思い出
伊丹玲斗③
※RMTは違法ではないので、現実世界で逮捕される事はありませんが、そういう描写を描きたい為、逮捕を書いております。
「おい! ハル! お前……
俺はクランのリーダーであり……親友だと思っていたハルに問い詰めた。
「…………ああ、やっているよ」
「くっ!? どうして!」
「…………このゲームはユーザーから搾取する事しか考えていなかった。プレイは無料と言いながら、課金アイテムがはびこっている……それでもドロップするレア品の方が性能が強いと言い、ありえないドロップ率でどんどん課金させる…………そんなクソみたいな運営に一泡吹かせる存在を見つけた。それがお前だ。イタミ」
ハルはいつもの楽しそうな口調は全くなく、淡々と話し始めた。
「お前のドロップ率には本当に驚いたよ。あの運営が調査した結果、チートでもハッキングでもないと言うんだから大したもんだ。本当に……お前は『運』だけはいいよな」
ハルの『運』だけはいいという言葉が俺の心に刺さった。
自覚はしている。
俺は誰かと共同で何かをするにはあまりにも向いてない。
それでも……ハルは根気強く俺に声を掛けてくれて、どんどん引っ張ってくれて……だから次第に眩しいハルに憧れ始めて…………親友だと思っていたし、親友だとお互いに言っていたはずだ。
「だが、これも間もなく終わりだ。お前が出してくれたレア品のおかげで、運営はますますドロップ率を下げてユーザー離れが深刻だ。更に現存するレア品がRTAで出回り始めている。そろそろ古参勢も離れるだろう。何せ……ヘヴンに入れた雑魚共が勝手に噂を流してくれるはずだからね」
雑魚共って…………新規メンバーたちの事だろうけど……確かに、彼らの噂話を俺が聞いてしまった。
ハルは……こうなる事を予想して今まで動いていたのか?
「なあ、イタミ。お前が俺
「そ、そんな…………だって……あんなに楽しそうに……」
「ああ、だがな、画面の向こうの俺達は誰一人笑ってなかった。俺達は全員……お前のドロップ率にしか目が行ってなかったよ。RMTの事も、運営に一泡吹かせるのも、俺だけの計画じゃない。俺達は全員……気づけば同じことをやっていたんだよ。うちにクラン『ヘヴン』で幸せにゲームをしていたのは…………お前一人なんだよ。イタミ」
ハルの言葉があまりにも衝撃的で、俺は画面を見る事が出来なくなった。
無我夢中で画面を消し、俺はトイレに駆け込んで全てを吐いた。
信じていた親友は、ただ俺を利用する為に近づいただけで……親友という事は全て嘘で……俺の居場所は『ヘブン』にはなくて…………ネットゲームの中にもなかった……。
◇
あれから半年が経った。
半年間、俺はネットゲームは一切していない。
ただボーっとネットを眺める毎日。
検索ワードに『心の傷』なんて検索していた時まである。
乗り越えるにはこうするああするって沢山のサイトに書いてあったが、何一つ解決にはならなかった。
それでも俺は居場所を求めて、ネットを彷徨っていた。
その時、とあるニュースが目に入った。
『
その見出しに俺は息を吸う事すら忘れ、時が止まったかのように見出しに釘付けになった。
「ゲホッ、ゲホッ」
息を忘れていて、むせてしまった。
我に返った俺は、恐る恐るページを開いた。
そして、数人の実名が並んでいた。
全員で七人……俺と常に一緒にチームを組んで狩りを行っていた七人が思い浮かんだ。
罪状を読むも、そこに書かれているアイテム名に間違いなく彼らの事だと確信した。
俺は…………ただ楽しく遊びたかったのに……どうしてこんな事になったんだろう……。
あれから、更に半年が経った。
俺が遊んでいたネットゲームは既に終わりに向かっていた。
今回の
そして、本日。
ネットゲームは新しい試みとして、課金システムも一新して、アイテムをドロップ方式にせず、モンスターを倒した回数方式にして、根気よく倒せば必ず手に入る仕組みに切り替え、課金でその回数を減らしたり、ドロップ装備より一回り弱い装備を課金で販売する方向で調整が行われた。
それにより、多くのユーザーが離れた。
以前のような一攫千金の気持ちを味わう事はもう出来ないからだ。
多くのユーザーが離れたネットゲームに、俺は久しぶりに帰って来た。
一年ぶりのログインに、泣きそうになりながらも、俺は目の前の名前の変わったキャラクターを見つめていた。
『イタミ』。
その名前のキャラクターがこのゲームに現れる日はもうないだろう。
俺は新しく『レイト』という名前でキャラクターを作った。
そして、一から始め、ゆっくりとネットゲームを楽しむ。
それから何年経ったんだろう。
このネットゲームの方向転換は大きな損失を産んだが、それと引き換えにかけがえのない物も産んだ。
それが、固定ユーザーである。
昨今、ドロップ運でしか戦えないネットゲームに、このネットゲームは『誰でも頑張れば報われるネットゲーム』という宣伝に多くの古参ユーザー達が惹かれたのだ。
俺もその一人だ。
しかも、何故かお母さんが固定額の課金をしてくれたのだ。
俺はそれから毎日ネットゲームを楽しんだ。
途中仲良くなったプレイヤーもいた。
名前が『はっしー』というやつで、とにかく馬が合うというか、何をするにも楽しかった。
お互いに我が儘を言う時もあったし、向こうのやりたい事をやる時もあったし、俺がやりたい事を手伝ってくれる時もあったな。
三年くらいだろうか。
あいつは、毎日こんな俺と楽しく遊んでくれて、今でも感謝している。
もし叶うなら、もう一度『はっしー』と遊んでみたいな。
俺は終わったネットゲームを最後にパソコンをただ見つめていた。
はっしーのやつ。
ネットゲームが終わったら、これからは真面目に生きて、彼女の一人くらい作れって……偉そうに…………。
でもやるよ。
俺、お前と過ごした三年間、本当に楽しくて。
だから、お前の期待を裏切りたくないんだ。
だから。
これから外に出て、普通に生きていくよ。
本当にありがとう。
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