第8話 団長の依頼

 鳳翼騎士団から報奨金がたんまりと入ったお金を『アイテムボックス』に仕舞う。


 それを見ていたキランさんと団長が驚きの顔を見せた。


 そして、ブラムさんが口を開いた。


「なるほど……やはり『アイテムボックス』持ちだったんだな」


「はい、珍しいスキルですか?」


「ああ、非常に珍しいスキルさ、そのスキルがあれば荷物の運びも簡単だし、商売にも冒険にも戦いにもとても重宝されるスキルの一つさ」


「へぇー、そうだったんですね、確かに重い荷物を持たなくてもいいのは助かってますね」


「……ペイン殿は記憶がないと言っていたな?」


「ええ、殆どの事は彼女から教わっていますので不便はしないんですが……」


「そ、そうか……、ではこれからはどうするつもりだい?」


 ブラムさんに言われ、どうするか考えた事がなかった事に気が付いた。


「特に決めた訳ではないんですが、彼女と色んな所を歩き回ってみたいなーくらいでしょうか?」


 隣に立っている彼女クロエが喜ぶ。



 その時、ブラムさんが団長を見る。


「団長」


「へ? は、はひ? ど、どうしたのん?」


 ????


「ペイン殿はこれから自由に旅をするそうですが、例の件がどうしますか?」


「へ? あ、あ、あ~、そうだね! えっとえっと……仕事よね?」


「はい」


「よし、仕事……仕事……」


 ――――そして。




「ペイン殿、これから折り入って仕事の相談がある」




 ええええ!?


 団長??


 さっきはあんなにオドオドしてたのに、急に真面目な口調に変わった??


「は、はい、ど、どうぞ?」


「うむ。実は我々騎士団に、二日でゴブリンを百体も売りに来た青年がいたとの情報が入った」


 あ……思い当たる節しかないな……。


「はい……俺ですけど……」


「やはりペイン殿だったのか! 一日でゴブリン五十体、それは並みならぬ索敵能力がなければ決して出来ない事だろう」


 え? そうなの?


 俺はクロエを見つめる。


 クロエが苦笑いを浮かべて、【魔物を短時間であれだけ見つけられる人は、多分この世界にはいないと思う……】と話す。


 あはは……そうだったのか……。


 俺は冷や汗を感じつつ、団長の次の言葉を待った。


「貴殿の索敵能力を見込んで頼みがある。我々は目的だったギレオンを逮捕出来た。これから我々騎士団は王都『ハレルヤ』帰還しなければならない。だが、このエルドラ街は一つ大きな問題が残っているのだ」


 ブラムさんとキランさんも真剣な表情で小さく頷いている。


「この街から北に向かった山に、魔物――――オークの住処がある。貴殿にはその住処を探して貰いたいのだ」


「オーク?」


「ああ、オークとは非常に凶暴な魔物でな、更に群れで動くので対応が難しいのだ。あの山の何処かにあいつらの住処があるのだが……山の中から住処を見つけるとなると、それだけで大変な作業であり、オークが生息している山だから危険もある。貴殿の索敵能力ならそういう危険を多少は減らせられるだろうと考えたのだ」


 凶暴なオークがいる山の中を探索するだけで、一苦労という事だね。


 俺はクロエを見つめた。


「クロエ……ごめん、俺一人では……というか、俺が決める訳にはいかないというか……」


【へ? ど、どうして??】


「だって、もし探すとなっても、全部クロエの負担になってしまうから……俺が勝手に決められないというか……」


【あ、そ、そうか! 私は大丈夫! 本当に疲れるとかないから、ペインくんの為になるなら頑張るよ!】


 く、クロエ……なんて良い子なんだ!


 俺なんかの彼女にも勿体ない彼女だ……。


 俺はクロエに頷いて返した。


 俺の笑顔に、少し戸惑っている彼女も笑顔になった。


「団長さん、その頼み、受けます」


「それはありがたい! では、探すまでの間――――」


「いえ、大丈夫です。住処はこれから探してきます」


「え? 今から?」


「はい、ですので明日には出撃出来るようにしておいてください」


「そ、そうか、分かった。こちらの我が儘を聞いてくれてありがとう。明日までには確実に準備しておく」


 それから少し打ち合わせをして、俺は騎士団を後にした。




 既に午後になっていて、いくら疲れない、見つからないとはいえ、彼女に夜中一人で山を彷徨って貰いたくはない。


【え、えっと……ペインくん……】


「ん? どうしたの?」


【大変申し訳ないんだけど…………あのね、心配してくれるのはものすごく嬉しいのね】


「???」


【えっと…………私、マップが見れるから…………その、迷わないの…………】


「あ」


 言われてみればそうだった!


