栄光の小型船
私を狙った暗殺者の武器は、ゴムを利用したクロスボウだった。クロスボウとは呼ばれるものの矢の速度は音速を超え、威力は火薬式ライフル銃に匹敵するというのだから恐れ入る。私の頬にできた傷は衝撃波による切り傷だと診断され、傷薬が処方された。ガーゼを当ててテーピングを施し、港湾区画へと向かう。小型船艇停泊エリアの三十九番パッドに、その船は停泊していた。
「お久しぶりですね、利久村上級少将」
「お久しぶりです船長。合計二階級昇格したと聞きましたが、かなりのものですね」
私が船長に挨拶すると、船長はニコニコ笑いながら船体を指差す。
「まあ即応戦力としてこの前の地球戦線にも駆けつけましたし、これだけ墜としたり沈めたりしましたからね」
小型艦三隻と大型機二十機、そして多数の小型機の撃墜マークが描かれたその側板には、この船長の優れた戦績がにじみ出ていた。初めて乗ったときの第一九三日出丸からすれば、見違えるような活躍である。
「さて、今度もお客さんとしての乗船ですか。大抜擢されたのでこちらも張り切っていますが、少し心配なことがありまして」
船長はそう言って額に手を当てる。
「どうしたんです?」
「いや、三番銃塔の担当機銃手の地球嫌いが爆発してまして……粗相をやらかさないかと怖くて……前にもやらかしたってのもありますし」
船長はそう言ってため息をついた。瑠国と地球は二百四十年の長きにわたって戦争をしていたのだから当然といえば当然だが、両者に初めての平和が訪れた今もそれを引きずるのは分からないことはないものの勘弁してもらいたいものだ。特に両者が協力し、かねてから交渉が行われていた平和条約が締結されるなどの歴史的な進歩が得られた今となっては状況が大きく違うどころの騒ぎではないのだから。
「何かやらかしたんですか?」
私が質問すると、船長は頭を抱えて語った。
「つい二週間前に地球に行ったとき、地球艦隊の船と通信する機会があったんですが……その時に地球の艦艇が使ったコールサインに噛みつきまして」
「どんなコールサインだったんです?」
「アルファ・リーダー……という地球では一般的なものだったのですが、アルファという響きが気に入らんだとかなんだとか色々とぼやいていました」
私は彼の相当の地球嫌いを感じた。なぜ彼がそこまで嫌うのかは分からないが、とりあえず彼を連れて行くのはまずいかもしれない。
「うーん……少し彼と話をさせてもらっても?」
「ああ、構いませんが喧嘩はしないでくださいね?彼は地球との戦争で両親を亡くしてますから、地球を好きになれというのは土台無理な話でしょうし」
「私を誰だと思ってるんですか、そんなことは言いません。大丈夫ですよ」
私は少しの不安を押し流してそう言った。
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