第17話 彼女と団長とシスター

「あ、あの! す、す、す、凄く嬉しいんですけど……その……俺……」


「彼女さんが好きなのですよね?」


「は、はい……すいません……」


 彼女は覚悟を決めたように、


「それでも構いません、私はこれから――――ペイン様に気に入られるように頑張りますから」


「えええええ!? これから!?」


「はい、ただいま、騎士を――――辞めて来ました」


「えええええ!? 団長なのに!?」


「はい、それくらい……覚悟を決めなければ、ペイン様の隣にはいられないと思うので」


 あれ? いつものオドオドしているイリヤさんなのに……何処か凛々しさを感じる。


 いつもの騎士団団長ではない?


「私は既にタダのイリヤです。これからはペイン様の近くで――――」


 イリヤさんのとんでもない発言の途中、後方からとんでもない殺気を感じた。


 あっ…………恐る恐る、後ろを振り返った。


 そこには――――











【へぇーペインくんってあれかな? 目を離すと女の子とイチャイチャする病気でもあるのかな?】




「く、クロエ! これは違うんだ!」


【へぇー違う……ね、その腕に絡んでいる女の子は?】


 へ?


 いつの間にか俺の腕に絡んでいるイリヤさん。


 その美しい瞳が見えないはずのクロエを見つめていた。


「えええええ!? い、イリヤさん!?」


「クロエ様でしたね……私はもう隠すつもりもありません。これからペイン様の隣に立つのは、です!」


【へぇー、ペインくん…………もうそこまで…………】


 ちょっと待ってくれ!


 一体何が起きてるんだ!


 なんでいきなり俺がこんなに…………モテ始めるの!?




 ◇




【えっと……イリヤさんは、素の自分を認めてくれるペインくんに惚れてしまったと……】


 俺はクロエの言葉を、一字一句間違えず、イリヤさんにそのまま伝える。


「はいっ、ですから私もクロエ様と一緒に、ペイン様の隣にいたいんです」


【はぁ…………】


 クロエが少ししょぼくれた目で俺を見た。


【ペインくんって……優しいもんね……】


 い、いやいや、俺のどこが優しいのか……。


【分かりました。イリヤさんの事は認めます。だから、私に『様』はもう要りません。ですからこれから一緒にペインくんを支えましょう】


 ……。


 ……。


 ……。


 早く伝えてって目線が突き刺さる。


 うわぁ……これ自分の事だから……めちゃくちゃ恥ずかしい……。


「え、えっと、クロエ……」


【ん?】


「その……流石にそれを俺に言わせるのは……違うと思うんだよね……」


【でもこうするしかないでしょう? 私の声は向こうに聞こえないんだから……】


 それもそうだけどさ……。


 と、思っていた時、




 - スキル『彼女』のレベルが上昇しました。-


 - スキル『HP・MP共有』を獲得しました。-




 と頭の中にアナウンスが流れた。


 何故、このタイミングでレベルアップ!?


 しかも、今日だけでレベル二つ上がりましたけど!?



 その時、アナウンスが流れた事で、俺は一つ思い浮かんだ事があった。




【またレベルアップしちゃった……】


「あっ! そうだ! クロエ!」


【う、うん? どうしたの?】


「声は届けられないけど、言葉なら届けられる方法、あるよ!」


 俺の言葉にクロエとイリヤさんが首を傾げる。


 可愛らしい二人の仕草で二倍可愛い。




「声は無理だけどさ、手紙なら、クロエが書いた手紙を俺がイリヤさんに渡す事は出来るし、イリヤさんが書いた手紙も渡せるから!」




【!? ペインくん、それすっっごくいい!】


 クロエも喜んでくれて、事態を飲み込んだイリヤさんも「うんうん」って頷いた。




 こうして、クロエとイリヤさんの文通が始まった。


 中身は俺も全く分からないけど、二人がどんどん仲良くなるのは間違いないね。




【あっ、ペインくん】


「ん? どうしたの?」


【シスターさんはどうするの?】


「ああああ! セリナさんにも一応……手紙書いてくれたら助かるかな……」


【分かった!】


「セリナ様?」


「あ、セリナさんという孤児院のシスターさんがいまして……その……イリヤさんの前に告白をされまして……」


「!? なるほど……敵がもう一人と……」


「て、敵じゃないですよ! セリナさんはとても優しい方ですからね?」


「ッ!? 今すぐ案内してください!」


 あ、ああ……もう訳が分からないよ~。




 ◇




 説明する必要すらないだろう。


 イリヤさんとセリナさん。


 出会ったその瞬間から、視線と視線の間に火花が散っていた。


 目視出来るくらい火花が散ってますけど!? 大丈夫なの!?



 それからセリナさんに事情を説明し、その間にクロエが一生懸命に二人に手紙を書いてくれて、二人に渡す。


 どんな中身かまでは分からないけど、二人は頷き、「「クロエさん、その提案、受け入れました」」と声を揃えて話していた。


 一体どんな提案なんだろうか……。




「えっへん、ペインさん!」


「は、はいっ! どうしました? セリナさん」


「ペインさんには……これから孤児院で一緒に暮らして貰います!」


「えええええ!?」


「これは全て、女神クロエ様の啓示です。従ってください」


 えっ?


 女神クロエ様?


 クロエを見ると――――


「クロエが天使の格好に!?」


【えへへ~、買った服と色々改造して、『天使になれる服』を作りました! 錬金術で!】


「『天使になれる服』!?」


【そうよ! これで女神様っぽいでしょう?】


 た、確かに女神様っぽい……というか…………天使じゃん。


「これからペインさんは、ここで、私とクロエさんとイリヤさんの目が届く範囲で暮らして貰います! 全てはクロエさんの決定事項ですっ!」


 あ……もう決定事項なんだ……。


 クロエに逆らう事など出来るはずもなく……。



 こうして、俺は孤児院で一緒に暮らす事になった。


 ただ、孤児でもない人が孤児院で過ごす事は難しいので、大急ぎで孤児院の隣の敷地を買い取って、建物を建てる運びとなった。


 クロエの財産だけでも十分だろうけど、元騎士団団長のイリヤさんも十分に財産が多いので、問題は無さそうだ。


 明日には不動産を扱っている商会ギルドに行って、交渉する運びとなった。





「わーい! これからはペインお兄ちゃんが隣に住んでくれるの!? やったぁ!!」




 子供達もものすごく喜んでくれた。

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