彼女 LV.3

第7話 彼女への贈り物と報酬

 正午前、街の外れにデートスポットとして有名な公園に来た。


 勿論、先日見つけた場所だ。


 周りを見渡してると、一人でいるのは誰もいない。


 それもそうよね。


 異世界なだけあって、二人カップルだけでなく、三人や、中には四人カップルもいた。


 四人って男一人の女三人だ。


 モテそうには見えないけど……装備が金持ちな雰囲気から……きっとそういうのなんだろうね。



 通り過ぎる人達が、ちらっと哀れんだ目で俺を見ながら通り過ぎる。


 今まではああいう目線が大嫌いだった。


 だが、今は全く気にならない!


 何故なら……俺の隣には、ものすごく可愛いらしい彼女がいるからね。誰にも見えないけど。




「クロエ、これ……」


 俺は恐る恐るペンダントを渡した。


 彼女の嬉しそうな笑顔があまりにも綺麗で、その笑顔を見た時、このまま世界の時間が止まって欲しいと願ってしまった。


 しかし。


 その直後、彼女の手がペンダントに被る。


 そして、彼女の表情が曇る。


「あ、あっ、ご、ごめん! えっと、えっと」


【え、えへへ、本当に嬉しくて……こんなモノ貰えた事ないから、本当に嬉しいの…………ペインくん、ごめんね?】


 彼女は美しい瞳に大きな涙を浮かべる。




 悔しい……。


 知っていたはずなのに……俺はどうしてこんなにデリカシーがないのか。


 彼女が触れられない事くらい知っていたじゃないか……。


【本当に……嬉しいのに…………ごめんなさい……】


 彼女をまた泣かせてしまった……。


 何とか……。


 何とかする方法はないのか!?


 こんな俺の彼女になってくれたのに、俺は何をしてやれないのか!?


 神様……貴方はどうして俺に彼女クロエを託してくれたんですか?


 せめて……せめて……。




 ――――その時。











 - スキル『彼女』のレベルが上昇しました。-


 - スキル『アイテムボックス共有』を獲得しました。-



 え?


 レベルが……上がった?


 これは……昨日、念話が届く前に頭の中で聞こえたアナウンスと同じだ。


 どうやら彼女にも聞こえたみたいで、二人で目が合ってキョトンとする。


 ひとまずレベルアップは置いておこう。


 いま大事なのは、新しいスキルだ。


「『アイテムボックス共有』って、俺の『アイテムボックス』を共有する意味でいいよね?」


【え、えっと…………うん。そうみたい?】


 これは……もしや!?


「な、なぁ、クロエ」


【う、うん?】


「『アイテムボックス』の中にお金を入れてあるから、取り出してみてくれない?」


【分かった!】


 彼女は俺が『アイテムボックス』を操作している時と同じ仕草をする。


 恐らく『アイテムボックス』を開いているのだろう。


 ――――そして。




 彼女はキラリと光る銀貨を一枚取り出した。




【取り出せた……!】


 俺はあまりの感動にその場にガバッと立ってしまった。


【ペ、ペインくん? どうしたの??】


 俺は何も言わず、自分の手に握られているモノを『アイテムボックス』に入れる。


 それを見た彼女の目が大きくなる。


 彼女の目と目が合った。


 俺は大きく頷く。


 ――そして。


 彼女は再度『アイテムボックス』を開いた。











【ペンダント……ちゃんと……入っ……て…………】



 その姿に俺も涙をこらえられず、自分でも分かるほど、目には大きな涙が溢れた。


【初めて……初めてなの…………大切に……するからね? 本当に……ありがとぅ……】


「俺も……ありがとう……」


【えっ……なんで、ペインくんも、ありがとう、なの?】


 彼女は涙を拭きながら、首を傾げた。


「…………今まで、誰も俺を見てくれる人なんていなかった……君が初めてだから……こんな俺から贈り物を受け取ってくれてありがとう」


 彼女が綺麗な涙を流し、笑顔で返してくれた。


 眩しい光に彼女の美しい笑顔が、俺は一生忘れる事はないだろう。




 ◇




 正午になり、俺は約束通り、エルドラ街の中央に向かって歩く。


 隣には綺麗な星型のペンダントを付けた彼女が嬉しそうにスキップして歩いてる。


 子供かっ!


