彼女 LV.7

第19話 彼氏と彼女と団長とシスター

 ううっ……身体が重い…………なんか、こう、押しつぶれそうな…………。ちょっと柔らかい何かでつぶされているような……。


 ――――――ンさん!


 ――――――ンさん!


 ん……眠いのに……誰かに呼ばれる気がする……まだ朝だし、もう少し寝かせてよ……。




「ペインさん!」




 はっ!


 俺を呼ぶ声に反応して、目を覚ました。


 目を覚ました俺には、柔らかく、良い香りのそれが抱き付いていた。


「ペイン、さん、無事で、本当に、よかっ…………うわぁーん」


 あれ?


 セリナさん?


 泣いてる……?


 抱き付いて泣き崩れているセリナさんの向こうに、涙を浮かべたイリヤさんが見える。


 そして、その隣に顔色の悪いクロエが見えた。


「っ!? 俺、確か……短剣に……?」


「ペインさん、セリナさんの代わりに短剣を受けてしまって、猛毒に冒されたんですよ? 本当に危険でしたからね? あと一分遅れたら…………でも、奇跡的にペインさんの体力が保って解毒出来たんですよ」


 あ……確か、短剣を受けて、気を失ったっけ……。


 体力を保って……?


 ふと、顔色の悪いクロエが目から離れなかった。


 その時、脳裏に浮かんだのは、『スキル『HP・MP共有』を獲得しました。』の言葉。


「ッ!? もしかして、クロエ!? 俺のHPを肩代わりしてくれたのか!?」


【え、えへへ……私に出来るのは……これくらいしか…………】


 ますます顔色の悪い。


「ッ! セリナさん! 回復魔法が使えるんですよね!?」


「えっ? は、はい。弱いですけど……」


「それを今すぐ俺に掛けてください!! 急いで!!」


「えっ!? は、はいっ! 聖なる光よ。我の声を聞き届けたまえ。ヒーリング!」


 セリナさんから淡い緑の光が俺を包んだ。


 受けているだけで元気になるような気がする。


 これが魔法か……。


 って! 感心してる場合じゃない!


 俺は急いで心の中で『ステータスボード』を開いて、『HP・MP共有』を使用した。


 『HP・MP共有』と書かれているけど、自分に吸い寄せる事は不可能で、あくまで相手に送る事しかできないみたい。共有というよりは、送りだね。


 急いで自分のHPをクロエに送る。


 クロエから青い光に包まれる。


 それと一緒に自分のHPの減りを感じる。

 

 一気に身体がやつれる感じだ。


 たった数秒でこの怠慢を感じたのに……さっき、イリヤさんが数分と言っていたって事は、クロエは一人でこれをずっと耐えたって事だよね?


 今の俺はセリナさんから回復魔法を受けているから、まだ耐えられているのに……クロエは…………。



【ペインくん……私は…………大丈夫……だから、もう……やめ…………】


「バカ! 俺の方こそ、もうピンピンしてるんだから気にすんな! それよりも自分の身体を気遣って! 絶対…………絶対死なせたりしないからな!!」


【え、えへへ……】


 そして、クロエは俺の前で倒れ込んだ。



 くっ、触る事も出来ないから、彼女を介護する事も出来ない!


 悔しい……こんな悔しい事があるのだろうか!


 俺を助けてくれた彼女を、俺はただ見つめる事しか出来ないなんて……。


 その時、


 セリナさんとイリヤさんが俺の隣に立ってくれた。


「今、クロエさんはここに?」


「え? は、はい……倒れてしまって……俺も触れられないので介護も出来なくて…………」


「……じゃあ、彼女が起きるまで、ずっとここで待ちましょう!」


「えっ? い、いいんですか?」


 俺の疑問に、イリヤさんが満面の笑みで答えた。


「勿論です! クロエさんのおかげで、ペインさんを助ける事が出来ました。それは私達だけでは絶対不可能でした。だから、クロエさんにも元気になって、また人で一緒に暮らしたいですから」


 セリナさんも「ですです!」って魔法を掛け続けながら、頷いて返してくれた。




「みんなさん……ありがとう」




「「いいえ! こちらこそです!」」


 二人の綺麗な声が俺に安心感を与えてくれた。




 ◇




 はぁはぁ……


 もういやぁ……


 苦しい……


 お願い……私を…………解放して…………




 でも……


 あの子がまた来てくれるんじゃ……


 こんなところで……立ち止まりたくない……


 でも……


 辛いよぉ……


 誰か……


 助けてよぉ……




 ◇




 目を覚ました時には、すっかり空が暗くなっていた。


 身体の怠さは既に無くなっている。


 そして、目を覚ました私の前に、私を出迎えてくれる顔が三つ。


「おはよう、起きるの遅すぎるぞ?」


 と真ん中の男の子が話してくれる。


「えへへ、ごめんね? 随分、待った?」


「いや、全然待ってないよ。それより身体はどう?」


「うん! すっごく軽くなった! これなら直ぐにでも走れそうだよ!」


「そっか、それは良かった」


 ふふっと笑う彼の表情に、私は安心感を覚える。


 彼の表情を見た二人の女性も、ふぅ~っと安堵の息を吐いた。


 へへっ。


 二人には私の事は見えないものね。


 えっと、急いでメモ用紙に「心配かけてごめんなさい」って書いた。


 それを見た彼は、素早くメモ用紙を取り出し、二人に見せる。


 そして――――。



「いいえ! 許しません! 心配するも何も! クロエさんには助かりっぱなしですから! 謝られても困ります! だから謝った事を怒ります!」


「クロエさん! ペインくんを守ってくれた事。私達を助けてくれた事。本当にありがとう!」



 ああ……。


 ううん、こちらこそありがとうだよ。


 私の力だけじゃ、彼を助ける事が出来なかった。


 オドオドしている私セリナさんに冷静さを取り戻してくれたイリヤさん。


 彼の猛毒を回復してくれ、更には回復魔法まで頑張ってくれたセリナさん。


 二人に出会えて本当に良かった。


 まだ……私達はお互いが見えないけれど……私、初めての友人が出来た気がするの。


 だから……ありがとう。











 私の思いを彼が二人に伝えると、


「「クロエさん? 私達はもう友達ですよ!」」


 と言ってくれた。



 うん!


 私達、お互いに見えないけど、ちゃんと、繋がっているね!


 だからありがとう!


 二人に巡り合わせてくれて、ありがとうね! れいとくん!

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