彼女 LV.2

第4話 彼女の訴え

 ◆???◆


「あいつ、特殊なスキルを持っているわ」


「へぇ、どんなスキルだ?」


「魔物の居場所を特定出来るスキルみたい」


「へぇ! そりゃ凄いわ! どのくらい狩れた?」


「二時間でゴブリン五十体」


「すげぇな! おもしれぇスキルだ。どうだ? 落とせそうか?」


「ふふっ、余裕だね。どう見てもただの童貞くんだからね」


「くっくっくっ、頼んだぞ、レン」


「ええ、任せておいてよ。それよりも……あの薬、頼んだわよ」


「おう」




 ◇




 カレンさんとの狩りから、三日後。


 またカレンさんが訪れて来てくれて、また狩りを頑張った。


 それから更に三日後、もう一度狩りを行い、俺は六日でゴブリン百体を買取して貰った。


 この事が、のちに俺の人生を大きく変える事になるだろうと、その時の俺は知る由もなく、ただただ浮かれた毎日を送っていた。




 ◇




 このままではいけない…………私は彼の彼女・・なのだから。


 嫌われたくないから、ただ怯えているだけでは彼女・・とは名乗れない。


 あの女が近づいて来て、既に六日。


 三回目の出逢いで、後ろからニヤリと笑っているあの女の表情は、怪しさしか感じられなかった。


 だから。


 私は覚悟を決めた。


 三回目の時。


 既に彼は私の事なんて、どうでもいいと思っているのか、気にもしてくれなくなった。


 だから、私はコッソリ彼から離れ、あの女を尾行した。


 尾行と言っても、すぐ隣を歩いてもバレないんだけどね。



 女が向かった場所は、如何にも怪しい酒場だった。


 酒場に入るとマスターと何かを打ち合わせして、そのまま店の裏に入って行った。


 私もそのまま跡を追った。


 ――――そこにあったのは。



 私の予想を遥かに越える景色が広がっていた。


 酒に酔いしれて倒れている人々――――ではない。


 酒ではなく、それは、怪しい飲み物だった。


 部屋中に充満している煙。


 恐らくだけど、この煙には幻覚魔法の効果があるのだろう。


 中には女性もいて、あられもない姿になっている。


 入っていったあの女も、そのまま奥に進み、大きな人と交わった。



「おう、どうだった?」


「もうバッチリよ」


「ガハハハッ! よしよし、例の薬、用意したぞ」


「やっとね! あんな童貞くんと三回も遊んであげたんだよ? 全く……オドオドして気持ち悪いったりゃありゃしない」


【ッ!! ペインくんは気持ち悪くなんてない!!!!】


「ガハハハッ! 明日にでもやってやるか」


「そうね。この薬があれば言いなりに出来るんだし、やっと解放されるわ」


【!?】


 青い瓶には怪しい色の液体が入っていた。


 どんな物かは分からないけど、言いなりにするという言葉からどんな物か容易に想像出来る。



 何とかしなければ……。


 ペインくんは……レイトくんは私が守らなければ!


 ――その時。



 - スキル『彼女』のレベルが上昇しました。-



 アナウンスが流れた。


 レベルアップ?



 - スキル『遠隔念話』を獲得しました。-



 遠隔念話??


【ぺ、ペインくん!!!】




 ◇




 は?


 頭に彼女の声が響いた。


 周りを見渡してみるも、彼女の姿は見えない。


【ペ、ペインくん! 落ち着いて聞いてね! 私のレベルが上がって、遠隔念話が使えるようになったの。だから、心の中で、電話で話すような感じで話せば、私と話せるようになるの!】


 ん…………ものすごく慌てているので、このまま試してみる事にした。


 えっと……こんな感じかな?


【うん! ちゃんと聞こえるよ! えっと、今から話す事は本当の事なの。だからペインくんには今すぐ動いて欲しいの!】


 ん? どうしたんだ?


【ペインくんに近づいていたカレンって女は偽名で、しかもペインくんを騙そうとしているの】


 ……またその話しか。


【えっとね。今、ある場所で――――】


 ……NPCはNPCらしく――




【NPCじゃない!!!!】




 へ?


【私はクロエ! NPCなんかじゃなくて……ペインくん、貴方の彼女・・なの! 確かにスキルだけど……貴方がいなければ、私は存在しないけれど、私はちゃんとここに存在しているの!】


 えっ……?


【だからね……お願いだよ…………私を……】




 ――――ちゃんと見て欲しい。




 ◇




 俺は訳も分からず、走った。


 向かっている場所は、エルドラ街で最初に会った衛兵さん。


 彼なら信頼に足りると思ったからだ。


 衛兵所に急いで入る。


「ん!? なんだなんだ? どうしたお前さん?」


「え、えっと! 茶髪でごっつい衛兵さんいませんか?」


「あ? ブラムか、おーい! ブラム!! 客だぞ!!」


 向こうで木刀を振っていたブラムさんが止めてこちらに来てくれた。



「ん? 君は……確か……」


「僕はペインと言います! ブラムさん。急ぎのお願いがあって来ました!」


「ふむ。どうやら大急ぎみたいだな……分かった。話してみるといい」


「はい! 実は……とある酒場の裏に違法な薬を扱っている連中がいまして、僕も狙われていまして、そいつらを逮捕して欲しいんです!」


「…………」


「……??」


「なるほど、言いたい事は分かった。証拠はあるのかい?」


「えっと…………怪しい煙を使って…………」


「その煙とやらの名前は分かるのかい?」


「え? い、いいえ……」


「…………ふむ。君の言いたい事は分かった。だがな、そんな言葉を簡単に信じて、その酒場とやらに立ち入るのは無理なんだよ、確たる証拠があれば違うが……」


「証拠……例えば、どんなモノでいいんですか?」


「……うむ、例えば、違法の薬を扱っているなら、その中に賞金首がいたりするはずだ。その賞金首がいるという確証があるなら、入り込む事も出来よう」


 ブラムさんとの話し合いに、他の衛兵さん達も顔を変え、集まっていた。



 く、クロエ!


 証拠がないと衛兵さん達も動けないらしい!


 何か証拠になるモノが欲しい!


 賞金首がいるなら突入出来そうだとの事だけど、賞金首っぽいやつを特定して欲しい!


【分かった! ――――えっとね。ボスと言われている人は、とにかく大柄で、両腕の上部に黒いサソリのタトゥーが描かれているよ! 顔にも左頬に変な傷があるの!】


「大柄で、両腕の上部に黒いサソリのタトゥー、顔の左頬に変な傷!」


「!? それは……その中にいるやつの特徴か?」


「はい! 周りからボス・・と言われているそうです」


「…………分かった」


「ブラム!」


 ブラムさんに驚いて声を上げた衛兵さんに、ブラムさんが手を出す。


「俺は……この青年を信じる。キラン! 団長を呼んで来てくれ!」


「まじかよ……俺は知らねぇぞ!?」


「ああ、全ての責任は俺が取る」


「……分かったよ。そこの青年。もしその言葉に嘘があったら……俺は一生許さないからな!」


 そして、キランさんは外に走り出て行った。



「大丈夫です! 俺の…………彼女・・が向こうにいますから」


「……彼女・・か。分かった。では準備をしている間、君はここで待っていてくれ」


「分かりました。お願います!」



 こうして、俺はクロエ彼女に言われたまま、一番信頼出来る人に助けを求めた。

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