彼女 LV.5

第13話 彼氏とシスター

 昼が過ぎ、部屋から出て、外を歩いた。


 確か、明日には騎士団の皆さんが王都に帰ると聞いている。


 最後くらい団長に挨拶しなくちゃと思うんだけど、顔合わせられるのだろうか……。


 しかし、団長のあの感じってどういう事なんだろう?




 昼にオークの住処での騎士団が制圧したオークの死体を降ろしに、冒険者ギルドにやってきた。


 冒険者ギルドに入ると、急に目の前に飛び出してきた人影がいた。


「ッ!? だ、だん――」


「ペ、ペイン殿…………」


 団長が真っ赤な顔で、いつもの鎧姿で現れた。


「え、えっと……」


「こ、こほん、此度の事は大変申し訳ない。その……出来れば周りには言わないで欲しいのだ……」


「え? も、もちろんです。誰にも言いません、約束します」


「ああ、それは助かる。ありがとう」


 安堵したように溜息を吐いて、少し笑みを浮かべる団長。


 相変わらず美しい。




「こほん、ペイン殿、いらっしゃい」


 団長の後ろから、慣れた声が聞こえた。


「ブラムさん、お待たせしました」


「ありがとう。例のモノは向こうで貰う事にするよ」


 ブラムさんに案内され、団長と一緒に冒険者ギルドの裏部屋に入って行った。


 少し広い部屋には数人の騎士団員がいて、大きな板を並べていた。


 おそらく、あの上にオークを置くのだろう。



 ブラムさんが板を指さし、


「では、こちらの板の上に頼む」


 との事で、板の上にオークをゆっくりと並べる。


 見ていた騎士団員の中から、「おお~」って小さな歓声が上がった。


 百体超えの数を並ばせる。


 そして、最後に一際大きいオークを取り出す。


 オークの中で最も損傷が多い大柄のオーク。


 普通のオークの三倍は大きい。しかも、色が灰色だ。


 こんなに大きかったんだ……。



「これはオークキングでね。こいつの所為でオークが繁殖していたのだろう……本当に今回倒せて良かった。このままオークが増えると人の街でも襲われるからね。我々が離れる前に討伐出来て本当に良かったよ」


「たまたまですけど、戦いに参加出来て誇らしいです」


「ふふっ、そうだね。きっと、君の彼女さんも鼻が高いだろうさ」


「え? あ、あはは……」


 隣で聞いていたクロエが「えっへん」ってドヤ顔をする。


「このオークの分配は後に冒険者ギルドから貰えるから、近々来た時にでも貰ってくれ」


「分かりました。ありがとうございます」


「いやいや、こちらこそ本当に助かったよ。ペイン殿、本当にありがとう」


 ブラムさん、キランさん、団長に挨拶をし、俺は冒険者ギルドを後にした。




 ◇




「「「お兄ちゃん!!」」」


 冒険者ギルドを後にして、来たのは孤児院だ。


 孤児院に入って直ぐに、子供達が走って来て、俺を囲った。


「みんな、良い子にしていたか?」


「うん! ほら、見て! 洗濯も終わったんだよ!」


 男の子が指差した所には、洗濯物が並んでいた。


「偉い! 良い子達には美味しいお菓子があるぞ?」


 俺は『アイテムボックス』から、町で一番安い甘いクッキーを取り出して子供達に渡す。


「「「わーい! お兄ちゃん、ありがとう!!」」」


 子供達は貰ったクッキーを持って、外にあるテーブルに座って食べ始めた。


 嬉しそうな彼らの笑顔に癒されていると、


「あら、ペイン様、いつもありがとうございます」


 と建物の中から、女性が一人出てきた。


「こんにちは、セリナさん」


 シスターの格好、白いフードの中から降りている青い髪、整った顔、綺麗な碧眼の彼女は、この町でも名物シスターである。


 というのを全く知らなかったけど、泊っている宿屋『安らぎの木』の女の子から聞いていた。


「あ、いつもの、納めます」


 セリナさんがペコリと一礼すると、建物中に案内してくれた。


 そのまま厨房兼食料庫に入って、棚に『アイテムボックス』から大量に食材を引き出して置いた。


「毎度ながら、本当にありがとうございます」


「いえいえ、これも勝手にやってる事ですので、気にしないでください」


 最初は『サブクエスト』をこなす感覚だった。


 でも、今は誰かに感謝される事がとても嬉しくて、子供達やセリナさんから「ありがとう」と言われるだけで、俺は満足だ。


「それとわざわざ安いお菓子にしてくださってありがとうございます」


 安いお菓子――というのは、俺は子供達に渡したお菓子の事だ。


 実は、初日良かれと思って、高めのお菓子を取り出して子供達にあげていいのかと聞いたところ、「本当にありがたい限りなのですが……そんな高価で美味しいお菓子を味わってしまうと、この先、あの子達が二度とそれを口に出来なくて辛いだけなのです…………申し訳ございません」と言われたのだ。


