第27話 お店
【ね、ねぇ……ペインくん?】
「ん? どうした?」
【……えっとさ、店の名前……やっぱり変えない?】
「えっ!? …………ごめん、出来ればこの名前にしたいんだ」
クロエがなんだかものすごく恥ずかしがってるけど、どうしたんだ?
唸りながら向こうに走り去ってしまった。
俺達の新しい店の『はっしー』が完成した。
開店まではあと数日掛かるけど、既に完成している店を見る度に胸の奥が熱くなる。
セリナの指導で、子供達が店員の練習をしている。
年長組は俺からの指導が終わり、今度はイリヤから指導を受けている。恐らく、そこら辺の冒険者より強いかも知れない。
クロエはポーションを作りつつ、『錬金術』を使って色んな物を使っているみたい。
最近では某猫型ロボットみたいに、『アイテムボックス』から見た事もないようなアイテムを次々取り出しては見せてくれていた。
これってもしかして……いつか「クロエも~ん、あれ出してよ~」と言うと出してくれそうな勢いだ。
取り敢えず、そんな事は置いておいて、以前土地を買う為に訪れた商会ギルドから、商売の許可は取ってある。
盗賊ギルドの件もあって、商会ギルドからは登録費用や、税金まで無しにして貰った。後ろから睨みを効かせていたイリヤのおかげもあるかも知れないけど……。
既に町中や冒険者ギルドに、『ポーション』の販売の連絡をしている。
ポーションは回復魔法を持っていないパーティーには非常に大事な物で、必須品なだけあってものすごく喜ばれた。
市販のポーションも安価の物が多いので、荒稼ぎにはならないだろうけど、うちの女性陣が作っただけあって効果も数倍高かったので、在庫は直ぐに売れるだろうね。
値段は誤解を生まないように、市販のポーションより二倍程高い値段だ。効果が数倍高いので問題ないだろうけど、これで市販のポーションの商売も邪魔にはならないと思う。
それとうちの店は基本的に『ポーション』を主軸に売る店ではあるが、セリナと子供達で作ったオリジナルクッキーも売る事にしている。
クロエの
作る材料もそれ程高くもなく、材料を大量に買い占めて倉庫内に入れて置いた。
今では暇があれば、子供達が率先して作ったりしている。
俺も子供達が作ってくれるクッキーが楽しみだったりするのだ。
それともう一つ。
うちの店の一角に、アリスちゃんの工房が出来た。
俺が店を出すと話すと、絶対に流行るからと彼女のお店の武具を一緒に売らせて欲しいと頼まれた。
俺がアリスちゃんのお店に行ったのは、あくまでクロエの案内があったからだ。もし、あれがなければあの店には行ってないだろう。
それくらいあのお店の立地は良くない。
アリスちゃんもその点を常に気にしていたそうだ。
だから、集客が見込めるうちに販売場所を移動させたいとの事だ。
彼女のお父さんとも相談して、以前あったお店は一旦休みという事にし、そのまま武具を作って貰い、うちの店の一角で売る事になった。
その時、初めて知った事なんだけど、俺が激安で買った武器『ダーインスレイヴ』は、実は宣伝の意味もあっての事だったそうだ。
立地の悪さに売れない物をいつまでも置いておくのは武器が勿体ないと考えたそうだ。そこで偶々現れた俺をアリスちゃんの勘で「この人になら売っても問題ない」と売ってくれていたそうだ。
本当に……『運』が良かったとしか思えない。
でもアリスちゃんからは「寧ろ私達の方が運が良かったかも! これでモテモテお兄ちゃんのお店で売れるようになったんだから」と……モテモテお兄ちゃんと呼ぶのはいい加減辞めて欲しいんだけどな……。
◇
数日が経過した。
そして――――。
「「「いらっしゃいませ!」」」
店の扉が開いて、可愛らしい服を着た子供達が挨拶をした。
直ぐに冒険者と思われる人達が数人入って来る。
子供達は慣れた仕草で直ぐに案内をして、『ポーション』がどんどん売れていた。
更に、アリスちゃんの売り込みに反応した冒険者がアリスちゃん工房から武器を買っては、とても喜んでいた。
あんなに素晴らしい武器が売れない事が不思議なくらいだからね。
開店時間はお昼まで。
お昼からは閉店して、子供達の勉強や遊びの時間になっている。
訪れたお客様達がみんな満足げに帰って行ったので、明日にはもっと増えるかもしれないね。
その日の夕方。
俺達は孤児院内で沢山の食べ物を前にした。
「こほん、では――――初めての開店お疲れ様! 乾杯!!」
「「「乾杯ー!!!」」」
一切酒はないけど、俺達と子供達の乾杯の声が響いた。
「いや~お兄ちゃんのおかげで武器も沢山売れたよ!」
「それは良かった! アリスちゃんのところの武器はもっと評価されるべきだと思うからね」
「えへへ、お父さんも口には出さないけど、喜んでくれているよ~」
隣に座って黙々と食べているアリスちゃんのお父さん。
どうやらセリナが作ってくれた食事が気に入ったようで、冷静を装いつつも、次々食べ尽くしていた。
そこら辺のレストランよりもずっと美味しいもんな。
「お兄ちゃん! 今日案内いっぱいしたよ!」
子供達が嬉しそうに報告に来てくれた。
「ああ、見ていたよ。みんな、とても頑張っていたね。偉い偉い~」
子供達の頭を撫でていく。
頭を撫でられた子供達が喜んでくれるので、こちらまで嬉しくなる。
「あら、ペインくん。私も頑張ったのよ?」
「へ? も、もちろんだよ! セリナもとても頑張っていたよね」
それからじーっと俺を見つめるセリナ。
「むぅ……」
ん?
