スキル真実の眼で始まる俺の苦労は誰も分からない。

思預

第一章  異世界転生編

第1話  スキル真実の眼



プロローグはこうだ。


高校二年の夏、ガッポリ儲けるために、海の旅館の住み込みバイトを選んだ。


旅館に着くと、海の家でもローテーションで働くことになったのだが、早々に「直接販売に向いている」と言うオーナーのこじ付けでとなった。


「見た目が体育会系はこっち」とオーナーの目が語る。


海の家は旅館の前にある防波堤の向こうにコテージ(通称:マス席)、食堂、屋台スペース(かき氷:みたらし団子:とうもろこし:イカ焼き:氷で冷やした飲み物:レンタルグッズ:更衣室:シャワー室)をここまでやるか?と詰め込む大規模な海の家ならぬ海の館だ。


オーナーが店長で専属バイトの八人。全員がおそろいの短パン、Tシャツに毛筆体で「真砂屋まさごや」と旅館名がプリントされている。男子のTシャツは黄色、女子のTシャツはピンク。胸と背中の屋号が目立つがもう慣れた。


まぁそこは海の家、最初は暑いだのキツイとか思いましたとも。だが開放的な海!働き回って体は疲れても、心には張りがあり充実の日々を過ごしている。


みたらし団子を注文され、焼いている目の前にビキニのプリンが4つ並んでいたりするのはご褒美。


オーナーは海の家を伊達だてにやっていない。焼き場の高さや、かき氷機の高さ、妙に低い位置にあるドリンクボックスが絶妙な位置を占めている意味を深読みしてしまう。


「全部150円!好きなドリンクを氷の中から取ってねー」


深読みした俺は、オーナーと同じ計算にいろどられた言葉を掛けるのは言うまでもない。


平日は17時半までの営業、以後仕込みの量の確認とか売り上げ計算。店じまいして18時以後自由時間で泳げちゃう。晩の日課は30分泳いで旅館の大浴場に浸かり、食堂に用意してあるバイト飯(プレートに用意してあり、ごはんは太鼓のようなジャーから食べ放題)を食べる。


その後は夏休みの課題テキストをしていると、合流した同室のバイト仲間も教えてくれる。やっぱ高校と大学の現役学生だから的確なアドバイスでありがたい。旅館組のバイトとは時間が全然合わないので別室だ。話す機会が無いのが勿体ないな。


二週間も働いているとお互いに仲間意識が出来、女子バイト達とも「息を感じる?」と思われる距離で仲良くなる。


バイト上がりに泳いで砂浜を上がってくると、散歩で防波堤まで出ていた女子達から「神谷くーん、差し入れだよー」とアクエリオスの缶を投げてもらう。バイトで一番下と弟扱いしてくれて心地よい。最高だ!


土日は花火が上がる。夜9時までダダ混みで必死なのに、みんなが「自分の店を守るぞ!」みたいな変なテンションになって、店じまいが終わると「ウェーイ!」とハイタッチ。酔ったクレーマー以外は、大当たりのバイトだった。



そんな浮かれた気分で過ごす日々。レジの現金が無くなった。



バイトの旅館チームは除き、海の家チーム八人が旅館の事務所前にある宿直室に集められ1名ずつ呼び出される。基本的に休日は雨の日だけ四人交代で回す。今日は晴れ。全員が容疑者だった。


その日は、調理場担当でレジに一番遠く、レジの金など他人事のように思っていたのだが、いざ売り上げが盗まれたと聞くと「疑われませんように」と神に祈る気持ちになっていた。


疑われた瞬間に、居心地の良い自分の場所を失ってしまう恐怖にさらされた。思い出しながらの時系列の説明。恐怖に焦るほど変な汗が出て顔色が悪くなっていく。


オーナーの目がその変化を見ていた。


俺の顔色を伺うオーナーの問い詰めが2度目となり、言葉が厳しさを増した時にそれは起こった。



ピコン「スキル:真実の眼を獲得しました」



え?と思う間もなく、事件の一連の映像が頭の中にフラッシュバックした。誰がお金を盗ったのか。隠しているシーンが要点のみ走馬灯のように流れる。


違う!そんな生易しい映像が流れる感じじゃない。要点と言うか、概要が直接頭に叩き込まれる感覚。映像のフラッシュバックはそれを追っかけて追確認ついかくにん


知ってしまった要点の確認でそれを見てるような映像がフラッシュバックする。実際に映像を確認しなくてもそれが誰だか分かってしまっている。


売り上げが無くなったことも知らなかった俺が、実際に見ていない場所、居なかった場所を映像で知り、その事件を瞬時に理解した。


その日の店じまいの動きを詳細にオーナーに説明すること二回目の途中でそれが起こった。



「神谷君?・・・続けて!」


「神谷君!・・・」


これ、どうやって犯人を教えるんだよ?と考えながら一度目と同じ言葉を紡ぐ。


「・・・それから外に出て、貸しパラソル、ボール、ボートを倉庫に移動し、扉の施錠を確認して鍵をロッカーへ戻した後はマス席の雨戸を閉める手伝いを・・・」


俺は話を止めた。


「話を続けてくれるかな?」オーナーが先を促す。


「ちょっと確かめたい事があります。いいですか?」


断りを入れ、海の家の方向へ目線で誘ってみた。


「ん、何か思い出したかね?」


怪訝けげんな顔のオーナーを外に促す。


そのまま二人で海の家の厨房の棚に向かい、扉を開けて並ぶ缶の奥から分厚い現金を出した。


ご丁寧に俺の担当かよ! 店仕舞いに行った隙に・・・皆が早く上がろうと、確かに周りは見てねぇわ。例え見つかっても俺だけ高校生だもんなぁ。ふざけんなよバカ野郎!怒りが沸々と込み上げるが噛み殺す。


数えてみると43万円だった。

そのお金の前で顔を見合わす二人。


「この棚でゴソゴソしているチーフを思い出しました」と伝えるとオーナーは残念そうにうなずいた。


翌日、ホールを仕切る大学生の姿は無かった。


事件を機に仲間のモチベは冷えたが、お盆に突入しお客は次々と来る。嫌な話を引きずる暇はなかった。それ以前に突然映像を叩き込まれるスキルに振り回される毎日となったからだ。


俺のバイトはお盆後の日曜日まで。後を大学生バイトにたくし高二の夏は終わった。



プロローグはこんな感じなんだよね(笑)



次回 2話 死んだ魚の目

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                   思預しよ


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