 考えた事もなかった。


 確かに今はいい。俺が持って来てあげることが出来るんだから。


 でも、もしも、俺が違う街に旅立ったり、孤児院を見放した場合、子供達は高価なお菓子を二度と食べる事が出来ず、ずっと惨めな思いをするかも知れない。それをシスターから言われるまで全く知らなかった。


 俺が『サブクエスト』感覚で孤児院に物を納めようとしていた最も大きい理由が、この言葉だった。


 彼らに惨めな思いをさせず、それでもって役に立てる方法はないかと考えて、こうして町で最も安いお菓子を買ってあげたり、食材をシスターにこっそり渡したりするのだ。



「あっ、ペイン様。本日はご一緒に食事なさって頂けますか?」



 とシスター。


 たまに誘われたりするんだけど、今まで全部断っている。


 理由としては、こんな美人なシスターとご飯なんて食べられるかって感じだったけど、今の俺には彼女がいる。美人なシスターとでも一緒に食事くらい出来るだろう。


 隣にいたクロエを見つめると、笑顔で頷いてくれた。


「ではお言葉に甘えさせて頂きます」


「!? 本当ですか! ありがとうございます! 本日は腕にりをかけて作りますね!」


「あはは……あ、すいません、出来れば二人分をお願いしてもいいですか?」


「二人分ですか? ――――分かりました」




 その後、子供達の勇者ごっこに付き合ってあげる。


 一応、俺も既にレベルがかなり上がっていて、才能は平凡だけど、それなりに戦えるようになっている。


 子供達には小さな木剣を渡して、みんなで勇者パーティーを組んで貰って、魔王役の俺と戦う遊びだ。


 遊びなのに、子供達は割と本気で叩いてくる。


 それをいなしたり、防いだりしながら、子供達に怪我をさせないつつ、遊んであげた。




 子供達が汗だくになっていた頃、向こうから「そろそろご飯だからね~」とシスターの声が聞こえた為、勇者ごっこも終わり、みんなを水浴びに行かせる。


 残った俺は、孤児院の年長組と一緒に院内のテーブルを拭いたり、食器の準備をした。




 テーブルの上には、これでもかってくらいご馳走が並んだ。


 こんなにご馳走が並んでいいの!?


 子供達から「今日はすっごいご馳走だ~!」って喜ぶ声も聞こえた。


 ――――「これも全てペイン様から頂いた分ですので、気にせず頂いてください」との事。


 テーブルにみんな座り、シスターの優しい声の短い祈りが終わり、「「「頂きます!」」」から食事が始まった。



「えっと、ペイン様? 隣の席のおかたはいつお越しになられるのですか?」


 シスターが可愛らしく首を傾げる。


「あはは……ちょっと事情がありまして、既にいるんですが、気にしないでください」


 といい、隣の席の食べ物を全て『アイテムボックス』の中に仕舞う。


 そして、隣の席に座っていたクロエが食事を取り出して、一緒に食べ始めた。



「あれ? お兄ちゃん、食事消えたんだけど、そうしたの?」


「消えたんじゃなくて、ここに見えないお姉ちゃん・・・・・に渡したんだよ。今、美味しそうに食べてるよ」


「わぁ! お姉ちゃんがいるんだ!」


 ガバッ!


 女の子との会話の後、後ろにいたシスターが驚いた顔で立ち上がった。


「シスター? どうかしましたか?」


「え、え、えっと……あの…………その、お姉ちゃんというのは……?」


「あ、見えなくて紹介出来なくてごめんなさい、俺の彼女・・です」


「!? か、彼女?」


「クロエって言います」


【クロエです、よろしくお願いします】


 見えないだろうけど、クロエが丁寧に挨拶をする。勿論、シスターには見えてない。だって、目線が合ってないからね。


「か……彼女…………そ、そんな……」


 直後、厨房に走って入るシスター。


 ちょっと目を潤ませていたけど、どうしたんだろうか?

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