第26話 彼女と爆弾

 その頃。


 エルドラ街の東側にある廃墟では異変が起きていた。


 何もないはずの古代遺跡。


 遺跡の奥からどす黒い煙が上がり始めた。


 誰にも気づく事なく、ゆっくりとそれ・・は立ち上がり始めていた。




 ◇




 目が覚めたらベッドの上だった。


 ん……確か……アンドレスさんと稽古で…………。


 と、隣を見渡すと、セリナとイリヤが笑みを浮かべてこちらを見つめていて、その隣には泣きそうなクロエがいた。


「お、おはよう?」


「ふふっ、もう夜だよ? これで安心して良さそうね」


「そうね、セリナちゃん。ありがとう。」


「いえいえ! では私は夕飯の準備に行くね?」


「は~い、お願いします」


 セリナが部屋から出て行く。


「あれ? クロエは何で泣きそうなの? 喧嘩でもしたの?」


【っ! 違うよ! 作業を終えて来てみたら……ペインくんが倒れていたから…………それに私の声はイリヤちゃん達に届かないから……】


「そっか、アンドレスさんと稽古で気を失っていたっけ…………ごめんな」


【ううん、ちゃんと元気になったんならいいよ】


「イリヤもありがとう」


「ふふっ、アンドレス様との初めての稽古で無事・・なのはペインくんくらいだよ。きっと運がよかったのかしら」


「あはは……そうかも知れないな。あの人、ものすごく強かったな……」


「それはそうよ。なんたって、王国から称号『騎士王』を賜るくらい凄い方なんだから」


「き、騎士王!? そんな凄い方だったんだ……」


「そうよ? 隣国からは『絶望』として恐れられているって話だからね」


 ぜ、絶望……他国からそう言われるのは中々凄いな……。


「それはそうと、クロエちゃんはどうして泣きそうだったの?」


「んとね、作業を終えて来てみたら、俺が倒れていたから――――そうだよ」


「ふふっ、私達にはクロエちゃんが見えないから、全く気付かなかったわ。今度はちゃんと気を付けます!」


「よろしくね」


 ますます困惑した表情のクロエ。


 そんな心配してくれるクロエは可愛らしい。


「あ、そう言えば、クロエはずっと何をしていたんだ?」


【あっ! そうだ。これを作っていたの!】


 クロエは黒くて小さく丸い物体を取り出した。


 大きさは成人男性の拳くらいの大きさのそれは――――


「えっ!? 爆弾!?」


【うん! 小型爆弾だよ!」


「いやいや、いきなり爆弾!? しかもこれってどこかで見た事ある形だし……」


【えへへ、魔物が押し寄せて来た時の為に作っているんだ。あとは大きな魔物とか】


「魔物の大軍か大型魔物か……実際そういう魔物が来る可能性があるって事?」


【うん。以前にも話した事あると思うんだけど、北にある山脈の向こうに大型魔物が住んでいるから、それに備えてって感じかな? 明日性能を試してみたいのでお願いね?】


「う、うん。分かった。明日何処かに投げてみよう」


 俺とイリヤ、クロエはそのままセリナの所に行き、夕食を共にした。




 次の日。


 クロエが作った小型爆弾を試すため、誰もいない東側の元盗賊ギルドのアジトがあった廃墟にやって来た。


「可愛らしいのに、爆発するのね……それ」


 俺が手に持っている小型爆弾をセリナが指でツンツン突く。


「クロエ、これはどれくらいの規模で爆発するの?」


【ん~大型魔物に傷付けれるくらいかな?】


「……大型魔物の大きさが分からないからな…………まあいっか、取り敢えず使ってみよう」


 クロエに教わった通り、投げるまでに小型爆弾の上にある紐を抜いた。


 そして、向こうに思いっきり投げ込んだ。


 綺麗な放物線を描いて投げられた小型爆弾は、俺達の遥か向こうに消えていった。


 そして。






 ドカーーーーン






 音の後、強烈な爆風が周囲に広がった。


 向こうは大地ごと真っ赤な爆炎に包まれていた。


「うん。クロエ。これは封印ね」


【えっ!?】


「そうね……ちょっと……強すぎるわね……」


「クロエちゃんには申し訳ないけど、私もペインくんとイリヤちゃんに同意かな……」


 俺とイリヤ、セリナは燃え盛る爆炎を見つめ、放心状態となった。


 その隣には肩を落としたクロエがいた。




 どうやらこの爆弾はクロエのスキル『錬金術』によるものだったみたい。


 先日覚えたこのスキルで、俺の役に立てると思ったらしくて、作り始めたのが、この小型爆弾。


 小型なのに殺傷能力が強すぎてお蔵入りとなった。


 が、既に三十個ほど作ってしまったらしくて、それは俺の『アイテムボックス』の中にじっとしまうことにした。


 …………これだけで王国一つ制圧出来るかもと言っていたイリヤの乾いた笑顔に、俺は見て見ぬふりをした。


 そんなクロエの努力も空しく、小型爆弾は失敗(?)に終わったのだが、『錬金術』という言葉で意外な発展があった。




「ペインくん。少しクロエちゃんと話がしたいんだけど、いいかな?」


「ん? いいけど……クロエは大丈夫?」


【へ? う、うん! 大丈夫だよ!】


 落ちこんで目が死にかけていたクロエだったが、どうやらセリナが話したい事があるらしい。


「えっとね、あんな凄いモノが作れるって事は、クロエちゃんの『錬金術』は『錬金術』の中でもかなり上位だと思うの」


【そ、そうなのかな?】


「だから、折角なら、壊すモノよりポーション回復薬を作ってみてはどうかな?」


【ポーション?】「ポーション?」


「ええ、ポーションは需要も多くて、人の役にも立てるし、良い事ばかりだと思うの」


「ポーションいいわね! クロエちゃんが『錬金術』を使えるなら、ポーションを作って貰って、それを孤児院で販売すれば、子供達も楽しいかも」


【!? それ! やってみたい! お店とか出してみたい!】


 クロエがものすごい勢いで食いついた。


「そう言えば、以前貰った土地に空き地があったから、そこに工場を作って『ポーション』を作るのもいいかもね」



 こうして、俺の提案で空き地に工場用建物を建てる事となった。


 その間、クロエは『ポーション』の原液を大量に作る事になり、イリヤは毎日原液用素材の買い出しに回った。


 イリヤが買って来た素材に、セリナが祈りで『浄化』を行う事で、その素材を使った『ポーション』は更なる効果アップが期待出来た。


 こうして、イリヤからセリナに、セリナからクロエに繋がるようにして『ポーション』作りを始める事となった。


 新しい商売だったり、世の中に役に立てたりと良い事尽くしではあるんだけど、俺的には彼女が友人達と一生懸命に何かに取り組む姿が嬉しかった。


 俺は子供達の中でも年長組の男子を集め、護衛術を仕込んだ。


 店番とか、ガラの悪いやつも多いからね。


 途中途中、クロエのマップを使って年長組のレベリングも行った。



 そんな慌ただしい三か月は、あっという間に過ぎ、俺達の新しい店『はっしー』が開店間近となっていた。

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