連邦首都地球へ
「隔壁点検完了、異常ありません!」
「動力炉も同じく、異常ありません!」
メンテナンスをしていた工員たちが完了報告を終える。時間が近いので普段ならもう暖機運転が始まるところだが、この船は今は外交船。もう一つ重要な検査が必要となる。
「外務省の検査官より報告、全武装の搭載量が外交規定数を遵守していることを確認したとのことです。証明書発行も済んでます」
「よし。全作業要員を保守区域から退避させろ!暖機運転を開始する!」
書類の発行を確認してから、船長は緊張した面持ちで命ずる。黄色いランプが点滅して作業要員が退避し終えると、ドックの中は赤いランプに照らされた。
「ヒーターに外部電源を直結、然る後にヒーター始動。動力炉に予熱を開始せよ!」
「了解、外部電源直結完了。ヒーター始動します」
機関士が船長の命令を復唱し、予熱ヒーターの軽やかで低い作動音が船内に響き始める。機関士は動力炉の温度計を見ながら、始動レバーに手をかけた。
「炉内温度、最低始動温度を突破。適正温度に到達」
機関士はそう言いながら始動レバーをゆっくり手前に引いた。カチャという音がしてレバーが止まると、機関士はレバーから手を離して動力炉のスロットルをゆっくり上げていく。
「臨界突破、動力炉始動します!」
機関士がそう言った瞬間、レバーが前に勢いよく戻り動力炉の作動音が船体を揺らした。ヒーターが停止し、船体の照明が一瞬暗くなってから再び明るくなる。
「外部電源外せ!斥力タービン始動、ホバリング開始せよ!」
「斥力タービン始動、ホバリング開始します!」
「船体浮上確認!進路全てクリアです!」
「
エンジンが始動し、浮き上がった船体は港の出口に向けて加速していく。
「港を出ます」
「よろしい。座標エハル三八〇に重力航法の目的地をセット、計算を開始せよ」
コンピュータは即座に計算を開始し、到着予想時刻を表示する。結果は五百七十六時間ちょうど、つまり二十四日と二時間だ。
「かなりかかるんだな」
「国境は検問を省略して素通りできますから、これでも早い方だそうですよ」
船長にそう言うと、船長は「そうなんですか、ならありがたいですね」と答えた。そして、船長は手を挙げて指示する。
「重力航法、開始!五、四、三、二、一」
次の瞬間、第一九三日出丸は重力航法を始動した。船首方向に星が虹を作ったかと思うとその虹は後ろへと流れてから前に戻り、目の前には都市の明かりが点在する宝石のような星が見えた。
「綺麗ですね、利久村少将」
船長がため息を漏らす。
「そうですね。あれが地球連邦の首都……地球ですね」
「綺麗なものですね……まるで綺麗に磨かれた宝石のようです」
船長は少し嬉しそうに言う。この日私たちは史上三番目に地球を肉眼で見た瑠人となった。
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