第9話 彼氏の思惑
練習用武器を試しつつも、雰囲気を見るため、山の前に来てみた。
相変わらず、ゴブリンが数体見えるけど、クロエの話からオークもちょくちょくいて、オークは一体でも危険なので絶対に戦わせないとの事だ。
ゴブリン相手に最初に槍を使って見た。
長いリーチを利用して、ゴブリンに向かって突いたけど、意外にもゴブリンに避けられて逆に攻撃される事態となった。
【ペインくん! 槍は長さよりも、先に付いている
クロエのアドバイス通りに使って見ると、意外と使いやすくなる。
ゴブリンの動きに合わせ槍の先端の穂部分を意識して攻撃する。
突きつつ、避けさせたら直ぐに斬る。
ゴブリンを三体倒す頃には少し様になっていたけど、しっくりくるかと言えば、槍に振り回される感じがする。
次は長剣を取り出す。
冒険者と言えば、長剣だね!
槍とは違いリーチが短い代わりに刀身が長いので、攻撃出来る距離は短いけど範囲が広く感じる。
ゴブリン相手に剣を振り回してみたけど、色んなゲームの主役が何故長剣なのかが分かるくらいには使いやすかった。
そもそも自分の腕の長さくらいの刀身だからイメージもしやすい感じだ。
次は小斧と短剣を使って見る。
感覚的には、今までストレートパンチを武器で行う感じがした。
意外としっくりくるから、これはこれでいいかも知れない。
普段から『アイテムボックス』を使えるから小斧と短剣を数本入れておくのもいいかもしれない。
最後は弓を試して見る。
タダで貰った練習用の弓矢を弓に通して構える。
ネットゲーム時代に使っていた弓は秒間数発撃てたのに……リアルでは一発撃つのに数十秒は掛かりそうだ。
向こうに見えるゴブリンに向かって、弓矢を放った。
弓矢は綺麗な放物線を描き――――ゴブリンを遠く通り過ぎた。
攻撃の気配を感じ取ったのか、ゴブリンが真っすぐこちらに向かってくる。
急いでもう一本弓矢を構えて撃つ。
放物線を描き、向かってくるゴブリンの遥か手前で地面に刺さる。
弓は無理かな!! 男は諦めが肝心と言うしな!
急いで剣を取り出してゴブリンを迎え斬った。
【ペインくん……そんなに落ち込まなくてもいいと思うけど……】
「はぁ……ネットゲーム時代には弓を愛用していたのに……弓って難しいね」
【直接狙うのとか色々あるからね……弓のスキルがあれば楽になるとは思うけど……】
「スキルか……ないからな……」
【ふふっ、使えないのは仕方ない! 割り切って、剣でいいんじゃない?】
「そうだね。剣にするよ、盾も使いやすいし」
右手に剣、左手に盾を持ってみる。
ちょっとだけ冒険者みたいな格好になったかな?
ぱちぱちぱち――
クロエが拍手してくれる。
少しだけ照れるけど…………凄く嬉しかった。
◇
「いらっしゃいませ! あっ、先のお兄ちゃん!」
「長剣を買いに来ました」
「一番合うのが長剣だったんですね! 弓はどうでした?」
「こちらはお返ししますね、弓矢が全然当てられなくて……」
「あはは、弓は武器の中でも沢山の練習が必要ですからね~、お兄ちゃんの体形から長剣かと思っていたからお父さんイチオシの長剣、準備しておきましたよ!」
彼女は嬉しそうに後ろの宝箱から剣を一つ取り出してきた。
カウンターに乗ったその剣は、店内の光を受けてキラリと光る。
見ただけでその剣の鋭さが分かる。
恐る恐る手に持ってみると、持つ手も非常に良い感触だ。
重さも程よく、重過ぎない刀身だが、刀身の重心が持ちやすく、片手で持って横向きにしても腕が引っ張られる感じが全くない。
「凄い……! 全く重心もぶれないし、軽いのに切れ味も鋭そう!」
「お兄ちゃん素晴らしいです! その剣の良さを持っただけで分かるなんて、初心者にしては中々の才能ですよ!」
「あはは……何となく分かるだけで、まだまだ駆け出しだよ、この剣、買わせて貰うよ」
「ありがとうございます! 金貨一枚になりますけど大丈夫ですか?」
俺はすかさず金貨を一枚取り出し、受付嬢の前に出す。
