Epilogue
長谷川絵里
私の名前は
何不自由なに家庭に産まれ、両親からは限りない愛情を貰えました。
そんな私ですが……幼稚園児の頃、とある病気で入院する事になりました。
その頃の記憶が曖昧であまり覚えてはいませんが……とにかくお母さんが泣いていた記憶だけあります。
あれから一年後。
私は何とか病気が弱くなり、退院して家に帰って来れました。
しかし、常に薬を飲み続ける生活をしなくちゃいけなくなりました。
数か月。
私は家で平和に暮らせましたが、外に出る事は出来ませんでした。
丁度外は入学式の声が聞こえ始めました。
窓の外に、色んな色のランドセルが見え始め、幼稚園で見知ってる顔もちらほら見えていました。
それから半年。
薬の生活も空しく、私の病気は再発しました。
◇
現在、私は十二歳になりました。
学年で言えば、小学六年生で間もなく中学生になりました。
しかし、私は一度も学校に行けませんでした。
私達の家は元々都会に住んでいたのですが、都会より少し田舎の方が身体に良いからと、田舎にある病院に入りました。
この病院には私の病気に詳しいお医者さんもいらっしゃいますが……残念ながら私が治る事はありませんでした。
外には小さい雪が降っています。
私も……そろそろこの
春が来ました。
病気さえなければ、今頃、私は可愛い制服を着て、お友達と一緒に中学校に行っていた事でしょう…………でもそれはただの夢。
既にやせ細った身体では歩く事もままならず、昔あったはずの髪の毛も、今はありません。
お母さんからは綺麗な黒髪だったと教えて貰いましたが、写真は見せて貰えませんでした。
数日後。
私もまだ中学校に在籍しているとの通知が来ました。
まだ顔も見た事ないクラスメイト達から『元気になって教室で会いましょう』なんて書かれた手紙を頂きました。
彼らに取ったらただの行事だったかも知れません。ですが……私にとってはかけがえのない宝になりました。
常に見える所に飾って置いて、元気を貰う事にします。
数日後。
私宛に学校のプリント物が届きました。
お母さんに頼んで、全てのプリントの中身を読んで貰いました。
みんなには何てない事のない内容かも知れないけれど……私にとっては新しい世界のワクワクするような内容に心躍りました。
それから毎日プリントが届きました。
どうやらクラスメイトの男子が届けてくれているようで、毎日同じ子が届けてくれていると看護師さんから言われました。
あまりイケメンではなく、冴えない感じの子だったから残念ね~なんて言われましたが、イケメンが何なのかは分かりません。でも一つだけ分かる事はあります。その子はきっと……優しい人なのでしょう。
顔も見た事ない私の為に、毎日プリントを届けてくれていますから。
晴れの日も、雨の日も、彼は毎日プリントを届けてくれました。たったの一日も欠かす事なく、毎日。更には雪が降り始めても毎日届けてくれました。
彼には感謝しかありません……。
実は窓から彼を見つける事が出来ました。
遠くて顔はよく見てませんが、きっとあの子なのだろうなと……毎日病院に出入りする男子中学生を見つけていました。
そんな冬が終わりを迎えた頃。
私に衝撃的な連絡が来ました。
毎日プリントを届けてくれる子が、二年生になり、クラスが変わると……もう届けに来れないという事です。
あまりのショックに……私はその日から病気が急速に悪化しました。
◇
はぁはぁ……
もういやぁ……
苦しい……
お願い……私を…………解放して…………
でも……
あの子がまた来てくれるんじゃ……
こんなところで……立ち止まりたくない……
でも……
辛いよぉ……
誰か……
助けてよぉ……
◇
目が覚めた時。
私の前には泣き喜ぶお母さんとお父さんがいました。
そして、学校から今でも毎日プリントが届いていると、嬉しそうに言ってくれました。
ああ……まだ私の為に毎日…………ありがとう。
それからまた以前の生活が続きました。
そんなある日。
彼からプリントと共に、とある物が届きました。
実は……ここ数日間、プリントが届かなかったのです。
すごく心配していたんですが、お母さんは楽しみにしておいてとしか言いませんでしたから、とても楽しみでした。
そして届いた物が遂に私の目の前に届きました。
既に部屋にはお母さんも立ち入りが出来ず、部屋の窓越しでしか話せないのに、届き物を懸命に除菌してくださって、私の部屋の中に入れてくれました。
私の前に届いた物。
それは――――アルバムでした。
アルバムを開くと、そこには『修学旅行の思い出』という見出しから、沢山の写真が写っていました。
ああ……彼は修学旅行に行っていたんですね……そうか、だから暫くプリントが届かなかった日があったんですね。
嫌われてない事に一安心しながら、アルバムをめくる。
面白い写真が沢山で、クスクスを笑ってしまいました。
そんな中、
妙に一人だけ気を引く男の子がいました。
どうしてでしょう。
私は直感で、彼が毎日プリントを届けてくれる男の子なのだと分かりました。
そして、最後にクラス全員の顔写真と名前が並んでいました。
ああ……やっぱり君がれいとくんなんだね……。
私にとってはイケメンだとか、冴えないとか良く分からない。でも君の顔からは……優しさを感じられるよ。
それからまた毎日プリントが届きました。
最近では窓越しですが、毎日おはようとさようならと言うようにしています。
数か月が経ち、今度は三年生になる年が来ましたが、今年も『運』が良いようで、またれいとくんがプリントと届けてくれました。
今年も一年、よろしくね。
◇
「伊丹先生……絵里は…………絵里は安らかに……っ…………」
「はい……長年よく頑張ってくれました…………彼女には多くの者が勇気を貰いました。彼女のおかげで、今も頑張っている患者さんも多い…………彼女もきっと天国で安らかに暮らす事でしょう……」
その日。
病院には一組の夫婦の鳴き声が響いた。
その日は、奇しくも、高校生になり、不登校からネットゲームを始めた日だった。
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