 クロエは声を出して笑うと、マップの説明をしてくれた。


 街からでも山まで遠い距離が見えるの凄いね。


「ここからでもオークの群れの場所が分かるの?」


【うん! 丁度向こうの山の奥までなら全部見えるよ! 騎士団の方が話していたようにオークの群れもある、規模も大きいかな?】


「そっか……それなら明日の案内も問題なさそうね」


【任せといて!】


 胸元に両手を寄せ、やる気に満ち溢れた彼女を見て嬉しくなる。



「じゃあ、これから武器を見に行きたいけどいい?」


【いいよ! どんな武器がいい?】


「ん~、特にこれといって使いたい武器はないけど、色々触ってみて使いやすいのを探す感じかな?」


【そうだね! お金は沢山あるからね、まずは練習用武器というのが売ってるからそれを見にいこう!】


「分かった。案内お願いね」


【うん!】


 彼女はまた嬉しそうにスキップをしながら武器屋に向かった。


 可愛らしいスカートが少しひらひらとなびいて、俺にしか見えないこの絶景は中々のモノだ。




【ここがおすすめ武器屋だよ! 店主に気に入られると、高級な武器も売ってくれるみたい】


 彼女は意外とそういう裏情報まで知っているのよね。


 促され、武器屋に入る。


 中は武器屋らしく、壁に多くの武器が並んでいて、武器の前には武器名、重さ、長さ、おすすめ才能まで書いてあって、買い手に寄り添っている武器屋に見える。


「いらっしゃいませ!」


 カウンターには可愛らしい女性が出迎えてくれた。


「えっと……初心者で、練習用武器を買いに来たんですけど……」


「はいはい! あちらの右手に練習用武器が置いてあります~」


「ありがとうございます」


 練習用武器が箱の中に乱雑に入っていた。


 どれも簡易な鉄製だったけど、切れ味は良さげに見える。


 重さも雑な作りの割にはバランスも良くて、練習用とはいえ、しっかりと、作っている職人の腕が感じられる。


 …………と言っても、俺はそこまで詳しい訳ではないんだけど、なにせ武器を使うのは初めての経験だからね……でも何故かそういう事が何となく分かってしまうから不思議だ。



 練習用武器の中から、短剣、長剣、槍、小斧を手に取り、カウンターに持ち込んだ。


「これを全部買われるのですか?」


「え? は、はい。どれが使えるのか分からないので……」


「そうですか……」


「あ、えっと、高いのでいいので、弓と盾を買いたいんですけど」


 受付嬢は顎に手を当て、俺を下から上まで見て、何かを頷き、奥にある棚から弓と盾を取り出してくれた。


「弓も多分練習用でしょう? この弓はうちの失敗作・・・で多分あと数回で壊れますから、サービスしておきますよ~」


「あ、ありがとうございます」


「盾は私のイチオシのおすすめです。ちょっと値が張りますけど、性能は保証しますよ! 物理攻撃だけでなく、属性に対しても高い防御力を誇ります!」


 凄く目をキラキラを光らせながら、ぐいぐい勧めてくる。


 一目見ただけで、上品なのは分かっていたので迷う事なく買う事にする。


「分かりました。それを買います」


「おお! お客様、見る目ありますよ! ――――練習用武器と盾で……全部で銀貨五十枚になります!」


 銀貨五十枚……中々に高い。


 俺は懐から出すふりをしながら、『アイテムボックス』より金貨一枚を取り出した。


「これでお願いします」


「まいどあり~!」


 受付嬢は素早く御釣おつりを渡してくれる。


 懐に入れるふりをしつつ、銀貨五十枚を受け取った。


「練習が終わったらまた来ます、またおすすめがあれば教えてください」


「分かりました! いつでもお待ちしております!」


 そんなやり取りをして武器屋を後にする。


 ……意外と、俺にもこんな普通なやり取りが出来るモノだね。


 以前なら想像も出来ない事だ……。


 これも全て、俺の隣で優しい笑みを浮かべて見守ってくれている彼女のおかげかも知れない。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る