第21話 俺達と盗賊ギルド

 イリヤとの稽古から数日後。


 俺とクロエ、イリヤ、セリナの四人が集まった。


 他でもない、遂に盗賊ギルドの本拠地が見つかったのだ。



「さて……クロエの頑張りのおかげで盗賊ギルドの本拠地を見つけられたので、『視覚共有』で俺も少し見ていたんだけど、イリヤの予想通り街の中ではなかった。街の東に進んだ廃墟の地下にアジトがあったよ」


 納得したように頷くイリヤ。


「やはり……街の外ね……」


「街の東にある廃墟って、確か…………古代遺跡かな?」


「古代遺跡?」


「ええ、あの場所には昔、栄えた古代文明の古代遺跡が残っているんだけど、中身は既に王国が全て調べ尽くしているし……入っても何もないはずなんだけど……」


 セリナの地元民らしい情報に、古代遺跡だとか古代文明に心躍らせる。


「でもクロエと見つけた場所は何の変わりもない洞窟だったんだけど……?」


 クロエも同調したように頷く。


「あら? 古代遺跡ではないのかな? 方角や距離から近いと思うんだけど……」


「ん、取り敢えず古代遺跡は一旦置いておこう。先ずはどうやって盗賊ギルドを倒すかだね」


「いつものように、私が向かうよ?」


「ん~、それが一番簡単だとは思うけど、いつもイリヤばかりに危ない目に合わせるのも……」


 俺の言葉に、イリヤが不敵な笑みを浮かべて、


「ふふっ、私に勝てる人がいるなんて…………」


 あっ…………元王国最強騎士の一人だものね…………。


【じゃあ、『視界共有』でいざとなったら、ペインくんの補助でいいんじゃないかな?】


「ん~、じゃあ今回もイリヤを先頭に、クロエと俺の『視覚共有』と『空間斬り』で援護にしようか」


「「は~い」」【は~い】


 とても盗賊ギルド本拠地を攻めるとは思えないくらい、軽いノリだ。


 いつものように、セリナはエルドラ街常駐騎士団である銀狼騎士団に声を掛けに走る。


 俺は身の安全の為、部屋の中で待機する。『視覚共有』を使っていると自分自身の周りの事は全く見えないし、『空間斬り』を使う際も周りが見えないので、基本的に部屋の中で一人の方がやりやすい。


 ちょっとだけ、昔のネットゲーム時代を思い出す。パソコンの前でキャラクターを操作していた頃の感覚に近いからだ。




 ◇




 クロエから遠隔念話で、本拠地に辿り着いたと連絡が入った。


 彼女が書いてくれた地図の元、イリヤも本拠地に潜入する。


 イリヤの侵入は盗賊ギルド本拠地内に直ぐに知らされた。


 だって、ここまで街の中のアジトを散々壊して来たからね。ここまで警戒するのも当然だよね。


 自信満々のイリヤは正面を切って突入していた。クロエを通じてイリヤの後ろ姿を見ているけど、とても頼もしい限りだ。


 向こうから現れる盗賊達を次々斬っていく。


 斬る速度があまりに速すぎて目で追えない。


 次々と倒していくイリヤ。


 更に外からは大きな音が聞こえ始めた。恐らく、セリナの通報により、銀狼騎士団が駆け付けてくれたのだろう。


 イリヤも聞いたようで、盗賊達を倒す速度が更に増した。


 そして、イリヤは最奥の広場に辿り着いた。




「くそ! 元騎士団団長がどうしてこんな所に!」


 広場は半分程の地点でバリアのようなモノが張られており、その奥に大柄の男が悪態をついていた。


「貴方が盗賊ギルドのマスター、ゲルビッシュね!」


「くっ! こうなったら、お前くらい道連れにしてやる!!」


 ゲルビッシュは両手にクロスボウを二丁取り出した。


 その先端には不思議な宝石が付いており、矢の先端には見ただけで分かる程、緑の濃い色が溢れていた。間違いなく俺がやられた事がある猛毒だろう。


 バリアの奥からゲルビッシュの矢が放たれる。


 イリヤは油断する事なく、矢を避けつつ、切り払う。


 ゲルビッシュの矢が次々発射されるが、イリヤは冷静に対処していた。


「ゲハハハハ! いつまで避けられるかな!?」


 ゲルビッシュが手を休んだ隙に、イリヤはバリアに向かって剣を振り下ろした。



 カーン!



