彼女 LV.4

第10話 彼氏の戦い

 次の日。


 朝ご飯を食べてから予定通り街の北の門に向かった。


 北の門には既に物々しい雰囲気の騎士団が集まっている。先日の酒場に突入した面々だ。


「お待たせしました」


「うむ。案内宜しく頼む」


「分かりました。――――――クロエ、お願いね」


【うん!】


 クロエが気合いを入れるのがまた可愛らしい。


 あれ?


 ブラムさんとキランさん、何で泣きそうな顔をしているんですか?


 …………オークと戦いに行くの怖いのかな? あんなに強い方々でも怖いくらいだし、オークって強いのか……気を付けよう。


 クロエに騎士団の皆さんが歩きやすい場所を案内して貰った。




 暫く歩いている時、団長が声を掛けて来た。


「こんな開けた道を進んで辿り着くのか?」


【はい! オークたちも数匹で動いたりするので、狭い道は通らないんです】


「はい、オークたちも数匹で動くらしくて、狭い道は通れないそうです」


「ふむ……それも彼女・・からなのか?」


「はい」


「そうか……」


「??」


 団長も渋い顔をして歩く。


 取り敢えずは、クロエに聞いてみるとあと一時間くらいで着くとの事。


 また暫く歩く――――。


 少しずつ広い道から外れて、少し木々を潜り始めた。


 そして。



【まもなく森を抜けて、オークの住処が見えるわ】



 彼女の声に緊張感を感じ、団長及び騎士団に伝える。


 騎士団にも緊張が走り――――遂に、森を抜けた。




 目の前に広がるオークの住処。


 緑色の肌色で、人よりも倍は大きい身体を持つ魔物が見える。


 住処を埋め尽くすくらいの数だ……一体何匹いるんだ……。


【全部で百二十体。奥に幼体が八十体ほどいるの】


「成体が百二十、幼体が八十くらいです」


「ふむ……幼体は後方か?」


「はい」


「分かった。では二手に分かれる。遠距離部隊は先回りして後方を攻撃してから開始する。残りは正面から斬り込む。全員、オークとは言え油断するな! 奥から強い気配を感じる。私はそちらに直接向かう。ブラムは共にして、他は道を開けろ!」


「「「「はっ!!」」」」


 騎士団の四分の一が森を更に進み、住処の向こうに消えていった。


 残った騎士達はオークの住処の正面の近くで待機している。


「団長、俺も戦いに参加してもいいですか?」


「………………それは正義感の為か?」


「いえ、自分の為です」


「自分の為?」


「はい、こんなに大勢の戦いに参加出来る機会も少ないですし、オークとも戦う機会も少ない。俺は……もっと強くなりたい、彼女を守れるように強くなりたいんです」


「…………分かった。但し、自分の命は自分で守れ。危なくなったら逃げろ。それが出来るなら参加してよい」


「分かりました」


 団長の美しくも力強さを感じられる瞳を真っすぐ見つめた。


 団長は小さく頷き、オークの住処の向こうに視線を移した。




 それから少しして、空の向こうに黒い煙幕が上がった。


「よし、別働隊の攻撃が始まった! 我らも続くぞ!!」


 団長の号令から騎士団全員が飛び出した。


「ペイン殿は最後に続け、ブラム! 行くぞ!」


「はっ! ペイン殿、決して無理はしないようにね!」


「はい!」


 団長とブラムさんも素早く飛び出る。


 全員の飛び出た後、戦場を眺める。


「クロエ! 相手の遊撃の場所まで案内してくれ!」


【分かった!】


 クロエはものすごい速度で走る。


 そんなに早く走れるんだ!?


 とにかくクロエに置いて行かれないように、全力で彼女の後を追った。


 周りにはオークの叫び声と共に騎士団員の声が響き渡っている。


 昨日初めて魔物を武器で斬った時の音が、鳴り響く。


 ネットゲーム時代によく聞き流していたその音が、今では本物となって俺の耳に届いている。


 その実感が、より緊張を引き上げる。


 全力で走っても直ぐには息絶える事なく、クロエを追って辿り着いた場所には、弓を持ったオークが数匹いた。


 俺は弓のオークたちの後ろに行き――――初めて実戦で使う相棒長剣を取り出した。


【ペインくん。オークは素手でも強いからね? 絶対に当たらない戦い方がいいと思う】


「分かった。ありがとう!」


 彼女の助言を胸に、俺も飛び出した。



 騎士団に向かって弓を射ているオークたちを、後ろから斬り掛かる。


 まず一体目の首を迷う事なく斬る。


 剣の切れ味が抜群で、斬った感触も殆どない。


 斬った直後、左手にいたオークにも直ぐに斬り掛かる。


 周辺にいた弓を射ていたオークたちが弓を捨て、俺に向かって走って来た。


 二体目のオークを斬り、一度後ろに下がる。


 クロエと団長から決して無謀な戦いはするなという事は絶対に守る。


 俺は――――




 全力で後ろに向かって逃げた。




 ◇




 数時間。


 逃げてはクロエに奇襲が出来る場所に案内して貰い、奇襲してまた逃げるを繰り返した。


 今の俺が出来るのはこういう事だけ……決して自分を高く評価しない。それをきっちり守る事も戦い方だと思ってるからね。


 伊達にオンラインゲームを十年間エンジョイ勢をしてきたんじゃないから!


 美味いとこ取り……と言われれば、そうかも知れないけど……。




 住処の奥で、大きなオークの悲鳴が聞こえた。


 周りを見るとオークの死体が山のようになっていた。


 無我夢中で戦っていたけど……これで終わりかな。



【ペインくん、お疲れ様】


「はあはあ……クロエもありがとう、おかげで少しは戦えたよ」


【うん! とても格好良かったよ!! こう、しゅっしゅっで素早く動けて凄かった!】


 あはは……剣を斬る動作を真似る彼女。


 俺より早く手を振り下ろしている気がするのだけど……まあいいか。


 彼女に褒められると、凄く嬉しいな。


【あ! ここにあるオークの死体は『アイテムボックス』に回収した方がいいかも!】


「え? なんで?」


【このまま死臭が広がり過ぎると、山の奥にある強い魔物が来るかも】


「分かった! 出来る限り回収するよ!」


 精神的には疲れたけど、まだ身体は元気に動けるようで、俺はまた懸命に走り回りオークの死体を全部『アイテムボックス』に入れていく。


 それを見ていた騎士団員も、直ぐに気づいてくれて、死体を一か所に集めてくれた。


 回収する度に「回収ありがとう!」と言われる。


 …………こんなに他人に感謝された事がないから、どういう表情をしていいか分からない。


 でも、なんとなく……笑顔がこぼれた。


 これも全て彼女のおかげだね。また後でお礼をしなくては。



 慌ただしく回収に周り、最後に奥にいた団長の所に辿り着いた。


 他の場所とはあまりにも違う景色が広がっている。


 あちらこちらの地面に亀裂やクレーターが作られていて、如何に激しい戦いだったのかがそれだけで分かるようだった。


「ん? 死体を回収してくれているのか」


「はい、彼女から死臭でもっと強い魔物が近づく恐れがあるということで」


「なるほど……それはありがたい。助かる」


「い、いえ」


 汗や返り血、傷を受けていても、なお、美しい姿の団長から感謝の言葉を言われる。


 役得なのかもな…………。


 って!?


 クロエ!?


 何でジト目で俺を見るの!?




【むぅ…………顔がデレデレしてる!】

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