衝撃の書類
「どうぞ」
七朔をビニール袋の中で剥いて、野村少佐に半分差し出す。
「ありがとうございます」
「いえいえこちらこそ」
私は野村少佐に頭を下げて、それから七朔を口に運んだ。七朔はとても甘いが、どこかに爽やかな酸味を隠し持っている。
「食べ終わったら艦橋に戻る。そろそろ敵艦残骸のデータを翻訳する準備ができている頃だろう」
「そうですね、RLLJ-1881も届く頃です」
「よく噛まないな」
私がそう言うと、野村少佐は頭を掻きながら冗談交じりに返した。
「早口言葉が上手い人の能力を共有したんです」
私は冗談めかしてそれに返答する。
「そうか。私の昇進が能力なら共有してほしいところだな」
野村少佐は少しの沈黙の後に私に応じた。
「どうしてです?」
「君が情報局の特務艦隊を指揮する姿はさぞ格好いいだろうからね」
私はそう言い終えてコーヒーを飲み干すと席を立った。野村少佐は少し悩んでいる。私はそんな野村少佐に背を向けて、艦橋直行のエレベーターホールがある廊下の突き当たりへと歩き始めた。私は利久村から利久村下級准将へと戻る。エレベーターの中で日付は六月一日へと変わり、利久村下級准将は利久村上級少将へとレベルアップした。
「新しい情報は」
艦橋に入って開口一番そう聞くと、艦橋のオペレーターが返答する。
「RLLJ-1881の情報が届きました。現在敵艦の残骸から得られたデータを翻訳している最中です。それからRLLJ-1881の本来の用途などを書いた書類も送られてきました。提督のタブレット端末に送付してありますので読んでください。以上です」
「わかった」
私はタブレットを開き、新着資料から地球連邦の徽章が描かれたファイル「RLLJ-1881」を開く。そこには地球の言語で長々と機密情報に類することが書かれていた。我が国の外交官が相当努力した結果なのだろう、「特別開示資料」となっている。
『地球連邦直属調査組織の調査結果によれば、Cクラスの居住可能惑星AEAC-336で発見された地下空間は未知の文明による構造物と断定でき、そこに存在したレコーダーの記録の翻訳プログラムとしてこのシーケンスRLLJ-1881がすでに存在していたとのことである。このRLLJ-1881により、宇宙に存在するほぼ全ての知的生命体は単一の祖先生物たる「メイカー」と自称する種族が進化を助長したものと判明した。RLLJ-1881はいかなる種類のメイカー系言語であっても翻訳が可能である。例としては瑠語、エルティヤル語、地球の諸言語が挙げられる他、オルデ語を除く既知の全言語がその範疇である。……』
この記述の後は使用方法の解説となっている。我々も地球人も全て同じ祖から生まれているという記述が事実だとすれば、なかなか面白いことになるのは簡単に想像がついた。
「なるほどな」
地球連邦と瑠国の協力は、十分可能というわけだ。そうなれば、あの未知の敵にも勝てるかもしれない。
「解析完了しました!が……敵拠点の位置は五億光年の未知領域です」
「そうか……我々だけでは偵察も無理か。遠征隊を組織しなければならんだろうな。我々は帰投を検討する」
「はい」
私は通信士に命ずる。
「司令部に通信を繋げ」
「はい」
司令部とは一瞬で通信が繋がり、釜村副司令官が画面に現れた。
「利久村です。敵艦から得た情報から、敵の拠点が五億光年先にあることが判明しました」
釜村副司令官にそう伝えると、釜村副司令官はうなずいて言った。
「帰投せよ。五億光年となると作戦が立案できたとして実行できるかも怪しい」
「わかりました。我々はこれから帰投します」
「よろしい」
私は全艦に重力航法の始動を命令し、重力航法を開始させる。次の瞬間には四日が過ぎ、私たちは司令部付近の宙域に出現していた。
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