第3話 彼女の反抗

 ん~!


 久しぶりのベッドでの眠りは最高だね!


 向こうでは当たり前の生活だったけど、あるとなしじゃ全然違うな。


 元々早起きだった俺は、また朝日が昇る前に起きた。


 周りを見渡してみると、彼女の姿が見えない。


 何となく、スキルの気配を辿ってみると、彼女はどうやら部屋の外、扉の前にいるみたい。


 ……なんだろう。


 ただのNPCなのに、こういう所は気遣い出来る所がまた人間らしいというか……。



 あと四日は働かなくても良いが、このままでは生きていけない。


 なので、暫くここを拠点に、周りでレベリングを行う事にした。



 ガチャッ――



 扉を開けると、その脇に座っていた彼女が急いで起き上がった。


 ペコリと【おはよう】と言ってくれるが、これが聞こえる人は俺以外存在しない。


 何せ、彼女はただのNPCだからだ。



 下に降りると、既に朝早くから料理の準備が進んでおり、食堂には多くの人達が食事を進めていた。


 異世界の朝は随分と早いんだね。


「あっ、お客様! そちらに座ってください! ご飯、直ぐに持ってきますからね!」


 昨日の受付の女の子だ。


 彼女に言われたまま、テーブルに座った。


【え、えっとね! 名前を使うと他の冒険者とのトラブルに巻き込まれたりするから、名前は聞かないみたいなの!】


 そうか……だから昨日も名前を聞かれなかったのか。


 ただ忘れただけだと思っていたけど、意外な気遣いもあるものだね。


 暫く待つと、女の子がトレーの上にパンや野菜、ソーセージなどを乗せて、持って来てくれた。


 意外と向こうの朝食と変わらないかな?


 昨日は夕食も食べずに眠ってしまったから、お腹が空いただけあって、どの食べ物も美味しい!


 一緒について来た牛乳のような白い飲み物も甘くて美味しかった。



 食事を食べ終えてトレーを返して、そのまま外に出た。

 

 ひとまず、資金調達をするため、そのまま街の外に出てゴブリンを探した。


「なあ、ゴブリンの居場所は分かるか?」


【う、うん! 一番近いのはあそこだよ!】


 彼女が指差す方向に向かって走り出す。


 こんなに思いっきり走ったのっていつぶりだろう?


 ――――そういや、引きこもりになる前の中学校ん時、いつものパシリで走ったっけ。


 特に嫌ではなかったけど、顔も見た事ないクラスメイトの為に毎日届け物をしてたな。



 意外にもステータスのおかげなのか、走ってもあまり息が上がらない。


 そのまま、ゴブリン二体を見つけると、今度は積極的にこちらから攻撃を仕掛けた。


 相も変わらず、ストレートパンチしかないけど、慣れて来てゴブリンの攻撃を避けつつ、パンチをお見舞いする様は少しかっこよく見えるかな?


 それから一日中、彼女の案内でゴブリンを数十体倒せた。


 これなら毎日『アイテムボックス』を使って十体ずつ売れば、三日は遊んで暮らせるね!



 狩りを終え、街に戻り、昨日と同じくゴブリンを十体売った。


 銀貨一枚か……どれくらいの相場なのかを先に調べないとな。


「なあ、相場はどんな感じなんだ?」


【う、うん! 銅貨と銀貨、金貨、貴族用の白金貨があって、銅貨百枚で銀貨一枚、銀貨百枚で金貨一枚、白金貨は特殊な取引がされるの】


 ふむふむ、百枚ずつで上がっていくのね。


【えっと、向こうの感覚から大体だけど、銅貨一枚で百円で、物価が違うので向こうと同じではないんだけど、食事は銅貨五枚もあれば腹一杯食べれるし、宿屋は二十枚で安値で、もっと安い所はあるけど、共同部屋だったり、高い所では銀貨一枚を超える所もあるよ】


 銅貨一枚が百円、銀貨一枚は大体一万円な感じか。


 これなら覚えやすいかな!


 ゴブリンの死体は一体で銅貨十枚。


 一体千円と考えると、まあまあなのかな?


 時給にすれば千円を越えるから、高いのかな?


 ネットゲーム時代の仲間がバイトをしていて時給八百円と話していたから、今の俺は時給五千円くらい稼げてるから凄いのかも!


