第24話 団長と騎士王

 イリヤからステータスを上げてくれる指輪をワンセット貰えた。


 どうやら予備用だったらしいけど、効果は全く一緒で、上昇量も市販するのものでは一番高い効果らしい。


 確かに、全てのステータスが二段階も上昇している。


 一段階上昇でも相当凄いはずなのにね。


 更にユニーク属性の指輪は三段階だったり、複数上げてくれる物もあるらしいけど、ものすごく貴重品でまずお目にかかる事は難しいし、値段もそこら辺の弱小国の国家予算にも匹敵するらしい。


 兎にも角にも、クロエには申し訳ないけど、常に指輪を着けて貰う事になった。


 ステータスって常にいくらあってもいいからね。


 最初は指輪を六つも着けていた事に違和感を覚えていたみたいだけど、あれから数日も経つと違和感はなくなったそうだ。



 それと漸く盗賊ギルトとの決着が付いたので、クロエが自由に動けるようになった。


 その事により、俺はクロエから言われた品を買い出しに出掛ける毎日を送っていた。


 基本的には、イリヤかセリナと一緒に出掛ける事が多い。


 食材の調達だったり、孤児院の足りない家具や道具の買い揃えだったりね。




「いらっしゃいませ~、あっ! モテモテお兄ちゃん、おはよう~」


「その呼び名やめてっ!」


 いつもお世話になっている武具屋にやってきた。


 俺が使っている長剣を買ったお店である。


「えー、だって、来る度に彼女が変わるんだから」


 ぐっ、言い訳出来ない……イリヤとセリナ交互に来るからな……。


 あれ? イリヤさん? ちょっと近すぎませんか?


「はぁ、と、とにかく、いつものをくれ」


「ふふふ、あいよ~」


 受付嬢こと、アリスちゃんがカウンターの下から木の箱ごと、カウンターの上に持ち上げる。


 中には黒灰色の金属が大量に入っていた。


「それにしても、毎週このクズ鉄を買ってくれるなんて、お兄ちゃん、物好きだね」


 実はこの箱の中に入っているのは、既に使えなくなった武器や防具を溶かして丸めた金属『クズ鉄』という物だ。


 クズ鉄には既に多くの不純物が入っていて、防具を作るのは難しいみたいだけど、以前俺が使ったような練習用武器を作ったりで使ったりする。


 言わば、練習用鉄って所だ。


「あはは……俺もどこに使うのか分からないけどね、いつも大量に仕入れてくれてありがとう」


「いえいえ~こちらこそ、まいどあり~」


 俺は料金を支払って、箱の中身を全て『アイテムボックス』の中に入れた。


 そして、彼女に入れた事を直ぐに報告する。



 実はクロエから「とにかく大量のクズ鉄が欲しいの!」と言われていた。


 何に使うのかは分からないけど、欲しいなら集めてあげるだけだから、気にはしない。


 それから注文された素材を露店から購入し、イリヤと一緒にレストランに入った。


 昼ご飯はいつもどこかのレストランで食べるようにしている。


 セリナの時もそうだけど……席に座るだけでものすごい視線を感じる。


 それは俺は元々引き籠りだからとか、情けない男だからとかではない。


 本当に通り過ぎる男性や、店内の男性の視線が全て釘付けになるのだ。


 イリヤとセリナの美貌はこの世界でも恐らくトップクラスなのだろう……。


 仲間の俺から見ても、とんてもない美人だ。


 セリナに至っては、普段の修道服から可愛らしいワンピースに変わるだけで、その美しさと女性らしさの強調が男どもをメロメロにしてしまうのだろう。勿論、俺もとても魅力的だと思う。


 彼女クロエがいなかったら、正気を保ってられなかったと思う。



 イリヤと他愛ない話をしながら、出て来る美味しい料理を口に運ぶ。


 食べる姿すら美しいって最早反則だよ。


 そう言えば、イリヤってものすごくモテそうだけど、王都の方は大丈夫なのだろうか?


 騎士団団長を辞めたとか言って既に二月が経とうとしてるけど……。



 俺達は食事を終わらせて、店の外に出た。


 ――――そして、そこには俺が不安視していた事が待っていた。






 その人は、一目見ただけで、圧倒的な強さ・・を感じられた。


 鋭い眼光が俺とイリヤを交互に見つめる。


 周りに通り過ぎる人々の中から、一際大きな威圧感を俺達だけに飛ばしている。


 既にそれだけでとんでもなく強い人だと分かるほどだ。



「アンドレス様…………お久しぶりです」



 隣にいたイリヤの声が聞こえた。


 それでやっと現実に引き戻される。


「……なるほど、ブラムが言っていた事は本当・・だったようだな?」


「……はい」


「そうか、戻るつもりは――――」


「ございません」


 二人の会話を聞いているだけで緊張してきた。


 彼は……恐らく王国の者だろう。


 イリヤを連れ戻しに来たに違いない。



 しかし、


 そんな俺の予想を遥かに超える事態が起きた。


 男性とイリヤが見つめて数秒。


 今でもぶつかり合いそうで緊張の糸を切らないように、慎重に男性の行動を注目する。


 ――――そして、最初に仕掛けたのは男性だった。


 なんと、











「イリヤつぅ~あ~ん~!」


 目にもとまらぬ速さでイリヤに抱き着く男。


「アンドレス様! 公衆の面前で騒がないでください!」


「構うもんか! イリヤちゃんに会えなくて、おじは寂しかったぞ!」


 抱き着こうとする男。


 その男の頭を右手を押し付け、近寄らせないイリヤ。


 その奇妙な状態を見つめる俺と通りすがりの人々。



 街に男の「イリヤちゃん~」の声だけが虚しく広がった。




 ◇




「こほん、これは失礼した。俺の名はアンドレス。王国で騎士をやっている者だ」


 テーブルの向えに座っている男性が名乗り出た。


「初めまして、ペインと申します」


「セリナです」


 俺達も挨拶をする。


「いやいや、騎士とはいえ、堅苦しいのは嫌いさ、普通に接してくれ」


 ブラムさんやキランさんもそうだったけど、騎士って堅苦しいイメージがあったのに、出会った騎士の皆さんはとてもフランクで気さくだね。


「それで、アンドレスさんはどうしてここに?」


「ふむ、イリヤちゃんが男に惚れて騎士団を辞めると言い出したと聞いてね。隣国との戦争を一瞬で終わらせて帰って来た所だよ」


 ちょっと待て。今、さらっと隣国との戦争を一瞬で終わらせたって重大な情報を言った気がするぞ?


「これまでイリヤちゃんは自分の意思を表に出した事だと、殆どなかった……が、まさかそんな男に出逢えたというのでな……気になって来てしまったという事だ」


「な、なるほど……」


 隣のイリヤが恥ずかしそうにしている。


「ふむ……昔のイリヤちゃんだが、やっと心を開いた訳か……それも全てペイン殿のおかげという事ですな」


「ふふふっ、ペインくんはとても優しいんです」


「え!? お、俺ってそんな……優しくはないんだけど……」


「ふふっ、ペインくんの優しさを語らせたら、私も負けませんよ?」


 せ、セリナまで!?



 それから俺の事をイリヤとセリナが良い争い始めた。


 真ん中で本人が聞いてるのに…………。


 恥ずかし過ぎて泣きそうだった。

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