……。
……。
セリナがひょいっと頭を前に出す。
あっ……これって…………。
俺は手を伸ばし、セリナの頭を優しく撫でる。
満足した表情になるセリナ。
直後、衝撃的な言葉が子供達の中から飛び出した。
「頑張ったママを褒めるパパみたい~」
その言葉に、ガバッ! って音が二つ。
あはは…………イリヤもクロエもそんな怖い顔しないでよ。
子供達のいたずら言葉だから気にしちゃ駄目だよ。
イリヤもクロエも色々頑張ってくれた事を言ってくれた。
うんうん、みんな偉い偉い。
クロエは撫でれないけど、今度何処かにデートに出掛けようという事で決着が着いた。
「ふふっ、これでセリナママを自然に押し付けれたわね」
「さすがだったよ、ミリちゃん。ペインパパをセリナママにくっつける作戦。これからも頑張ろうね」
「うん! サラちゃんも頭撫でて貰う作戦ありがとう! セリナママを誘導出来たのは大きいわ!」
「えへへ、イリヤお姉ちゃんとクロエお姉ちゃんには悪いけど……ペインパパはセリナママにこそ相応しいからね! みんなも頑張ろう!」
「「「おー!!」」」
ペイン、クロエ、イリヤ、そしてセリナ当人ですら知らない『ペインとセリナをくっつけて結婚させよう作戦』が孤児院で広がっていた事を、彼らは誰も知らない。
◇
数日後。
「おいおい! 昨日買った『ポーション』、全然効き目なかったぞ! この店は詐欺の店だぞ!!」
一人の男が店内にズカズカ入って来ては、大声で叫び始めた。
「お客様? どういった事でしょう?」
「は? お前らの所で買ったこの『ポーション』! 全く効き目なかったぞ! 普通のポーションよりも高いのに効き目ないとか詐欺だろう!!」
男が持っていた空き瓶は確かにうちのポーション瓶だった。
ただ……効果が無かったと言っているが、そんな事はないはずだ。
販売する前に、クロエが必ず『鑑定眼』で選別しているからね。
少しでも合格点以下の『ポーション』はそもそも販売すらしないのだ。まぁ合格点を下回るポーションは今のところ、一つもないけどね。
「こんな不良品を売りつけるなんて、クソな店だ!」
と言いながら、男は隣にいた子供店員に殴りかかった。
直後、年長組の護衛の一人が素早く動き、男の殴る腕を止め、そのままねじり倒した。
「い、痛てぇ!」
男の骨が折れたのが分かる程に鈍い音が聞こえた。
「お客様、店内での暴力は排除させて頂きます。ですが、どうやら当店の『ポーション』が不良品と仰っておりましたから……当店で売っている『ポーション』がどれ程効き目があるかお見せしましょう」
それからイリヤが持って来た『ポーション』を男に掛ける。
見る見る折れた腕が元に戻る。
その様子に店内の多くの冒険者から歓声が上がった。
そして、
「あら? お客様、どうやら足も怪我なさっているようですね?」
と言ったイリヤは、男の足を触る振りをして、男の足を砕いた。
うわ……痛そう…………男もあまりの痛みで悲鳴をあげている。
「では当店の自慢の『ポーション』を試してみましょう」
イリヤが『ポーション』を掛けると、見る見る砕けた足が元に戻った。
男は既にボロボロ泣いている。余程痛かったんだろうな……。
「あら? お客様――――肩が悪いみたいですね?」
そして――――――。
「も、申し訳ございませんでした! 全てはヘンリ商会からの差し金でございます! どうか許してください! もう痛いのは勘弁してください!!」
イリヤに幾つかの骨を砕かれた男がボロボロ泣きながら店の中で土下座して謝り始めた。
あまりお客様の前でこういうのは良くないけど……この世界ではこういった嫌がらせをする事が多いと聞く。
だから、パフォーマンスも込みでここまでやって、本人から自白させる方向にしたのだ。
ヘンリ商会か…………誰?
この日を境に、うちの店を脅しに来る馬鹿はいなかった。
それと噂ではヘンリ商会が潰れたって噂を聞いている。
俺達は何もしていないけど、あの一件から冒険者達からの信頼を無くして、物が全く売れなくなったらしい。
自業自得だよね。
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