聴取会

「それでは、査問委員会予備会議を開始します。証人として利久村提督を召喚したので、査問委員会に際して必要となら事項を戦闘詳報のページを指定してから聴取してください」


 会議が始まると、私は戦闘詳報をめくっては仔細に質問する外務官僚たちに詳細に回答するようつとめた。外務官僚たちは戦闘詳報のページを指定した後に、私に様々な質問を投げかける。


「地球連邦艦隊の提督が殺されたことは知っていましたか?」


「いいえ。定時交代だと告げられました」


「提督は敵弾を回避する際、何を根拠にして行動しましたか?」


「通話回線の不自然な乱れ、そして地球連邦艦が行った兵器へのエネルギー充填です。それから敵艦の照準器がこちらを向いていることが確認できたことも回避直前とはいえ判断には影響しています」


「ラバッツ大佐の行動に違和感を持ったのはいつからですか」


「ラバッツ大佐と通信を開始した直後からです」


 戦闘詳報は詳細に書けていたと見えて、外務官僚たちはかなり早く聴取を打ち切った。戦闘詳報を詳しく書いている自信はあるが、一時間はかかると言われた聴取が二〇分で終わるとなると想定外の詳しさだったのだろう。もっと簡単に書いても良いのかもしれないが、公文書を書いている以上説明出来ない場合も考慮した方が良いというのはよく言われることだ。そんなことを考えていると、瑠国宇宙連合艦隊総司令長官の清津きよつ結奈ゆいな大元帥が口を開いた。


「さて利久村くん、ここからは雑談として聞いてくれたまえ。私たちは本件における地球連邦の対応がとある秘密に触れたことによって引き起こされたものと推察していた。だが、地球連邦はその秘密をあっさり明かした。何かまだ裏があるかもしれないと思ったが、君の話を聞いただけでは判断がつかない。あのシーケンスにつけられていた説明文と例の未確認敵艦の解析結果を総合して、齟齬らしい齟齬が見当たるだろうか?また、あの説明文から戦略的意図は読めるか」


 落ち着いた、七〇代らしい、しかし威厳とハリのある声で、目の前の老婆はそう私に尋ねる。私は突然のことに目を見開き、脳内では超高速で思考が飛び回る。


「それは……どのような観点でお話しすれば良いのでしょうか」


「純粋に戦術および戦略的な観点から君の意見を聞きたい。利久村少将、君は今のところ、いついかなる時でも正しい判断をしている。だから君の意見を積極的に取り入れようと思うわけだ」


 そう発言する清津大元帥の姿は、いかにも女傑と形容するのがふさわしい。


「そうですね……未確認敵艦の暗号化されたデータは例のシーケンスであっさりと翻訳できてしまいました。その点と、さらにバイオコンピュータの生体組織に使われていた細胞の遺伝情報から推測出来るのは、我々の遠い親戚があの未確認艦の主だということです。そしてあの艦自体の構成からは、我々に数倍する科学力を保有する、しかし明らかに我々の延長線上に存在する文明が建造したということがわかります。これらを総合した上であのシーケンスの説明文を考察すると、シーケンスの説明文に誤りがあることは明白です。ただ、それは意図的な誤りではなくあくまで科学的な、反証しうる学説上の誤りです。このシーケンスは翻訳プログラムなどというちゃちな代物ではなく、恐らくですが言語のエッセンスです。私たちの、説明文に書かれているメイカーが関与した生命が創出可能な言語全てに共通する重要部分を割り出した、私たちの技術を優に超える情報です。そして、そのことは地球連邦人も知っているのでしょう。だから、我々に渡すのを渋る現場艦隊が現れたのではないでしょうか」


 場の空気が一気に緊張した。

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