【で、でもね、装備は衣食住より高い感じで、鉄の剣だと銀貨十枚はするの】


 素材系が高価な感じか……それもそうか、そうでないならゴブリン一体であんなに高額で買取なんてしてくれないだろうからね。



 俺はそのまま三日かけて、街を歩き回って、街の雰囲気や装備の目星だったり、情報を手に入れながら過ごした。


 ――――その間、彼女はずっと部屋の外で夜を明かしていた。




 ◇




 エルドラ街に来てから六日目を迎えた。


 銀貨は十分にあるので、宿屋は二枚分延長しておいた。


 久しぶりにゴブリンの補填に行こうかなと思っていた時、宿屋を出た俺の前に一人の女性が立ちふさがった。


「ねえねえ、お兄ちゃん? 少しいいかしら?」


「え、え、あっ、はい」


「ふふっ、可愛らしいわね。私はカレンと言うの。どう? この後、私といいことしない?」


「え”、い、いいえ、そ、そんな事は」


 隣にいた彼女がものすごく睨みつけている。


 いやいや……そこまで睨みつけなくても……。


「ふふっ、ねえ、私こう見えてもとても戦力になるのよ? どう? 一緒にパーティー組まない?」


 凄く近づいてきた女性からものすごく良い香りがする。


 えっと……一応パーティーで戦った方が都合が良いのかな?


「わ、わかり、ました……」


「ふふっ、宜しくね!」


「おねがい、します。ぼくは、ペイン、って、いい、ます」


「ペインちゃんね。ふふっ」


 外に向かおうとしたら、カレンさんが俺の腕に絡んで来た。


 ぬああああ!!


 こんなに近くに女性が…………。


 女性ってみんな、こんなに良い香りがするのだろうか??


 ぎこちない格好で、街の外に出た。


 周りの目線が気になって、それどころじゃなかった俺は、カレンさんに連れられるがまま、気づけば森の中だった。




「ペインちゃん、私はこの短剣を投げるのが得意なの、なので、援護は任せてね?」


「は、はい! わ、わ、わかり、ました」


 そして、俺は彼女を見つめた。


「???」


「えっと、ゴブリンはどっちに?」


「……??」


 彼女はほっぺを膨らませて拗ねていた。


 えっ?


 NPCさん? どうしたの!?


【むぅ……あそこ……】


 彼女が指差した方向に向かった。


 ゴブリンが三体いる。


「へぇ…………ふぅん…………」


「カレンさん、俺が、先に、いきます」


「ペインちゃん! 頼んだわよ!」


「は、はい!」


 俺はゴブリン三体に向かって、走り出した。


 そして、一体を殴り、離れる。


 驚いたゴブリンの一体に、後ろから短剣が飛んで行き、直撃して倒れた。


 二体が俺に仕掛けてくるが、一体を避け、もう一体を殴ると倒れた。


 避けたもう一体には、カレンさんがもう一つの短剣を投げて直撃させて倒していた。


「ペインちゃん、凄いわ!」


「は、はい」


 ふぅ……女性と話す方が疲れるかも知れない。


 取り敢えず、三体を『アイテムボックス』を入れる。


「!?…………ふぅん、なるほどね…………」


 そして、


「次はどこに?」


 彼女に声を掛けるも、彼女が未だむっとしている。


【ねぇ、ペインくん。あの女、とても怪しいわよ?】


「は?」


【だから……あんまり関わらない方が……】


「ふ、ふざけるな! NPCの分際・・で受け答えするんじゃねぇ!」


「!?」


【!?…………ご、ごめんなさい……む、向こうに……】


 彼女は酷く怯えた表情になり、震える手で方向を指した。


「カレンさん、向こう、です、いきましょう」


「え? ええ…………ふぅん、そういう事……」


 それから彼女は素直に案内してくれた。


 俺は初めて誰かと一緒の狩りが楽しくて、夢中で狩りを行った。


 カレンさんの笑顔が嬉しくて、俺はひたすらに夢中になった。


 ――そして、帰って来て、彼女との取り分を分けた。


 カレンさんは笑顔で、また狩りに行きましょうと言い、何処かに消えて行った。


 ……期待していた訳ではないんだけどね…………。











 誰もいない廊下、誰にも聞こえない女の子の泣き声が、一人空しく響いていた。

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