第12話  泣いて帰っちゃった



学生服のまま駅で待つ。

改札から増田が出てきた。



「よ!元気・・・じゃないか。富田停学になったしな」

いきなり呼び出されて少し心配そうだ。



「お久しぶりです」ペコリと綺麗なお辞儀をする。


「こないだ内田の写真ありがとな。20枚はやりすぎだ、モデルが疲れただろ(笑)」


話しかけながら、富田の家の方向へ歩き出す。



「なんか神谷さんに怒られてから、世界が広がったんですよね」少し微笑んで言う。


「ん?」


「写真も四人で本当に楽しんで撮ったものだし、全然罰ゲームじゃなかった。普通に楽しかった」


「そういうことね」



「怒られてから、世界が広がったんです」

「よかったな」



「自分の周りだけが世界で、そこで認められていたら何やってもスルーみたいな。なにも考えてなかったけど、何やっても見つからなきゃOKだったし」


「エスカレートするし、ブレーキ無いしな」


「学校の外では絶対に許されない事を突き付けられて、逃げられなくて、私がやったことで周りを巻き込んで破滅寸前でしたよね」


「そういうことだな。謝ることが出来てよかったな」


「よかった・・・です、色々あるけど今すごく幸せだと思うんです。神谷さんが現れてから三日間、本当に地獄だった。死ぬのとどっちが辛いだろうとか寝られなくて、今でも夢で見ます」


「それが解ればいいさ。もう間違わない」


「神谷さんが救ってくれました。あの土下座の練習が宝になります。何が来たって負けないと思う」


「おう!俺もそうだわ。オレもあれを、あの意味を知ったら悪いことしたら素直に謝れる」


自分の失敗を素直に謝れるっていいことだよな。


「今日なぁ、富田の停学でお前に言いたいことあるって言ったよな?」


「言いましたよね、私が巻き込んだ原因だし」



「実は今日な、お前に知って欲しいことあるんだ」


俺と目を合わせて、そんな大事な事が?と驚きの顔。


「いい?ちょっとキツイかもしれないけど聞いて欲しいんだ」


「おねがいします」



俺は気合いを入れて切り出した。


「俺が色々調べただろ?レポート」


「はい」


「さっきさぁ、あの三日間地獄だったって言ったよな?あれな、八人全員が地獄だったんだよ。みんな同じように震え上がったんだ。解るよな? 富田も焦ったよ。あいつが焦ったのはなぁ、主犯のお前をどうやって助けようか焦っていたんだよ。俺の剣幕と恐ろしさにお前を確実に地獄に落とすと思った」


増田は静かに聞き入った。


「そりゃぁ焦るよな、好きな女が地獄に叩き落されそうなんだから。自分も地獄に落ちるんだけどよ、お前のレポートは厚みが違う。さらされたらお前が集中攻撃されるだろ?どうやって助けるか、どうやって防ぐのか、それしか頭になかった。あいつは3日間走り回ったよ、調べ回ったよ。誰かさんが不貞腐ふてくされて震えて寝てる間もな」



「実はなぁ・・・」


「富田が走り回ろうが、お前が不貞腐ふてくされようが、俺はどうでも良かった。お前たちがいた種を自分達で刈るだけだからな。お前らはそれぐらいの事をやってた。地獄に落ちたきゃ勝手に落ちろと思った。そんなお前たちの地獄なんて、内田の地獄からしたらどうでもいい話だった!」



「おまえらの事なんて、富田が停学とか聞くまで気にもしなかったよ」


今でも内田の地獄を知っているだけに清々せいせいしてる。



増田は口に手を当て驚いている。



「富田がどれほど必死だったかお前は知っているぞ。誰が何と言おうが神谷先輩からは逃げられないと一人一人を説得していたよな?言われたとおりに謝ろう、レポートの罪を認めて謝ればきっと許してもらえるって、最初から最後まで言い続けた」



「とりあえずお金を集めようとも言い出した。それほどお前を助けようと必死だった。お前が世間から抹殺まっさつされるのを本当に防ぎたかった。あいつは真摯しんしに謝罪して許されようと努力したんだ。そうやって一歩ずつお前たちを引っ張って破滅から逃がれるコースにたどり着いた」



「自分のためじゃねぇぞ。全部お前のためだ増田。おまえはそんな富田をチクリ(スパイ)と疑っていたんだよ。あのグループで自分よりも人を助けようとしたのはあいつだけだ。富田だけはお前が助かる事が一番だったんだよ」



「15万な、7万富田が出しているぞ。お前たち四人が仲直り出来て喜んでる。自分にご褒美はなくても、お前が楽しんだらあいつは喜ぶんだよ。バカだよな?」



「今回お前に言いたかったのはな、お前や仲間が揶揄からかわれても何度も助けに行ってた。め事ぐらいあるさ。今回の事は停学になった。学校で手を出したあいつはバカだよ。クソバカだ!でもな、バカはバカなりに報われてほしいじゃねぇか?好きなお前が襲われると聞いて、助けるために殴ったんだ」



「いいか?こんなお優しいことは、俺は大嫌いなんだよ。なんでこんな事をお前に教えなきゃなんねぇんだ。自分の事ぐらい自分で気が付けよ。見ていてなぁ、あいつが余りにもバカで、哀れで、悲しくて見てらんないからワザワザお前を呼び出しちまったよ。そうだよ、お前に富田の気持ちをわかってやって欲しかったんだよ!」



「富田がお前の顔色見るから、あいつの気持ちを気にしてないだろ? 顔色見るうちは、富田はお前から離れないとお前は知っている。お前はそういう自分を知っているはずだ。誤魔化すなよ?今まで富田がお前に何をしてきてくれたんだ?忘れるなよ、あの頃を思い出してやれよ」


「今が幸せってよぉ、お前はそこらじゅうでチヤホヤされてるからな? 媚び売って寄ってくる奴らと一緒に富田も軽く思いやがって。お前何かが曇ってんじゃねぇのか?よく見ろよ、見えるだろ? 本物が目の前にあるんだぞ、掴まなきゃどうすんだよ。イミテーションにだまされてんじゃねぇよ。増田ぁフラフラしてんじゃねぇ!」



~~~~



「おまえ、あの成績だ。頭良いよな?」


願いを込めて聞いた。俺の言いたいこと、解ってくれたよな?


話していたら富田の家についた。


部屋に上がり、気合いの入った富田の顔を見て言った。






「ごめん、泣いて帰っちゃった」





次回 13話 稀有な2トップ

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