ファストフードの星
――さて、どの料理にしようか。
そう考えながら私は自販機の商品写真を見る。地球連邦で人気があるファストフードといえば捕虜や調理プログラムを通じて瑠国にも流入した牛丼やハンバーガーがあり、逆に地球でも豆で作った生地にご飯のお供
「これは……」
ファストフードが夜空に輝く星のごとくに並ぶその中で、特に私の目についたのはカップ状の容器に入った即席めん。捕虜が雑談で稀に語るという未知のファストフード「カップ麺」であると気づくのに時間はかからなかった。カードをかざし、ボタンを押して商品が出てくるのを待つ。
――カコン
カップの落ちる音とともに、取り出し口の上についたランプが点滅する。取り出し口を開けて紙製の容器を取り出し、両手で持って来賓室に戻った。
「秦戸中尉、戻りましたよ」
そう言ってドアを開けると同時に、秦戸中尉が叫ぶ。
「伏せて!」
何が何だかわからないまま伏せ机の影に隠れると、猛烈な熱風が頭を撫で、爆発音が廊下に反響した。
「大丈夫ですか!?」
私が小声で秦戸中尉に聞いても、秦戸中尉は応じない。顔を上げてみると、扉のすぐ奥に置かれた机の向こうで秦戸中尉が立ち上がるのが見えた。
「大丈夫に決まっている。それよりご自身の身の安全を案じるんだな、利久村大使」
何が何だかわからない。とりあえず扉の内側に置かれた机の上で資料が燃えているのはわかった。そして、秦戸中尉がこの攻撃を仕込める唯一の人間だということも。廊下の向こうからは軍靴を履いた数名が走ってくる音が聞こえるが、まだ遠い。最寄りの警備詰所は軍事協定に基づいて空になっているから当然といえば当然だ。
「誰の差し金だ」
秦戸中尉に聞くと、秦戸中尉は懐からそっと火薬式の自動拳銃を取り出した。弾倉をセットし、銃身をスライドさせて弾丸を薬室に装填する。カチャリという音がして弾丸が薬室に装填されたことを示す。私はとっさに立ち上がりながら机をひっくり返し、全力で廊下を走った。秦戸中尉は難なく机を乗り越えて廊下に出るだろうと気づいたが、その時にはもう走り出していた。死を覚悟した次の瞬間、廊下に明かりがつく。
「止まれ!」
瑠国標準語でその言葉を発したのは、秦戸中尉だけではなかった。秦戸中尉は一瞬驚いた様子だったが、すぐにこちらに拳銃を向けなおした。私は自動販売機の後ろに入ろうとしたがそれは無理で、秦戸中尉は拳銃でこちらを狙いながら距離を詰めてきた。
「止まれと言っている!」
聞き覚えのある声がそう叫び、秦戸中尉はそれを無視してこちらに詰め寄った。と、秦戸中尉の背後で黒い影が動き、秦戸中尉が倒れる。私はその影を凝視し、やがて彼女――情報部の野村少佐であると気づいた。
「利久村少将、遅くなって申し訳ございません」
「野村少佐、これはまさか」
そう問うと野村少佐は青ざめた顔でうなずいた。
「地上軍内部の功武派が動いています。出発前の襲撃の件も考えると、おそらくこれも功武派の陰謀かと」
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