彼女 LV.9

第25話 彼氏と騎士王

あけましておめでとうございます! 今年は去年以上に執筆を頑張って行きますので、これからも相変わらずの応援の程、よろしくお願いします!

――――――



「ペインくん」


「は、はいっ」


「もし良ければ、俺とお手合わせお願い出来るかな?」


「えっ? は、はいっ!」


 変な言い争いをしているイリヤとセリナを置いといて、俺とアンドレスさんは庭に出て来た。


 俺は『アイテムボックス』から木剣を取り出し、アンドレスさんにも渡す。


 それを見たアンドレスさんは驚いたけど、それについては何も聞いてはこなかった。



「ペインくん。俺はイリヤちゃんよりも強いぞ?」


「えっ!?」


「だから、遠慮せず掛かって来なさい」


 直後、今まで感じた事もない殺気が俺を襲った。


 立っているだけでやっとで、足と手が震える。


 アンドレスさんの後方からは、見えてないはずの恐怖が見えていた。




「それで、イリヤを守れると?」




 アンドレスさんの声が俺の震える心に刺さった。


 俺は彼女クロエを守りたい。


 でも、守りたいのは彼女だけではない。


 一緒に楽しく暮らしている孤児院の子供達も、セリナも、……イリヤも。


 みんなと一緒に行きていたい。


 俺の事、我が儘という人もいるかも知れない。


 でも、折角掴んだ幸せなんだ。


 絶対捨てたくない。


 だから…………俺は絶対に守る。


 以前のような……ただ貰ってばかりで、周りに流されるだけの存在にはならない!




 俺は歯を食いしばった。


 怖い。


 でも…………。




「守れない事が、もっと怖い!!!!」




 気が付けば、俺は叫んでいた。


 そして、全力でアンドレスさんに剣を振るった。


 数回木剣同士がぶつかる。


 無我夢中でアンドレスさんに剣を振るっているけど、頭の中は意外にも冷静だ。


 アンドレスさんの動きの一つ一つに意識を集中させる。


 クロエを、イリヤを、セリナを、みんなを守りたい。


 だから、アンドレスさんの動き一つ見逃さないように冷静に対処する。


 更に数回木剣同士がぶつかった。


 ――――そして。


 ボギッ!


 木剣が折れる音がした。


 一瞬距離が離れたら、構えを緩めない。


 そして、アンドレスさんの木剣が折れたのを確認する。


 ……。


 ……。


 ……。


「ふぅ……これで――――」


 終わりですね、と言うつもりだった。


 しかし。


 視界に移っていたアンドレスさんの身体が一瞬で消えた。



 ドゴッ!



 音が聞こえ、俺は宙を舞う。


 そして、遥か遠くで吹き飛ばされた。


「剣が折れたくらいで、油断するとは、まだまだだな、ペインくん」


「ぐ、ぐは…………は、速すぎて……見えません……でした」


「ふふっ、俺の得意な『縮地打』という技だよ……そうか、それを喰らっても、まだ意識を保てるのか」


「はぁはぁ……」


 腹に強烈な痛みがあり、寧ろ痛いのおかげで意識を保てたというべきだろうか。


 俺は腹を抑えて、起き上がる。


 たった一撃で、ここまでのダメージが……。



 アンドレスさんがゆっくりと近づいてきた。


 そして。


「まさか……俺の渾身の一撃を耐えれる男がいるとは思わなかったよ。君にならイリヤちゃんを任せても問題なさそうだ」


 アンドレスさんは手を前に出した。


 俺はその手を握り返した。


「ありがとう……ございます……」


「ああ、これからもイリヤちゃんをよろしく頼む」


 俺はその声を最後に意識を失った。




 ◇




 私とセリナちゃんが言い合いになっていた間に、二人はお手合わせをしていたみたい。


 私達が庭に出た時には、既に木剣がぶつかり合っていた。


 ペインくんも既に高いレベルの実力を持っていて、アンドレス様に何とか追いつけていた。


 数合木剣が交わると、やはり……アンドレス様の木剣が壊れた。


 あれは『運』のステータスがあまりに高いおかげで、クリティカルヒットが出続ける所為だ。


 直後、少し気を緩めたペインくんに、アンドレス様得意の『縮地打』を押し込んだ。


 私も、多くの騎士達にもあの技には何度も泣かされている。


 全く見えないくらい速い上に、とんでもない威力だからだ。


 それでも、ペインくんは気を失う事なく、立ち上がった。


 アンドレス様との握手を終えたペインくんはそのまま気を失った。


 私とセリナちゃんは急いで彼に駆け寄って、看病を行った。




「イリヤちゃん、良い人を見つけたな」


「アンドレス様……はい。彼は私を一人の人として見てくださいますから」


「ああ、彼の真っすぐな思いは受け取った。これなら……心配せず任せられる。それにしても――」


「それにしても?」


「どうやらもう一人の美人さんが付いているようだが?」


「ふふっ、セリナちゃんもペインくんに惚れたんです」


「ふむ……俺としてはイリヤちゃんには、思う存分一人の男性に愛されて欲しいのだが……」


「ふふっ、実はもう一人いるんですよ?」


「な、なに!? 三人も……!?」


「三人というか……実の彼女が既に一人いらして……私とセリナちゃんは一方的に好いてるだけですから」


 アンドレス様が驚いた表情をする。


「でも、大丈夫です。ペインくんは一人の女性が一人占め出来る男ではありませんから。これから彼女と共に、セリナちゃんと一緒に支えたいなと思ってます」


「…………そうか、既にそう思っているなら仕方あるまい」


「アンドレス様……ありがとうございます、わざわざこんな辺境の地までお越しくださった事も……」


「なに、イリヤちゃんが心配になったのもそうだが、イリヤちゃんを変えた男というのが、どういう男なのか一目見たかったのも事実だから、それにしても……ちゃんと話せるようになって嬉しいよ」


 アンドレス様はそう言いながら、私の頭を優しく撫でてくださった。


「ふふっ、最近……漸く他人と話せるようになりました。これも……全てペインくんのおかげです」


「ああ、あの男の不思議と真っすぐな目は、本物なのだろう。しかしだな」


「??」


「もし、あやつに酷い事をされたら直ぐに言うのだぞ? 直ぐに駆け付けよう」


「ふふっ、分かりました。でもそんな心配ありませんよ」




 アンドレス様。


 王国の最強騎士として、称号『騎士王』を持っているとても偉い方で、私を幼い頃から守ってくださった心優しいお方だ。


 何とかペインくんも気に入られたようで、本当に良かったと思う。


 アンドレス様は次の戦争が近いからと、直ぐに王都へ発ってしまわれた。


 風のように現れ、風のように去っていく。


 まさに騎士王様らしい行動だ。


 私は眠っている彼の元に向かった。




 ◇




【えええええ!? ペ、ペインくん!? 何でそんなにボロボロになっているの!?】


 クロエはベッドに寝ているペインを見つけてオドオドしていた。


 ベッドの隣にはセリナが回復魔法を終えて、イリヤと一緒に看病してる。


 残念な事に、クロエの事は二人には見えず、聞こえないので答える事はない。


【ううう……私があれに集中していたばかりに……ど、どうしよう…………】


 クロエは久しぶりに一人の孤独を感じるのだった。



 そんなクロエだったが、直ぐに頭にアナウンスが流れた。


 - スキル『彼女』のレベルが上昇しました。-


 - スキル――――――――


【っ!? こ、これは……!?】

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