真相予測
「どういうことだね、利久村君」
緊張した空気の中、釜村副司令官が真意をはかりかねるとでも言いたげな様子で私に尋ねる。清津大元帥は私の方を見ながら確認するように言った。
「つまるところ今回の件は戦争が終わったばかりであるという状況に起因する不信感から起きた偶発的な衝突と言いたいわけだな?」
「はい」
私は頷いた。副司令官は少し考えていたが、なるほどと手を打った。
「それは確かに可能性としてはあるのですが、それを引き出すのは至難の業ですよ」
外務官僚が言うと、他の外務官僚が「事実の方が重要だ」と発言する。外務官僚の間で応酬が始まりそうになったところで、外務次官がそれを制した。
「我々としては偶発的な衝突であるという考え方を支持したいと思います。利久村提督の主張は非常に理にかなっていると思われますからね。それに、もし両国間に不信を残したままで国交を樹立しても、厄介なことが起きるだけです」
いかにもご尤もなことだ。私は頷いてから戦闘詳報を閉じた。議長も戦闘詳報を閉じ、一礼する。
「それでは会議を終了しようと思います。皆様ありがとうございました」
全員が礼をして会議室を出る。私が出ようとすると、釜村副司令官が私を呼び止めた。
「証人喚問の日程その他、必要な情報が書いてある。それから君は重要証拠人となるから、万一に備えて警報装置も渡しておく」
釜村副司令官はそう言って書面と黒い小型の発信装置を私に手渡す。私は書面の封を開けて、中を検めた。間違いはないようだ。
「では確かに」
私はそう言って会議室を出た。証人喚問で出向く際には第一九三日出丸を使うらしい。またあの船長に会うのか、と考えると少し楽しみになってきた。何はともあれ早めに終わったおかげで空いた時間を潰すには、おそらく読書が最適だろう。最近はまっている連作恋愛小説の手をつけていなかった第二部でも読もうか、そんなことを考えて私はポケットから携帯端末を取り出した。電源をつけると、速やかにビープ音が鳴る。かなりけたたましい音だった。
「どうした!?」
「事故かな?」
近くを歩いていた艦上歩兵たちが慌てて周りを見回す。私は慌てて彼らに携帯端末を見せて、事故などは発生していないことを示した。
「すみません、携帯端末がエラーを起こしただけです」
私はそう言って画面を覗く。すると画面には「電池残量不足」の文字。私はすぐさま汎用バッテリーを取り出すと、ケーブルで端末への充電を開始した。
「お騒がせしてすみません」
私の言葉に近くを歩いていた人々は再び日常を再開する。私は二分ほど歩いて市街地に入り、自分の部屋がある安アパート「セトカ荘」の階段を上がった。
「さて、追憶恋愛記の第二部はっと……」
わざと口に出して周囲が何をやっているか理解出来るように行動するのは、最近ついた艦隊での癖だ。まったく何をやってるんだか。追憶恋愛記の二部はすぐに見つかった。恋愛小説と一口に言っても色々な種類があるが、これは少し特殊な青春ものだ。十年ほど遅く訪れた青春を、大人の主人公たちが悩みつつも過ごす。そんな小説を読んでいると、どこか不思議な気持ちにさえなってしまう。私は物語の世界に没入し、布団の中で眠りについた。
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