第15話 彼氏と団長

【むぅ…………】


 彼女クロエがずっと不機嫌そうな表情をしている。


 孤児院での事故(?)から、ずっと不機嫌そうだ。


 クロエとしては、セリナさんの料理がとても美味しかったらしく、それに危機感を感じているみたい。


 正直、俺にはクロエ以外の女性は眼中にないというか……その……なんだ、クロエが一番可愛いと思ってるんだけどな……、全く信じてくれないんだ……。


【ねえ、ペインくん】


「う、うん? どうしたの?」


【私に要望はない? 何か、こういうのして欲しい事とかない?】


「あはは……その質問、既に十回目だよ?」


【へ? そ、そっか……うぅ……】


「ふふっ、そうだな~普段から色々やって貰ってるから、こうして欲しいとかはないんだけど」


【……ど?】


「折角『アイテムボックス』が使えるんだから、クロエがやってみたい事を言って欲しいかな?」


【私がやってみたい事?】


 期待していた答えとは違う答えだったようで、キョトンとした表情を見せる。


「そう、『アイテムボックス』を使えば、クロエにも好きな物を渡せるから、こういうの作ってみたいとか、例えば料理とかでもいいし、お菓子食べてみたいとか、武器使って見たいとか、こういう服が欲しいとか」


 服という言葉のあと、クロエの顔が赤くなる。目がキラキラし始めた。


 女性は服に弱いとネットで見かけた事があったけど、本当の事かも知れない。


 俺は左手を彼女に差し出した。


「お嬢さん、一緒にデートして頂けますか?」


【へ? えっ、えっ、あっ、はい! よろしくお願いします!】


 あたふた俺の手を握る彼女。


 触れた感覚は全くないけど、彼女の温もりが伝わるようだった。




 ◇




【あっ! あの服、可愛い!!】


「じゃあ、早速入ろう!」


 女性服を専門で売っていそうな店の中に入る。


 硝子ガラス越しに見えている服がどれも可愛らしい。



「いらっしゃいませ~、お一人様ですか?」


「えっと、一人ではないんですが、一人です」


「えっ?」


 店員さんがぽかんとする。それもそうよね……一人ではないのに一人って難しいよね。


「彼女にプレゼントを」


「あ! はい、かしこまりました。では好きに見てくださって構いませんので」


「ありがとうございます。ちょっとひとりごとを呟いたりしますけど、気にしないでください」


「は、はい、ごゆっくりどうぞ」


 凄く理解が速い店員さんで助かる。



「さあ、クロエ、全部着てみようか?」


【うん!】


 嬉しそうに端に陳列されている服の中に入る。


 服の上から可愛らしい顔だけが出てきて、まさに服を着ているように見える。


 よし、一着目、似合う! それ買い!


 よし、二着目、それも似合うね! それも買おう!


 どれどれ、三着目と四着目はそもそも気に入らない顔をしているから……取り敢えずは無しで……。


 ――――――そうやって、俺は半日近く、彼女の服を選んだ。





「ご、ご、合計、よ、四十着で銀貨八十枚になります……」


 素早く銀貨八十枚を取り出す。


 服は包んで貰わず、そのまま『アイテムボックス』の中に入れた。


 それを見た店員がものすごく驚いていたけど、流石に四十着も鞄に入れる方が不自然だから仕方ないよね。


 会計を終えて、店を後にする。


【えへへ♪】


 満足げな彼女を見ると、こっちまで嬉しくなる。


 ――――その時。




 - スキル『彼女』のレベルが上昇しました。-


 - スキル『錬金術』を獲得しました。-




 へ?


 レベルアップ?


 このレベルアップの条件、イマイチ分からないのよね。


 それと新しいスキルを獲得したみたい。


【ペインくん! 新しいスキルだよ!】


「そうだね、ネットゲーム内の『錬金術師』は色んなアイテムとか作る職業だったっけ、これで新しいアイテムとか、便利なアイテムとか作れたりして」


【!? ――――――】


「ん? クロエ? どうしたの?」


【――――――これだ!!!!】


 へ?




 ◇




 折角買った服を色々見せてくれるのを楽しみにしていた。


 しかし、彼女は現在…………宿屋の部屋の中に籠っている。


 彼女から絶対に部屋に入らないようにって釘を刺されてしまった。


 もしかして、服とか着替えているのかな?



 取り敢えず、出掛けて来ていいとの事だったので、久しぶりに一人で広場に出て見た。


 相も変わらず、カップルだらけの世界だな……。


 右を向いても、左を向いても、前も後ろも、カップルだらけだ。


 …………にしても多くない!?


 この世界のカップル成立の確率とか知りたいくらい多いんだけど!?


 こんなに多かったっけ?



 と思っていると、俺の前に現れる一人の人影。そのまま、俺の胸の中に飛び込んで来た。


 ふんわりと香る良い匂い。この香り……どこかで……。


 凄まじい速さの出来事で避ける事も出来ず、自分の胸に飛び込んで来たモノに目を向ける。


 美しい金色の髪が見えた。そして、直後、顔を上げた彼女・・の整った顔と美しい金色の瞳が僕を見つめた。






「えええええ!? だ、だ、だ、だん――――」


「ペイン様……イリヤって……呼んでください……」


「えええええ!? い、い、イリヤさん? そ、そ、その、いきなり、どうしたんですか?」


 少し目を潤ませた彼女の上目遣いの破壊力に、俺の理性は吹き飛ぶ寸前だった。


 理性を何とな保てたのは、彼女クロエの笑顔が頭に浮かんだおかげだ。


 広場のど真ん中で美女に飛び込まれて、このままではまずいと思い、急いで彼女の手を引いて路地裏に入った。


 本当に……何がどうなっているんだ?




「い、イリヤさん?」


「ペイン様……」


 まだちょっと目が潤んでいる……。


 あれ?


 この感じ…………どこかで…………。


「ペイン様、私の事……嫌いですか?」


「へ? 嫌いなはずがありません! 俺はイリヤさんのおかげで助かりましたし、その……彼女とのわだかまりも解消出来たので、とても感謝してますよ?」


「…………その彼女は、以前紹介してくださった見えない彼女さんですか?」


「え? は、はい、そうです」


「…………今でも彼女さんの事、好きなのですか?」



「えっと……そうですね……恥ずかしい限りですが――――――今でも好きです」



 それを聞いたイリヤさんの目に大きな涙が溢れ始めた。


「私では、彼女の記憶を忘れさせる事が出来ないのでしょうか?」


「え? 彼女の記憶??」


「だって……彼女はもう既にこの世にいない・・・んですよ?」


 へ?


 クロエがこの世にいない!?


 一体どういう事!?


「あ、あの、イリヤさん、落ち着いてください。確かに彼女は……クロエは皆さんには見えないんですが、俺にはちゃんと見えていますし、今もちゃんと生きて・・・ますよ?」


「……彼女の幻影が見えているのではなくて?」


「げ、幻影…………まぁ確かに幻影に似てるかも知れませんけど、クロエはちゃんと生きてますし、彼女はれっきとしたですよ。でも、皆さんには見えてないだけなんです」


 少しキョトンとした表情を見せるイリヤさん。


 そして、一つ大きく深呼吸をする。


 大きく綺麗な目が真っすぐ俺の目を見つめた。


「ペイン様、わたくし、イリヤ・フォーンセルは――――――」


 イリヤさんの言葉に息を呑んだ。











「――――貴方が好きです」

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