第2話  死んだ魚の目



回想的な話プロローグはここまでだ。


でも、まだ夏休みは続いている。家に帰っても俺の生活は続いている。何言ってんのかって?スキルだよ。


真実の眼を手に入れになってないんだよ。


スキルを手に入れ一日10回ほども頭にフラッシュバックが叩き込まれる。突然、脈絡もなくフラッシュが起きる。情報が重いと三秒程も放心状態になる。歩いている最中なら急停止する。


一日平均10回として、二週間で140回の放心状態で最大3秒の行動停止という異常事態だ。動きが止まって、目を見開いたまま静止するらしい。


「総菜を取る箸が止まって、目を見開いて何か気に障ったのかと思った」


驚いた顔で語るうちの母(総菜をスーパーで選ぶ母の姿がフラッシュバック)


明らかに難病だ。未知の難病。周りになんて説明するんだよ!


そんな悲観的な自分とラノベ脳の自分がせめぎあう。


・ラノベの主人公になっちゃった?

・実はみんなが突然スキル持ちに?

・こうしている間にもダンジョンがどこかに?


とワクワクが止まらない。当然、テンプレの「ステータス!」を連呼する。ステータスボードが出なくても叫び続ける。ありとあらゆる方法を試した。


何しても出ない。


ステータス何処行ったのよ、話が違うでしょ?どうしてくれんだよ、スキルが見えないよ。


だって実際にスキルを持ってる。ステータス出たらSPスキルポイントが貯まっていて、他のスキルが選ばれるのを待ってると思ったら叫ぶよ。


誰だって叫ぶよ「ステータス!」


起きたら速攻、魔物のニュースを探す。ネットをそれっぽい用語で検索する。タイムリミットで0時にダンジョンとか魔物が現れるかも?と待ち構える。ラノベの定番だ。


スキルあるんだ、当然あるはずパニック的な何か!部屋は食料と武器であふれかえった。ホームセンターのくぎ打ち機や刃物コーナーで物思いにふけるだろ?誰だって身を守ろうとするはずだ。


中学時代愛用のバットに釘を打ち込み攻撃力+64(本)親が見たら卒倒モノだ。


タイムリミットが近い。誰だってそう思うよ。


・・・・


最初の三カ月はマジ大変だった。


魔物を見た瞬間にフラッシュバックが起こると突っ立っている俺は一番危ない。突然来るフラッシュバックをコントロールしようと七転八倒。


これを視る、アレを視たいという選択性がまるでない。


見たいものが視えるのではない。


唐突に知らされる、見せられる。


テレパシー能力を手に入れた主人公が人々の心の声を意図せず拾ってしまうアレである。


例えば、海の家事件の翌日よりこんな感じに視えるのだ。


・バリバリ音の暴走族に目をやると先輩から無理に買わされたバイクが視える。(海だから夜に来るのよ)


・水着の女の子が視界に入るとと唐突に視える。


・かわいいを見て、いい感じ!と思ったら二股掛けているのがカットインで視える。


それはバイト明けに家に帰っても治らない。


・綺麗なお姉さんがバスに乗ってきたなと思ったら出がけに同棲している彼氏に襲われている痴態ちたいが視えて解けた瞬間に奇声を上げる。


・授業中に指された女生徒を見たら男子の机に抱きついて頬擦ほおずりするのが視えてドン引きした。


・ツレの机で一緒に弁当を食べようと、女子の空椅子からいすを引き寄せた瞬間、座面に抱きつく男子が視えた。


俺自身の問題もある。


横断歩道で突っ立つ行動停止。信号待ちで歩きだした目撃者の前で忘れ物を突然思い出した!を装って来た道をダッシュだぞ。ホント困る。


脈絡のないイメージが突然に視える。

視えない方が幸せなこともある。人間の業の深さと抑圧されたリビドーの解放。神経がゴリゴリとすり減っていき人間不信・・・までは行かなかった。


する映像もフラッシュバックするからだ。


・陸上部が頑張っているなぁと目をやると、おばあちゃんがシューズ袋にレンゲ草の刺繍を入れているのが視える。


・下級生かなぁ?と廊下のを見ると彼女目当ての男子が何人も視える。


・弁当を食べているを視界に入れた途端に男子に渡すつもりのクッキーを焼いているのが視える。(知ってしまった俺のヤキモキ感はどうしてくれる)結果:友達と食べていた。


・行き遅れと噂の有る美術の先生が教壇に立った瞬間、プロポーズされて泣いているのが視える。(感動のシーンを強制的に視せられ、不覚にもポロっと出た)


・生徒会行事で話している男女を視界に入れると、お互いの積み上げてきた思い出が視える。(おまえら思い出に相手しか入ってないぞ!両想いなら早くどうにかしろ!)


メンタルは急降下と急上昇を繰り返すジェットコースター。日常では静止状態でガンしせんを飛ばす挙動不審者。まだ高二なのに、躁鬱そううつ病がどんなのか心底分かったような気がする。


どんな状態でも、どんなに心配されても「立ちくらみ」で押し通る三カ月。寝不足でさぁ!と苦しい言い訳に、何回立ちくらみしてんだよ!とツッコミが入るようになり、小麦色の肌とマッチョにも関わらず、二つ名が貧血になった。


偽装、隠蔽いんぺい、逃げ口上みたいな怪しい能力が上がってないか心配である。


ステータス見えないから、どうしようもないんだよ。


・・・・


スキル取得から3か月が経った


冬の足音が迫る頃。そんな困った能力も任意でコントロール出来るようになっていた。静止状態も長くて1秒、通常なら0.5秒以下なので難病は発症していない。視界を希薄にし、任意のものをことさら認識することでスキル真実の眼を体得したのだ。


視界の焦点をずらす様に希薄きはくにするため、死んだ魚の目と二つ名もバージョンアップした。



真実の眼を手に入れ、死んだ魚の目になる面白スキルだ。




次回 3話 神側のスキル

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