 と思ったけど、誰にも見えないんだし、いいか。


 それにしても、可愛い。



 中央区に入ると、幾つかの看板があったけど、既に彼女クロエが案内してくれているので看板に目もくれず、歩き進める。


 やがて、彼女は足がある建物の前で止まった。


【ここが鳳翼騎士団のエルドラ街支店だよ!】


 案内されるの何だか懐かしいな!?


 今まで全く見向きもしなかった俺が悪いんだけども……。


 取り敢えず、建物に入る。



 中はキレイに整理整頓されており、清潔感が行き通っている印象だ。


 女性団長だから、そういう所にも力を入れているのかも知れないね。


 中に進むと、奥から知ってる顔が出迎えてくれた。


「待ってたぞ! 付いて来てくれ」


 俺はキランさんに連れられ、奥に入って行った。


 キランさんはある部屋の前でノックをすると、中から男性と思われる人の「入れ」という声が聞こえた。




 部屋の中には団長と、俺が最初に頼ったブラムさんが待っていてくれた。


「やあ、待っていたよ。そこに座ってくれ」


 ブラムさんに誘われるまま、ソファーに座る。


 奥の机に団長、手前のソファーにブラムさんとキランさんが座る。


 そして、ブラムさんが話し始めた。


「ペイン殿と言ったな、此度の通報は本当にありがとう。おかげで、賞金首のギレオンを捕まえる事が出来た……実は我々はあやつを長年追っていてね。この街にいるという噂があって、わざわざこの街で待っていたんだよ」


「そうだったんですね」


「あいつは強いだけでなく、ずる賢くてな。中々尻尾を出さなくてね。我々が衛兵の中に紛れていたのも、あいつを見つける為だったんだ」


 なるほど!


 ただの衛兵さんにしては、あまりにも強かったから不思議だなとは思っていた。


 ネットゲームでも衛兵と騎士では身分や実力があまりにもかけ離れていた。


 この世界でもそれは同じだと思っていたから、衛兵にブラムさん達の騎士団がいた事に違和感を感じていた。それが、こういう理由があったとはね……。


「それでまずは、見つけた人には懸賞金を渡す事になっていてね。あの凶悪な賞金首だから期待してていいよ」


「い、いいえ! 僕も狙われてて……」


「いや、君には正当に貰える権利があるから、貰ってくれると嬉しい。団長もそうですよね?」


「え? あ、ああ! う、うむ! も、貰ってくれたまえ!」


 あれ?


 団長さんがすごくぎこちない。



 キランさんが部屋の奥から大きな袋を持って来て、テーブルの上に上げた。


 ジャラジャラという音が聞こえる。


 まさか……その袋全部お金なんじゃ!?


「懸賞金、金貨――――八十枚だ」


「金貨八十枚!?」


「ああ、それほどあやつが凶悪だったのだ」


「そ、そんな大金貰えませんよ!」


 そう言うと、ブラムさんはキランさんと顔を合わせると、大声で笑った。


「アハハハ、すまない、まさか……こんな大金を断る・・人がいるとは、思ってもみなくてね」


「え!? 普通は断るでしょう!?」


「普通なら喜んで貰うさ。だが、ここは貰ってくれないと、こちらが困るのさ」


「でも……」


「――――ではこうしよう」


「???」


 ブラムさんは袋を俺の前に押して近づける。


「君を案内してくれた彼女・・の取り分だと思ってくれ。きっと……彼女もそれを望んでいるだろうから」


「えっ?」


 俺は思わず、クロエの顔を見つめた。


 クロエも驚いていたけど、【折角だから貰って、良い事に使えばいいと思うよ】と言ってくれた。




「……分かりました。彼女・・も貰って良い事に使おうと話してくれたので、そうさせて頂きます」


「……そうか、彼女が…………君は本当に良い彼女を持ったんだね」


「ええ、自慢の彼女です」


 クロエが少し照れてる雰囲気が伝わって来た。




 あれ?


 団長さん、何だか泣きそうな顔になっているの気のせいかな?


 ブラムさんとギランさんも涙ぐんでいるし……。


 賞金…………欲しかったのかな?


 言ってくれれば譲るのに……。




――後書き――

少しでも感動したよって方は、これからの先にも面白い話を用意しておりますので、ぜひ作品をフォローして頂けると嬉しいです!

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