彼女 LV.8

第22話 シスターの事情

 私の名前はセリナと申します。


 元々は王都生まれなんですけど……いえ、本当に王都生まれなのかは分かりません。


 何故なら、私は孤児だからなのです。


 私は気が付けば王都の孤児院で育ちました。


 幼い頃から厳しい規則や祈り、礼拝など……教会直属孤児院ではそれが当たり前でした。


 そんな私は生まれながらに自分が持っていた『才能』を恐れました。


 ですから、自分の才能はひた隠し、孤児院上がりのシスターとなりました。


 大人になるにつれて、私は大きな異変を感じました。


 それというのが、成人男性の私を見るが可笑しい事に気が付きました。幼い頃から他人のにはとても敏感だったのですから。


 その不安もあり、友人だったシスターに相談した所、どうやら世界では男女の違いというのがあり、私はありがたい事に女性として魅力的だそうです。


 確かに……周りの女性と比べれば、非常に目立っています。それは修道服の上からでも分かるほどに…………。



 それから数か月が更に過ぎ、教会を通して私に求婚の話が届きました。


 教会に多額の寄付金を頂いている貴族様からの求婚は、割と多くあるようで、私は誰かも分からない人から求婚されました。


 一応、面会も出来ますし、拒否も出来ます。が、あまり良い顔はされません。だって……拒否したらもう寄付金を頂けなかったり、減らされたりしますから……。


 そんな寄付金ですが、多くの孤児達に使われる為、シスターの中ではわざと貴族様の所に嫁ぎ、より寄付金を教会に入れて貰えるように尽くす方も多いのです。


 ですので…………中には、自分の気持ちなんかよりも、優先する方が多いのです。



 私が初めて面会した方は…………その……とてもふくよかな方でした。


 きっと、毎日美味しいご飯を沢山食べられているのでしょう。


 人の体型や顔をとやかく言うつもりはありません。


 私は……私をちゃんと見てくれるような……ちゃんとセリナという人を見つめてくれる人に嫁ぎたいと考えていました。


 ですが……彼は、ずっと、私ではなく、私の胸を凝視しておりました。


 勿論、拒否です。



 それから、またもや数人の貴族様からの求婚。


 ですが、全員見るのは私ではなく、私の胸ばかり……。


 五人目の求婚者を拒否したところで、神父様に呼ばれ……私を地方に逃すと仰ってくださいました。


 私は地方のエルドラという街の貴族様に嫁ぐ事になりました。勿論、全ては嘘です。


 私は嫁ではなく、エルドラ街の孤児院の院長として、送られました。


 本当に……神父様には感謝するばかりです。


 私の所為で寄付金が減った事だけが心残りです……。




 あれから何年経ったんでしょうか。


 私もすっかり大人と呼ばれるほどの歳になりました。


 幸い、エルドラ街はとても平和な街で、嫌らしい目で私を見つめてくる人はいません。


 更には可愛らしい子供達が沢山いて、私は毎日平和に暮らし始めていました。


 しかし、神父様がエルドラ街を選んだのには理由がありました。


 エルドラ街は貴族様の手が及ばない代わりに、教会が非常に弱い街です。


 その為、エルドラ街の孤児院は寄付金は少なく、教会からの援助金もありません。


 だから孤児院ではひもじい生活が続きました。


 私は自分の才能が怖い。この才能を使えば……きっと沢山の寄付金を呼び寄せられるかも知れません。


 ですが、それにより大きな悪意に晒されるのではないか……と、不安しかありませんでした。


 だから……私は全てを諦め、ただただ過ぎる時間を子供達と過ごす事を選んだのです……。






 そんな中。


 孤児院にみすぼらしい男性が一人来ました。


 彼の目は――――悲しさで溢れておりました。


 まるで――――私自身のように。



 彼が初めて私を見た時、その目線が胸に一度も行く事はありませんでした。


 それは……優しいエルドラ街でも初めての体験です。


 更に彼は私の目を真っすぐ見つめてくださいました。


 それから、孤児院の状況を聞かれ……芳しくないとお伝えした所、みすぼらしい格好からは想像も出来ないような沢山の食べ物を出してくださいました。


 私も噂では聞いていましたが、それは『アイテムボックス』というスキルだそうです。


 そんなスキルを見ず知らずの私の前で、何の迷いもなく使って見せてくださいました。


 更に溢れる食べ物はそのまま寄付すると残し、私達には何も求めず、そのまま去って行きました。


 あまりの出来事に、彼の名前を聞く事すら出来ませんでした。それが悔しくて……。




 あれから三日後、彼がまた訪れてくれました。


 やっとお名前も聞けました。ペイン様……あまり聞かない名前ですが、どこか優しさを感じる温かい名前だと思います。


 彼は子供達にお菓子を上げたいと申し出てくださいましたが、高額なお菓子は子供達に寧ろ辛い思い出になるからと丁重にお断りしました……彼は驚くと共に、とても悲しそうな目をしておりました。


 こういう男性が世の中にいるんだ……それが私が思った事なのです。



 更に次の日。


 街で一番安価なお菓子だと言い、彼は子供達の為に、わざわざお菓子も大量に買って来てくれました。


 子供達と沢山遊んでくださり、食べ物も沢山置いてくださいました。


 私は……周りが怖いからと、自分の殻に籠っているだけなのに……彼は周りなんて気にもせず、自分の力も堂々と見せてくれます。更には見ず知らずの私達の為に食べ物まで持ってくださいます。


 しまいには私達からは何も受け取らず、ただ感謝されて喜ばれて……そして去っていく姿に、今までの自分がどれだけちっぽけな存在なのだと、痛感しました。




 だから、私も変わりたい。


 あの人の隣に立ちたい。


 彼の傍で、これからも一緒に生きていたい。


 まだ数回しか会っていませんが……私はいつしか、彼が眩しくて――――――大好きになりました。






「セリナ~!」


「は~い?」


「この服のさ、ボタン取れちゃってさ……悪いんだけど、お願いしてもいいかな?」


 少し申し訳なさそうな表情で近づく彼。


「勿論いいよ~、何ならボタン全部取って、付け直そう!」


「い、いや! そこまではしなくていいから!」


「うふふ、冗談だよ~」


「セリナが言うと、たまに冗談っぽく聞こえないんだよ!」


 彼に座って貰い、私はそのまま彼の外れた服のボタンを取り付ける。


 顔と顔が近くて、小さな息の音すら聞こえそうな距離。


 彼の胸のボタンを取り付けていると、小さく聞こえてくる心臓の音。


 少し顔を赤らめて、向こうに顔を向けている仕草。



 出会ってまだ二か月しか経たないけど、彼は今でも私の胸には一度も目を向けません。


 話す時は、いつも私の目を真っすぐ見てくれます。


 綺麗な黒い瞳に毎回吸い込まれそうになります。



「はいっ! 終わったよ」


「おお! ありがとう! 前付いてた時より新品みたい!」


「ふふっ、そんなお世辞ばかりすると、もっと惚れちゃうよ?」


「えっ!? えええええ!? い、いやいや、俺なんか――――」


 ふふっ、また「俺なんか」と言います。


 でも…………私はそんな貴方が大好きです。




「もっと惚れなくても、私はペインくんが大好きだけどね~」


 顔が真っ赤になったペインくんがまた愛おしいですね。

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