 案の定、彼女が振り下ろした剣は、バリアに阻まれ弾かれた。


 直後、また飛んでくる矢を避けるイリヤ。そして――――。




「貴方はそれで勝てると思っているのでしょうね……ですが…………残念ながら相手が悪かったですよ?」




「は? 負け惜しみを! 俺様の矢をいつまで避けられ――――」


 バギッ


 木が折れる音が響く。


 ゲルビッシュはその音がする自分の両手に目を向けた。


 そこにあったのは――――。


「――――――はぁ!? 俺様のクロスボウが、お、お、折れている!?」


 ゲルビッシュの両手に持ったクロスボウ二丁が根元から、何かに斬られた・・・・かのように折られていた。


 ――――そして、パリーーンという音が響く。


 ゲルビッシュは後ろを向き、割られた水晶を見つめ信じられなさそうに顔が歪んだ。




 ズシン!


「ひ、ひぃ!?」


 ゲルビッシュが正面を向いた。


 ズシン!


 美しい金髪の隙間から、金色の瞳がゲルビッシュを捉えていた。


 ズシン!


 彼女の一歩一歩に、ゲルビッシュが一歩ずつ下がって行く。


 ズシン!


「お、お、俺様が悪かった! 財宝なら全部やるよ! だから――――」


 直後、ゲルビッシュは見切れるはずもない彼女の攻撃に斬られ、その場で崩れ落ちた。




「盗賊ギルドのマスターというのだから、もう少しは強いと思っていたのに……ただの毒使いとは拍子抜けね」




 イリヤは剣の背で殴りつけて気絶しているゲルビッシュに溜息を吐いた。


「ペインくん、ありがとう」


 そして、イリヤの声が広場に広がった。




 ◇




 ふう……これで一件落着かな?


 俺は『視界共有』を戻し、部屋を見回した。


 『視界共有』専用の部屋で、部屋の中には物を一つも置いてない。剣を振り回して壊したら勿体ないからね。


 イリヤが盗賊ギルドのマスターからの攻撃を凌いでいる間に、クロエと俺は部屋を探った。


 あのバリアでもクロエを止める事が出来なくて、クロエに相手の後方を探って貰ったら、それらしき宝石があって、『検定眼』で正体を見破った。


 その間、イリヤが剣でバリアをぶっ叩いて、ものすごい衝撃波がここまで伝わった。


 ゲルビッシュだっけ? 彼も一瞬ビクッてなってものすごく冷や汗を流しながら、急いて矢を撃ち始めた。


 イリヤが当たるはずもないけど、もしもの事もあるので『空間斬り』でゲルビッシュが持っていたクロスボウ二丁を両断した。


 更に奥にあったバリア用宝石も叩き割る。


 直後、イリヤの殺気がここまで伝わったので、クロエと俺は急いで避難した。


 こ、怖すぎる……あんなに綺麗なのにね……。




 帰ってきた俺は部屋を出た。


「あっ! お帰りなさい!」


「セリナ? ただいま~」


 部屋の外でソワソワしていたセリナが見えた。


 ずっと待っていてくれたのかな?


「丁度今終わった所だから、イリヤ達の帰りは少しかかるかな?」


「そっか! じゃあ…………」


 セリナが俺の腕に絡んだ。


「せ、セリナ!?」


「リビングまでペインくんを独り占め!」


 セリナの柔らかい感触と優しい香りがふんわりと香った。






 帰って来たクロエとイリヤから、顔が緩んでるから良い事あったでしょう! って直ぐにバレた。

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