第14話 増田side 涙の色
家に帰ってシャワーに駆け込んだ。
言われたことが頭でグルグルと繰り返される。
ベッドに倒れこみ、感情の洪水に押し流される。
神谷の言葉を、一つ一つの言葉を手繰り寄せるように反芻する。
今までの私、今の私、過去の私、地獄の中の私。
アレを思い出したくない。あの汚い私を見たくない。
思い出すだけで体が震えてくる。
嫉妬に狂って罪を犯していたこと。
思い出したくない。聞きたくない。アレは私じゃない。
落ち着くに従って、考えを
神谷の言葉を心に沈めて、一つ一つの心を
そんな遅々として進まない作業。
悪事を語られ脅され、嫉妬に狂った本性を見られた事件。
事件を共有した連帯感と、共有した故の気恥ずかしさがあった。
アレを共有しない人間には新しい顔を作る事が出来る。
共有した人間は罪を犯した過去を引きずり新しい私に変われない。
心の底に恐怖があった。信頼できる仲間が私にはいる。それでも忘れた頃に自分の汚れた本性が突然暴露される恐怖に
突然現れる過去の罪で消え去る生まれ変わった私。無くなってしまう新しい私。怖い。怖いよう。
神谷さんの言う通りだ。
富田くんが助けてくれても、感謝で済ませて富田君を評価しない。そう処理していたのは自分で分かっている。
恐怖から逃げ出したい。過去の自分が出てくるのが怖い。いやそんなこと思ってない。新しいクラスで私の居場所を作ろうと必死だっただけだ。チヤホヤなんかされてない。
昔からそうだ、私はクラスの中心でそういう目で見られてきた。親の期待も友人の期待も裏切らずに頑張って来たんだ。
私は頑張って・・・
アレで全部崩れちゃった。アレで無くなっちゃった。
どうしたらいいのよ。
同じ考えが何度も何度も最初から堂々巡りする。
ダメ。それはダメ。偽っている、嘘を言っている。
誰も知らない所に逃げたかった。アレから逃げたかった。
神谷さんに言われたのはこれだ、私は分かっている。
平田君に逃げようとした・・・。
出会って一か月も経たない平田君にあのとき逃げようとした。逃げようとした私自身は誤魔化せない。平田君に飛び込めば、新しい世界で新しい私が始まると思ったのは誤魔化せない。
なんか私って自分の事ばかりだ。
一か月でこのクラスなら平田君とか、今まで通りに選んでいる。そんな人を選んで
カーストの上下で人を選ぶ。こんなの外の世界で通用しないよね。
「増田ぁフラフラすんじゃねぇ!」
神谷さんの言葉が何度も何度もリフレインする。
富田くん・・・
ずっと私の事を守ってくれたよね。ホント忘れていたよ。自分が逃げるのに必死で、守ってくれているのを振り返って見て無かったよ。ホントにバカだよね。
富田君がいるのに・・・逃げてた・・・
ホントごめんね。私バカなんだよ。何度も何度も迷惑かけてごめんね。あんなに富田くんを取られるのが嫌で
あの地獄でそれまでの事全部忘れちゃっていたの。ごめんなさい。富田くんに謝る事しかできないの。ごめんなさい。
平田くんに逃げてごめんなさい。最初からあなたに逃げていたらよかったね。富田くんに逢ったらなんて謝ればいいの?バカだから、ごめんなさいとかしか言えない。
こんなにバカな私なのに・・・
こんな私を好きになってくれてありがとう。
こんな私を助けてくれてありがとう。
こんな私を救ってくれてありがとう。
涙がたくさん、本当にたくさん出て、心が一杯でもう何も言えないよ。
富田くん、本当にありがとう。
富田くんに感謝を伝えよう。心の底からの感謝を伝えよう。
こんな私を好きになってくれた感謝を。
こんな私を助けてくれた感謝を。
こんな私を救ってくれた感謝を。
「誰だって間違うんだよ。失敗して気が付くんだ。後悔して、そしてもう一度やり直すんだ」
バカな私でごめんね。これから頑張って直すね。
怖がって逃げない新しい私に生まれ変わるね。
また間違えたら神谷さんみたいに怒ってね。
とめどなく流れる涙は冷たい色から暖かな色に変わっていた。
次回15話 富田Side 硬派の辰雄
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