ってたんだね、女子高生とは思ったけど予備校一緒とは思わなかった」


2階の階段を下りながら、予備校はさておき図書館なら声かけられそうなだなぁ、などと思う。



「神谷さんですよね?下の名前はさっき友達から聞きました。明さん」


踊り場でくるりと回り込んでひざ丈のワンピが綺麗に花開く。

見せ方知ってるなぁ・・・見上げてくる。そうですか。



「俺の事知ってたんだゴメ。うーんと?」

三保みほ めぐみといいます。西高です。あらためてありがとうございました。」


(西高。受験の時は新設校2年目の競争率高かった所だ)

両手を前に添えてぴょこんと頭を下げられると、助けて良かったと思う。


「いえいえ、どういたしまして。たまたま気が付いたからさ」


「本当に助かりました、一人であの時間に乗るとたまにあるんです」


「テレビで偶に見るけど、身近にあるのは初めて知ったよ。と言うか初めて見て驚いた。誤解が怖くて両手挙げて乗るからね。俺はしないよ、ヘタレだから(笑)」


「高校生で痴漢してたら大物感ありますね(笑)」


この娘、電車のイメージと違うんですが・・・内弁慶なの?


「そうそう!俺が触りに行こうと思ったら先に触られてた(笑)」

「えー!(笑)」


「痴漢し損ねてるじゃないですか(笑)」

「腹いせに警察突き出した」

「あはは、でも痴漢撃退の時凄かったです」


「待って、痴漢ワード禁止!俺がしてると思われるから!」

ん?俺が教室のどこに居るって認識しているのか。ちゃんと元から知っているんだ。


一階まで下りてくると、三保さんがソワソワしだした。


「これからお昼ですよね?予定有ります?」


え?三保さんグイグイ来ている?これってHitしているのか?

と思った瞬間に視えちゃった。咄嗟に気になって反応しちゃうな。あー、宮崎とのランチ両手を合わせて断っている。


お礼の為のランチですね?そうですね。やっぱりね。分かってましたとも!そういうことなら弁当は無いな。


「うん?予定も何も。ワックかなって思ってる。」

「そんじゃ、ワックに行きましょう!わーい」

やっぱ華が違うね。三保さんの周りにパァーと華が咲く。


このくそ暑い中、省エネの教室より、冷房の効いているワックの方がありがたい。「はーい」と自分の周りも明るくなる。

女子とランチだけでもありがたや、ありがたや。



ワックにて1コインのセットを2人で注文。

そりゃ断るよ、500円奢ってもらってもねぇ・・・


「なんで俺の事知ってた?変な噂とか無いよね?」

トラウマがあるだけに恐る恐る聞いてみる。


「授業終わりに先生の所で真剣に訊いているじゃないですか。それ見て私も頑張ろうと」


え?そんなに目立つか?


「俺、そんな真剣な顔してるっけ?」

「してる、してる。納得するまで聞く。みたいな。」

「新しい解き方みたいの出るとね、気になるとかあるな」


(嘘である、解けない問題を聞くために予備校に来てるから当然訊きまくる)



「宮崎さんがノートしまいながら実況するの。また行ったー!って」


あ!宮崎-三保で机が隣同士なんだ。


「宮崎か?仲いいの?今はクラス違うし、あいつ後ろの席だから話もないな」


「クラス違うのね?冗談言うから仲いいのかと思ってた。」

「二年の文化祭。クラスの実行委員という仲だった。」


「フォークダンスの時に教室で2人きりになる役だよね?(笑)」

「あはは、三保さんラノベ読みすぎ!(笑)」



札の番号と引き換えにバーガーセットが運ばれてくる。お互いに包み紙を開いていると三保さんが突然ぶっこんできた!



「神谷さん、講習の予定表みせてくれないです?」


「ん、いきなり何よ?恐ろしい。個人情報なんですけど」

笑いながら拒絶感を出すと慌てだす三保さん。


「神谷さん、もう月曜日の講習はバレてるからね!他の日も教えて欲しいなって」


ジト目で何も言わないでいると、アワアワしだして面白い。



「違うから!違うからね!今日みたいな時居てくれたら嬉しいなって思って」


「あぁ、満員電車怖いの?」

「違っ!そうだから!そうなの!」

「ふーん」


ジト目で見ていると赤くなっている。自分もなんか熱い。


朝は三保さん我慢しながら身を竦めていた感じだったしなぁ。今の様子と全然違うけどなぁ・・・視た。


同い年の俺が倍以上も年の違う大人をねじ伏せるのを見て、自分と俺の違いにカルチャーショックを受けてる。意識の違いを見たくて恐れながらも来ている。クラスにいる男子と変わらないのをメチャ確認してる(笑)


グイグイ男子に行き過ぎて自分で恥ずかしがってる。ガーン。


そうだったんだ。納得、ふふっ。


「はい、これ時間割。俺、堀井で3駅よ?三保さんは?」

三保さんは自分の時間割も出して見比べている。


「私は酒井口です」


酒井口の駅を思い出した瞬間に視える。酒井口のそこが朝の定位置ね。


「お!4駅ね、了解!」



「すみません、LOIN交換もお願いです。32分着、3両目、後ろドアとか送りますね」


「それ今日の電車で乗ってた位置だよね。わかりました」

いつもそこなんじゃね?という目で見ると三保さんが切り返す。


「いつもは今日の便ですけど、神谷さん的には次の便の46分着もありかなって」


「それだと交番寄る時間ないよ?」

「もう!それ、守ってくれてないし!痴漢されてるよ!(笑)」


「ちょっと待て。時間割的に朝の週3しか守れないし、水曜なんて上下線ですれ違っているからな(笑)」


そんなどっかの近衛騎士団みたいなこと出来んわ。



「週3の朝だけボディーガードね。」

念を押しておく。


「そもそも、この時間割酷すぎません?」念が押せてない。人の時間割に難癖付けてくる。摘まんだポテトでポインティング。



「三保さん?」

「なんですか?」

怒ってる、怒ってる。



「俺は何日守ればいいの?」視えている図星を言った。

近衛騎士団を欲しがった三保さんは背筋を伸ばして固まった。



お互い今日知り合ったとは思えない会話。衝撃的に夏のガールフレンドが出来た。




家に帰って、ノート買うの忘れたのに気が付いた。





次回 第27話 特殊決戦兵器

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