「まいどあり! 高級研磨石サービスしますね!」
「ありがとう」
新しい剣と研磨石を『アイテムボックス』にしまい、武器屋を後にした。
【良い買い物したね!】
「うん、クロエが良い店を案内してくれたおかげだよ。ありがとう」
【え!? ――――えへへ】
照れてる彼女、世界一可愛いかも知れない。
◇
日も落ち始めた頃。
俺はとある場所に向かって来た。
クロエはキョトンとした顔で付いて来てたけど、広場で待って貰うように話し待って貰った。
「いらっしゃいませ!」
「えっと、コース料理を二人前持ち帰りでお願いします」
「持ち帰りですかぁ?」
「はい、持ち帰る手立てはありますので、お金も先に払います」
「かしこまりました。料理長に相談してみます」
そう話した店員さんが奥に入っていった。
実は、ここは街でも有名なレストランである。
俺はとある事を思い付いて、買い出しに来たのだ。
少しして、店員さんが出て来て、大丈夫だとの事で、料金を払い、料理の完成を待った。
レストランの中にはカップルも多く、幸せそうに笑っていた。
ああいうカップルを見るといつも毒を吐いていたっけ……。
暫く待つと、料理が完成したという事で、簡易皿に美味しそうな料理が沢山並んでいた。
飲み物も美味しそうな果実飲料を買い、全てを『アイテムボックス』に入れた。
◇
「おまたせ」
【へ? お、おかえり!】
遠目から心配そうに待っていた彼女を迎える。
「行こうか」
【う、うん!】
彼女は直ぐに俺の後ろに小走りで近づいて来て、同じ歩幅で歩き始める。
周りには幸せに手を繋いで歩いているカップルも多い。
広場周りにはレストランも沢山あって、夜はこういう盛り上がりを見せるのだ。
今までは全く無縁の場所だったのにね。
宿屋に帰ってきた。
夕飯は既にいらないと断っていたので、そのまま部屋にあがる。
そして、部屋にあるテーブルに座る。
彼女にも向かえに座って貰った。
ポカーンとして首を傾げている彼女がまた可愛い。
俺は『アイテムボックス』から自分の料理を取り出し、自分の前に料理を並べた。
「クロエ、悪い。本当は俺が並ばせてあげたいんだけど……」
【へ?】
「『アイテムボックス』から取り出してくれない?」
【へ?】
クロエが固まって、全く動かない。
「あっ、ご、ごめん……俺みたいなやつと
【!? あああああ! ち、違う!!】
あまりの驚きっぶりの彼女はアタフタしながら『アイテムボックス』から料理を机の上に並べた。
彼女が取り出した料理は、不思議と触れなかった。
彼女と同じ
「ここの料理、とても評判が良くてさ、クロエにも食べて欲しかったんだ」
彼女は目を大きく開いて、料理と俺を交互に見つめる。
……。
……。
……。
……。
……。
彼女が動くまで、じっと待つ。
彼女も
不安そうな目で俺を見つめる。
俺は笑顔で頷いて返す。
彼女のフォークが目の前にある小さなナゲットに刺さり、そのまま口に運ばれた。
ナゲットを口に含み、ゆっくり噛む仕草もまた可愛らしい。
そんな彼女の瞳が少しずつ潤んでいく。
ナゲット一つを食べ終えた彼女は――――
【こんなに美味しい料理が食べられるなんて……思ってもみなかったよ……】
予想通り、『アイテムボックス』を通せば、彼女にも食べ物を食べて貰う事が出来た。
それから俺も目の前の料理を美味しく頂いた。
【ペインくん……ありがとう…………こんなに美味しい料理を、君と食べれて本当に嬉しい】
涙を流してそう話した彼女。
また泣かせてしまったけど、嬉しい気持ちの方が伝わって来る。
でも、クロエは一つ大きな勘違いをしている。
俺はずっと一人で寂しく食べていた。
こんな可愛い彼女と一緒にご飯が食べたい……。
そんな男として
【美味しいね】
「ああ、今まで食べたどんなものより美味しいよ」
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