思い出

伊丹玲斗①

「兄貴、気持ち悪いから俺と一緒にご飯食べるのやめてくれねぇ?」


「あ、ご、ごめん」


「……ふん。少しくらい反論しろよ」


「い、いや、俺が悪いから……ごめん」


「ちっ……」



 それが弟の最後の会話だった。


 あの頃は弟が毎日のように突っかかって来た。


 でもあの日を境に、俺は一人でご飯を食べるようになり、弟と喋る事は二度となかった。



 うちの家はお爺ちゃんもお父さんもとても頭が良くて、二人共医師になった程だ。


 そして、三代に続く医師の家庭になると、誰もが予想していた。


 けれど……俺はプレッシャーに負けてしまった。


 幼い頃から、毎日勉強に勉強。


 人との関わりなど、何もなかった。


 小学生の低学年頃、テストで99点を取ってしまった。


 たった一回。


 それでお父さんの怒りを買ってしまったのだ。


 今までよりも厳しい勉強と規制。


 小学生の高学年、中学生の勉強まで押し付けられ、俺は勉強を諦めた。


 いつしか、テストで常に10点しか取れなくなった俺は、家族から見放されていた。




 ◇




「貴方、れいと宛に手紙が届いたわよ?」


「ん? あいつに?」


 可愛らしい包装の手紙がテーブルの上に置かれた。


「ふぅん~、あいつがこんな物貰っていたなんて……ちっ、勉強一つまともに出来ないやつの癖に!」


 父親は手紙を破り始めた。


 そして、手紙はゴミ箱に捨てられる。


 悪態の父親を後に、ゴミ箱の前に屈む母親。


 母親は、手を握り震えていた。




 ◇




 高校も卒業して、俺はずっとネットゲームに夢中になった。


 正直、やる事もないからね。


 何故か、家には居させてくれた。


 ちゃんとご飯も出るし、たまに父親をすれ違う時は、嫌みを言われるけど、普段家にいないので、俺は父親が帰る頃に眠り、早起きをしていた。


 ネットゲームも朝や昼の時間帯となるとユーザーも少なく、俺は一人で延々と遊んでいた。



 この時間帯によく見るアカウントも増えていった。


 知り合いではないけれど、この時間帯に、毎日見かける彼らを、自分と同じ境遇の人達だと思えた。


 そのうち、俺にも声を掛けてくる人達がいて、それから数日間、毎日一緒に狩りをして、俺達は遂にクラン『ヘヴン』を立ち上げた。


 名前に特別意味はなかった。


 ただ……俺にとっては、ここが天国のようだと話した事で、『ヘヴン』に決まった。




 けれど……この出来事にはとある事件が絡んでいた。


 俺がそれを知るのは…………遥か先の出来事であった。

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